勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
何が起きたのか説明する、そう前置いてからはあちゃまは話し始めました。
「まずその黒ずんだマグマ・ホットドッグのフォークだけれど、ごめんなさいね白銀ノエル。レジェンドソーセージのエネルギー根源であるスキルの力を奪わせてもらったの。そのソーセージフォークはマグマ・ホットドッグを出すことはおろか戦いの武器として使うことすらできない、ただの棒きれになってしまったというわけ」
「なんでそんな酷いことするんですか!」
るしあが叫びます。
「それはね」
はあちゃまは一度言葉を止めてからハートンたちの方を向きます。
それからまた視線をスバルたちに戻して続けます。
「それは、赤井はあとを救うためよ」
「なに?」
スバルが眉をひそめました。
「話が読めないシュバ」
「良くってよトリ頭さん、あなたにもわかるように順序だてて説明してあげるわ」
言ってから、はあちゃまはこほんと咳払いを一つ。
「まず改めて自己紹介を。私の名前ははあちゃま、ハートンたちによってクリスタルサビロイのスキル『生命』を発動され生み出された、赤井はあとの第二人格よ」
「「え!」」
はあちゃまとハートン以外の全員が驚きの声を上げました。
「ふふん、他のレジェンドソーセージに対してクリスタルサビロイのスキル『生命』は特殊でね、このソーセージを使用して相手を倒すたびにちょっとした幸福が得られるの。たとえば気分が晴れたり、調子が多少良くなったり、そんな程度のささやかな幸福よ。でも塵も積もれば山となるっていうでしょう? 赤井はあとはクリスタルサビロイを使って常に勝ち続けていたにもかかわらず、一度だってこのスキルを使わなかった。だから奇跡と呼べなくもない現象を引き起こせるだけの大きな幸福が、この『生命』に溜まっていたの」
「その蓄積された幸福のスキルを、はあと先輩ではなくハートンがおまえを呼び出すために使ったと?」
聞くスバルに「正確には違うわ」とはあちゃまは首を振ります。
「ハートンたちが願った幸福は赤井はあとの全快よ。ただその願いは欲張りすぎていたから叶わなかった。だから次善の願いとして赤井はあとを救いだす者の出現を望んだ、そう、私の出現をね。そして私は赤井はあとの身体に産み落とされたというわけよ」
「あ、あんたの出現が、どうしてはあとが助かることに繋がるんだよ」
じれったくなったねねが我慢できずに問いかけました。
「これからそれを話すところでしょ? あなたは少し黙っていなさい」
はあちゃまはねねにピシャリと言い放ってからスバルに向き直ります。
「赤井はあとは剣士として超一流だったのかもしれないわね。だけど、私に言わせればクリスタルサビロイの使い手として未熟もいいところよ。だってこの『生命』の使い方をまるでわかっていないとしか思えないのだから」
はあちゃまは腕を組み始めます。
「クリスタルサビロイのスキルはね、使用者がその気になればそこのマグマ・ホットドッグのように、倒したレジェンドソーセージの力を奪い取ることができるのよ。そして私の手にかかればその奪い取ったスキルのエネルギーを応用して赤井はあとの病を完治させることもできる。私は赤井はあとを救うためにこうしてレジェンド所有者を戦っているの。だからこそハートンたちも己の身を挺して私の勝利に貢献してくれてるわけよ」
「嘘だ! でたらめを言うなシュバ!」
「いや、今の話は満更でたらめというわけでもないだろう」
スバルの声に答えたのは、はあちゃまではありませんでした。
いつからそこにいたのか、スバルの隣で「なるほどな」と呟くフレアでした。
フレアはノエルの側までやってきて、彼女の手から黒ずんだマグマ・ホットドッグのフォークを抜き取ります。
それをまじまじと観察してから「ふむ」と頷きノエルに返してやりました。
そして痛ましげな表情でノエルの頭を何度か撫でます。
「信じがたいことだが」
そう言いながらフレアははあちゃまに向き直りました。
「本当にレジェンドソーセージのスキルの力を奪い取れるのだとしたら、全て集めなくても数本分スキルを奪い取るだけでおまえたちの願いは叶うだろうな。少なくともクリスタルサビロイを所持している間は」
「なんでおまえがそんなこと断言できるんだシュバ」
スバルが不審げに尋ねます。
「またフィーリングですか師匠」と、ポルカも呆れたように聞きます。
「やれやれ、情けない弟子だな。あたしがそんな適当なもので断言するはずないだろう」
フレアはポルカにため息ついてから続けます。
「断言できるに決まっているだろう、レジェンドソーセージ十二本の原型はその昔、あたしと偉大な方が造り出したものだからな。自分の造ったもののことくらい簡単にわかる」
「「は?」」
フレア以外の全員が目を点にしました。
「し、師匠、ポルカそんな話は初耳ですよ」
ポルカに至っては狼狽えだしています。
「そりゃ聞かれなかったからな。あたしだって『ポルポルー、師匠師匠ー、レジェンドソーセージを造ったのは師匠だったのポルカー?』と聞いてさえくれれば『ああそうだ』と答えたとも」
「聞けるかーいそんなこと!」
ポルカは誰もいないところに右手でツッコミを入れました。
「ふっ、まあとにかく懐かしいな」
フレアは遠い目をします。
「そもそもあたしとあの方が造ったレジェンドソーセージは武器なんかじゃなかったんだ。ホロ・デ・ソーセージ大陸の各地で餓死者が続出していた時代でな、空腹で苦しむ大陸中の子供たちのために、食べても食べてもソーセージのなくならない魔法のフォークを十二本造ったんだよ。それがいつの間にか武器として改造され、さらに年月を経てみれば十二本の武器化したソーセージを模した劣化品まで大量生産されていた。あたしもあの方も、この世界のことわりに不用意に干渉すべきではないという手痛い教訓を得たわけさ」
「あの、師匠師匠」
「ん?」
ポルカがフレアの側にやってきてぼそぼそと耳打ちします。
「師匠のお話がものすごく大切なお話であることはもう重々承知なのですが、なんというか、今はそういうお話をするタイミングではないと思うんです。また時と場所を変えてゆっくり語っていただくということで、今はとりあえず、はあちゃまが言っていることは現実的であるということに話を戻していきませんか」
「うん、そうだな。まあ詳しく知りたかったら拙著『ソーセージの風』を読んでくれ」
フレアは「とにかく」と話を戻します。
「集めたスキルの力で赤井はあとを全快させるという彼女の目的は実現可能なものだ。現にマグマ・ホットドッグのフォークは使い物にならなくなったわけだし、動けるはずのない赤井はあとの身体を無理にでも動かして昨夜も今も戦ってみせているのも、クリスタルサビロイのスキルのエネルギーを一時的にでも治癒に当てて動いているのだとすれば納得がいく。つまりスキルのエネルギーを奪い取ることも、それを治癒に応用することもできているというわけだ」
「ふ、ふふふ、やっぱりそうでしょ?」
置いてけぼりにされていたようにポカンとしていたはあちゃまが、フレアの話を聞いて笑いだします。
「レジェンドソーセージの造り手が太鼓判を押すのだから間違いないわ! ほら、私の言うとおりだったでしょハートン! レジェンドソーセージを取り込んでいけば、あなたたちの願いは成就するのよ!」
はあちゃまの言葉にハートンたちが活気づきます。
「フ、フレアさん!」
るしあがフレアに詰め寄りました。
「こんな相手に確証を与えるようなこと教えなくてもいいじゃないですか!」
「ん? 何を言っているんだるしあ」
フレアは首を傾げます。
「彼女はすべてわかっているからこそこうして襲いに来たのだろう、あたしはおまえたちに教えてあげてるんだ」
「こ、このエルフはもう!」
「るしあやめとけ! ガチでそう思ってるっぽいのを察せ!」
スバルがるしあをなだめます。
フレアはそんな二人を不思議そうに見てから「まあ、それはそれとしてだな」と言って、ハートンたちの方に向きました。
そして彼らの首回りを縫い合わせている赤い紐に目を止めて「ちっ」と忌々しげに舌打ちしました。
「るしあから瞬間移動の魔法云々の話を聞いてまさかとは思っていたが、その首回りにしている赤い紐、やはりそういうことか」
フレアは俯き重いため息をついてから顔を上げます。
「とりあえず、あたし個人の意見を言わせてもらう。はあちゃま、あんたがレジェンドソーセージのスキルを集めるのは結構だよ。古来より弱肉強食がホロ・デ・ソーセージ大陸の常、その意味で勝者がレジェンドのスキルを奪い取ることに何の異論もない。それからあたしは剣士じゃないから一対一で正々堂々戦うことにもそんなに矜持を感じない。だから戦場に飛び込み味方を庇う自己犠牲もタブーだとは思わないよ。むしろ赤井はあとを救うために自分の身さえ呈するなんて、泣かせる話じゃないか」
そこまで言ってから「だがな」とフレアは語気を強めて続けます。
「その紐は話が違ってくるだろう。自分を慕うチームメンバーになんてものを身に付けさせているんだ」
吐き捨てるように言ってから「おい、あんたら」と、今度はハートンたちに呼びかけます。
「その紐がどれだけ恐ろしい呪具なのか、あんたらはすでに知っているはずだ。悪いことは言わん、今すぐその着ぐるみを脱ぎ捨てろ」
「そんなことしたら許さないわよハートン」
するとはあちゃまがハートンたちを睨みつけました。
「あなたたちの着ぐるみをデザインしたのは誰? いつからそれを着続けているの?」
はあちゃまはハートンをぐるりと見回し問いかけます。
「その着ぐるみは、赤井はあとが剣士現役時代から『ハートン』であることの証としてあなたたちに与えた制服でしょう!」
一喝します。
「そのことを承知の上で脱ぎ捨てたいと言うのなら、ええどうぞ勝手にすればいいわ! ただし、それはチームを脱退した後でなさい!」
すると、はあちゃまの言葉に、ハートンたちは自分の着ぐるみを誇るように胸を張ります。
フレアの忠告に恐怖心煽られ脱ぎだす者はおろか、脱ごうかどうかと躊躇う者さえ一人もいません。
「あんた、ろくな死に方しないよ」
フレアが呪うように言いました。
はあちゃまは「ふん」と鼻で笑い返します。
「スバル」
それからはあちゃまはスバルに呼びかけました。
「あなたの所有するライトニングウィンナーのスキル『神の怒り』も近々私のものになるわ、それまでせいぜい大切にしておくことね」
はあちゃまの言葉に、スバルは「やれるもんならやってみろ!」と言い返そうとします。
しかしその直前アヒルに戻ってしまい「シュバルルシュババシュバルババ!」と発していました。
はあちゃまはそれを鼻で笑ってから「さあ帰るわよあなたたち」とハートンたちに呼びかけ、彼らを率いて歩きだします。
「おろかだな、本当に」
そんなハートンたちの背中に、フレアは独り言を言うように話しかけました。
「おまえたちの本当のリーダー赤井はあとが何を最も悲しむのかということを、おまえたち自身が全くわかってないのだから」
赤井はあとの名前が出たからでしょう、ハートンたちはフレアの方を振り返ろうとします。
「何をぐずぐずしているのハートン、さっさとついてきなさい!」
しかしはあちゃまがそれを妨げるように荒々しく呼びかけます。
結局、ハートンたちはフレアを振り返ることなく立ち去っていきました。
◇ ◇ ◇
「あの」
「ん?」
ハートンたちの姿が見えなくなってから、るしあがフレアに話しかけます。
「あの赤い紐がどうかしたんですか?」
尋ねるるしあに「いや、まあなんだ」とフレアは歯切れがよくありません。
「大昔に胸くそ悪い魔法使いが作り出した胸くそ悪い呪具さ、胸くそ悪くなるから聞かない方がいい」
そう言葉を濁してフレアはそそくさと言ってしまいます。
るしあはそんなフレアの後姿を見ながら「はあ」と頷きました。
スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。