勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
上級剣ペパロニピザによる真横からの鋭い一閃。
はあちゃまはクリスタルサビロイをしならせてそれを防ぎました。
「おやおや、やはりレジェンド所有者。瞬発力から桁違いのバケモノでございます」
剣を放ったのはすでに退避していると思われていたチーム・ルーナイトの副リーダー、セバスチャンです。
彼ははあちゃまのクリスタルサビロイのしなりが戻り切っていない隙をついてルーナとはあちゃまの間に入り込み、はあちゃまに斬りかかります。
はあちゃまは「ちっ」と舌打ちしながら後ろに跳ねてその一振りをかわしました。
「な、なんで逃げてねえのら!」
危ういところを助けられたルーナですが、礼を言うよりも先にセバスチャンを叱ります。
常日頃のルーナイトであれば恐縮してしまうでしょう、本気で怒ったときの声音です。
しかしセバスチャンは「はて?」と白々しく首を傾げました。
「このセバスチャン、赤旗を上げるようにとは命じられましたが逃げるようにとは命じられておりません」
「お、おまえこんな時に何を言って」
ルーナは再びセバスチャンを叱責しようとします。
しかしセバスチャンはそんなルーナに「姫」と呼びかけて、彼女の続きを遮ります。
「わたくしどもの気持ちもどうかお察しください、ルーナ姫」
言ってから、彼はルーナの前にかしずきます。
「城内に己の主人を残して逃げることができる騎士など、一体どこにおりましょう」
セバスチャンがそう口にした直後でした。
城内のいたるところからルーナイトのチームメンバーが姿を現しはじめます。
「姫」
「どうか我らの不忠、お許しを」
言いながら彼らは続々とルーナの前に集まりだし、フォークを手に取りソーセージを出してはあちゃまに対し構えます。
「お、おまえら……」
じんわりと、ルーナの目が涙で潤みました。
「おまえらみんな、どうしようもねえバカどもなのら!」
涙を拭きとり声を上げるルーナに、ルーナイトの一人が「姫からお褒めのお言葉をいただいたぞ!」と冗談めかして口にします。
すると他の面々がドッと笑いだしました。
ルーナも笑みを顔に浮かべました。
「でも、ここまできたら一緒に戦ってもらうのらよ!」
ルーナは顔を引き締めてから剣を構えなおします。
「スバルちゃ先輩のために一秒でも長く引きとめるのら! みんな、ルーナに力を貸してくれのら!」
ルーナがルーナイトたちへ頼むように呼びかけます。
ルーナイトたちは「任せてください!」「そのための我らルーナイトです!」と各々でルーナに答えました。
「姫のお言葉を聞いたか、我が同胞たちよ!」
そんな彼らに、今度はセバスチャンが大声を張り上げます。
「姫は過去の栄光から酔いが醒めぬ豚の着ぐるみ共へくれてやるためのキツい気付け薬をご所望されておられる! やつらにたっぷりくれてやるぞ!」
セバスチャンの鼓舞に「「おおー!」」とルーナイトたちが応えました。
◇ ◇ ◇
「ふん」
一方はあちゃまはそんなルーナイトたちの面々を見回してから鼻で笑いました。
「上級剣士が数人しかいない上に当のリーダーが中級剣士の弱小チームが、言ってくれるじゃない」
そう呟いてから、彼女は「ハートン!」と大声で呼びかけました。
すると城内のあちこちでスバルたちを探していたハートンたちが、たちまち彼女の周りに集合します。
「状況が少しばかり変わったわハートン。チーム戦よ」
はあちゃまがそれだけ言うと、ハートンたちはすべてを理解したようにフォークを取り出しソーセージを出現させます。
どれもこれも上級剣です。
「ハートン! ごっこ遊びと現実の区別がつけれていない不憫な者たちの目を覚まさせてあげなさい!」
はあちゃまの鼓舞にハートンたちが「「ブブー!」」とかけ声を上げます。
そしてルーナとはあちゃま、ムーナイトたちとハートンたちが一触即発の空気を漂わせながら対峙します。
「ハートン」
ルーナやルーナイトたちに聞こえない小声で、はあちゃまがハートンたちに話しかけました。
「相手の数はかなりのものだけれどそのほとんどは中級剣士よ、上級剣士は全部私の方に回してあなたたちはそいつらを狩りなさい。私もあのデカブツと上級剣士どもを片付けたらあなたたちの処理を手伝うわ」
はあちゃまの指示に「ブブー」とハートンたちは頷きました。
◇ ◇ ◇
「ルーナ姫、どうか無理なさらずに下がっていてください」
一方ルーナ陣営では、セバスチャンがルーナイトの総意をルーナに申し出ていました。
「あなた様が傷ついては我々の士気にかかわりますゆえ」
「んなわけにいかねえのら」
しかしルーナはそれを一蹴します。
「リーダーとチームメンバーは一心同体が鉄則、おまえたちが傷ついている最中にルーナがボケーっと突っ立ってるほど不条理はねえのら」
「ですが」
なおも引き下がらないセバスチャンに「セバスチャン」と、ルーナがたしなめるように呼びかけます。
「騎士は姫の一つや二つわがままを聞き入れてこそ良い男なのら」
「は!」
ルーナの諭すような口ぶりに、セバスチャンはつい直立し承知を示してしまいます。
「まったく、仕方がありませんな姫は」
そんなやりとりを見守っていたルーナイトの一人が、呆れたように言いました。
ルーナがそれに「あたりめえなのら」と答えると、また皆が笑います。
ルーナも一緒に笑ってから、ふとしたように夜空を見上げました。
「こんなことなら、もっと真面目に剣の稽古しとくべきだったのらなあ」
それは独り言だったのでしょうが、つい耳にしてしまったルーナイトたちは思わず「ぷっ」と吹き出しました。
「それは今更ですね姫」
「なあに、これが済んだら猛特訓ですから。覚悟しておいてください姫」
ルーナイトたちの軽口に「うわあ、余計なこと言うんじゃなかったのら」とルーナは頭を抱えます。
それがまた彼らの笑いを誘います。
しばらくそんなことをしてから「まあでも」と、ルーナは改めて顔を上げました。
「そのためにも、ここはいっちょ踏ん張りどころなのら」
そしてルーナ勢力、はあちゃま勢力どちらともなく「かかれー!」「行きなさい!」と号令がかかり、対峙する二つのチームが衝突しました。
◇ ◇ ◇
しばらくの間、双チームの激戦が続きました。
しかしその戦いも朝日が昇る前には決着がつきます。
「んなああああ!」
断末魔のような声を響かせて、ルーナの巨体がズドーン! と倒れます。
直後、彼女の身体が光り輝き元のサイズまで縮んでいきました。
「本当に、とんでもない手間をかけさせてくれたわね」
はあちゃまは気絶しているルーナを見下ろしながら吐き捨てます。
それから「ハートン!」と近くのハートンを呼び寄せました。
「ブブ?」
「どうしましたか、じゃないわ。チームの被害状況を報告しなさい。負傷者と死者は何人出たの?」
はあちゃまの問いかけに「ブブー、ブブブブー、ブブーブーブブブブブブー」とハートンが答えます。
「負傷者三名に死者がなし? ふふん、相手チームが弱小だったとは言えさすが元トップランカーチーム・ハートン、その実力は今も健在というわけね」
満足そうに呟いてから彼女は周りを見渡します。
そこらじゅうにルーナイトたちが倒れています。
対してハートンたちはそんなルーナイトたちのそばで受けた傷の手当てをしていたり、フォークの手入れをしていたりと離れした様子です。
「さてと」
はあちゃまは改めてルーナの方へ向き直りました。
「私はね、私のスキル奪取を邪魔した者には第二第三の輩が現れないよう厳しく処する方針でいこうと思うの」
言いながら彼女はクリスタルサビロイを出現させます。
「私の邪魔をした責任、死をもって償いなさい」
はあちゃまは気絶しているルーナめがけてクリスタルサビロイを振り下ろしました。
「!」
しかしその剣はルーナのすぐ横の地面に突き刺さります。
誰かに剣を弾かれたわけでも、不意に話しかけられるなど注意を逸らされたわけでもありません。
はあちゃま自身がソーセージの剣先を逸らし、地面に突き立てたのです。
クリスタルサビロイを持つ彼女の手が、痙攣を起こしたように震えています。
「赤井はあと……ッ」
はあちゃまは忌々しげに呟きました。
それからも彼女は何度か剣を振るいますが、ことごとくルーナから外されます。
「くっ、ふ、ふふふ、あんたにとっては他人にすぎない小娘のために随分と抵抗してくれるじゃない赤井はあと。あのスバ友を殺したのがそんなに許せなかったのかしら」
はあちゃまは仕方なく剣をおさめます。
「運がよかったわね」
気絶しているルーナに一瞥してから、はあちゃまは踵を返しました。
「それにしても惜しいことをしてしまったわ。ハートンだけ城内に侵入させて私が外で待ち伏せていれば、『執着』のスキルが手に入っていたかもしれないなんて」
そう独り言を言っていた時です。
彼女の足元で俯せに倒れているルーナイトが「うう」と呻き声を上げました。
それを見たは彼女は眉を顰めました。
「ハートン!」
「ブブー」
呼ばれたハートンがそばにやってきます。
「どういうことハートン、このルーナイトは生きているじゃない。ん、こっちも? まさかあっちも? あなたたち、なんでとどめを刺していないの?」
「ブブブー、ブブー、ブーブブブブー」
「赤井はあとはとどめを刺すことを許さなかったって? バカなこと言わないで、今のあなたたちのリーダーは私よ。やりなさいハートン」
彼女の指示にハートンは「ブブ」と首を振ります。
「腰抜けが」
はあちゃまはそのハートンを蹴りつけてからクリスタルサビロイを出現させます。
そして足元のルーナイトの身体に突き刺そうとしました。
「ぐっ!」
しかし剣を振り下ろそうとする直前、頭痛をこらえるように額に手を当てます。
「そうだった、今はお怒り中だったわね」
はあちゃまはフォークをレッグバッグに仕舞い、崩れた城壁の大きな瓦礫に腰を下ろしてから「今日は厄日だわ」とこぼします。
「帰るわよハートン、撤収の準備をしなさい」
面倒くさそうに指示する彼女に、ハートンが「ブブー」と答えました。
スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。