勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
もうずっと昔のことです。
『なんだにぇ、おまえ』
当時まだ幼かったみこが、木陰で一人うずくまりながら地面に絵を描いて遊んでいるウサ耳カチューシャの女の子を見つけました。
『!』
彼女はふと顔をあげ、みこが自分を見ていることに気が付いて慌てて立ち上がり、木の後ろ側に隠れます。
しかしみこに対して興味もあるようで、その物陰からちらちらと覗いて見てきます。
みこはそんな女の子に『ふん』と鼻を鳴らしました。
『ほら、これ見せてやるにぇ』
言いながら、みこは取ったばかりのオオクワガタを虫かごから出して女の子に見せてやります。
『すごいだろ、みこが自分で取ったんだにぇ』
『すごい……』
すると女の子は吸い寄せられるように物陰から出てきました。
『触ってみるといいにぇ』
『でも、ぺこらが持ったら逃げちゃうかもしれないペコ』
『そしたらまた捕まえればいいだけだにぇ。みこはエリートだから、そんなの朝飯前なんだにぇ』
みこからオオクワガタを手渡され、女の子は慌ててそれの背中を持ちます。
それから女の子はオオクワガタを上に掲げ、しばらく見惚れるように観察し続けました。
そんな女の子の目はキラキラと輝いていました。
『すごいペコすごいペコ! 本当にエリートみたいだペコ!』
『みたいじゃなくて、実際にエリートなんだにぇ』
『エリートペコ!』
みこは機嫌よさげに「ふん」と鼻を鳴らします。
『よし、じゃあおまえの分もみこがオオクワガタ捕まえてやるにぇ』
『ほんとう?』
『本当だにぇ』
『ありがとうペコ!』
その日から、女の子はみこの後ろにべったりくっ付いてくるようになりました。
◇ ◇ ◇
着地に失敗し転んでしまったぺこダム、そのコクピットに向かってシュバンゲリオンが手を伸ばしてきます。
もうお終いだと思い、ぺこらは思わず目をつむりました。
ガシュンと、何かが握り潰される音がします。
「……?」
しかし、ぺこらは痛くも何ともありません。
恐る恐る目を開けてみると、ぺこらの目にみこシャアの背面が映ります。
「え?」
ぺこダムとシュバンゲリオンの間に、みこシャアが挟まれるようにして入り込んでいるのでした。
『あ、あぶなかったにぇ』
ぺこらに伸ばされたシュバンゲリオンの手はみこシャアの頭部を掴み、歪むほど握り潰しながらブチブチと引き抜こうとしています。
「みこ先輩!」
ぺこらは身体を乗り出して叫びました。
「ぺこらがポカしたせいでごめんペコ! 待ってるペコよお! 今すぐ助け」
『なあ、兎田』
ぺこらの言葉をみこが遮ります。
その声は妙に落ち着いていました。
それでいて声量も大したことないのに、なぜかぺこらは喋ろうとしていたことを中断していました。
『昔、みこが兎田にオオクワガタ見せてやった時のこと、覚えているか?』
「オオ、クワガタ?」
ぺこらは瞬きしながら呟きます。
『初めて会った時だにぇ。兎田が一人で寂しそうにしてたから、みこがとっておきのオオクワガタを見せてやったんだ。そしたらおまえ、すごいって言って喜んでくれたにぇ』
「そ、そんなこともあったかもしれないペコだけど、今はそんなの言ってる場合じゃ」
『みこは、嬉しかったんだ』
みこは喋り続けます。
『はじめてだったにぇ。みこはエリートだけどさ、それまでエリートなところを素直に「すごい」って言ってもらったことなかったから、すごく嬉しかった。だからもっともっとエリートなところ見せてやりたいと思って、いろいろ背伸びしちまったにぇ。なのにおまえ、チート研究者雇ってどんどんすげえもん作ってからに! それでもみこ、かっちょいいエリートの背中見せたくてすっげえ大変だったにぇ!』
「みこ先輩?」
ぺこらが心配そうに呼びかけます。
しかしみこは聞こえているのかいないのか、それに答えません。
『でもな兎田、最期の最期にみこの本当にかっちょいいところをおまえに見せてやるにぇ』
みこがそう言った直後でした。
シュバンゲリオンがみこシャアの頭部を引っこ抜きます。
そして一方にぺこダムヘッド、もう一方にみこシャアヘッドを持ちながら『ジュバアアアアア!』と吠え立てました。
みこはみこシャアの露出したコクピットからその咆哮をびりびりと受け止めます。
それでもシュバンゲリオンに睨み返します。
「逃げろ兎田!」
みこは声を張り上げました。
「みこがこいつを食い止めてやる! どうせ勝てないなら二人ともやられる必要なんかないにぇえ!」
◇ ◇ ◇
コクピットを露出したみこシャアが、シュバンゲリオンに立ち向かいます。
みこシャアは、今のところシュバンゲリオンの振るうヘッドをどうにかぎりぎりのところで避けていますが、その攻撃を食らってしまうのも時間の問題に思えます。
そして一度シュバンゲリオンの攻撃を受けてしまえば最後で、一気に畳みかけられてコクピットを潰されてしまうでしょう。
ぺこらもみこも中級剣士、つまりは半人前の剣士です。
一度相手にペースを握られてしまうともう抜け出すことができない程度の技量なのです。
『なあ、兎田。昔、みこが兎田にオオクワガタ見せてやった時のこと、覚えているか?』
さきほどのみこの問いかけが、ぺこらの頭の中で繰り返されます。
「……。覚えてるペコ」
圧倒的なシュバンゲリオンに対して、今にも燃え尽きてしまいそうな危うい攻防を続けているみこシャアを見つめながら、ぺこらがぼそりと呟きました。
「忘れるわけないペコよ!」
そしてぺこらはギュッと下唇を噛み締めます。
ちょうどその時でした。
シュバンゲリオンのフェイントに引っ掛かったみこシャアが、距離を詰められてしまいます。
みこシャアはすぐに右側へ逃げようとしますが、そんな彼女の動きも読まれているのでしょう、シュバンゲリオンは左腕を伸ばしてその逃げ道を塞いでしまいました。
そして思わず立ち止まってしまったみこシャアに、シュバンゲリオンがヘッドを振り下ろしてきます。
「くっ!」
まるでさきほどのぺこらの再現シーンのようでした。
みこはギュッと目を閉じてシュバンゲリオンから顔を逸らします。
「ぺこおおおお!」
ぺこらのかけ声が聞こえ、みこは思わず目を開けました。
その直後にゴオン! と凄まじい音がします。
みこの後ろから全力疾走で駆けてきたぺこダムが、シュバンゲリオンがみこシャアにヘッドを振り下ろすよりわずかに早くやってきて、その走ってきた勢いのまま捨て身タックルをぶちかましたのでした。
まともに体当たりを受けたシュバンゲリオンが飛ばされます。
ぺこダムはみこシャアのすぐ横にドスンと着地しました。
「兎田、おまえなに」
「ふぁっふぁっふぁっふぁっふぁっ!」
何か言い出そうとするみこを、ぺこらは笑い声で黙らせます。
それからぺこらはみこの方へ振り返り「なーに一人だけかっこつけてるペコですか、みこ先輩!」と話しかけました。
「どうせ負けるなら? ふぁっふぁっふぁっふぁっふぁっ、弱気なこと言ってたら駄目ペコよ! 勝ちましょうよみこ先輩! あのアヒルにペコみこの恐ろしさを味合わせてあげましょうペコ!」
「兎田……」
「ペコみこの信念がどんなもんか、わからせてあげましょうペコよ!」
「にゃは、にゃはははは!」
すると、みこが急に笑いだします。
「そうだにぇ! いっちょやってやるか、兎田!」
「はいペコ!」
そんなことをしているうちに、さきほど飛ばしたシュバンゲリオンが戻ってきます。
シュバンゲリオンはみこシャアヘッドを振りかざして、二機に向かって振り下ろそうとしてきます。
「散るぞ兎田!」
「ペコ!」
みこシャアとぺこダムは同時に左右へ分かれてそれを避けました。