勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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 スバルとノエルの対戦が終わった直後、

 

「その前に、私とも戦ってくれないかしら?」

 

 二人のすぐそばの茂みから、聞き覚えのある声がしました。

 声の方にスバルとノエルが振り向きます。

 

「はあちゃまっちゃまー」

 

 がざがざと茂みをかき分けて現れたのは、はあちゃまです。

 

「ブブー」

 

 さらに、そのあとからハートンたちまでぞろぞろと出てきます。

 

「ハートン? どういうことシュバ」

 

 スバルが眉を顰めます。

 彼らは首回りに縫い合わされた紐を黒色のものから赤色のものに替えていますが、それ以外の点ではまぎれもなく赤井はあとのチームメンバー、ハートンでした。

 

「ふん、ハートンは私のチームメンバー。私と行動を共にすることに何の不思議もないわ」

 

 はあちゃまはスバルを鼻で笑ってから「それより」とノエルの方を見ます。

 

「私とも勝負してくださらない? 白銀ノエル」

 

 フォークをレッグバッグから取り出し、ブン! と振るって先端にクリスタルサビロイを出現させます。

 

「まさか天下の現トップランカー様が、挑まれた勝負を断るなんてかっこわるいことしないでしょ?」

 

 はあちゃまは不敵に笑ってノエルを挑発しました。

 

「それこそまさかです」

 

 ノエルは笑い返します。

 

「団長は白銀聖騎士団たちの誇りを背負っているのです。そんなことするはずがないでしょう」

 

 そしてさっき仕舞ったばかりのフォークを取り出そうとします。

 

「待つシュバ、はあちゃま」

 

 そこにスバルが割り込みました。

 

「ノエルは今、スバルと戦ったばかりで体力が消耗してる。そんな状態の相手と戦っても意味なんてないだろ?」

 

「いやよ」

 

「いや、いやよとかじゃなくてな」

 

「スバル先輩、団長は構いませんよ」

 

 ノエルがスバルに答えました。

 

「体力が消耗していると言いますが、団長からすればこの状態こそいつでも『断末魔』を発動できるベストコンディションです。それに赤井はあとと言えば団長世代の憧れの的、さきほど館で偽物だのなんだのとるしあさんが言っていましたが、団長の目の前でクリスタルサビロイを持つその姿、忘れたくても忘れられない赤井はあと本人です。その赤井はあとが団長と手合わせしたいと言ってくれているなんて、団長まさに感極まりの心境です」

 

 ノエルはマグマ・ホットドッグを出現させます。

 

「剣士を突然引退したと耳にした時潰えたはずの団長の夢、トップランカー赤井はあととの勝負がこうして実現できるまたとない幸運、それを団長の都合でみすみす見逃したくありません」

 

「決まりね」

 

 はあちゃまがクリスタルサビロイを構えると、ノエルも合わせてマグマ・ホットドッグを構えます。

 それが合図だと言わんばかりにはあちゃまがノエルに飛びかかりました。

 そして二人は一合二合と剣を打ち合いはじめます。

 

「驚きデスね」

 

 はあちゃまとノエルの戦いに巻き込まれないよう離れたスバルの隣にキアラがやってきます。

 

「はあちゃまと言いマシタか彼女、すごい成長スピードデス。昨夜目立っていた隙がほとんどなくなっています」

 

 キアラに「そうシュバな」とスバルは答えました。

 

「だけどスバルには成長が早いというより、もともとの剣士としての身体レベルに動きが追いつこうとしているように見えるシュバ」

 

「さすがスバルせんぱいデス」

 

「いや、そういうふうに見えるだけで実のところはわからないシュバ」

 

 そう断りを入れてから「まあどちらにしても」とスバルは続けます。

 

「これで相手が並の上級剣士であれば十分常勝できる実力なんだが、ノエルが相手だとまた話が違ってくるシュバだからなあ」

 

「そうデスね」

 

「だからせめてフェアな状態の時に戦いを挑めと言ったんだ。誰であれ、傷を負った相手に完封される剣士の姿を見るのは忍びないシュバ」

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

 スバルの言うとおり、ノエルとはあちゃまの戦況はノエルの圧倒的優勢でした。

 ノエルはスバルとの戦いで残り体力が二割弱にまで減っているのですが、スキルを使う気配もありません。

 にもかかわらずはあちゃまの斬撃をことごとく防いだ上で鋭い攻撃を入れているのです。

 

「あなたは強いです、剣士としての才能を感じまっする」

 

「それはどうも」

 

「でも、やはり赤井はあとではないのですね。ブランクによるのでしょう腕のなまり以前に、あなたには団長たちが憧れた赤井はあとの魅力、その決定的な何かが欠けています」

 

 ノエルはいったん剣を下ろしました。

 

「あなたはいったい誰なのですか?」

 

「私が誰だろうとあなたの知ったこっちゃないでしょ白銀ノエル。でも呼ぶときははあちゃまと言ってちょうだい、それが私の名前と決めたの」

 

 そう言ってからはあちゃまはため息をつきます。

 

「それにしても、スバルもあなたも私と赤井はあとを勝手に比べて足りない足りないって、本当に失礼しちゃうわ。私からすれば、あなたたちこそ剣士として決定的なものが欠けているというのに」

 

「なに?」

 

「白銀ノエル、あなたは剣士の戦いに必勝法があることをご存じ?」

 

 はあちゃまの問いかけに、ノエルは「そんなものはありません」と即答します。

 

「ですが、ソーセージと真摯に向き合う姿勢によってわずかでも勝率は高まります。少なくとも団長はそうやってこれまでソーセージを振るってきました」

 

「ふん、反吐が出そうな精神論。そんなんだからソーセージ道だのなんだのバカバカしいことばかりぬかしだす。あなたたちって本当に青臭いわね」

 

「……、なに?」

 

 直後、ノエル周辺の空気が張り詰めました。

 

「今ならまだ許しましょう、その言葉すぐに撤回しなさい」

 

 ノエルの声が鋭くなり、はあちゃまをキッと睨みつけます。

 

「団長に対する侮辱なら聞き流すこともできましょう。しかしソーセージ道に対する侮辱はすべての剣士に対する侮辱、いくら団長でもへらへら笑って済ますわけにはいきません」

 

「だったらなんだと言うの? ほらかかってきなさいよ。さっきからちまちました攻撃ばかりでうんざりしてるの。剣士とはどうやって戦うものなのか、私が剣士の必勝法というものを教えてあげるわ」

 

 大言を吐くはあちゃまを「ふん」とノエルが笑います。

 

「少しばかり才を褒めれば随分と天狗になって。彼我の実力差も推し量れないあなたこそ団長から言わせればまさに青臭い、ちまちました攻撃なのではなく手心を加えられているのだと知りなさい」

 

 ノエルは地面を蹴り一瞬ではあちゃまとの距離を詰めます。

 はあちゃまは慌てて後ろへ跳びながらクリスタルサビロイを振るいますが、ノエルはそれを右の腕当てで弾いた後にまた一歩踏み込み間合いを詰めてマグマ・ホットドッグを抜刀します。

 弧を描くように振り下ろされる一刀が縦一文字に線を引きはあちゃまに迫ります。

 そのタイミングで、はあちゃまは声を張り上げました。

 

「ハートン!」

 

 直後、ノエルとはあちゃまを取り囲んで観戦していたハートンの一人がいきなり飛び出してきて、二人の間に割り込みます。

 しかもその位置が、ノエルの剣が振り下ろされるすぐ先であったので、怒りの勢いで剣を振るってしまったノエルは今さら止めることができません。

 ノエルのマグマ・ホットドッグがハートンの左肩をえぐり、メキメキメキと胸部までその剣身をめり込ませます。

 

「あ、あ……」

 

 いきなり出てきたとは言え自分の剣が無防備な人間の身体に食い込んでいく、その事実を目の当たりにしてノエルは頭が真っ白になりました。

 

「はあちゃまっちゃまー」

 

 そんなノエルに、はあちゃまはソーセージが刺さったハートンの背後からスッと現れて一太刀をあびせます。

 

「ぐっ!」

 

 ノエルはまともにそれを受けてよろめきました。

 

「お、おのれえ!」

 

 しかし怒鳴り声を上げながらふらつく身体を踏ん張って支えました。

 

「自分を慕うチームメンバーになんてことをさせる、この恥知らずが!」

 

 見開かれるノエルの目が真っ赤に染まります。

 マグマ・ホットドッグのスキル「断末魔」が発動します。

 発動条件を満たすノエルの力を75%引き上げ、そのソーセージに怒りの業火を滾らせます。

 しかし、

 

「ブブー!」

 

 超高熱のマグマ・ホットドッグに引き裂かれ引っかかった状態のハートンの肉がジュウッ! と焼ける音、そして聞こえる彼の苦悶の声、ノエルは耐えきれずに「断末魔」の発動を中断しました。

 

「だから甘いと言うに!」

 

 叫びながらはあちゃまが突っ込みます。

 そしてノエルの腹部にクリスタルサビロイを突き立てました。

 

「う、ぶっ、ぐふっ!」

 

 ノエルは喉の奥から血が込みあがり、口元を手で押さえます。

 彼女は吐血することを恥じるようにそれを嚥下しました。

 しかししばらくするとガタガタと足に震えが走り、地面に両ひざを立てました。

 その直後にはあちゃまが剣を引き抜いたので、傷口から大量の血が飛び散ります。

 はあちゃまもその返り血を浴びます。

 ノエルは一瞬意識が飛んだかのように白目を剥いて前に倒れ込みそうになりますが、慌てて地面に両手をつき身体を支えました。

 はあちゃまの足元でよつんばになる格好でした。

 ノエルのフォークはすでに手から離れており、当然ソーセージも消えた状態です。

 

「……、くうっ」

 

 それでも立ち上がろうとするノエルでしたが、ふと、すぐそばで自分が斬り伏せたハートンがピクリともせず横たわっているのを目にしてしまいます。

 それを見た瞬間、ノエルの中でめらめらと燃えていた闘志の炎が静かに消えました。

 そして替わりにぞっとするような絶望感が込みあがり、敗北の二文字が彼女の脳裏に浮かびます。

 

「ふふふふふ」

 

 はあちゃまもソーセージを消しました。

 そして自分のフォークをしばらくじっと見つめてから、満足げにレッグバッグに仕舞いました。

 

「ノエル!」

 

 皆がノエルに駆け寄って、血止めなどの応急処置を施します。

 

「おめえええ!」

 

 スバルがはあちゃまに怒鳴りました。

 

「よくもハートンを盾に使いやがったな!」

 

「ふん、だからどうしたというの?」

 

 はあちゃまはしらっと言い返します。

 スバルは話にならないと言いたげに舌打ちしてから、矛先をはあちゃまからハートンたちに切り替えます。

 

「何やってんだよハートン! こいつはおまえたちのリーダー、赤井はあとじゃねえんだぞ! バカなことしてないで目を覚ませシュバ!」

 

 しかしハートンたちもはあちゃま同様、スバルを全く相手にしません。

 スバルは「ううう」と歯痒そうに呻いてから、再びはあちゃまに向き合いました。

 

「だいたい、体力が少ない剣士相手にハートンまで犠牲にしてよ、そんなことまでして勝ってなにが嬉しいシュバ! その勝利に何の価値があるシュバ!」

 

 問いただすスバルにはあちゃまが笑います。

 

「非常に大きな価値があるのよ大空スバル。ほら、見てみなさい」

 

 言って指さす先にあるのは、ノエルのマグマ・ホットドッグのフォークです。

 ですが、そのフォークは徐々に虹の輝きを失い黒ずんでいきます。

 終いには完全にさび付いてしまったかのように、濁った黒色のフォークと化してしまいました。

 

「だ、団長の、白銀聖騎士団みんなの、マグマ・ホットドッグ!」

 

 ノエルは止めるるしあたちを押しのけて手を伸ばし、黒ずんだフォークを掴みます。

 そしてそれを振るいますが、フォークには何も起こりません。

 

「あ、ああ、ああ……」

 

 嗚咽のような声を出して、ノエルは力なく手を下ろしました。

 

「おまえ、一体何をした!」

 

 スバルははあちゃまにライトニングウィンナーを構えます。

 

「待って待って大空スバル」

 

 しかし一方のはあちゃまはクリスタルサビロイを取り出そうとしません。

 

「私の今回の目的は果たしたわ。今あなたと戦うつもりはないの。それとも、戦意のない者をその剣で斬り捨てるのがあなたたちの言うソーセージ道なのかしら」

 

「ぐうう、自分のことを棚に上げてよくもまあぬけぬけと」

 

 悔しそうに言いながらもスバルは剣をおさめます。

 はあちゃまはそんなスバルを嘲笑いました。

 

「ありがとう大空スバル。代わりと言ってはなんだけど、白銀ノエルのソーセージフォークに何が起きたのか説明してあげるわ。そしてこの私が誰なのかということもね」




 スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
 あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。
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