勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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「だいふく! ラミィのフォークを出しなさい!」

 

 ラミィの言葉に従い、だいふくがフォークを取り出します。

 それはレジェンドソーセージの虹色フォークでした。

 ラミィは投げ渡されるフォークを掴み取ってからブン! と振るいます。

 すると、フォークの先に異様なソーセージが現れました。

 

 ソーセージの長さは平均的な120センチなのですが、フォークが刺さっている部分にソーセージの肉がありません。代わりにソーセージの上半身、半分に引きちぎられたような断片部分から生々しい骨が突き出しており、フォークはその骨を貫いてソーセージを持っています。

 その異様な形に加え、そのソーセージは骨の部分から周囲の熱を吸い取っているかのような不気味な冷気を放っています。

 少し離れたところで二人を見守っているスバルたちにまでその冷気は届き、背筋をぞくりとさせられました。

 

「なんだよ、それ」

 

 ねねが声を震わせながらラミィが持つソーセージを指さします。

 

「スケルトンソーセージ、『執着』のスキルを持つレジェンドソーセージだよ」

 

「違う! そうじゃないだろ!」

 

 ねねは首を振ります。

 

「なんでラミィがレジェンドソーセージを持ってるのかって聞いてるんだよ!」

 

 彼女はブン! と剣を横に振るって怒鳴りました。

 

「いったいいつから!」

 

「ずっとだよ」

 

 ラミィは平然と答えます。

 

「ねねちゃんと出会うよりずっと前から、ラミィはこのスケルトンソーセージの所有者だったんだよ。ごめんね黙ってて」

 

 それを聞いたねねは頭上から殴られたようにガクンと俯きました。

 それから「ふふ、ふふふふ」と笑いだします。

 少ししてぴたりと笑いが止んだと思ったら袖で目元を拭いだし、顔を上げてキッとラミィを睨みつけました。

 

「どこまで、どこまでおまえはねねをバカにしてるんだ!」

 

 ねねはラミィに突っ込みランドイェーガーを振り下ろします。

 しかしラミィはそれをひょいと横に避けてから、飛び込んできたねねの左足を足で引っ掛けて転ばせます。

 勢いづいていたねねはその分盛大に地面を転がりました。

 

「勢いと腕の力だけでソーセージを振るってるからそんなふうに簡単に転ぶんだよ、もっと足腰を使ったら?」

 

「うるさい! 敵の言葉なんか聞く耳持たん!」

 

 ねねは起き上がり再び剣を振るいます。

 ラミィはその一振りをいなすようにスケルトンソーセージで受け流しました。

 

「剣の振るい方もダメ。振るう直前の動作がまる見えでどう斬り込んでくるのか手に取るようにわかる上、大振りばかりする。だから中級に上がれないんだよ。もしもラミィがカウンターを狙ったら即死もありえるってこといい加減自覚したら?」

 

「おのれえ! おまるんみたいなことを口走るな!」

 

 ねねがぶん! ぶん! と必死に剣を振るいますが、ラミィは涼しい顔でそれらをことごとくかわします。

 

「ラミちゃん」

 

 そんなラミィにぼたんが話しかけました。

 

「ラミちゃんがレジェンド所有者だったこととか、レジェンドソーセージを全て集めたら願いが叶うって話がでたらめだったとか、そういうことで私はラミちゃんを責め立てようとは思わないよ。私の分までねねちゃんが怒ってくれてるし、ラミちゃんがたまに一人で難しそうな顔してるの見てさ、『私たちに何か隠してるんだろうな』とは思ってたから」

 

 そこまで言ってから「でもさ」とぼたんは続けます。

 

「理由くらいは私らに教えてくれてもいいんじゃないかな。どうしてすでにレジェンド所有者のラミちゃんが、嘘をついてまでレジェンドソーセージを探しているのか。まだラミちゃんが私らのことを仲間だと思ってくれているのならさ」

 

 ぼたんの言葉にラミィは目を伏せます。

 そしてねねの一刀を弾いてから、

 

「ラミィのチームのためだよ」

 

 と答えました。

 

「おまるんがいろいろ兼任してるみたいに、ラミィもチームを兼任してるの。ラミィはチーム・ホロファイブのメンバーである以前に、『雪民』もしくは裏社会で『雪花会』と呼ばれてるチームのリーダーなんだ」

 

 ラミィはねねの剣をいなしながら続けます。

 

「雪花会は桐生会っていう組と犬猿の仲でさ、昔から幾度となく戦ってきた。だけどここ最近どうも雲行きが怪しくてね、近々今までにないとても大きな戦いが起こりそうな気配なの」

 

「その桐生会っていうのは強いのか?」

 

 尋ねるポルカに「強いわ」とラミィが答えます。

 

「対してラミィのチーム・雪花会は初手に土下座をうつようなか弱きチームメンバーの集まり、これまでは小競り合いだったからどうにか桐生会と張り合ってこれたけど、チーム総出でぶつかり合うようなことになればラミィたち雪花会はひとたまりもないわ。だからラミィが雪民みんなを守れるくらい強くならなくちゃいけないの。ラミィはスケルトンソーセージの『執着』みたいに自分自身の防御力を向上させるスキルじゃなくて、ライトニングウィンナーの『神の怒り』やマグマ・ホットドッグの『断末魔』みたいに攻撃力にバフをかけるスキルのレジェンドソーセージを所有しなくちゃいけないんだよ」

 

 ライトニングウィンナーと聞いて、るしあは慌ててスバルを抱きかかえてからラミィに背を向けました。

 

「どうにかして攻撃スキルのレジェンドソーセージを手に入れなくちゃいけないって頭抱えてた時だよ、ねねちゃんがホロファイブのチームメンバーに誘ってくれたのは。ねねちゃんは『夢で出会ったメンバーだから信じる』とか言って、ラミィの作り話を簡単に鵜吞みにしてさ。あんまりにも上手く行き過ぎたからラミィ本当にびっくりしたよ」

 

「この、ぬけぬけと!」

 

「悔しい? はん、だったらラミィを倒せるくらい強くなりなよねねちゃん」

 

 ラミィは一刀二刀とねねの攻撃を受け止めます。

 ただただ受け止めます。

 反撃しようと思えば簡単にできそうなものなのに、決して剣を振るいません。

 ねねが転んでしまった時も、べらべらと喋りかけて挑発しながら起き上がるのを待っています。

 そんな手心はもちろんねねにも伝わっていました。

 

「くっそお」

 

 ねねは屈辱に歯を噛み締めます。

 ラミィに向かって飛び掛かりまた一刀二刀と振るいます。

 全く呼吸を乱していないラミィに対して、ねねはすでに肩で息をしています。

 実力の差は歴然、もうすぐねねが力尽きて勝敗が決する、皆が皆口には出さないもののそう思いながら二人の戦いを見守ります。

 

「んん?」

 

 そんな時、るしあはあることに気づいて眉を顰めました。

 

「スバル先輩」

 

「シュバ」

(ん?)

 

「もしかしてなのですがラミィの手、震えてませんか?」

 

「シュバルバ。シュバルババシュバシュバル」

(そうだな。スバルにもそう見える)

 

 るしあとスバルが言うように、スケルトンソーセージを持つラミィの手が確かに震えています。

 

「ラミィ、大丈夫なのでしょうか」

 

 るしあは心配そうな顔になります。

 

「いつもお酒ばかり飲んでますし、あれってもしかしてアルコール中毒の禁断症状か何かなのでは?」

 

 これはスバルにではなく、いつもラミィと一緒にいるポルカとぼたんに向けて聞いたものでした。

 しかし二人は黙ってねねとラミィの戦いを見守り、るしあの問いかけを聞き流します。

 

「へーえ、二人とも無視ですか? るしあを無視ときますか、へええ」

 

 けっ、とるしあは吐き捨てました。

 

 一方、ねねとラミィの戦いは意外な展開を見せ始めました。

 ねねがラミィを押し始めたのです。

 

 ラミィの手の震えは剣を小刻みに揺らすほど強くなり、ラミィは片手剣を両手で持ち直しますがそれでも剣先の震えは止まりません。

 そこにねねが一撃二撃と力任せの攻撃を打ち込んでくるのですから、震える手の握力で受け止めるラミィはたまったもんじゃありません。

 それでも彼女は頑なに反撃しようとせず三合四合と剣を合わせにいくのですから、剣と剣がぶつかり合うたびにズズ、ズズ、ズズズと、手から剣が滑って引っこ抜けそうになります。

 

「うりゃあ!」

 

 そして、気合のかけ声とともにねねが逆袈裟に斬り上げた時です。

 

「くぅっ!」

 

 その鋭い一撃を受け止めたラミィの手が、とうとう耐えきれずにスケルトンソーセージのフォークを手放しました。

 持ち主を失ったスケルトンソーセージは中空に放り出され、陽の光を浴びながらソーセージを焼失し、虹色のフォークだけが残ります。

 

「ラミィ!」

 

 ねねは斬り終えた勢いのままラミィに体当たりし、彼女を押し倒しました。

 そしてそのまま馬乗りになって押さえつけます。

 

「覚悟はできてるだろうな、ラミィ!」

 

 ねねは至近距離で怒鳴りました。

 

「ふん、いいよ」

 

 ラミィは両手をねねの足で固定されてしまっているため、全く身動きができません。

 にもかかわらず平然としています。

 

「殺せば? そしたらラミィのスケルトンソーセージ、ねねちゃんにあげるよ。よわよわのねねちゃんもめでたくレジェンド所有者、肩書だけは一人前になるんじゃない?」

 

 そう言って彼女は鼻で笑いました。

 

「なにがおかしいんだ?」

 

 ねねは声を震わせます。

 

「なにを笑ってるんだ!」

 

 怒鳴ってから、ねねは右膝隣の地面にランドイェーガーを突き立てました。

 そしてフォークを手放します。

 直後ねねのソーセージは消え、地面にからんからんと乾いた音を立ててフォークが転がります。

 

「ラミィ!」

 

 大声を張り上げて、ねねはラミィを殴りつけました。

 ガツン! と鈍い音がします。

 しかしラミィは表情を少しも変えず静かにねねを見返します。

 ねねは「くっ!」と呻いてからまた拳を振りかざします。

 しかし、今度はなかなか振り下ろしません。

 握り込んだ手を自分の顔の横で止めながら、小刻みに震えだします。

 

「いつもいつも、ねねを笑ってたのか?」

 

 呟くように言いながら、ねねの目に涙が溜まりはじめます。

 

「笑ってたのか、何も気づけないねねのこと! バカなねねを見て楽しかったか!」

 

 ラミィに怒鳴りつけて、ねねは袖で涙をぬぐいました。

 それからラミィに拳を振り下ろそうとします。

 しかし、何かに驚いてまたその手をピタリと止めました。

 

「楽しかったよ」

 

 鼻で笑ったようなラミィの声は、震えていました。

 震えているのは声だけではありません。

 先ほどから起きている手の震えが両腕、さらに顔までせり上がってきて、彼女は堪えきれなくなったように唇を震わせています。

 顔は、表情を押し殺しているのに何度も目を瞬かせて、白く透き通った肌の頬に赤みが混じりはじめています。

 

「すごく、楽しかった」

 

 そう口にしたラミィの頬を、目から溢れた涙が伝います。

 それに気づいたラミィはハッとしたようにねねから顔を逸らしますが、少ししてから我慢できなくなったように嗚咽をもらしだし、泣いているのか笑っているのかわからない自重するような笑みを浮かべます。

 

「ねねちゃんやみんなと一緒に冒険できて、毎日がとても楽しかったよ。雪民のみんなと一緒にいる時みたいに暖かかったよ。でも、ねねちゃんバカだからラミィの嘘に全然気づいてくれないんだもん。ラミィだって、苦しかったよ」

 

 ラミィは空を見上げます。

 

「いつからだろう、もうレジェンドソーセージ探しとかどうでもよくなって、みんなと一緒にいることが楽しくなっちゃったのは」

 

 独り言のようにラミィは語りはじめました。

 

「ラミィは最低なんだよ。雪民のために一刻も早く攻撃スキルのレジェンドソーセージを手に入れなくちゃいけないのに、いざライトニングウィンナーやマグマ・ホットドッグの所有者が目の前に現れても見て見ぬふりをしたんだから。バカみたいだよ、それをラミィが手に入れようとしたらラミィの企んでたことが知られちゃう、そしたら今の関係が終わっちゃう、そんなことばかり考えてたんだ自分のチームを持ってるラミィが。ねねちゃんたちと一緒にいるのが居心地良すぎて、どっぷり沼にはまり込んじゃってた。雪民のみんながラミィを信じて待ってるのに、レジェンド探しとか桐生会の抗争のこととか全部なあなあの先延ばしにしてずっとこのままでいたいって思っちゃってたんだ。こんなラミィなんて本当に最低のチームリーダーだよ。ねえねねちゃん、ねねちゃんだったらラミィ恨んだりしないからさ、いっそのことラミィを殺してよ」

 

 話を聞きながら、ねねは目を強く瞑ります。

 ラミィを殴りつけようとした握り拳は、その目的を失ってしまったかのようにただ震えています。

 

「ねねち」

 

 そんなねねの拳に、側にやってきたポルカが手を重ねました。

 

「もうやめようねねち、ラミィも」

 

 そうポルカが言葉をかけると、ねねは誰かが止めてくれるのを待っていたかのように素直にラミィから退きました。

 しかしラミィは起き上がりません。

 ポルカはラミィの手を掴んで無理やり上体を起こしました。

起き上がった後も、ラミィはポルカにそっぽを向いて目を合わせようとしません。

 しかしポルカは「ラミィの事情は分かったよ」と構わず話しかけます。

 

「ラミィはチームリーダーとして、雪民のためにいろいろ背負い込みすぎてたんだな。それなのに、はじめから強いレジェンドソーセージを手に入れるって下心でホロファイブに加入しちゃったから、誰にも気持ちを打ち明けられずにずっとつらい思いを抱えてきたんだよな」

 

 ポルカが慰めると、ラミィは顔を逸らしたままぶわっと両目に涙をためて、ぽろぽろとこぼしながら何度も頷きました。

 ポルカは「だよな」と呟いてから、そんな彼女の頭を撫でてあげます。

 

「でももういいよ、もうよくわかったからさ。桐生会だか何だか知らねえけど、そいつらとの抗争なんか起きたらさ、その時こそこのホロファイブのメンバーで雪花会に加勢してぶちのめしてやるよ。だってポルカたちには、いざという時なんとかしてくれるししろぼたんがついてるんだぜ」

 

 言ってから「な?」と、ポルカは後ろにいるぼたんを振り返ります。

 ぼたんは「なんでもは無理だけどさ」と苦笑してから、

 

「まあ、そのくらいならお安い御用だよ」

 

 と、その苦笑を不敵な笑みにかえて答えました。

 

「ねねもさ」

 

 次にポルカはねねに話しかけます。

 ねねはいじけた子供のようにずっと足元を見つめています。

 

「ねねの言ってる五人目さ、ねねだけの妄想とかじゃなくて実はポルカもたまに同じような夢を見るんだ」

 

 ポルカの言葉にねねは顔を上げます。

 ポルカは続けます。

 

「ポルカとねね、ししろん、ラミィ、それから五人目、その五人で一緒に冒険してみんなで歌いながら広い野原を歩く夢さ。それに多分、そんな夢を見てるのはポルカだけじゃないと思う。ししろんも、ラミィも見てるはずさ。そうじゃなかったら、初対面の下級剣士から突然チームメンバーに誘われても加入なんかするわけないじゃん」

 

 振り返り「なあ、そうだろ二人とも」と、ポルカはぼたんとラミィに問いかけます。

 ぼたんもラミィもそれにこくりと頷きました。

 ポルカはねねに向き直ってから「妄想なんかじゃないんだねね」ともう一度言います。

 

「きっといるんだよ五人目は、このホロ・デ・ソーセージ大陸のどこかに。そしてポルカたちを待ってるんだ、いつか五人一緒に冒険するその日を夢みながら」

 

 ねねはポルカを無言で見つめます。

 ポルカはそんなねねに「行こうぜねね」と手を差し出しました。

 

「五人目を捜しに、このメンバーでさ。レジェンドソーセージ集めだとか願いが叶うだとかそんなくっだらねえこと忘れて、大陸中を捜し回ってやろうぜ。きっと五人目もどこかの酒場に毎日通って待ってるよ、ねねがポルカたちを誘ったみたいにメンバー加入の勧誘してくるのをさ」

 

 さあ、とポルカはさらに手を伸ばします。

 ねねはその手をちらりと見ました。

 しかし手を取ろうとはせず視線を上げます。

 ねねの視界が大空で満たされます。

 青くどこまでも澄んだ大空です。

 ねねはその空を見上げながら、小さく口を開きました。

 

「……ららいおん、ららいおん」

 

「「「「ねーねをがぶがぶ、ららいおん」」」」

 

 それからねねは顔を俯かせ、そこに右腕を押し付けたまましばらく立ち続けました。

 

 




 スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
 あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。
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