勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
スバルがレジェンド所有者だと知った直後、ねねは嘗め回すようにスバルを観察しはじめます。
「何なんですか」
そんなねねからスバルを守るように、るしあはスバルを抱きかかえて彼女を睨みつけました。
「べっつにー」
ねねはスバルから視線を外します。
「……」
かと思ったら、またちらりと横目で見てきました。
「シュバルシュバシュバルバ!」
(だから何なんだよ!)
「一体何なんですか!」
「ふん、大空スバル。一つだけねねから言っておこうかしら」
ねねがようやく口を開きます。
「シュバ」
(おう)
ねねはくるりと反転してスバルと向き合いになります。
それから腕を組んでスバルを見下ろしてきました。
「この世界に存在する十二振りのレジェンドソーセージは、近々すべてねねがいただくわ。もちろんあなたのライトニングウィンナーも。その時までせいぜい大事にしてることね」
そして「あーははははは!」と高笑いしながらねねが客間を出ていきます。
「あー、あんまり気にしないであげてよ」
そのすぐ後でぼたんが話しかけてきました。
「すべていただくとか言ってるけど、実際は他の全部がそろった時にちょっと貸してもらえばいいだけだからさ」
そんなぼたんにるしあが「はあ」と頷きます。
ぼたんはポンポンとスバルの肩を軽くたたいてからねねに続き退室していきました。
「ねねちゃん中二病の過渡期なんです、根はまじめで本当にいい子なので」
ぼたんと入れ替わりにラミィもねねをフォローして、ぺこぺこと頭を下げてから二人を追いかけます。
「なんなんでしょう? 一体」
るしあは首を傾げながら呟きました。
「まあ、ししろんの言うとおり、ねねちのことはあまり気にしないであげてください。とにかく皆さんにご迷惑をおかけすることではありませんし、そんなことはこのポルカが絶対にさせませんので」
「まあ、そこまで言ってくれるのでしたら」
よくわからないけど、と言った顔でるしあはポルカに頷きます。
ポルカは「それより皆さん」と話を切り替えました。
「そろそろ出発しましょう。こちらの都合で申し訳ないのですが、さすがにそろそろ出なければ魔王様がおかんむりになってしまうので」
◇ ◇ ◇
館の裏にあるという届け物はとてつもなく巨大なものでした。
だいたい横幅二メートルに縦幅二メートル、高さに至っては四メートルもあります。
それが板の上で横に寝かされ茶色のシートで覆われており、シートの上からロープでがらん締めにされています。
積み荷が載せられている板には何本ものロープが結ばれており、それぞれのロープの先にライオンやクマ、シカなど多くの動物が繋がれていました。
彼らはポルカサーカス団の座員たちで、目的地まで届け物を引っ張ってくれるのです。
座員たちが走りだし、ズズズズと音を出しながら積み荷を乗せた板も進みます。
ちなみにスバルたちは巨大な積み荷の上に乗っかっており、荷物と一緒に座員たちに引っ張ってもらっています。
「つまり、ポルカはフレアさんの弟子をしながらねねのチームメンバーにも所属しているってことですか?」
「あー、正確には逆かな。ねねちのチームメンバー剣士であることが本職で、師匠の弟子が副職。うちのチームはかけもちアリだから」
「へえ」
積み荷の上でしゃべっているうちに、スバルたちとねねたちは大分打ち解けた仲となっていました。
「では、ねねたちとの付き合いは相当長いのですか?」
「うんにゃ。このメンバーと初顔合わせしたのは、だいたい半年前くらいかな」
「え? 結構最近じゃないですか」
「そうそう、なんか自分でももっと前から知り合ってたような気がするんだけど、まだ半年しか経ってないんだよねー」
ポルカは懐かしそうに話しだします。
「それ以前はサーカス団の座長をしながらソロで剣士やってたんだけど、酒場で飲んでた時にたまたまテーブルで同席したのがホロファイブのメンバーでさ、みんな初対面だっていうのにねねがいきなり『ねえ、ねねのチームに入らない?』って話しかけてきて」
「すごい行動力ですね」
ポルカは「だよねー」と頷いてから「でもまあ、結構嬉しかったんですよねー」と続けました。
そんな彼女に「楽しそうでいいですね」と言ってから、るしあはふと思い出したように「ねえポルカ」と尋ねます。
「今向かっている魔王様? のところでも働いてるみたいなこと言ってましたよね、そういえば」
「うん。そうだよ」
「なんだかわけがわからないくらい兼業してますね」
「いやいや、まあ今向かってる魔王様のところでも四天王してるけど、こっちは時給制のバイトみたいなもんで結構自由がきくし。まだ二ヶ月しか経ってないし」
「シュバシュバルバ」
(むちゃくちゃだな)
そうして喋っているうちにも座員たちに引っぱられ積み荷の板は進んでいきます。
しかし、なにぶん大きな積み荷のため速度が遅いのは否めません。
そのためはじめは乗っている皆で楽しく喋っていたのですが、あまりに足が遅いので退屈しだしたねねがごろんと寝ころび、ぼたんはバックパックから銃器を取り出して手入れをしだし、ラミィに至ってはフレアの館の地下室からくすねて瓶に入れ替えたフルーツ酒を一人離れて嗜みはじめます。
キアラは積み荷を結ぶロープが緩んでいないか度々チェックして時間を潰しており、残った面々であるスバルとるしあ、ポルカが引き続き会話を続けていました。
そうしてさらに時間は経過します。
ポルカ以外の全員が「一体いつ到着するんだよ……」と思いながらも口にしない空気を察したのでしょう、ポルカが「みんなー、あともう少しで到着だよー」と皆を激励します。
その直後のことでした。
「止まれ!」
積み荷を引く座員たちの前に、五人の男たちが飛び出してきました。
座員たちは慌てて急停止します。
「なになに? 盗賊?」
寝転がっていたねねが起き上がってスバルたちのところへやってきます。
「盗賊、だと?」
すると、ねねの言葉を聞いた男の一人がわなわなと震えだしました。
「ふざけるな! たとえリーダー不在から五年の月日が経とうとも、我らスバ友の誇りは不滅! 誰が盗賊などに身を落とそうか!」
「スバ友ですね」
「シュバ」
(ああ)
「え? なに? どういうこと? ねねついていけてないんだけど、積み荷を狙って襲ってきた盗賊とかじゃないの?」
「笑止!」
男は声を張り上げます。
「積み荷など我らの眼中にはない! 我らスバ友メスバル派の目的は、我らが永遠のリーダー大空スバルを侮辱するという大罪を犯した魔女とアヒルを裁くことのみ! 他の者は積み荷でもなんでも引きずってさっさと消え失せるがいい!」
「シュバルシュバルルシュバルシュババア……」
(スバル本人なんだけどなあ……)
「あんの目ん玉濁りきったバカどもがア」
キアラがスバルの側にやってきます。
「スバルせんぱい、ここはわたしが」
「シュバル」
(頼む)
キアラはフォークを取り出そうとします。
「あー、いいよいいよ」
しかしポルカがそれを止めました。
「なんだか状況がよく呑み込めないけど、あの人たちはスバ友なんでしょ? 同じチームのメンバー同士が戦うとことか正直見たくないしさ、ここはポルカが戦うよ」
言ってポルカが立ちあがり、フォークをレッグバッグから引き抜き振るいます。
それは銀色の中級フォークでした。
フォークの先に現れるのは中級剣のシシカバブです。
「ポルカ、気持ちはありがたいデスが、やはりわたしが戦いマス」
「え? なんで?」
「あの喋っていた男は上級剣士デス。失礼デスが、中級剣士ではやや荷が重いデス」
「ははは、ありがとうキアラ。でも大丈夫、剣は階級だけじゃ決まらないからさ」
「しかし」
「まあまあ、ポルカに任せてみてよ」
そう言ってポルカは積み荷から飛び降りようとします。
「おいおい、待てよお二人さん」
しかしその直前、会話にねねが入ってきました。
「ねね抜きで勝手に話を進めないでもらえるかい」
「なんだよねねち」
「おまるん、ここはねねに行かせてもらえるかな」
「ええー」
ポルカは露骨に嫌な顔をします。
「なんだよリーダーはねねじゃんか! リーダーの言うことは従わないとダメなんだー!」
「ダメなんだーって何すか? 駄々っ子みたいに」
「うるさいなあ! いいからねねが行くんだよ!」
言ってからねねは飛び降りました。
そしてキアラが上級剣士だと言っていた男と対峙します。
「おうおうお嬢ちゃんどうしたよ? 足を滑らせて落っこっちまったのかい?」
「心配しなくても大丈夫! ねねは自分で降りてきたんだ!」
元気よくはきはきと答えるねねに「いや、あのなお嬢ちゃん」と男はついつい親身に話しかけます。
「俺の目的は魔女とアヒルなわけよ、だから黙って上に戻ればしゃしゃり出なかったことにしてあげるよって言ってんだよ」
「ありがとう! でも本当に大丈夫だから!」
「ああそうかい、なら遠慮しないぜ!」
男はフォークを取り出します。
キアラの言うとおり金色の上級フォーク、振るわれたそのフォークの先に現れたのは上級剣のマグロ鮨です。
「ねねも!」
ねねもフォークを取り出しました。
それは下級剣の木製フォーク、振るわれたフォークの先に現れたのは下級剣のランドイェーガーです。
「か、下級剣だと!」
相手の男は唖然とします。
「お嬢ちゃん悪いことは言わねえ、やっぱ上に戻んな」
「ねえ! なんでねねにそんなひどいこと言うの!」
「いや、だって、なんか本気で心配になってきちまって」
「大丈夫だって言ってるじゃん!」
「わ、わかった! わかったよ! じゃあ本当に行くぞ? いいんだな? おじちゃん、本当に行くからな?」
「来い!」
ねねはランドイェーガーを構えます。
対する男は一度肩を脱力させて目を閉じ、長く息を吐いてからゆっくりと目を開けます。
先ほどとは打って変わった真剣なまなざしです。
「名乗らせてもらおう」
男も剣を構えました。
「俺はスバル裏四天王が一人、上級剣士佐藤! 我が二つ名は『ス〇ルの下乳』! 参る!」
「シュバアアアア!」
(おめええええ!)
スバルが叫びます。
「シュバルバシュバルバシュババシュバルバシュバルルバ!」
(どうしてスバルの方を伏字にしやがった!)
「あの、どうしてスバルに伏字が入っているのですか?」
るしあが佐藤に尋ねました。
すると佐藤は「え、どうしてって、だってよお」と急にもじもじしだします。
「そんなの、想像してみたらちょっと恥ずかしくなっちまったから伏字で隠したに決まってんじゃねえか! くそ! 言わせんじゃねえよ!」
「シュバ、シュバルババ! シュバルルシュババシュバルバ! シュバルシュバルバシュバルババアアア!」
(おめ、ちげえだろ! そういうことじゃねえだろ! 隠すところが違えだろおおお!)
嘆くように言ってスバルが足元の積み荷を翼でバンバン! と叩きだします。
一方、その下でねねと佐藤の戦いが始まりました。
佐藤がマグロ鮨を振り下ろし、ねねがそれをランドイェーガーで受け止めます。
「うぐ、うおおお!」
ねねは苦しそうな声を上げながら剣を弾き返しました。
「おりゃあ!」
そして気合の入った一閃をくりだします。
しかし佐藤はそれをひょいとかわしました。
それから佐藤は大振りした直後のねねを見ます。
何も考えずに振り切ったとしか思えないほど、彼女は無防備の状態でした。
そんなねねに向かって佐藤は横一文字に剣を振るおうとします。
「うう、外しちゃったよお」
「……」
しかし佐藤は剣を止めました。
お互いの実力に大きな開きにかかわらず一切小細工せず真正面から向かってくるねねに、そのひたむきな姿勢の彼女に、いやしくも誇り高きスバ友である自分が隙をついてあっさり勝つなんていうことをしてしまっても良いのだろうかという葛藤が、佐藤を襲ってきたのです。
もしも彼女が後輩スバ友剣士であって今が訓練をつけてやっている最中であったとしたら、彼は「勝てぬ相手にも正々堂々真正面から向かうその意気やよし!」と褒めたいくらいでした。
「やあ!」
ねねはまた剣を振るってきます。
佐藤はそれも受け止めました。
その時ふと、佐藤の目に剣を打ち込む隙が映ります。
まるで無警戒としか思えない彼女の左脇です。
ですが佐藤はそれを見てみぬふりして、さらに一合二合と剣を合わせてやりました。
「ぜえ、ぜえ」
しばらくするとねねは肩で息をし始めました。
一方佐藤は呼吸こそ整っていますが、変な気疲れのせいで精神的にはねね以上の疲労を負っているようでした。
「うりゃあ!」
何度目になるかわからない気合のかけ声を上げてねねが飛びかかります。
佐藤はそれを横に避けました。
「うぁ」
ねねは着地に失敗して地面に転がってしまいます。
「ちょっとタンマ!」
その時、積み荷の上で戦いを見下ろしていたぼたんが大声を上げました。
それを聞き取った佐藤は素直に止まってやります。
ぼたんは積み荷から飛び降りて地面に着地し、ねねに駆け寄りました。
「ねねちゃん、よく頑張った」
「ししろーん」
「あとは私に任せな。交代だ」
「うん」
ぼたんの開いた手にねねがパチンと手を合わせてバトンタッチします。
「ということですんません、選手交代させてもらってもいいですか?」
尋ねるぼたんに、佐藤は「別に構わねえが」と答えてからちらりと彼女のレッグバッグを見ます。
「まさかあんたまで下級剣士じゃないだろうな」
「心配ご無用」
ぼたんはレッグバッグから金色のフォークを取り出しました。
そしてブン! と力強く振るいます。
フォークの先に現れたのは上級剣のちくわでした。
「私はこの通り上級剣士なんで。だからさっきまでの忖度とかも全然なしでお願いします」
「助かるぜ」
佐藤はホッと息をついてから剣を構えなおします。
「ししろん」
ねねが不安そうにぼたんを見ました。
「ねねちゃんも心配しなさんなって」
ねねに笑いかけてから、ぼたんはちくわを右肩に担ぎます。
「ほら、一緒に歌おう」
そしてぼたんはくるりと反転し佐藤に向き合って、一歩また一歩と近づいていきました。
そうしながら口を開きます。
「なーんとかぁしてくれるー」
そこにねねの声が合わさりました。
「「ししろぼたん!」」
瞬殺。
スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。