勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
47羽
『ららいおん、ららいおん』
『『『『『ねーねをがぶがぶ、ららいおん』』』』』
「……」
目を覚ましたねねはため息をつきました。
また五人目を加えたホロファイブメンバーで冒険をする夢を見たのです。
この夢を見たあと、ねねはしばらくの間とても悲しい気持ちになります。
ラミィとポルカとぼたん、いつものメンバーで普段通り過ごしているはずなのに全然しっくりこない、何かが欠けているという違和感に襲われるのです。
四人で喋っているのにしばしば五人目も会話に入っているような幻聴を覚えたり、ふとどこかへ目をやった時に彼女の人影が見えたような気がしたりするのです。
でも一方で、ねね以外の三人はそんな幻をまるで見聞きしていないように笑っていて、五人目がいなくても楽しく一日を過ごしてしまうのです。
ねねはそのことが悲しくてたまりませんでした。
「ねえフレアさんは?」
朝食を取り終えたねねはぼたんに尋ねます。
「寝てる」
「えー、だらしないなあ。ねねが起こしてあげるよ」
「止めときなよねねち」
フレアの部屋に向かおうとするねねをポルカが止めました。
「師匠とノエル、るしあはまだ寝かせといてあげな」
「なんでだよー」
「昨夜から早朝までずっと白銀聖騎士団の野営地で飲み明かしてたらしい。ノエルも表面上は元気そうだったけど結構落ち込んでるみたいだったし、きっとみんなで慰めてたんだよ」
「あ、そうなんだ」
ポルカの話を聞いて、ねねは素直に引き下がります。
「えー、ずるいー」
しかし今度はラミィが駄々をこね始めました。
「なんでだよ」
「だってだって、みんなでずっとお酒飲んでだってことでしょ? ラミィも混ぜてくれればよかったのに」
「良く言うよ、ラミちゃんはラミちゃんで一人晩酌楽しんでたくせに」
そばで三人の会話を黙って聞いていたぼたんがボソッと言います。
「な、なんで知ってるの? ししろん」
「カマかけただけだよ、そうじゃないかって。かわいいなあラミちゃんは」
からから笑いだすぼたんに「ああああ」と呻きながらラミィが頭を抱えます。
ポルカも会話にこそ入っていないもののそんな二人を面白そうに眺めています。
「……」
ねねは一人だけが蚊帳の外のような気持になって、部屋を出ました。
◇ ◇ ◇
「ねーねちゃん」
ねねが庭で仰向けになってボケーっと空を見上げていた時です。
ねねの視界にラミィが入ってきました。
「元気ないよ、ねねちゃん。またあの夢見たの?」
尋ねるラミィにねねは「うん」と頷きます。
「早くレジェンドソーセージ集めて見つけてあげようね」
隣に腰を下ろして元気づけるラミィに、また「うん」とだけ返します。
「なんかさ、いつもあの夢見たあとのねねちゃんって静かだけど、今日はさらに輪をかけて大人しいよ? なにか拾って食べたの?」
「食べてないよ!」
ねねは上体を起こしました。
「ちょっと考え事してただけじゃん! ひどいよラミィ!」
「五人目のこと?」
「それもだけど、あのはあちゃまってやつのことも」
ねねはまた仰向けになります。
「レジェンド所有者からスキルを奪い取っちゃうのはひどいけどさ、でもそれははあとを助けるためだって言ってたじゃん。もしはあとが元気になってくれるのなら、ねねはあいつのしてることが悪いことなのかどうかわからなくなってくる」
「そうだね」
ラミィもねねの隣で寝転びだします。
「でもラミィは、本当にあいつがはあとさんを助けるつもりなのかどうか怪しいとも思ってるよ。なんかよくわかんないけど、毒々しいオーラ出してるもん」
「なんだよオーラって、来たよラミィの中二病」
「ねねちゃんにだけは言われたくないんですけど」
ねねとラミィは軽口をたたき合います。
しかし唐突にねねが「あー!」と大声を出して、また勢いよく上体を起こしました。
「え、なに? びっくりするじゃん」
胸元に手を当てながらラミィも起き上がります。
「スキルを取られちゃったレジェンドソーセージのフォークって、なんか黒ずんでもう使えなくなってたよね! それってさ、もうねねがレジェンドソーセージのフォーク全部集めても願いが叶わなくなっちゃったのかな!」
「あー、どうなんだろうね」
ラミィは少し考えます。
「でも、全部同時に使うとかじゃなくて集めればいいってことだから、たぶん大丈夫なんじゃない? とりあえず全部集める方針でいこうよ」
「そうだね」
ねねはころりと笑いました。
「ねねちゃんって本当単純だよね」
「あ? なんだ? ねねのことバカにしてんのか?」
「そうじゃなくて、うらやましいなって」
「バカにしてんじゃん!」
ねねは叫んでラミィを押し倒そうとします。
ラミィは笑いながらそれをかわします。
二人はしばらくそうやって戯れました。
◇ ◇ ◇
「あ、おはよー」
さらに翌日の朝、スバルとるしあが朝食をとるためにダイニングに向かうと、そこにはノエルがすでに席について食事をしていました。
「シュバ」
(おう)
「おはようございます」
スバルとるしあもノエルに挨拶を返してから、まるで我が家のようにキッチンで食べ物を探して朝食をとり出します。
「いや、昨日はご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません」
向かいの席に着いたスバルとるしあに、ノエルはテーブルに手をついて謝ります。
「本当ですよ、すごくびっくりしたんですから」
そんな彼女にるしあはため息をつきました。
それは昨日の昼、ちょうどねねとラミィが庭から戻ってきた頃でした。
その時ノエル、フレア、るしあは前日飲み明かし酔っぱらい帰った勢いのまま一つの部屋で揃って熟睡していました。
しかしそんなるしあをスバルが頭を突いて乱暴に起こしたのです。
るしあが仕方なく起きてみると、スバルがシュバシュバ言いながらノエルの周りを飛び跳ねます。
一体なんだと思ってノエルを見たるしあは、思わず息が止まりそうになりました。
塞がっていたはずの傷口が開き、腹部のところに血をにじませながらノエルが苦しそうに呻いていたのです。
それからはとにかく大騒ぎでした。
るしあがフレアを叩き起こし、目を覚ましたフレアが屋敷にいる皆にいろいろと指図しながらノエルの看病にあたりました。
そうしてどうにか事なきを得て、皆が肩をなでおろしたのは夕方過ぎになってからでした。
「まったく。フレアさんの言葉覚えていますか? 『あともう少し気付くのが遅ければ本当に危ないところだった』ですよ? お腹刺されたのを見てもさして深刻そうな顔をしていなかったのに、あの時はすごく怖い顔してましたよね? 本当に何やってるんですか」
「いやあ、たははは。るしあは厳しいですねえ。もうすっかり治ったと思って羽目を外しすぎたと言いますか、面目ないです」
「笑い事じゃないですって」
「まあまあ、だからこうして今はソセレ合金防具を外してますし、数日間は鍛錬も控えて大人しくしてますよ。団員たちをこれ以上心配させるわけにはいかないですからね」
「そうしてください」
言ってからるしあは朝食のパンを口に運びます。それから「そういえば」とまたノエルに話しかけます。
「団員さんたちが見当たりませんね。昨日も外のテントで野営してたみたいなのに」
「ああ、さすがに帰ってもらいました。つい先ほどです。白銀騎士団は上位ランカーの末席を預からせてもらっているチームですので、いろいろと処理しなければならないことが溜まっているのです」
「シュバ、シュババシュバルシュババアシュバ」
(いや、だからトップランカーだろ)
「というわけで、団長も一刻も早く身体を完治させて彼らと合流しなくてはいけないのです」
そう言ってノエルは牛丼をがっつきます。
「あ、おはようございマス」
「おはよう」
そうこうしているうちにキアラとフレアがやってきて、さらにホロファイブの四人も起きてきます。
広々としたダイニングが急に狭く感じます。
「あ、そうだスバル先輩」
「シュバ?」
(ん?)
牛丼を食べ終えたノエルが、ふと何かを思い出したようにスバルに話しかけました。
「そういえば団長、この館へ向かう道中たまたまルーナに会ったのですが、彼女スバル先輩のことをとても心配していましたよ」
「シュバルババシュバルバシュバルバシュバ」
(懐かしい名前が出てきたな)
「誰なんですか、その人」
るしあがジト目で膝元のスバルを見下ろします。
「シュババシュバルバシュバ」
(ただの知り合いだよ)
「団長とスバル先輩共通の友人です」
るしあはスバルに尋ねたのですが、ノエルは自分に聞かれたと思ったのでしょう答えだします。
「立派なお城のお姫様ですが剣士でもあり、今はチームを結成してチームリーダーもしているそうです」
「へえ、素敵ですね」
るしあは顔を引きつらせながら心にもない誉め言葉を口にします。
しかしそんなるしあの内心に気づけないノエルは「はい」と、まるで自分のことのように自慢げに頷きました。
「容姿はもちろん美しく可愛らしいのですが、それに加えピアノの腕が素晴らしく、骨抜きにされた殿方からの求婚が絶えないのだとか」
「へええ」
「まあ本人からすればまだ結婚のことなど考えたくもないようで、随分と迷惑がっていましたが。『お気に入りのスバルちゃ先輩で遊べなくなるのが嫌なのらー』だそうですよ?」
「シュバ! シュバババ! シュバア! シュバア、シュバルバシュバ!」
(いて! いててて! いてえ! るしあ、つねるなシュバ!)
「スバル先輩、随分と気に入られているのですね」
「ええそれはもう、団長だってルーナとは七年ぶりの再会だというのに『もう五年間もスバルちゃ先輩と会ってないのら』とか『毎年会いに来てくれるって言ってたのにひどいのら』とか、スバル先輩のことばかい話されて」
「しゅ、シュバル! シュバルバ! シュバルバシュバシュバルバ!」
(ノ、ノエル! 喋るな! おまえはもう喋るな!)
「ノエル、もうルーナのことはいいじゃないか」
スバルを哀れに思ったフレアが止めてやります。
「しかし話を聞く限り随分と心配されているようだな。どうせここにいてもやることなんてないだろ、会いに行ってやればどうだ大空スバル」
尋ねるフレアに、スバルはちらりとるしあを見上げました。
「行きましょう!」
るしあが意気込みだします。
「行ってどれほどのものか見せてもらいましょう!」
鼻息を荒らげるるしあに押し切られるようにして、スバルはこくこくと首肯しました。
「そうですか」
するとノエルも頷きます。
「では後ほど団長がルーナ宛に手紙を書いてあげます。いくらスバル先輩でもそのお姿では門前払いされてしまうかもしれませんので、身分証明書代わりに持っていってください」
ノエルがそう言った時でした。
「ねねも行く!」
ねねが真っ直ぐに挙手しました。
「ねねもお姫様見てみたい!」
「ああ行け行け、ホロファイブはみんな行ってしまえ」
蚊を払うような手ぶりをしながらフレアが言いました。
「なんですかその言い方ー」
「まあ言われなくてもついて行くんだけどさ」
ラミィとぼたんがそれぞれ口にしてから顔を見合わせ笑います。
ポルカも「当然!」と言ってそこに加わります。
「よし決定!」
ねねは腰に手を当てて満足げに頷きました。
「まあ、それはそうとしてさ」
ねねはくるりとノエルの方を向いて「ねえノエル」と呼びかけます。
「ん?」
「そのお姫様も、もしかしてレジェンド所有者?」
「え? たはは、違います違います」
ノエルは顔の前で手を振りながら笑いました。
「会った時は中級剣士でしたし、今も多分そうだと思いますよ」
「下級から中級に比べ、中級から上級への昇級は難しいデスからね」
キアラが納得したように頷きます。
「なーんだ、中級か」
ねねがつまらなさそうに呟きました。
「ねねち、おまえ自分が下級なのを棚上げしてその言い方はないと思うぞ」
ポルカがボソッとたしなめます。
「ち、違うよ! そういう意味じゃなくてさ! ほら! レジェンドソーセージ持っているかいないかってねねたちにとってすごく重要じゃん! おまるんはなんでいつもそうやってねねの上げ足取るの!」
「ん? どういう意味だ?」
朝食のパンをちぎって口に運ぼうとしていたフレアがその手を止めて、ねねに聞き返します。
「だからフレアさんまでやめてよ、ねねは別にバカにしてたとかそういう意味で言ったわけじゃ」
「そうじゃない」
フレアはパンを置いてからホロファイブの面々を見回します。
「おまえたち、まさかまだレジェンドソーセージを集めようとしているのか? 願いを叶えるためにとかなんとか」
「そうだよ」
ねねが答えます。
するとフレアはポルカの方を向いて「おいポルカ」と呼びかけます。
「おまえまだ教えてないのか?」
「え、あ、うん、まあ、……はい」
ポルカが気まずそうに眼を逸らします。
「言い出しにくい気持ちはわかるが、そういうのは早いうちにどうにかしておかないと後々まで尾を引くぞ」
言ってからフレアはため息をつきました。
「なになに? どーしたの? フレアさん、おまるんが何かしでかした?」
自分をたしなめた直後に当のポルカがフレアから説教されているのを見て、ねねは「ざまあみろ」と言いたげに顔をニヤつかせながら茶々を入れます。
「まあ確かに、あまりに親しすぎると無理なのかもしれないな」
フレアはそんなねねを見てから独り言のように言いました。
「おいホロファイブのクソガキども、今からあたしが大事なことを教えてやるから一旦食べる手を止めろ」
フレアが言うと、ねねとラミィ、ぼたんは顔を見合わせてから素直に食事を中断します。
ポルカはさっきからずっと目を逸らしっぱなしです。
「実はな、おまえたちが五人目のチームメンバーを見つけるためにレジェンドソーセージを集めているということ、そしてそのためのレジェンドソーセージ探しに協力してほしいという頼みを、あたしはポルカから聞いていた。まあ正直あたしとしてはかわいい弟子の頼みでもあるしあたしの知ってる情報くらい教えてやってもよかったんだが、その目的が気にかかった」
「目的?」
ねねが首を傾げます。
「そう、目的さ」
フレアはねねに向き合いました。
「どこのどいつだ、レジェンドソーセージを全て集めれば願いが叶うなんて適当なことを吹き込んだのは。そんなわけがないだろう」
そしてはっきりとそう口にしました。
スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。