勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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 翌朝、朝食を取ったスバルたちは早速フェニックスに乗って出発しました。

 そして昨日と同じように時々の休暇を挟みながら走り続け、昼過ぎあたりなったころ前方に大きな建物が見えてきました。

 

「うおおおお! 城だあ!」

 

 ねねが叫びます。

 唐突だったので、ラミィが口に含んだばかりのお酒を吹きだしました。

 

「ねねちゃん! いきなり大声出さないで!」

 

「確かにそうだけど、ラミィも飲みすぎ」

 

 ポルカが後ろからラミィのお酒を取り上げました。

 

「ああー」

 

 ラミィが縋るような声を出してポルカにしがみ付きますが、ポルカはお酒の入った瓶を返しません。

 

「ししろん、どうにかしてー」

 

 ラミィは後ろに振り向いてぼたんに助けを求めます。

 

「オーケー」

 

 ぼたんは笑いながら答えました。

 

「おまるん、全力で上に投げてみて。私なら一発で撃ち抜いてみせるから」

 

「え、まじで? じゃあ本当に全力でいくけどいい?」

 

「やーめーてー!」

 

 ラミィが「はーん! はーん!」と泣き始めます。

 ポルカとぼたんは「冗談だよ」と笑い合ってからラミィに瓶を返しました。

 

「でも本当にちょっと飲みすぎだってラミィ。それ師匠のところから拝借してきたやつの余りでしょ? 匂いから度数がヤバいのわかるから、そろそろ肝臓休ませてあげろよ」

 

「ラミちゃん、おまるんはラミちゃんのこと心配して言ってるんだよ」

 

 二人に説教されてラミィは「はあい」とうなだれます。

 するとすかさず横で浮いていただいふくがラミィの手から酒瓶を取り上げて袋の中に仕舞ってしまいました。

 

「はーん」

 

「いいじゃん、とりあえず今日はそれでもうおしまいってことでさ」

 

「ねねちゃんは自分に関係ないとすごいあっさりしてるよね!」

 

「よ! さすがリーダー!」

 

「メンバー想い!」

 

 ねねが会話に入ってまたホロファイブがわいわいしだします。

 そうこうしているうちにフェニックスは城の前までたどり着きました。

 城門は開けっ放しになっています。

 スバルたちはフェニックスに乗りながら城門をくぐりました。

 

「不用心だな。門番もおかずに開けっ放しにするなんて」

 

 城門を見上げながらねねが呟きました。

 

「そうデショウか」

 

 キアラが返します。

 

「なにしろ元トップランカーデスからね。盗みに入られたとしても返り討ちに会うのが落ちデショウ。それにこれだけ頑丈に門を作っておきながら門番も置かずあえて開けっ放しにされると、わたしが盗賊なら逆に恐ろしくて近づく勇気がなくなってしまいマス」

 

「へ、へー」

 

 キアラの言葉を聞いてからねねは再び門を見て、ごくりと唾を飲み込みました。

 

 城門だけでなく城の正面口も開きっぱなしになっていました。

 しかしさすがに城内へフェニックスに乗ったまま入っていくわけにいかず、スバルたちはフェニックスを降りてから歩いていきます。

 

「ん?」

 

 城内へ踏み込んだ瞬間、むわっと獣の臭いがしました。

 思わず鼻をつまんだねねの前を「めえーめえー」と鳴きながら何かが横切っていきます。

 

「ひ、ひつじ?」

 

 ねねが呟きました。

 城内では首輪もつけられていない羊たちが勝手気ままに歩き回っているのです。

 

「どうしたのでしょうか、この子たち」

 

 るしあも戸惑います。

 

「とりあえず、捕まえた方がいいのではないデスか?」

 

 言って、キアラが手近な一匹を掴もうとした時でした。

 

「ああ、いいの。ご親切にありがとう。でもそのままにしておいてあげてちょうだい」

 

 スバルたちの右手から声がしました。

 振り向いてみると、そこには車椅子に身体をあずけている女性がいます。

 彼女は車椅子の車輪を回しながら近づいてきました。

 

 金髪碧眼の女性です。

 髪は長く車椅子に座った状態だとあと少しで地面に届きそうなくらいあり、肩あたりのところから下にかけて赤い紐であやとりしたような、複雑な具合で結ばれています。

 頭の左側にも髪の短い部分を控えめにまとめて赤いゴムで留めたものが一房あり、服装はアンチミラーズの制服のような、胸元部分のブラウスを見せるジャンパースカートです。

 

「本当にいいの? 羊が野放しになってるけど」

 

 ねねが心配そうに車椅子の女性に聞きます。

 

「野放し?」

 

 すると彼女は苦笑を浮かべました。

 

「ふふ、そうね。野放しね。でも野放しにしておいてあげたいの。ここはあの子たちのお家でもあるから」

 

 言ってから彼女は羊たちを眺めます。

 

「あの子たちはね、大切な友人からいただいたものなの」

 

「大切な友人?」

 

「ええ。昔、幼かった私が夜の森で迷って泣いていた時に、近くの集落まで連れて行ってくれた命の恩人。後日私が剣士になった時に当時のお礼をしに行ったら、逆にかわいい羊をいただいてしまったの。しかもつがいでいただいてしまったから、面倒をみているうちに子供ができて、その子供が大きくなってまた子供を産んで、今ではこのお城も羊だらけ。私の城というよりこの子たちの遊び場になっているわね」

 

「私のってことは、もしかしてあなたが元トップランキングチームのリーダー?」

 

 尋ねるねねに、車椅子の女性はくすりと笑います。

 

「いやね、ランキング一位なんて昔の話、今はそのころの無理がたたってこんなありさまだもの。そんなふうに呼ばれると恥ずかしいわ」

 

 彼女は車椅子の肘掛けに両手をついて、身体を支えながらゆっくり立ち上がります。

 そして辛そうに棒立ちしながら、ねねにぺこりと頭を下げました。

 

「私の城へようこそ、かわいいお嬢さん。私は城主の赤井はあと。赤井でもはあとでも好きに呼んでほしいわ」

 

「わ、わたしは桃鈴ねね。はあと、無理して立たなくていいから座っててよ」

 

「ありがとう」

 

 ねねに促され、はあとはまたゆっくりと車椅子に座りなおします。

 それから痛みをこらえるように「ふー」と長い息を吐きました。

 

「シュ、シュバ」

(あ、あの)

 

 はあとがねねと会話しているところに入ることができなかったのでしょう、区切りがついたタイミングを見計らったようにスバルがおずおずと話しかけます。

 ちらりと、はあとはアヒルの姿のスバルを見ました。

 それから彼女はにこりと微笑みかけます。

 

「こんるーじゅ、久しぶりねスバル。しばらく会わないうちに随分かわいくなってしまったのね」

 

 言いながら、はあとはスバルの頭を撫で始めました。

 

「シュバル語がわかるのですか!」

 

 るしあがびっくりして尋ねます。

 

「ふふふ。いいえ、何をしゃべっているのかは全くわからないわ。でも、スバルの存在を感じるから」

 

「?」

 

 首を傾げるるしあに、はあとは「ごめんなさい、わかりにくかったわね」と言って説明しはじめます。

 

「剣士はね、一流になるとオーラのような存在感をまとうようになるの。そして一流をさらに越えた段階にもなると、そのオーラに個性が表れはじめるの。スバルほどの実力者だったらすぐにわかるわ」

 

「す、すごいんですね剣士って」

 

「シュバシュババシュバア、シュバルバシュバルババシュババシュバシュババ。シュバルルシュバシュバルバシュババシュバルルバシュババルバシュババ」

(いやあのなるしあ、みんながそうだってわけじゃないシュバよ。少なくともスバルはそんなはっきりとわからねえからな)

 

「え、あ、はい」

 

 スバルとるしあのやりとりをはあとは微笑ましげに眺めます。

 しかしそのすぐあとに、彼女はごほごほと苦しそうに咳き込みました。

 

「だ、大丈夫?」

 

「うん、大丈夫よ。ありがとうねね」

 

 はあとは自分を気遣ってくれたねねに礼を言います。

 それから改めて、スバルやるしあ、キアラやホロファイブの面々を見回しました。

 

「それにしても、皆さんこんな大勢でいらしくれて本当に嬉しいわ。ちょっと待ってて、今お茶を用意するから」

 

 はあとはパンパンと手を鳴らして「ハートン、ハートン」と細い声で呼びかけます。

 すると奥の方からぞろぞろと首回りを黒い紐で縫い付けた、クリーム色の豚の着ぐるみを着込んだ連中がやってきました。

 

「ハートン。悪いのだけれど、この方たちを客の間に案内してくれないかしら」

 

「ブブー」

 

「ありがとう」

 

 はあとはハートンに礼を言ってからスバルたちに向き直ります。

 

「スバル、この子たちについていって客の間で待っててちょうだい。私もすぐに紅茶の準備をして持っていくから」

 

「ね、ねねも手伝う!」

 

「ありがとうねね」

 

「そういうことなら、ホロファイブはお茶くみ要員ってことで」

 

 ぼたんの言葉にポルカとラミィも頷きます。

 ホロファイブははあとに付いてキッチンへ、スバルたちはハートンに案内してもらって一足先に客の間へ向かいました。

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

「さて、会いに来てくれたのは嬉しいけれど、ただそのためだけに来てくれたというわけでもないのでしょう? 何か私に用があるんじゃないかしら」

 

 広い客の間で車椅子のはあと以外が席に着き各々自己紹介を終えたあと、紅茶を一口含んだはあとは単刀直入に聞いてきました。

 

「え?」

 

 一方、スバルたちは始めに雑談などして十分に空気を温めてから本題に入ろうとしていたため、いきなり核心の話題を振られて不意を突かれてしまいます。

 一瞬の沈黙が流れました。

 

「あー、ここは素晴らしいお城デスね。外観は文化財の価値あり、実用面でも頑丈で優れていそうデス」

 

 すかさずキアラが話しかけます。

 

「ありがとう」

 

「でも、門番もつけず城門を開けっ放しにしているのが一番びっくりしマシタ。さすが剣士の頂点に上り詰めた方といいマスか、まるで『誰が攻めてこようと関係ない』『来れるものな来てみろ』と言い放たれているようで、わたしなどとは器が違うのだと感服いたしマシタ」

 

 キアラが恐縮したように言います。

 するとはあとは「ふふふ」とおかしそうに含み笑いしました。

 

「な、なにかわたし、変なことを言ってしまいマシタか?」

 

 キアラは失言してしまったのではないかと不安になり、おどおどとしはじめます。

 

「あ、ちがうの、全然変なことなんて言ってないわ、ごめんなさい。ただ、全くそんなつもりじゃなかったことをすごく高値に買いかぶられてしまったと思ったら、おかしいようなこそばゆいような変な気持ちになってしまって。気を悪くさせてしまったのなら本当にごめんなさいキアラ」

 

 はあとは頭を下げて謝ります。

 

「い、いえいえ! そんなことは全然ないデス!」

 

 キアラは慌てて否定しました。

 

「よかったわ」

 

 はあとはホッとしたように息を吐きます。

 

「あの城門はね、私のかわいい羊たちが自由に城内外を行き来できるように昼夜開けっ放しにしているの」

 

「夜もデスか?」

 

 驚くキアラに「ええ」とはあとは頷きます。

 

「わたしも、さすがに夜中は閉じた方がいいとは思うんだけど、頑丈なぶん動かすだけで一苦労だから困りものでね。私が剣士現役だったころは自分で開け閉めすれば済むことだったけど、今はこんな状態だし。ハートンたちだと数人がかりの仕事になってしまうから、夜も城の正面口だけ閉めてあそこの扉は開けっ放しでいいって言ってあるの」

 

「でも、それだとあまりに不用心ではないデスか?」

 

「ありがとうキアラ。でもここにある大切なものなんてハートンと羊たちだけよ。私にとってはかけがえのない宝物でも、わざわざ欲しがって盗みに入る泥棒や盗賊なんていないでしょ?」

 

「シュバルルバ、シュバルバシュバルルシュバシュバルルシュバシュバシュバババシュバルバ」

(もう一つ、盗みに入られてもおかしくない宝物があるだろ)

 

 はあととキアラの会話にスバルが割り込みます。

 

「?」

 

 はあとは首を傾げました。

 

「シュバルバシュバルルババシュババルバ」

(レジェンドソーセージのフォークだよ)

 

「えっと、ごめんなさい、何を言っているの?」

 

 はあとは困った顔で他の面々に助けを求めます。

 

「いえ、こちらこそごめんなさい、ぼーっとしちゃって!」

 

 るしあが慌てて通訳に入りました。

 

「はあとさんのレジェンドソーセージは取られると困るものじゃないかって、スバル先輩はおっしゃっています」

 

「あ、そうよね、言われてみればそうだわ。私ったら、もうずっと握ってなかったからすっかり忘れていたわ」

 

 はあとはレッグバッグから虹色のフォークを取り出し、それをテーブルの上に置きました。

 皆の視線がそのフォークに集まります。

 

「どうやら、このレジェンドソーセージ・『生命』クリスタルサビロイに関することが本題のようね」

 

「シュバ」

(ああ)

 

 頷いてからスバルはるしあの方を向きます。

 

「シュバルシュバア」

(頼むるしあ)

 

「わかりましたスバル先輩」

 

 るしあはスバルに答えてからはあとに向き直りました。

 そしてスバルがアヒルの呪いを解くためにレジェンド所有者を探していることを説明しました。

 

「なるほどね」

 

 聞き終えたはあとは深く頷きました。

 

「すべてのレジェンド所有者を倒すか、その子供っぽい名前の本に署名してもらわないと元の姿に戻れないなんて、大変なことになっているのねスバル」

 

 はあとは悲しい顔をしながらスバルを慰めます。

 その顔を見たるしあは良心がちくりと痛んで思わず目を泳がせました。

 

「じゃあ、悪いけど私はサインの方にさせてもらえるかしら? 今の身体だとソーセージのついたフォークを持つだけでもつらいの」

 

「シュ、シュバルバシュバ!」

(も、もちろんシュバ!)

 

 るしあがはあとにクソザコの書を手渡します。

 はあとは宝鐘マリンのサインが書かれた次のページに「赤井はあと」とさらさらペンを走らせました。

 

「はい」

 

 そしてクソザコの書をるしあに返します。

 これでレジェンド所有者二人分の署名が埋まりました。

 

「他にはもう私に頼みたいこととかないかしら?」

 

 頼みごとをしやすい雰囲気を作ろうとしているのでしょう、はあとは微笑みながら皆に尋ねます。

 

「ねね、ねね」

 

 るしあが隣のねねを肘で突きました。

 

「あるでしょう、大事な頼みごとが」

 

「あ、……うん」

 

 るしあに背中を押され、ねねはおずおずと「あの」とはあとに話しかけます。

 

「どうしたの? ねね」

 

「あ、あのねはあと、実はねねも、はあとに頼みごとがあって」

 

「うん」

 

 はあとが相槌を打ちます。

 ねねはごくりと唾を飲み込みます。

 

「実は、ねねたちはレジェンドソーセージを集めているんだ。だから、その」

 

 ねねはもごもごと口ごもりながらもう一度「だから」と次につなげようとしますが、またもごもごと口の中で潰してしまいます。

 

「その、えっと」

 

「ねね」

 

 なかなか先に進まないねねに、はあとが呼びかけました。

 

「こっちに来てもらえるかしら?」

 

「え? うん」

 

 ねねは椅子から立ち上がり、はあとの側までてくてくと駆け寄ります。

 

「ねね、あなたはレジェンドソーセージの実物を見たことがあるかしら?」

 

 はあとの唐突な問いかけに、ねねはきょとんとします。

 それから彼女は首を左右に振りました。

 

「そう」

 

 はあとは穏やかに頷きました。

 

「ソーセージはどれも危険なものだけれど、レジェンドソーセージはその比にならないくらい扱いが難しいものなの。たとえば」

 

 はあとはちらりとスバルの方を見ます。

 

「たとえばライトニングウィンナーというソーセージは雷の属性を持っていて、所有者でもソーセージに触れるだけで電流が走るわ。同じようにマグマ・ホットドッグというレジェンドソーセージは火傷、スケルトンソーセージは凍傷の恐れがある。多かれ少なかれレジェンドソーセージは所持するだけで使用者にまで危険が及ぶものばかり、だから扱いがとても難しいの。私のクリスタルサビロイもそのレジェンドソーセージのうちの一振り、そのことをよくわかっておいて」

 

「う、うん」

 

 弱々しく頷くねねに、はあとは優しく笑いかけます。

 

「ねね、手を出してごらん」

 

「え、手?」

 

 言われて、ねねは両手を広げて前に突き出しました。

 はあとは、そんなねねの小さな手のひらにクリスタルサビロイのフォークを置きました。




 スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
 あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。
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