勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
はあとの城からフレアの館へ戻る道中、ねねはフェニックスの上でぼんやりとしていました。
「ねーねちゃん」
そんなねねの隣にラミィが座ってきます。
「どうしたの? らしくないじゃん」
ねねは遠くを見たまま「うん」と答えました。
「はあと、笑ってたけどずっと苦しそうにしてた。大丈夫かな?」
「なーに言ってんのさ、元トップランカーの剣士だよ? それって人間の限界を超えちゃったレベルの人ってことなんだから、大丈夫に決まってるじゃん」
「うん」
ねねはやっぱり元気がありません。
ラミィはねねと肩が引っ付くくらいまで身を寄せて、ねねの視線の先と同じところを見つめます。
しかししばらくすると足をバタバタさせはじめ、それから「もう!」と言って立ち上がりました。
「ねねちゃん、ラミィたちには目標があるでしょ! 五人目のホロファイブメンバー! そのためのレジェンドソーセージ集め! こんなところでくよくよしてる暇なんてあるの!」
「うん」
「もおお!」
ラミィは癇癪を起こしたように立ち上がりました。
「おーれーの、ねーね!」
言ってから、ガッとねねに抱きつきます。
「「いやいやいやいや、おれのねね!」」
するとぼたんとポルカも声をそろえてやってきて、ねねとラミィに乗っかってきます。
「ちょっと! 重い!」
ねねが怒鳴りました。
ぼたんとポルカはけらけらと笑いました。
「じゃあ元気出せーねねちゃん、ラミちゃんをあんまり心配させるな」
「しっかりしろよリーダー!」
「わかった! わかったよ!」
ぼたんとポルカに答えてから、ねねは三人をどけて立ち上がり「んん!」と伸びをします。
そしてもう見えなくなってしまったはあとの城を向いて、歌いはじめました。
「ららいおん、ららいおん」
「「「「ねーねをがぶがぶ、ららいおん」」」」
彼女たちの歌を聞いて、ひそかにねねの様子を気にかけていたスバルとるしあ、キアラはお互いに顔を見合わせて笑いました。
◇ ◇ ◇
行きと同じで帰りも一日では着きません。
日が沈むタイミングでスバルたちは野営の準備に取りかかります。
テントを張り、食料と焚き火用の薪を集め、食事の用意をします。
そして昨晩と同じごった煮の鍋を作ってつつき合い、談笑し合い、そろそろテントに入って寝ようかと皆が皆思い始めた時でした。
「……」
スバルたちの会話が、止みました。
一番初めに周囲を警戒し始めたのはスバルです。
それに数秒遅れてポルカとラミィ、さらに数瞬遅れてキアラ、ぼたんが会話の最中だったにもかかわらず口を閉じます。
スバルの様子が少し違うと感じ取ったるしあもきょろきょろと周りを見回します。
一方、皆が黙ってしまったことに気づかずしばらく喋り続けていたねねは、話をしているのが自分だけだと静寂の中で知り、声をもごもごと口の中で少しずつ小さくしながら発声を消していきました。
「シュバシュババ、シュバルバ!」
(いるシュバな、出てこい!)
「か、隠れているのはわかっています! 出てきなさい!」
スバルの代わりにるしあが叫びます。
夜の森はしんとしてスバルとるしあの声だけが響きます。
しばらく嫌な沈黙が続きます。
「な、なにかの勘違いじゃないの?」
ははは、と空笑いして喋りだすねねをキアラが横目でにらみます。
その目が「黙ってろ」とねねに伝えていました。
キアラとぼたん、ラミィとポルカはフォークを握ってなおも沈黙に耐えます。
「ふふふ、どうやら完全にバレてしまっているみたいね」
すると唐突に、沈黙を破る女性の声がしました。
それはねねの背後からです。
ねねは慌てて立ち上がってからぼたんにくっつきました。
「はあちゃまっちゃまー」
がさがさと茂みのなかから誰かが現れました。
金髪碧眼の長髪に紺色のジャンパースカートを着ています。
「はあと?」
彼女の見た目は、まさに赤井はあとそのものでした。
ねねはぼたんから離れてその女性に歩み寄っていきます。
「シュバ」
(止せ)
スバルが片翼をねねの前方に広げ進行を妨げます。
しかし難なく跨がれてしまいます。
「ねねちゃん!」
ラミィがねねに抱きついて、そのままずるずると元の位置まで引きずっていきました。
「な、なにすんのさラミィ!」
「バカねねち! はあとさんだったら車椅子に乗ってるはずだろ! それになんか雰囲気変じゃん! 不用意に近づくなよ!」
ポルカの叱責にラミィとぼたんも頷きます。
「ううう、はあと」
ねねの呼びかけに女性はちらりと目を向けました。
しかし面倒くさいと言いたげにため息をついてから、スバルの方へと視線を移します。
「数時間ぶりね大空スバル、私のお城はどうだったかしら」
問いかける女性にスバルは無言を返します。
「ふふふ、そうよね。あんな羊臭いだけの養羊牧場、どうと聞かれても困ってしまうわよね」
「……」
「だからね大空スバル、私もっとスリリングなおもてなしを思い付いて慌てて追いかけてきたの」
言いながら、彼女はレッグバッグから虹色のフォークを取り出し振るいます。
そのフォークの先にレジェンドソーセージ、クリスタルサビロイが現れました。
そのソーセージは明るいメタリックブルーの色をしており、まるでそのソーセージの体内で青い血が循環しているように流動的な輝きを放っています。
しかしそうした色合い以上に目を引くのがソーセージの長さでした。
優に二メートルはあります。
剣を持つ女性が小柄のためにその異様な長剣とのアンバランスさが拭いきれず、ねねなどは「あんな剣で大丈夫なのか」と心配そうに見ています。
「……ッ」
しかしスバルには剣を持つ彼女の姿が現役時代の赤井はあとと重なってよみがえり、気づけば一歩足を引いていました。
「さあ、あなたも剣を取りなさい大空スバル」
女性が呼びかけます。
スバルはごくりと唾を飲み込みました。
「シュバ」
(ああ)
アヒルの身体が輝き、人間の身体に戻ります。
「どこのどいつか知んねえが、たちの悪いイタズラしやがって」
スバルはレッグバッグからフォークを取り出し振るいます。
フォークの先に白銀の電流まとうライトニングウィンナーが現れます。
「その化けの皮剥いでやるシュバ!」
スバルが叫んだ直後でした。
いきなり女性がスバルめがけて駆けてきたかと思えば、クリスタルサビロイを袈裟斬りに振り下ろしてきました。
スバルの側にまだ他の皆がいるにもかかわらずです。
「るしあさん!」
「ねねちゃん!」
キアラがるしあを抱え、ぼたんがねねを担いで左右に跳びます。
スバルは避けることなくライトニングウィンナーで受け止めました。
「おめえええ!」
スバルが怒鳴ります。
「下級剣士と剣士でない者を巻き込んでの一刀、ソーセージ道に準ずる剣士としてのプライドはないのかシュバ!」
「ソーセージ道? プライド?」
女性は鼻で笑いました。
「そんなもの持ってたら勝てる勝負も勝てなくなるわ」
「上等だシュバこの野郎!」
スバルは距離を詰めてライトニングウィンナーを横なぎに振るいます。
女性のクリスタルサビロイは長さ二メートルの長剣です。
懐に入られ剣を振るわれてしまうと小回りが利かないため、避けるしかないはずです。
「甘いわね!」
しかし女性は避けません。
彼女は手首を絶妙に使ってクリスタルサビロイをしならせます。
そのしなりはすさまじく、クリスタルサビロイは360度近い角度に剣身を捻ることでスバルのライトニングウィンナーを叩き落とします。
それから彼女はしなりの反発を利用した一撃をスバルに向かって放ってきました。
剣速もさながら二メートルのリーチです。
さすがのスバルも距離を取ってかわすのは危ぶまれ、一度しゃがみ込んで空振りさせてから後ろへ跳んで離れました。
「くそお、ちゃっかり使いこなしやがって!」
「ふふふ、私はレジェンドソーセージの所有者よ? 自分の所有するレジェンドソーセージを使いこなすなんて当り前じゃない」
それから二人はまた距離を詰めます。
そして二合三合と互角に思われる斬り合いをはじめます。
しかし、時間が経つにつれてはっきりとした実力差が表れはじめました。
「もう終わりシュバか?」
肩で息をする女性にスバルが問いかけます。
「……っ、……っ。はあ? まだまだ、これからよ!」
言い返してから女性がスバルに飛びかかります。
そして横なぎに剣を振るおうとします。
そのタイミングでスバルも剣を振るいました。
ただし、スバルのライトニングウィンナーが狙うのは女性の身体ではありません。
彼女の持つクリスタルサビロイです。
バチン! と音をさせライトニングウィンナーがクリスタルサビロイを叩き落とします。
その衝撃で、疲労から握力が弱っていた女性はフォークを手放してしまいました。
女性の手からフォークが離れた直後、クリスタルサビロイのソーセージがフッと消えます。
からんからんと音を立ててフォークが地面に転がります。
「くっ!」
フォークを拾おうと慌てて屈みこむ女性の鼻先に、スバルはライトニングウィンナーを突きつけました。
「おまえは誰シュバ?」
スバルは鋭い声で問いかけます。
「誰って、見た通りだけど?」
「おまえははあと先輩じゃない。声や見た目は似ているけれど、剣士としての性質がまるで違う」
「性質? 剣士のプライドとかいう話かしら」
「それも含めた話シュバ。まず動きがぎこちない、無駄な動作や大振りがあまりに多すぎる。剣筋や剣の使いこなしは超一流なのにまるで駆け出しの剣士みたいだシュバ」
「ああそうね、はいはい」
「そして何より、何かが違う。はあと先輩が常に放っていた眩しいほどの存在感を、おまえは持っていない」
そこまで言ってから、スバルはライトニングウィンナーを下げました。
「ふふ、ふふふふ、そうね、そのとおりよ。私はあなたの知る赤井はあとじゃない。でもいざ誰かと聞かれると、思いのほか困ってしまうものね」
女性は地面のフォークを拾い上げ、レッグバッグに仕舞ってから立ち上がります。
「私は赤井はあとであって赤井はあとあらざるもの。だから赤井はあとと名乗っていくつもりだったけれど、よくよく考えてみればあんな甘っちょろいやつと同じと思われるのは面白くないわ」
「なにを言ってるシュバ」
「そうね、私のことははあちゃまって呼んでもらおうかしら」
「はあちゃま?」
「それじゃあね、ライトニングウィンナーの所有者大空スバル。また会いましょう」
そう口にした直後、はあちゃまの姿がフッと消えます。
「なに!」
スバルは慌てて駆け寄って周りを見回しました。
しかしどこにも見当たらないし、気配もありません。
ものの見事に消えてしまっています。
「どうなってるんだ」
「移動魔法を使えるのかもしれません」
キアラにずっと守ってもらっていたるしあがスバルの側にやってきました。
「そういう方面に特化した魔法使いは瞬間移動のような超魔法を使うことができると聞いたことがあります」
「まじか」
「拙さが目立つとはいえ、あれだけ秀でた剣筋を持つ上に魔法まで使えるとしたら本当にでたらめデスね」
スバルとるしあの会話にキアラも入ります。
「とにかく未知数なやつシュバ。今夜は皆で見張りを交代しながら野営することにしよう」
「いいえ、スバル先輩はしっかり休んでください。さもないと翌日人間に戻る気力が回復しませんから」
「あ、そうか」
呟いた直後でした、ぼんと煙がスバルを包み込みます。
そして人間だったスバルの姿がアヒルに変わっていました。
「シュバルババシュバルシュバ」
(そうさせてもらうシュバ)
スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。