勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
ぼたん、ポルカ、ラミィが言い争う中、キアラは黙ってフェニックスから降りました。
キアラははあちゃまの方を真っすぐに見ます。
それから息を吸い込みます。
「フェニックス!」
彼女は大声でフェニックスに呼びかけました。
その声で、言い争いをしていた三人は水を打ったように静かになり、今さらのようにキアラがフェニックスの上にいないことに気が付きます。
「キアラ!」
「なんで降りてるんですか!」
「早く戻ってこい!」
それぞれキアラに呼びかけますが、キアラは聞こえていないかのように答えません。
それなのに自分は「フェニックス!」と、もう一度フェニックスに呼びかけます。
フェニックスがキアラの方へ向き、指示を待つように顎を下げます。
するとキアラは一切フェニックスの方を見ていないのに、まるで背中に目がついているかのように「よし」と言ってやります。
「フェニックス! アヒージョとして己のすべきこと、わかっているな!」
キアラは大声を上げながらレッグバッグに手を伸ばしフォークを取り出します。
それを振るってチュロスを出しました。
「シュ、シュバア……?」
(キ、キアラ……?)
「全力で走れエ! フェニックス!」
キアラの指示と同時にフェニックスが駆け出します。
「だから行かせないと言うに!」
そんなフェニックスの目前に、はあちゃまがまた剣を振り下ろそうとします。
しかし今度のフェニックスは止まりません。
かまわず走りだします。
「そうさせないためにわたしが残ったのさア!」
フェニックスの首を斬り落とそうとするはあちゃまの一刀をキアラが弾きます。
フェニックスの前方が開きました。
「ハートン! 止めなさい!」
はあちゃまがハートンに命令し、ハートンたちは剣を手に取りフェニックスに斬りかかります。
しかし巨体のフェニックスはハートンたちをあしらうように蹴り飛ばし、凄まじい速さで駆けて行きました。
「何してるの! 馬でさっさと追いかけなさいよ!」
はあちゃまが再び命じます。
ハートンたちは急いで馬にまたがり走らせようとしますが、いつの間に移動していたのか、キアラが彼らの行く先に立ち塞がっているため進むことができません。
スバルたちを乗せたフェニックスはどんどん離れていき、はあちゃまから見て豆粒ほどの大きさにまでなります。
「よくもやってくれたわねえ!」
はあちゃまが苛立ちげにキアラへ怒鳴りました。
「おまえの好きにはさせマセン」
キアラははあちゃまに剣を構えます。
「おまえはスバルせんぱいやラミィ達に甘い甘いと言っていたけれど、安心してくれていいデス。わたしはおまえの言う『甘く』はない」
「へえ」
適当に頷くはあちゃまにキアラが続けます。
「昨日の味方が今日の敵など日常茶飯事、不意打ち裏切りあたり前、それがチーム出現以前の時代のホロ・デ・ソーセージ大陸だったそうデス。しかしそうした大陸にとっての前時代は、まさに現時点での我が故郷のありさまそのもの。わたしは理性を持たない獣のような者たちが跋扈する世界で幼少期泥水をすすり生き抜いたうえで、こうしておまえの目の前に立っているのデス。その世界の住人たちに比べればはあちゃま、おまえの非道など児戯にも劣るかわいいもの。おまえがたとえ何をしてこようが、わたしは少しも躊躇うことなくおまえを斬り伏せマショウ」
そこまで言い終えたキアラに、はあちゃまはため息をつきました。
「あなた、さっきから何をぐだぐだとわけのわからないことを言っているの? どうでもいいけれど、あなたのようなレジェンド所有者でもないただの剣士なんて興味のかけらもないし、相手にしたくもないのよ普段の私なら。でもね、私も目の前で自分の獲物をみすみす逃がされて黙っていられるタチじゃないの。ねえ、あなたももちろんそれを分かったうえで、こうしてしんがりを務めているのよね?」
はあちゃまのキアラの周りをハートンが円状に取り囲みます。
「もちろんデス」
キアラが答えた直後でした。
はあちゃまが地面を蹴って大きく跳び上がり、着地と同時にキアラに向かって剣を振り下ろします。
キアラはそれを横に避けました。
一方はあちゃまはキアラの避ける先を読んでいたかのように、地面に接しようとするクリスタルサビロイを大きくしならせ曲がらせて、彼女の身体を突き刺そうとします。
しかし、キアラは何でもないかのようにそれをチュロスで弾き返しました。
「なかなかやるじゃない」
意外そうな顔ではあちゃまが話しかけます。
「当然デス」
キアラは答えました。
「これまでおまえの戦いを見てきたのデスから、おまえが一癖二癖ある戦い方をしてくることなど重々承知デス。おまえは、単調そうな攻撃や大振りをした直後こそ一番警戒しなければならない相手なのデス」
言ってから今度はキアラが攻めます。
クリスタルサビロイと比べれば短いものの、チュロスもリーチの長さが特徴のソーセージです。
そのため攻撃方法もしなりを活かしたものが中心となります。
「なるほど、剣の腕に加え戦い方が似ているから私の狙っていることも読みやすいってわけね」
はあちゃまが納得したように言います。
「だけど、それは私にも全く同じことが当てはまる。それが何を意味するのかわかる? 似た戦い方の者同士が剣を交えれば、それぞれの実力差とソーセージの質の差がはっきりと戦況に反映されるということよ」
そして、それはすぐに表れはじめました。
はあちゃまの剣速が一段階上がり、剣のしなりもさらに鋭さを増したのです。
加えて、短い戦闘のなかでキアラの癖か何かを見切ったのでしょう、キアラの仕掛けるフェイントに全く引っかからなくなります。
つまり、全てにおいてはあちゃまがキアラの一枚上手である戦況となったのです。
「このっ!」
キアラは横なぎに剣を大振りします。
はあちゃまはそれをしゃがんで避けてから、わざと反撃はせずに後ろへ跳びました。
「何をボケっと突っ立っているのハートン!」
そして周囲のハートンに怒鳴ります。
「ここに残るのなんて二、三人で十分よ! 早く大空スバルを追いなさい!」
はあちゃまにどやされたハートンたちが慌てて馬に跨ります。
「行かせるかア!」
しかし、キアラが馬を走らせようとするハートンたちの前にチュロスを振るいました。
すると興奮した馬が「ひひん! ひひーん!」といななき暴れ出し、騎乗していたハートンたちを振り落としました。
「あなたもしつこいわね」
はあちゃまは呆れたようにため息をつきます。
「もういいわ、今なら見逃してあげるからさっさと消えなさい。このまま邪魔されると本当に大空スバルたちを逃がしてしまうわ」
「そうはいきマセン」
「はあ。せっかく見逃してあげるって言ってるのに、よほど命がいらないか実力差を理解できていないのか。ああそれともスバ友は大空スバルと一緒でトリ頭のバカどもだから、言語の方を理解できていないのかしらね」
小バカにするはあちゃまに、キアラは「ふっ」と含み笑いをもらします。
「何がおかしいのかしら?」
問いかけるはあちゃまに、キアラは「おまえはわたしたちのことを何もわかっていないのデスね」と返しました。
「なんですって?」
はあちゃまが眉を顰めます。
「しょーし!」
キアラが声を張り上げました。
「我らスバ友正統派であるアヒージョがスバルせんぱいに捧げる愛は自己欲にまみれた愛ならず、己が命を捧げる献身愛! スバルせんぱいのためならば、たとえ死地だろうと前に出る! それがアヒージョの愛! それがアヒージョの誇り! 己が身惜しさで逃げ出す者に、アヒージョを名乗る資格はない!」
「よくわからないけど、あなたが死にたがってることだけは十分わかったわ」
はあちゃまが距離を詰めます。
彼女はクリスタルサビロイの高速連撃をキアラに放ちます。
一方キアラは受けることに集中することでその猛攻を防ぎます。
ガガガガガ! と何か硬い物を削り取っているような音が響きます。
はあちゃまの勢いは止まりません。
むしろ徐々に増していきます。
キアラは額に汗をにじませながら一歩、また一歩と後退していきます。
「ふん!」
するといきなり、はあちゃまがキアラの剣を弾いてから体当たりしてきました。
不意を突かれたキアラは勢いよく飛ばされてしまいます。
そしてドン! と、彼女は自分たちを囲っていたハートンの一人に衝突しました。
おかげでキアラはすぐに剣を構えなおすことができましたがそのハートンは打ちどころが悪かったようで、尻もちをついたまま顔を両手で押さえています。
そんなタイミングで、はあちゃまが勢いつけて剣を振り下ろしてきました。
その一刀は見るからに大振り、普通ならば横に避けたあとで反撃の好機なのかどうかを見極めたいところですが、運の悪いことにキアラの背後には無防備のハートンがいます。
今キアラが避けてしまうと後ろのハートンが真っ二つになってしまうのです。
そのためキアラは顔の前に剣を構えて受け止める選択をしました。
彼女はすぐに訪れるでしょう衝撃に備え強くフォークを握り込みます。
「……」
しかしその衝撃はやってきませんでした。
代わりに、腹部に鋭い熱が走ります。
その熱は一瞬で収まり、入れ替わるようにじわじわと痛みが込みあがってきます。
キアラがその箇所に目を向けると、クリスタルサビロイの先端が彼女の腹部左側面に突き刺さっているのでした。
傷口から滴る血液が、キアラの腹部やクリスタルサビロイの剣身を伝ってきらめきながら、ぽたぽたと地に落ちて乾いた土を黒く染めます。
「くっ、うっ!」
キアラは堪えきれずに片足をつきました。
先ほど、はあちゃまは剣を振り下ろしながら大きくクリスタルサビロイをしならせたのでした。
クリスタルサビロイはまるで生きた蛇が飛びかかるような鋭い動きでキアラの腹部を貫いたのです。
はあちゃまがキアラに刺さった剣を抜き取ります。
ふきだす血を押さえるためにキアラは手を当てました。
しかしそんなキアラをはあちゃまのクリスタルサビロイが容赦なく襲い掛かります。
「……ッ!」
はあちゃまの大きく振るう一撃が、キアラの頭部を強打します。
キアラは勢いよく弾き飛ばされます。
二転三転と身体を地面にぶつけます。
その転がる最中、運が悪いことにソーセージが地面に突き刺さってしまいます。
そのおかげで止まることができたものの、キアラの右腕に急停止した衝撃が襲い掛かります。
常日頃であればその程度の衝撃なんともないキアラですが、なぜか今は上手く剣を握り込むことができずフォークを手放してしまいます。
直後、チョリソーが消えてフォークだけになり地面に落ちました。
「ふふふふ」
すぐそばではあちゃまの笑い声がします。
「自分は他とは違うみたいなことを言っていたから試してみようと思ったのだけれど、とんだ期待外れね。何も変わらないじゃない」
おのれ、と声なき声の唸りをあげてキアラはフォークに手を伸ばそうとします。
しかしその動きは自分が思っているよりもひどく緩慢で、はあちゃまに意図を気づかれフォークは遠くへ蹴り飛ばされてしまいます。
ふとここで、キアラは自分の身体がおかしいことに気づきました。
刺された箇所が悪かったのか出血が多すぎるのか、それとも他に何か原因があるのかわかりませんが、動きが鈍く頭も呆としてしまうのです。
それに気づいてしまうと、頭部がいやに重く感じてぐらぐらとふらついてしまいます。
せっかく立ち上がろうと四つん這いになったのに、まるでハイハイしだしたばかりの赤子のように何もないところで倒れてしまいます。
『キアラ』
そんな彼女を今度は幻聴が襲います。
「スバル、せんぱい――?」
ただし、その声は愛しき己のチームリーダーのもの。
『『キアラ』』
声はさらに増えていきます。
スバルだけではありません。
スバルをリーダーとして共に集った仲間たち、スバ友たちの声です。
五年前まで共に笑いふざけ合い、この人こそ自分たちのリーダーだとお互いに胸を張り誇り合った、戦友たちの声です。
「みんな――?」
呆とした頭でぽつりと呟いたキアラは、その直後に「ハートン!」と呼びかけるはあちゃまの鋭い声で我に返ります。
夢から醒めたように、スバルとスバ友たちの声は消えていました。
「もう邪魔者はいなくなったわ! 急いで大空スバルを追うわよ!」
みんな!
考えるより先に、キアラの身体が動きました。
先ほどまではひどく緩慢にしか言うことを聞いてくれなかった身体が、手が、反射運動のように勝手に伸びて、歩きだそうとするはあちゃまの足首を掴みました。
「本当に、しつこい」
そんなキアラにはあちゃまが吐き捨てます。
キアラは俯せに倒れながら右手だけ伸ばしはあちゃまの足首を掴んでいる状態で、どうにか顔を上げて彼女を睨みつけました。
「絶対に、行かせない」
「絶対に行かせない? ふん! ソーセージを失ったあなたに何ができるというのかしら!」
そう言いながら、はあちゃまは手を振り解こうとします。
そんなはあちゃまに、キアラは口の端を吊り上げて笑ってみせました。
スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。