勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
40羽
翌朝になります。
はあちゃまの襲撃を受けてからスバルを除く面々で見張りをすることになりましたが、何事もなく無事に一夜を終えました。
夜が明けた後スバルたちは、赤井はあとにそっくりなはあちゃまという人物に会ってしまったことで、このままフレアの館に行くべきか、はあとの城に引き返すべきかに意見が分かれました。
しかしとりあえずフレアの館へ向かう、ということで皆の考えがまとまりました。
「そう拗ねるなよねねち」
城に引き返す派だったねねはぶすっと頬を膨らませています。
「はあとさんにそっくりな人に襲われました、なんてはあとさん本人に言っても困らせちゃうだけだろ。むしろこういう奇怪なことは師匠の十八番なんだからさ」
ぽんぽんと肩を叩くポルカに、ねねは俯きながら「わかった」と小さい声で答えました。
◇ ◇ ◇
フェニックスに乗ったスバルたちはフレアの館に到着します。
「おお、帰ってきたな」
玄関前で呼びかけるとフレア直々に出迎えてくれました。
「ちょうどよかった、さあ入った入った」
フレアはスバルたちを客間へ通します。
そうして向かった先の客間にはすでに先客の女性がいます。
彼女はソファに座りながらお茶を飲んでいました。
「ノエル、噂をすればなんとやらだ。大空スバルが帰ってきたぞ」
フレアが呼びかけると、ノエルと呼ばれた女性はティーカップをソーサーに置いてからすくっと立ち上がりました。
銀色で硬質そうな髪をボブカットに切りそろえた、翡翠色の目をした女性です。
彼女はティアラを模した額当てを前髪の上から取り付けていたり、左肩左胸、両腕の肘から下、両足の膝から下に防具を装着していたりとやや重々しい格好をしています。
それでもちょっとしたオシャレは楽しみたいという女心なのでしょう、前髪の右端一房だけ小さく三つ編みに結っていて、耳のあたりへ控えめに流しています。
女性はつかつかとスバルたちに向かって歩きだし、キアラの前で止まります。
そして片足を床につける騎士然としたお辞儀をしてから立ち上がり、人懐っこい笑みを見せました。
「こんにちまっする!」
「え、あ、こんにちまっする……」
キアラは戸惑いながらも返します。
「スバル先輩、お久しぶりです。チーム『白銀聖騎士団』リーダーの白銀ノエルです。覚えていらっしゃまいますか?」
そう自己紹介してから、ノエルはぎゅっとキアラの手を握ってきました。
「シュバルバ」
(おいコラ)
スバルがフレアの方を睨みつけます。
「いや待ってくれ、あたしはちゃんと事情を説明したんだ」
フレアはスバルに弁明してから「おいノエル」と彼女に呼びかけました。
「違うじゃん、ついさっき言ったばっかりじゃん。スバルはこのむっくりした方、今は呪いのせいでこんな姿になってんの」
「シュバルルシュバシュババ」
(むっくりとか言うな)
「あー、たはは。すいません、団長うっかりしてました」
ノエルはスバルの前に立ち、改めてお辞儀をし直します。
「お久しぶりですスバル先輩、スバル先輩に一年遅れてチームを結成しリーダーをはじめた白銀ノエルです。リーダー成りたての頃はスバル先輩にいろいろとお世話していただきました。覚えていらっしゃいますか?」
「シュバルババ」
(もちろんだ)
スバルは頷きます。
「シュバルバシュバシュバル、シュバルルシュバルルバシュバルルババ」
(久しぶりだなノエル、随分たくましくなりやがって)
「覚えていらっしゃるそうです。ノエルさんが立派になられたのを見て嬉しいとスバル先輩はおっしゃっています」
るしあが通訳すると、ノエルは「ああ、スバル先輩!」と言ってスバルを抱きしめてきます。
するとスバルの身体からバキボキといやな音が鳴りだしました。
「シュ、シュバ! シュバア!」
(し、死ぬ! 死ぬう!)
「たまき君!」
るしあはすかさずたまき君を呼び出しました。
「ノエルさん、感動の抱擁はたまき君に!」
「ああ、たまき君!」
ノエルの標的がスバルからたまき君に移ります。
ノエルに抱きしめられるたまき君の身体からも例の音が鳴りだしますが、痛覚が通っていないたまき君は不思議そうに首を傾げるだけです。
「おい、やめてやれよ! かわいそうだろ!」
しかし、たとえそうでも見ていられないと思ったのでしょう、ポルカがノエルからたまき君を解いて「大丈夫?」と聞きいてやります。
でもたまき君はやっぱり首を傾げるだけです。
「え、あ、ごめん、団長嬉しさのあまりつい」
ノエルはしゅんと項垂れて謝りました。
一方るしあはそのうちにスバルを抱きかかえ、もう絶対に取られまいとするようにノエルから離れます。
そんなことがありながらも、そのあとは和やかな雰囲気となり各々自己紹介を済ませました。
「いやあそれにしても大空スバル、『随分たくましく』なんて、それこそ随分上から目線な物言いをするじゃないか」
しばらくノエルたちを見守っていたフレアが話しかけてきました。
「シュバ」
(なに?)
るしあに身体をさすってもらい調子を取り戻したスバルが眉を顰めます。
「シュバルルシュババ?」
(どういうことだ?)
「どういうもなにも、おまえの目の前におられるのは現在ランキングトップのチーム『白銀聖騎士団』のリーダー、剣士の頂点に立っておられる白銀ノエル様だぞ。洋画っぽいキャラ縛りで下っ端の役を演じるようにもっとぺこぺこへりくだって喋ったらどうだ?」
「トップランカー様がどれだけ偉いか知りませんが、それ以上るしあのスバル先輩を侮辱したらジョゼフとたまき君をこの館で大暴れさせますよ」
「すまない! 調子に乗った!」
フレアは即座に頭を下げました。
「シュバ、シュババシュバルババ」
(いや、そんなことはいい)
スバルはノエルを見上げました。
「シュバルシュバ」
(それよりも)
「レジェンドソーセージの所有者!」
ねねがスバルの言葉を遮りながら、彼女の言いたかったことを口にします。
「いかにも!」
ノエルは胸を張りました。
「団長はレジェンドソーセージ、『断末魔』マグマ・ホットドッグの所有者です!」
言いながら、ノエルはレッグバッグから虹色フォークを取り出してテーブルの上に置きました。
「フレアからスバル先輩たちの事情は聞いています。例の書を出してください。団長、そこに名前を書くだけでお役に立てるのでしたら吉野家の朝牛セット前です」
「あ、はい、お願いします」
るしあからクソザコの書を受け取りその表紙を見たノエルは、思わず苦笑しました。
「確かに、こんな本では進んで署名しようという気は起きにくいですね」
言いながらも「赤井はあと」の次のページに「白銀ノエル」とサインしてるしあに返します。
「よしよし、これであたしは約束を果たしたからな大空スバル」
ノエルが書き終えるのを見届けたフレアが胸をなでおろすように言います。
「シュバ」
(ああ)
「ありがとうございました、フレアさん」
「いやいや、あたしもちゃんと役に立ててうれしいよ。ふむ、なんだか今日は気分がいいな。どれ茶菓子でも持ってきてやるからみんなちょっと待ってな」
「はーい!」
ねねが元気よく返事をします。
フレアがその声を背に客間を出ていきます。
「ねえ、ノエル! ノエル!」
そのすぐ後、ねねがテーブルに身を乗り出しながらノエルに呼びかけました。
「ねねにもさ、まだ今じゃなくていいから、貸してって言った時にそのレジェンドソーセージ貸してくれない?」
「え、どうしてですか? とても危ないものなんですよ?」
「それはねねもわかってるよー。だからちょっとだけでいいから、ね?」
可愛くウインクしてねだるねねですが、そのあざとさが逆にノエルを警戒させます。
「シュバア」
(るしあ)
ぼそっとスバルがるしあに話しかけました。
「はいスバル先輩」
「シュバルバシュババシュババシュバルバシュバルシュババ、シュバルバシュバルバシュバシュバ」
(スバルが貸してやってほしいと言ってるって、ノエルに伝えてくれシュバ)
るしあはスバルの頼みに微笑んでから「わかりました」と答えました。
「ノエルさん」
「はい?」
「スバル先輩が、ねねにレジェンドソーセージを貸す約束をしてあげてほしいとおっしゃっています」
「ええ?」
びっくりした顔をしてノエルがスバルの方を振り向きます。
彼女と目が合ったスバルはこくりと頷きました。
「まあ、スバル先輩がそうおっしゃるのでしたら、やぶさかではありませんが」
「ありがとうございます」
るしあはノエルに礼を言います。
「ねねにもねねの事情があるようなのです。スバル先輩もねねにレジェンドソーセージを貸すという約束をしていますし、そんな怪しいことではないので」
「そうですか」
ノエルはねねに向き直りました。
「そういうことなら約束しまっする」
「やったー!」
ねねは飛び上がって喜びました。
しかし着地するや否や「まあ、それはそれとして」と言ってから、またノエルに話しかけます。
「ねえノエル、マグマ・ホットドッグってどんなソーセージなの?」
「ん? 興味がありますか?」
ねねの質問にノエルは満更でもない顔をします。
「うん! だって名前にマグマが付いてるとかメッチャかっこいいじゃん! ねね昨日ライトニングウィンナーも電流がすごくてかっこいいって思ったけど、マグマ・ホットドッグには火属性が付与されているんでしょ? だからもっとかっこいいんじゃないかって思うの!」
「ふふふ、スバル先輩、この子なかなか剣士のロマンというものをわかっていまっする」
「シュババ?」
(そうか?)
「よーし、じゃあ特別です。団長が少しだけ実物を見せてあげまっする」
ノエルは立ち上がりフォークを掴みます。
そしてブン! と振るいました。
「あびゃびゃ?」
しかしフォークの先には何も現れません。
「え、ノエル、本当にマグマ・ホットドッグの所有者なの?」
ねねの期待に満ちたまなざしが、胡散臭いものを見るものへと変わっていきます。
「そ、そんなバカな! ふん! むん!」
ノエルはビュウン! ビュウン! と凄まじい勢いでフォークを振るいますが、それでも相変わらず何も起きません。
「おいやめろノエル、風圧で部屋がめちゃくちゃになる」
ノエルがふと声の方を振り返ると、茶菓子を盆にのせて戻ってきたフレアでした。
フレアはテーブルにそれらを置いてから苛立ちげにため息をつきます。
「忘れたのか? あたしの館内でレジェンドソーセージは使用できないようにしていることを。レジェンドソーセージを出したいなら外でやってこい」
「あ、たはは、団長としたことがうっかりしてました。そうでしたそうでした」
ノエルは笑いながらフォークをレッグバッグに仕舞います。
「えー、見せてくれないのー?」
「あとで外で見せてあげまっする」
そうねねに言ってから、ノエルはふとしたふうにスバルの方へと目を向けました。
「スバル先輩もどうですか?」
「ん?」
(シュバ?)
「フレアに聞いたところによると三分間だけ人間の姿に戻れるとか。レジェンド所有者の剣士と出会える機会は滅多にありませんし、あとで昔のように手合わせしていただけませんか?」
頭を下げて頼むノエルに「シュバシュバ」(おいおい)とスバルは苦笑します。
「シュバシュバルシュバルバシュバシュバルルシュババ? シュバルバシュバルルシュバシュバルルシュババシュバルバシュバ」
(現トップランカーとの手合わせだって? そんなのこっちからお願いしたいくらいだシュバ)
「どうしてもと言うなら手合わせしてやってもいいぞ、とおっしゃっています」
「シュバ、シュバルバ!」
(おい、言い方!)
「ありがとうございますスバル先輩! 感謝しまっする!」
ノエルはスバルの両翼を握りしめて嬉しそうに笑いました。
◇ ◇ ◇
スバルたちは客間でしばらく談笑しました。
その折に、るしあは例の赤井はあとにそっくりな女性「はあちゃま」についてフレアに聞いてみましたが「あたしもよくわからない」と首を傾げられました。
ただ、そのはあちゃまが突然姿を消したという話にまで行き着いた際、フレアは何か思い当たる節があるかのように口元へ手をやりだしました。
「あ、そうだ! ねえフレア!」
難しそうな顔をしているフレアに、ノエルが唐突に話しかけます。
「ん? どうした?」
「今更だけど見て見て今日の団長、普段と少し違うところない?」
「うーん、髪を少し伸ばしてる?」
「違うよ、伸びたかもしれないけど見つけてほしいのはそこじゃない」
「えっと、あー、わかった、服だ。今日の服、とても似合ってるよ」
「適当なこと言わないでよ。ほら、もっとよく見て」
くるくると片足を軸に回転しながら聞くノエルに、「まさかと思うが」と前置きしてからフレアは答えます。
「その防具のことに気付いてほしいのか?」
フレアの言葉に「そう!」とノエルが嬉しそうに頷きます。
「やっと気づいてくれた」
「いや、もともと気づいてたけど、まさか女の子らしくきゃぴきゃぴしながら聞かれるとは思ってもいなかったから、完全に選択肢から除外してた」
「何言ってんだよ、かっこいいとかわいいは同義じゃないか。ふふふ、苦労したんだあ、団長によく似合うソセレ合金製の防具を見つけるの」
ノエルがソファに座り直しながらそう口にした直後でした。
ちょうど庭を眺めながら百年梅酒ぺこらverを飲んでいたラミィが、ブーッ! と勢いよく吹きだしました。
「「ソセレ合金!」」
そしてノエルとフレア、るしあ以外の全員が声をそろえて叫びます。
「ソセレ合金って何ですか?」
るしあは首を傾げながら誰とはなしに尋ねました。
「ホロ・デ・ソーセージ大陸に存在する、唯一ソーセージよりも強固な金属だ」
剣士でないるしあのために、博識なフレアがソーセージとソセレ合金について簡単に説明します。
まず、ソーセージはどれもとても硬い物質です。
基本的にはソーセージより硬いものなど存在しません。
しかもそのソーセージ自体は戦闘などの使用時にだけ出現し、終わると消えてしまうものなので防具素材などに用いることができません。
そのため、基本的にソーセージの攻撃を防ぐことができる防具などありません。
あったとしても数回叩かれるだけで壊れてしまうような脆いものばかりです。
ソーセージの攻撃に対処するには避けるか、ソーセージで受け止めるかのどちらかになります。
ですので、剣士の装備も軽装か、もしくはそもそも防具など一切取り付けないのが一般的になっています。
ただし、ソーセージより硬い物質として例外もあります。
それがソセレ合金です。
ソセレ合金製の防具はソーセージよりも硬いため、ソーセージの攻撃を防ぐことができるのです。
「そんなのあるんですか、いいなあ」
るしあがうらやましそうにノエルを見ます。
「いや、珍しいは珍しいが探せば案外見つかる程度の珍しさだよ、ソセレ合金製防具は」
そんなるしあにフレアが笑いながら教えます。
「もうソセレ合金の防具を置いている防具屋は大分少なくなったが、それでも三、四店も探せばまあ見つかるだろうな。値段も、高いと言っても手が届かないほどではない。もし興味があるなら次に訪れる町や村の防具屋をあたってみるといい」
そう言ってからフレアは紅茶を飲みます。
「へえ」
るしあは頷きました。
「でも、それならどうして他のみんなはソセレ合金製の防具を装備していないんですか?」
「シュバルババシュバ」
(重いからだよ)
るしあの疑問にスバルがボソッと答えます。
「重い?」
るしあは首を傾げました。
「シュバルバシュバルバ」
(ノエルを見て見ろ)
スバルに言われ、るしあはノエルの方へ目を向けます。
「シュバシュバシュバルルシュバシュババシュバルシュババ、シュバルルババシュバルシュバ、シュババ、シュバルババシュバルバシュババ、シュバルルシュバシュバ。シュバルルシュババシュバルバシュバシュババシュバルバシュバルシュバ、シュバルルバシュバルルバシュバルバシュバルバシュバババシュバババシュバシュババ」
(へらへら笑ってお茶なんか飲んでいるが、左肩と左胸、額、両腕の肘から手首、両膝から下。必要箇所を厳選して装備しているんだろうが、あれだけで本人の体重四倍以上の重さはあるはずだ)
「は?」
「シュバルルシュババシュババルシュバシュバルルシュバシュバルバシュバルシュババシュババシュバルシュババ。シュババシュバシュバルルシュバルババシュバルルシュバルバ。シュババシュバルバシュバ、シュバルババシュバルシュバババシュバシュババシュバルシュバシュババ」
(実用性のかけらもない欠陥品なんだよソセレ合金なんて本来なら。だから取り扱う防具屋が激減したんだ。あれは防具じゃない、金持ちが観賞用に飾っとくアンティークなんだ)
「え、でもあの人、すごく平然としてますよ?」
「シュババシュババシュバルバシュババ!」
(だからみんなビビってんだよ!)
思わずスバルは叫びました。
「るしあ、なんだかあの人怖いです」
言ってからるしあはぎゅっとスバルを抱きしめます。
「シュバルバシュバルシュババ」
(スバルも怖いシュバよ)
スバルもそんなるしあにボソッと返しました。
スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。