勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
59羽
ルーナとはあちゃまの戦いが終わったそのころ、スバルたちはフェニックスに乗ってフレアの館を目指していました。
「大丈夫ですか? フェニックス」
心配そうにるしあがフェニックスの顔を覗き込みます。
フェニックスは少しも休憩することなく走り続けていました。
「スバルさん、るしあさん、おかげさまでラミィはだいぶ体力が回復しました。もしも敵に追いつかれても戦うことができますので、そろそろフェニックスを休めてあげてはどうでしょう?」
ラミィもフェニックスを気遣って提案します。
だめ押しにスバルが「シュバルババ」(フェニックス)と呼びかけますが、フェニックスは止まりません。
日が昇り始めたてから少しして、スバルたちはフレアの館に到着しました。
結局一度も休まず走り続けたフェニックスは、到着するや否や力尽きたように地面に伏せました。
「シュバルババ!」
(フェニックス!)
スバルたちは急いでフェニックスから降ります。
「るしあ、急いでフレアさんを呼んできます!」
「じゃあポルカは井戸水汲んできてあげるよ!」
「私も!」
「ね、ねねは足マッサージしてあげる!」
皆が皆、フェニックスのために動き出そうとします。
ちょうどその時でした。
「フェニッ、クス……?」
スバルたちがあたふたする中で、フェニックスへ問いかけるような呼びかけが庭の方からしました。
その声が聞こえた瞬間、さきほどまでぐったりしていたフェニックスがすごい勢いで鎌首を上げて振り向きます。
いきなり動き出すフェニックスに皆はびっくりして手を止めました。
それから彼の視線の先に目を向けます。
「あ」
そこには女性が立っていました。
赤色の袖なしジャンパーとミニスカート、やまぶき色が毛先へ近づくにつれ青味をます独特の髪色、そんな伸ばした女性です。
「キ、キアラ……?」
るしあがぽつりと呟きました。
るしあが口にしたとおり、そこにいたのはキアラでした。
キアラは不思議そうに首を傾げました。
「シュバアアアア!」
(キアラアアアア!)
直後、皆がギョッとするほどの大声を出してスバルが駆け出します。
「シュバルババシュバ! シュバアアアア!」
(無事だったんだな! キアラアアアア!)
スバルは走った勢いのままキアラに抱きつき、彼女を地面に尻もちつかせ、その胸元に頬ずりしながら「シュバシュバシュバシュバ!」と泣きだしました。
「え、ちょっ、え、え? ……えー」
キアラは困惑するようにスバルを見下ろしてから、助けを求めるようなまなざしをるしあたちに向けました。
空気を察し、またキアラの様子も少し変だと気づき始めたるしあが、迷惑そうにしている彼女からスバルを抱きかかえて離してあげます。
「朝っぱらからシュバシュバシュバシュバうるせえええ!」
ちょうどその時、館の玄関ドアが開きフレアが出てきました。
「フレアさん!」
するとキアラはすくっと立ち上がり、フレアの元へ駆けていきます。
「あのアヒルが、体当たりしてきたかと思ったら急にシュバシュバ喚きだして」
「え? ああ、うん、そうか」
頷くフレアに、キアラは彼女の背後に隠れながらスバルたちの様子をうかがいだします。
「シュバ、シュバシュバシュバルシュバ? シュバア」
(おい、どういうつもりシュバ? フレア)
「え、あたし? いやまてまて大空スバル、それはあたしが聞きたいと思っておまえたちを待ってたんだよ」
まあとりあえず入りなよと、フレアはスバルたちを客間に入れます。
「あ、おはよー」
客間ではノエルがソファに座っていました。
眠たそうにうとうとしながら、眠気覚ましにでしょう紅茶をちびちび口に含ませています。
「シュバルババシュバルバ」
(眠たいなら寝てろよ)
「まだ時刻も早いですし、もう少し寝ててもいいんじゃないですか?」
話しかけるるしあに「いやいや」とノエルは首を振ります。
「そんなわけにはいきません」
そう言い終わるや否や、さっきまでフレアにぴったりくっついていたキアラが今度はノエルの隣にやってきます。
そしてノエルの腕に自分の腕をまわしながら、じっとスバルたちを見てきます。
ノエルはそんなキアラの頭を撫でてやってから「ね?」とスバルたちに苦笑いしました。
「シュバア、シュバルシュバアバシュバシュバシュババ?」
(フレア、おまえキアラに何しやがった?)
「だから何であたしになるんだよ!」
再び問いかけてくるスバルに、フレアは納得いかない顔で言い返してからソファに腰を掛けます。
「ほんの二時間くらい前だったか、まだあたりが真っ暗だった時に玄関ドアを叩く音で起こされてさ、なんだと思って出てみればキアラが一人で立ってたんだよ。他のみんなはどうしたんだって聞いても不思議そうに首を傾げるだけだし、何か大変なことが起きたんだろうなとは思ったけどあたしにできることはないしさ、とりあえず家に入れてあんたたちが帰って来るのを待つことにしたんだよ」
「シュバルババシュバルルシュババシュバルルシュバルルシュババ」
(それにしてはおまえたちにだけ随分懐いてるじゃねえか)
「あたしらも警戒されてたさ、だけどお腹すいてるみたいだからってノエルが牛丼のストック出してあげたらすぐこんな感じになったんだよ」
「そうなんですか?」
るしあはノエルに尋ねます。
ノエルは「はい」と頷きました。
「さて、それじゃあようやくあたしからの質問だ」
フレアはソファの背もたれから上体を離し、両膝に手を置いてグイッと身体を乗り出します。
「おまえたち、一体何があったんだ?」
尋ねるフレアに、スバルたちを代表してるしあが話し始めます。
道中にはあちゃまとハートンたちに襲われたこと、ラミィがレジェンドソーセージスキルを取られそうになったこと、キアラが一人ではあちゃまを足止めしスバルたちを逃がしてくれたこと、その後もはあちゃまはスバルたちをしつこく追いかけルーナにも助けてもらったこと、それから少しも休まずフェニックスが走り通して館に戻ってきたこと。
「なるほど、それは大変だったね」
フレアは納得したように頷きます。
「まあとりあえず、はあちゃまのことは置いておいて、キアラがこんなふうになってしまったのはおまえたちを逃した後に何かが起きてしまったからなのだろう」
「シュバルバシュバルバ」
(何かってなんだよ)
「そりゃあたしも見てきたわけじゃないから聞かれても困るが、今の彼女は少なからず記憶を失っている。あんたたちやあたしの名前なんかはおぼろげに覚えていたり、ここまで一人で戻ってきたんだから名前だったり場所の記憶はあるようだが、実際にあたしたちの顔を見ても誰かのかわからないようだからな。おそらくははあちゃまたちと戦う中で記憶を失うような負傷を受けたか、呪いをかけられてしまったかしたんだろう。それでもどうかにかこの屋敷まで戻ってきたんだ」
「シュバア、シュバルバ。シュババるシュバルバシュバルバシュバルシュババシュバルルシュバルバ」
(キアラ、ごめんな。リーダーのスバルがおまえにそんな辛い思いさせちまって)
言いながら、スバルはるしあの膝元から降りてキアラの側にやってきます。
しかしキアラはスバルが近くにやって来るや否やすくっと立ち上がり、スバルから距離を取るようにしてノエルの反対隣に座りなおしました。
「シュバア……」
(キアラ……)
そんなあしらい方をされて、スバルは思わずぶるぶると身体を振るわせて泣き出してしまいそうになります。
「スバル先輩……」
るしあは立ち上がりそっと彼女を抱きかかえてから座りなおしました。
「スバル先輩、しっかりしてください。今のキアラはスバル先輩が誰なのかよくわかっていないだけなんです。スバル先輩に冷たくあたっているわけではないんですよ。記憶さえ元に戻ればきっといつものキアラに戻ってくれます」
「シュバ、シュバシュバ……」
(うう、ううう……)
るしあはスバルの背中を撫でながら慰めてやりました。
◇ ◇ ◇
「さて、それで今後どうしていくかということだが」
フレアはスバルたちを見回してから「とりあえず休め」と言いました。
「でも!」
「キアラの記憶を一秒でも早く取り戻したいおまえたちの気持ちはよくわかるが、休息も大事なことだ。特にフェニックスにとってはな。ルーナ城からこの館までノンストップで走り切るなんて無茶をさせたんだ、しっかり休ませてやらないと次の道中で倒れかねないぞ」
「そ、そうですよね」
頑張って走ってくれたフェニックスを持ち出されては、るしあも頷くしかありません。
「それにこの館内ではレジェンドソーセージが使用できないからな、はあちゃまに襲われる心配もない」
「そうですけど」
るしあはちらりとキアラの方を見てから、ずっと俯いているスバルの方に目を向けました。
それから「よし」と握り拳をつくります。
「それならるしあ、キアラの記憶を取り戻す魔法がないか調べてみます。フレアさん、この近くに魔導書が保存されているようなところはありませんか?」
「それならあたしの蔵を探ってみるといい。一時期魔導書収集がマイブームになって腐るほど集めたからな」
「わかりました」
るしあはさっそく調べに行こうと立ち上がります。
するとそんな彼女を見上げてから「あたしも働くかー」とフレアが伸びしはじめます。
「暇な時でもちょくちょく蔵を調べてみる。それとあたしの古い知り合いに博識な魔女がいるんだよ。そいつに手紙を書いて、記憶を取り戻す方法がないかどうか聞いてみる。気まぐれなヤツだからあまり期待はしないでほしいがね」
「ありがとうございます」
るしあはフレアに礼を言いました。
「ねえ、ねねは? ねねは何すればいい?」
るしあとフレアの会話が一段落したのを見計らってねねが尋ねます。
「なにもせずに大人しくしてろ。それがおまえのすべきことだ」
「ひっどーい!」
フレアの言葉にねねはぶすっと口を尖らせました。
◇ ◇ ◇
客間でフレアたちと話してからしばらくして、安心したからでしょう、スバルは急に眠気が襲ってきて爆睡してしまっていました。
「……シュバ?」
(……んん?)
そして彼女が目覚めた時、すでに日が沈んで星々輝く深夜となっていました。
余程疲れていたのでしょう、スバルは半日以上眠ってしまったのです。
彼女は起き上がろうとしました。
しかし誰かに乗っかられているようで、少しも動けません。
「スバル先輩……、るしあが、るしあが、ふふ、ふふふふ……」
るしあがスバルを抱き枕のように抱きかかえ、足を絡ませながら寝言を言っていました。
「シュババシュバシュバルルシュババ」
(どんな夢見てやがるんだ)
スバルはるしあの拘束を抜け出してバキボキと関節を鳴らします。
それから空腹を覚えてキッチンを漁りに行こうとしました。
しかしふと、そんな彼女の足元に書置きがあることに気が付きます。
『スバル先輩、ダイニングのテーブルにご飯をラッピングして置いてあります』
スバルはそれを読み終えてから歩きだしました。
彼女が深夜に起きることを考慮してでしょう、廊下へ出られるように部屋のドアは開けっ放しになっています。
ダイニングへついたスバルはお椀のラッピングを剥がしてから中身をついばみ、食しました。
食事が済んだら食器を咥えて流しへ置き、るしあが寝ている部屋に戻ろうとします。
しかし部屋の前まで来た時、ふと風が彼女の頬を撫でたのを覚えて振り向きます。
玄関のドアが開いていました。
スバルは吸い寄せられるように外へ出ました。
肌寒い夜の空気が彼女の鼻をつつきます。
スバルはなんとなくフェニックスのことが気になって、彼がここ最近寝床にしている大樹の下へ行きました。
「シュバ」
(あ)
そして、彼女は思わず驚きを呟きました。
フェニックスは木の下ですやすやと眠っています。
そんなフェニックスに寄り添うようにして、キアラが身体を丸めながら寝息を立てていました。
キアラは時々「スバル先輩」とか「カリ」とか、寝言を言っています。
「……シュバ」
(……ったく)
スバルは短くため息をついてから目を閉じました。
そのすぐあと、スバルの身体が輝きます。
キアラは眩しそうに「ううう」と呻いて寝返りをうちました。
「こんなところで寝てたら風邪ひくシュバよ」
光が収まると、そこには人間に戻ったスバルが立っていました。
呆れたように言いながらも、彼女はキアラを起こそうとも館まで運ぼうともしません。
代わりに館から毛布を何枚か持ってきて、キアラにかけてやりました。
スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。