勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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勇者スバルと昔の約束
56羽


「シュバア?」

(キアラ?)

 

 唐突に後ろを振り返る膝元のスバルを「スバル先輩?」とるしあが心配そうに見下ろします。

 

「やっぱり今からでも引き返しますか?」

 

 尋ねるるしあにスバルは首を振ります。

 実ははじめフェニックスが走りだしたばかりの時、スバルたちはフェニックスに「戻れ! 戻れ!」と引き返すよう指示を出していました。

 しかしフェニックスはその命令を無視して走り続けました。

 そうしてしばらく経った後、冷静になったスバルたちは今さら騒いでも仕方ないと気づき始め、とにかくキアラの無事を信じてルーナの城へ向かうことにしました。

 

「シュバアバシュバシュバルルバシュバルシュババシュバシュバ」

(キアラがそう簡単に負けるわけがないシュバ)

 

「そうですね」

 

「シュババシュバルルシュバシュバルルシュバルバシュバルルシュバシュバルルシュババシュバルルシュババシュバルシュバシュバル。シュバルルバシュバルバシュバルバシュバルシュバルバシュバシュバル」

(それにスバ友には勝てない相手に対してどう生き延びるかを徹底的に教え込んでいる。適当に時間を稼いで退避してるに決まってる)

 

「るしあもそう思います」

 

 スバルたちを乗せたフェニックスは休まずに直進し続けます。

 

「スバル! ルーナ姫のお城はまだ着かないの?」

 

 ぜえぜえと呼吸を荒らげるフェニックスの横顔を覗き込んだねねが尋ねます。

 

「シュバシュバルルバシュバルバシュババ」

(もうちょっとで着くはずなんだ)

 

「あと少しで着きます! 何度も聞かないでください!」

 

 スバルの代わりにるしあが返しました。

 

 はあちゃまから逃げるためにフェニックスを走らせているスバルたちは、少し前に、このままルーナ姫の城に向かうべきか迂回してフレアの館へ戻るべきかを話し合っていました。

 というのも、はあちゃまはフレアの館に入ることができないからです。

 フレアの館のなかではレジェンドソーセージが使用できません。

 クリスタルサビロイのスキルで動けているはあちゃまは、館内ではそのスキルが発動できないため、一歩でも踏み込めば満足に動くことすらできなくなるそうなのです。

 

 にもかかわらずスバルたちがルーナの城を目指すことにしたのは、はあちゃまに襲われた場所からフレアの館までの距離が遠いからでした。

 加えて、はあちゃまに鉢合わせないように迂回しながら戻るとなるとさらに距離は増しますし、正直迷わずたどり着けるかどうかも怪しくなってきます。

 なにより、ずっと休みも取らず走り続けてくれているフェニックスの体力がそこまで持ってくれるか不安でした。

 

 そうであるならば、このまま直進するだけでいいからはあちゃまに追いつかれることなく走り切ってほしいと思ったのです。

 

「シュババ、シュババ……」

(まだか、まだか……)

 

 実は、ねねよりも誰よりもスバルがルーナの城にたどり着けていないことにもどかしさを覚えていました。

 普段のスバルならむしろこういう場面でこそ落ち着くよう心がけており、また実際にそうでありますが、先程ちくりと胸がつつかれるような感じを覚えて後ろを振り向いた時から、漠然とした不安が頭を離れないのです。

 

「シュバルルバ、シュババシュバシュババシュバルシュバルルババシュバルババ……」

(おかしいな、前に来たときはもっと近かったと思ったのに……)

 

 前に来たときと言っても五年以上も前の頃です。

 スバルの思い出以上に現実の距離はあるようでした。

 

「シュバ」

(くそ)

 

 珍しくスバルがボソッとこぼします。

 

「スバル先輩……」

 

 るしあは抱きかかえるスバルの頭にそっと手を置きました。

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

 結局、フェニックスがルーナの城に到着したのは陽が沈みかけた頃でした。

 白く大きな城で四、五つのピンク色した尖塔が城壁の外から見えます。

 スバルたちがその城門前に着いた時、門番をしていたのでしょう騎士甲冑を着込んだ男たちが門扉を閉めるところでした。

 

「待ってください!」

 

 るしあが彼らを呼び止めます。

 

「なんだ?」

 

 男の一人が手を止めて聞き返しました。

 

「るしあたちは大空スバル一行です。訳あってルーナ姫に匿ってもらいたいのですが、詳しいことは後で話します。とにかくるしあたちを城内に入れて、すぐに門扉を閉め固く施錠してくださいませんか?」

 

「大空スバル一行?」

 

 男は胡散臭げにスバルたちを見回します。

 

「肝心のスバル殿の姿が見られないようだが」

 

「これを」

 

 るしあはノエルから受け取っていた手紙を差し出します。

 

「うむ」

 

 封がなされたその手紙を受け取った男は、しかしなかなか中身を確かめようとはしません。

 少し考えるような間のあとに、「しばしここで待たれよ」と言い置いて城内へ行ってしまおうとします。

 

「どうしてですか、早くなかを確かめてみてくださいよ。偽物なんかじゃないです!」

 

「いや、宛名がノエル殿の筆跡ゆえにこの手紙が本物であることは私にもわかる。しかし、もしもノエル殿から姫への私的な内容であれば私ごときが封を開けて確かめるわけにはいかん。これは一度姫にお渡しし、封を開けて内容を確かめていただいたのち、おまえたちを城内に入れるべきかどうかもうかがってくる」

 

「そんなまだるっこしい! るしあたちは追われてるんですよ!」

 

 るしあが地団駄を踏みます。

 その時でした。

 

「どうかなさいましたか?」

 

 城内から燕尾服を着たカイゼル髭の紳士が出てきました。

 

「ああ、実は」

 

 門番の男は彼にスバルたちのことと手紙のことを話します。

 彼は右手でカイゼル髭をいじりながら「ふむ」と頷きました。

 

「その手紙とやらは?」

 

「ここに」

 

「見せてください」

 

「はい」

 

 門番の男は紳士にノエルの手紙を渡します。

 それを受け取ったカイゼル髭の紳士はためらうことなく封を開け、その場で手紙の文面に目を通しました。

 

「いやいや、これは大変失礼いたしました」

 

 彼は手紙をきれいに畳みなおし、胸ポケットに仕舞ってからスバルたちへダンディに微笑みかけました。

 

「さあ、どうぞ中へお入りください」

 

 彼はそう言ってスバルたちを城内に招き入れてから、ちょうど通りかかった別の男を「ああ、君」と呼び止めます。

 

「はい。なんでしょう?」

 

「悪いのですが、この手紙を急いで姫に届けてくれませんか? 愛しの王子様が会いに来てくださったと言葉を添えてね」

 

「かしこまりました副リーダー」

 

 カイゼル髭の紳士からノエルの手紙を受け取り、呼び止められた男は駆け出していきました。

 

「さあさあ、皆さまも早くお入りください。外は冷えます、姫のいらっしゃる玉座の間は暖炉がついてありますので」

 

「ありがとうございます」

 

 礼を述べてからスバルたちは城門をくぐり城内へ入ります。

 

「あ、あの」

 

「?」

 

 城内に入ったるしあは、ちらりと城門のほうを見てから紳士に話しかけました。

 

「実は今、るしあたちは恐ろしい敵に追われているところでして、差し出がましいお願いで恐縮なのですが、すぐに門を閉めていただけると、その」

 

「おお、それは大変だ」

 

 驚いたようにそう口にしてから、カイゼル髭の紳士はパチンと指を鳴らします。

 するとそれを耳にした門番の男たちがてきぱき門を閉め、念入りに固く施錠をしはじめました。

 

「これでよろしいですか?」

 

 微笑みかけて尋ねる彼に「あ、ありがとうございます」と、るしあは恐縮したように何度も頭を下げました。

 

 それからスバルたちは玉座の間へ向かおうとします。

 

「シュバ?」

(ん?)

 

 スバルはふと、そんな自分たちにぴったりくっ付いて玉座まで入っていこうとするフェニックスに気づきました。

 るしあもそれに気づきます。

 

「フェニックス、キアラの分までスバル先輩を守りたいというあなたの気持ちはわかりますが、るしあたちは今からこのお城のお姫様に謁見しに行くのです。ここでいい子にしててください」

 

 るしあは城の庭にフェニックスを置いていこうとします。

 しかしフェニックスは首を振って拒みます。

 

「構いませんよ」

 

 するとカイゼル髭の紳士が気さくにそう言いました。

 

「珍しい鳥ですし、姫はきっとお喜びになるでしょう」

 

 そして彼はフェニックス含めたスバルたちを玉座の間へ案内しました。

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

「姫、セバスチャンです。スバル様方をお連れいたしました」

 

 立派に飾られた扉の前でそう口にしてからカイゼル髭の紳士、セバスチャンは両手で扉を押し開けます。

 扉を開けた先は赤い絨毯が引かれており、玉座までの道を作っています。

 その先に見える物々しい玉座、そこに腰かけている幼い見た目の少女が「よく来たのら」とスバルたちに微笑みました。

 

 桃色の髪を腰の手前まで伸ばした女の子です。

 頭頂に小さな王冠、頭右側にキャンディーを模したリボンをしていて、服はピンクを基調にしたキャラクター子供服のようなドレスです。

 目は左右が異なるオッドアイで、薄緑と薄紫のパステルカラーをしています。

 彼女は白い肌の頬をうっすら上気させながら上機嫌そうに玉座から飛び降りて「スバルちゃ先ぱーい!」と駆けてきます。

 そしてアヒルスバルを抱き上げてから「スバルちゃ先ぱーい!」とまた口にし、スバルの顔にぐりぐりと頬ずりします。

 

「シュ、シュバシュシュバ、シュバシュシュバシュバ。シュバル、シュバルバシュバシュバルシュバ?」

(お、おうルーナ、久しぶりだな。おまえ、スバルのことわかるのか?)

 

「ん? 何言ってんのら?」

 

 少女は首を傾げます。

 

「久しぶりだと、それからアヒルの姿なのによく分かったなと、そうスバル先輩がおっしゃっています」

 

 るしあが横から通訳すると彼女は「あはは」と笑いました。

 

「そりゃわかるのらよ。もともとアヒルみたいだったスバルちゃ先輩がアヒルになっただけのこと、大した違いはねえのら」

 

「シュバシュババシュババシュバ」

(おいちょっと待てやコラ)

 

「まあそれはさすがに冗談として、ノエルちゃ先輩の手紙に詳しく書いてあったのら。なんだか大変なことになってるのらな」

 

 言ってから彼女はスバルを下に降ろし、るしあたちの方へ身体を向けます。

 

「皆さん、我が城へようこそ。城の主、姫森ルーナです。立場こそ城主でありますがまだまだ未熟な小娘ゆえ、どうかよしなに」

 

 彼女はスバルに対する態度とは一変し、スカートのすそを持ちながら華麗に一礼しました。

 

「姫! ご立派ですぞ、姫!」

 

 王座の扉前で立っているセバスチャンが大げさなほど拍手します。

 

「あー、ちょっと待つのら」

 

 ルーナはトコトコトコと駆け足で扉前までやってくると、手を鳴らし続けているセバスチャンを無視してバタンと扉を閉めました。

 

「それで、皆さんのお名前は? 手紙にもいろいろ書いてあったけど、名前と顔だけ一致させてほしいのら」

 

 それから何事もなかったかのように元の場所へ戻ってきます。

 

「潤羽るしあと言います」

 

「桃鈴ねね」

 

「獅白ぼたん」

 

「尾丸ポルカです」

 

「ゆ、雪花ラミィです」

 

 るしあとホロファイブの四人が各々自己紹介します。

 そしてフェニックスもぺこりとお辞儀だけしました。

 

「ふむふむ」

 

 ルーナは頷きます。

 

「ラミィさんだったのらか? なんか辛そうだけど、大丈夫のらか?」

 

 心配するルーナにラミィは「はい。大丈夫です」と返事しようとします。

 しかしねねがそれを遮って「大丈夫じゃないです!」と答えました。

 

「ついさっき死闘を終えたあとなんだ! だから本当は立っているのもつらいはずでさ、ルーナ、ラミィだけ横になっててもいいか?」

 

「もちろんそれは構わないのらだけど、よく見たら本当に酷い怪我のら」

 

 ルーナは大声で「セバスチャン!」と呼びます。

 すると即座に「は!」と声がしてセバスチャンが玉座の間に入ってきました。

 ルーナは彼に「彼女の手当てを」と指示します。

 

「かしこまりました。さあラミィさん、医療室へ案内します」

 

「い、いいえ、そんな大した怪我じゃないです」

 

 ラミィは首を振りました。

 

「ラミィとてレジェンド所有者の一人、フェニックスに乗っている間に体力は大分回復しました」

 

「しかし姫の言いつけですので」

 

「それなら、この部屋の隅でもお借りして簡単な手当てを受けたいです。この場にいるレジェンド所有者はラミィとスバルさんの二人だけ、スバルさんがアヒル状態の今、たとえ一時であろうとラミィがこの場を離れるわけにはいきませんので」

 

 セバスチャンは強情に言い張るラミィに困った顔をします。

 

「だそうです、姫」

 

「言うとおりにしてやるのら」

 

「は!」

 

 セバスチャンは医療キッドを持ってきてからラミィの怪我の手当てをして、玉座の間から退室しました。

 

「ごめんなさい、ご厚意を無下にするようなことをして」

 

 謝るラミィにルーナは「ううん、そんなの気にしないでほしいのら」と首を振ります。

 

「それにしてもスバルちゃ先輩」

 

 それからルーナはまたスバルの方へ向き直りました。

 

「ノエルちゃ先輩の手紙に書いてあったのらだけれど、アヒルの呪いを解くためにレジェンド所有者の署名を集めなくちゃいけないなんて、大変なことになってるのらな」

 

「まあな」

(シュバア)

 

「でもそんななかこうして会いに来てくれて、ルーナ本当に嬉しいのら。今この喜びを曲にかえて伴奏するから聴いてくれなのら」

 

 ルーナは玉座の隣に設置されている巨大なグランドピアノの椅子に腰かけます。

 ニ、三度トントントーンと鍵盤を軽く弾いてから、コホンと咳払いします。

 改めて腰を深く座り直し、両指を鍵盤の上に添えます。

 そして上体を緩やかに揺らしながら伴奏を始めました。

 

 ダダダン、ダダダン、ダダダダダダダダダン。ダダダン、ダダダン、ダダダダダダダダダン。

 

 ゴジ〇のテーマ曲です。

 

「シュバルルバシュバルバ!」

(怒ってんじゃねえか!)

 

「あ、あのルーナ姫、スバル先輩が怒ってるじゃないかと」

 

「あたりめえなのら!」

 

 るしあが通訳した直後、ルーナはバーン! と鍵盤に指を立てて伴奏を中断し、椅子から飛び降りました。

 

「五年! 五年のらよ! そのあいだずっと音信不通で、ルーナがどれだけ心配したと思ってんだのら!」

 

「シュ、シュババシュバルルババ」

(そ、それは悪かったよ)

 

「スバル先輩が謝っておられます」

 

 そう口にするるしあも申し訳なさそうに項垂れます。

 ルーナはそんなスバルたちを見て「もういいのら」とため息をつきました。

 

「まったく、今からこんなふうだとこの先が思いやられるのらね」

 

「シュバ?」

(あん?)

 

「この先が思いやられる、とは?」

 

 意味ありげなことを口にするルーナに、るしあが聞き返します。

 

「んなあ? スバルちゃ先輩、ルーナとスバルちゃ先輩の関係についてお仲間さんたちに何も説明してねえのらか?」

 

 ルーナは「やれやれ」と首を振ってから、

 

「ルーナとスバルちゃ先輩は将来を約束し合った仲なのらのに」

 

 そんなことを言い出しました。

 




 スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
 あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。
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