勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「実はるしあのひいひいおばあ様の手記に、愛する人をこの魔法でアヒルに変えたあとに後悔して、元の人間に戻したという記述があるんです」
「シュバ」
(へえ)
根負けしたるしあによって牢獄から出されたスバルは、大きな書斎部屋に通されました。
そこは書斎というよりも最早本の保管室で、入り口近くに椅子と机がある以外は足場もないほど本で埋め尽くされています。
るしあは椅子に腰かけながら豪華な装丁がなされた手記を広げていて、スバルは机の上に乗りながらその開いたページを覗き込んでいます。
「それによると、ひいひいおばあ様は伝説級剣士、つまりレジェンドソーセージ所有者の剣士をすべて倒すことでこの呪いを解除したようです」
「シュバルバシュバルバシュバババシュバルバ、シュバルバシュバシュバシュバルバシュバルババ」
(すべてのレジェンド所有者を倒すって、おまえのひいひいばあちゃんバケモノだな)
レジェンドソーセージ所有者とは、その言葉の通りレジェンドソーセージのフォークを持っている剣士のことです。一般に「レジェンド所有者」と通称されています。
ちなみにレジェンドソーセージは世界に十二振りしか存在しないため、そのフォークの持ち主は世界に十二人しかいません。
そのため彼ら彼女らは剣士たちにとってアイドル的な存在とみなされることが多く、レジェンド所有者はしばしば伝説級剣士とも呼ばれるのでした。
「そうですね、にわかには信じがたいです。剣士としての適性が極めて低いるしあの一族が剣士を、しかも伝説級剣士を倒しただなんて。でも今それを勘ぐっても仕方ないですし、ここはスルーして先に進みましょう」
言いながらパラパラとるしあはページをめくっていきます。
「シュバルバシュバババ。シュバルバシュバババシュバルババシュバルルシュババシュバルルバ」
(レジェンド所有者か。どうして所有者を倒すことが呪いを解くことになるんだろうな)
「どうやら不思議な力を秘めた魔導書の発動条件のようです。その魔導書にアヒルの呪いを解く力が宿っているらしいのですが、ちょっと待ってください、えっと……」
ぶつぶつ言いながらるしあは部屋中に散乱している本を手に取ったり放ったりしながら、なにやら探しはじめます。
それからしばらくして、
「あった! ありましたよスバル先輩!」
彼女は子供のようにはしゃぎながら、一冊の本を抱えて戻ってきました。
「スバル先輩、これです。不思議な力を秘めた魔導書」
「シュバ」
(ほう)
スバルはちらりとその本の表題を見ます。
ですがその直後に「ぶっ」と吹き出してしまいました。
「シュバシュババ。『シュバシュババシュバ』シュバルルシュバシュババ」
(おいマジか。『クソザコの書』とか書いてあるんだが)
「はい間違いありません。本の名前も手記にある通りです」
「シュババア」
(マジかあ)
スバルはボソッと呟いてからもう一度本の表題を見て、また「シュババア」(マジかあ)と呟きます。
「スバル先輩、話の流れを戻しましょう」
るしあは仕切りなおすように「こほ、こほん!」と咳払いをしました。
「この世界にはレジェンドソーセージと呼ばれる十二振りしかない特別なソーセージが存在します。スバル先輩、すべてのレジェンドソーセージをご存じですか?」
「シュバルシュババ。シュバルルシュバルバシュバルルシュバルルシュバルルシュバルルバシュババシュバルシュババシュバルシュバル。シュバルバシュババシュバシュバル」
(当たり前だ。剣士の子供は九九が言えずともレジェンドソーセージだけは言えるように育てられる。知らないはずがないだろう)
「ならば不要かもしれませんが、それでも念のため確認させてください」
「シュバ」
(おう)
「レジェンドソーセージはそれぞれ通常のソーセージにはない特別な力『スキル』を持っています。『毒牙』ポイズンチョリソー、『鉄の意志』メタルホットドッグ、『神の怒り』ライトニングウィンナー、『生命』クリスタルサビロイ、『断末魔』マグマ・ホットドッグ、『悪意』ダーク・ヴァイスヴルスト、『血の涙』ブラッディー・ブルートヴルスト、『再来』バーニング・サラミ、『集結』マシーンヨーテボリ、『大地』ストーンスンデ、『不死の魂』ゴーストベーコン、『執着』スケルトンソーセージ、――これらが十二振りのレジェンドソーセージです」
「シュバルバ」
(そうだな)
「さいわいスバル先輩が『神の怒り』ライトニングウィンナーの所有者なので、残り十一振りということになります」
「シュババシュバルババシュバルバシュバババシュバシュバルバシュバルババ」
(つまり十一人のレジェンド所有者を倒さなくちゃいけないってことか)
スバルの問いかけにるしあは「はい」と頷いてから、
「でも、絶対に倒さなければならないというわけでもありません」
と続けます。
「倒すか、もしくはこの『クソザコの書』にその持ち主の名前を書いていただければ勝ちとしてカウントされるようです。というよりも、むしろこの書にレジェンド所有者の署名を集めることが呪い解除の条件のようですね。戦いに勝てば、たとえ本人が拒もうともこの書に名前が刻まれる一種の呪いがかけられていますから。なるほど、ひいひいおばあ様はレジェンド所有者を倒していったというよりも署名してもらう方で十二人分の名前を集めたのかもしれません」
「シュバシュバルルシュババシュバルババ。シュバシュババシュバシュババシュバルシュバ、シュババシュバルバシュバルババ」
(いや署名してもらうのも難しいだろ。クソザコの書なんてふざけた名前、善意の署名が望めねえ)
「なんでも遥か昔、『千里眼の魔女』の異名を持つ魔法使いが名付けたらしいです。今さらどうしようもないことですが、もし本人を見つけたらどういうつもりでこんな名前にしたのか問い詰めてやりたいですね」
「シュバ」
(ああ)
「でも、まあとりあえずスバル先輩、ここにサインを」
言ってるしあはクソザコの書の一ページ目を開きます。
番号すら振られていない白紙ページです。
「シュバル、シュバシュバルルバシュバ」
(スバル、ペン持てないんだが)
「じゃあ母印で結構です。待ってください、今朱肉を出しますので」
るしあが机の引き出しの中を探って、そこから朱肉を取り出します。
「はいそこでいいです、そこに押してくださいスバル先輩。はい、ありがとうございます。ぷふ、なんだか魚拓みたいで面白いですね」
「シュバルバシュバ」
(うるせえシュバ)
「シュバ? スバル先輩、なんか語尾変わってません?」
「シュバ? シュバルルシュババ」
(ん? 気のせいだろ)
気に留めないスバルに「そうですか」とるしあは頷きました。
「でもスバル先輩、これで一人目の署名はゲットしましたので残り十一人ですよ。一歩前進しましたね」
「シュバシュバシュババシュバルババ」
(まあ結果的にはそうだけどさ)
「そうだけど、何なんですか?」
「シュバ、シュバルシュバルシュババ? シュババシュバルバシュバルルシュバババシュバルシュバルバ、シュバアバシュバシュババシュバルバシュバルバシュバルルシュバルルシュババ。シュバルシュババシュバルルバシュバルルシュバア、シュバルルシュババ」
(ほら、スバルこんな姿だろ? これじゃ残りのレジェンド所有者と戦うこともできないし、るしあのばあちゃんみたいに全員分の署名集めるのも不可能に近い。ほぼ詰んだ状態からのスタートだよなあ、仕方ないけどさ)
スバルはそう口にしながらため息をつきます。
「そう思いますか?」
するとるしあが意味ありげな笑みを作りました。
「シュバ? シュバルバシュババ?」
(なに? どういうことだ?)
聞き返すスバルに「ふふふふふ」と彼女はさらに目を細めます。
「スバル先輩、実はるしあ、スバル先輩にかけた呪いにちょっとした小細工をしておいたんです」
「シュバルバ?」
(こざいく?)
首を傾げるスバルに「こちらへ」とるしあが手招きします。
椅子に座っているるしあに対してスバルは机の上に立っている状況です。
これ以上近づくと顔と顔がぶつかってしまいます。
それでも来いと言われているのですから、スバルは一歩分だけ彼女に近づきました。
「そうじゃないですよ」
するとるしあはじれったくなったようにスバルのお腹を両手で掴んで引き寄せます。
「シュ、シュバ!」
(お、おい!)
比喩ではなく、本当に目と鼻の先の距離で二人が見つめ合います。
るしあはにこりとスバルに微笑んでから目を閉じて、なにやらごにょごにょと口のなかで唱え始めます。
それからグイっと首を伸ばしてスバルの頭に顔を近づけ、その額に口づけしました。
「シュバ!」
(あつっ!)
直後、両翼で額を押さえながらスバルが飛び跳ねます。
「シュバルバシュバ!」
(なにしやがる!)
「怒らないでください、さっき言った小細工を発動させたんです。これでスバル先輩の呪いはわずかですが解除され、一日に三分間だけ人間の姿に戻れるようになりました」
「シュバ? シュバシュババ?」
(なに? 本当か?)
聞き返すスバルに「はい」とるしあは頷きます。
「たった三分間なのが申し訳ないのですが」
「シュバシュバルババ。シュバルバシュバシュバルルシュババシュバ、シュバルバシュバルバシュバ」
(いやそんなことない。三分間は馬鹿にできないからな、これはありがたいシュバ)
「さすがるしあのスバル先輩です。レジェンド所有者は言うことが違います」
るしあはうっとりしながら呟きます。
そんな彼女に「シュバ」(でも)と言って、スバルは向き直りました。
「シュバルババシュバルバシュババ、シュバルルシュバシュバルルバシュバシュババシュバルルシュバルルバ? シュババシュバルルシュバルルシュババ、シュババシュバシュバシュバルルシュバルルバ?」
(小細工をしておいたってことは、はじめから三分間だけ戻れるようにしておいたってことだろ? 結果としてすごく助かったけど、なんでわざわざそんなことしたんだ?)
問いかけるスバルに「ふふふ、まあるしあにもいろいろと考えがありまして」とるしあは上機嫌に答えます。
「まあ正直に言いますと、いくらるしあでもスバル先輩がこの先もずっとアヒルのままというのはさすがに嫌でしたし、なんというか、るしあなりの『スバル先輩攻略ルート・トゥルーエンド』シナリオのようなものを用意してまして」
「シュバ」
(ほう)
相槌を打つスバルに「そのシナリオでは」とるしあは語りだします。
「スバル先輩は五年も粘らずに三、四日でるしあに助けを求めるんです。それをるしあが優しく接してあげて、アヒルで何もできないスバル先輩を甲斐甲斐しくお世話してあげたりするんです。スバル先輩は徐々にるしあに心を許していくのですが、その一方で今後ずっとアヒルでいる将来のことを真剣に考えるようになり絶望していきます。るしあの前では明るく振舞うけれど本当は人間の姿に戻れないことに涙するスバル先輩、でもるしあはそんなスバル先輩の思いにちゃんと気づいているんです。一緒に生活し始めてからちょうど一年目の折にスバル先輩と記念日のごちそうを食べて、そのロマンチックな雰囲気のなかるしあは今さっきしたようにスバル先輩の額に口づけします。するとスバル先輩はるしあの魔法のキスで一日に三分間だけ人間に戻れることに大喜びし、るしあに感謝して血の契約ではない真実の愛を誓うのです」
「シュバ、シュバルバシュバルシュババ。シュバルバシュババシュバシュババシュバルバ」
(いや、その愛も真実じゃないし。ていうか妄想がゲスすぎてひくわ)
「えへへ、るしあ照れてしまいます」
「シュバルルシュバルバ。シュバルバシュババ」
(かわいい顔するな。褒めてねえんだよ)
るしあは「えー」と甘えた声を出しながらスバルに抱きつこうとします。
しかしスバルはそれをひらりとかわして机から飛び降り、ぺたんと着地しました。
「シュバ、シュババシュバルルシュバルバシュバルルシュババ。シュバルバシュバルバシュバルルシュババシュバシュバルバシュバルルバ」
(まあ、あとは地道に頑張るしかねえシュバな。とりあえずは近くの町村に行って情報収集するか)
そう独り言を呟いてからぺたぺたと歩き出します。
「そうですね」
するとるしあは、ぶすっとした顔で答えながらもいそいそとローブを羽織りはじめます。
「しかし一番近い村落でもここからではかなりの距離があります。ですから馬に乗っていきましょう。厩舎から出してきますので少し待ってください」
当たり前のようにそう言う彼女に、スバルは「シュバ?」(え?)振り返りました。
「シュバルバシュバルルバ?」
(協力してくれるのか?)
そもそもるしあがスバルに呪いをかけてアヒルにしたのです。
スバルはてっきり、るしあは呪いの解除方法は教えても「できるものならやってみれば?」と突き放すものだと思っていました。
しかしるしあは心外そうな顔をして「当然です」と答えます。
「アヒルになったスバル先輩を一人で行かせるなんてとんでもないです。そんなことされてしまったらるしあ、心配で心配で居ても立ってもいられなくなってしまいます」
「シュバア……」
(るしあ……)
「それに、スバル先輩とレジェンド所有者を探すための大冒険なんて、るしあ内心でこの展開にかなりワクワクしてしまっていたりもするのです」
「シュバア! シュバアアア!」
(こらあ! おめえええ!)
スバルの咆哮がるしあの屋敷中に響きました。
スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。