勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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 スバルたちがフレアの館に戻ってきてから数日が経ちました。

 るしあは蔵で魔導書を探しては部屋に持ち帰り、そのまま籠ってしまうことが多くなり、スバルはそんな彼女の邪魔をしないように気を配り単独行動をするようになりました。

 

 ある日スバルが庭を散歩していると、フェニックスにブラッシングしているキアラを見かけました。

 

「シュバシュバア、シュバルルババシュバルバシュバルバシュバシュババ?」

(よおキアラ、フェニックスの毛並みを整えてやってるのか?)

 

「あ」

 

 話しかけるスバルに気づいたキアラが「おはよー、あひるさーん」と微笑みます。

 

「シュバ、シュバルバ」

(ああ、おはよう)

 

 あいさつし返すスバルに、キアラは「シュバシュバシュバ」と適当なシュバル語を口にしてからまたフェニックスにブラシをかけます。

 

 数日経って、キアラはスバルたちにだいぶ心を開くようになっていました。

 ねねやポルカ、ラミィ、ぼたんのホロファイブと良く喋るようになりましたし、部屋にこもって魔導書を読み漁るるしあにもしばしば紅茶を茶菓子の差し入れをするようになりました。

 でもその一方で、スバルのことは相変わらずただのアヒルと認識しているのか、たまに見かけて「シュバシュバ」と口にしてくれるだけです。

 仕方のないこととは思いながらもスバルは寂しく感じていました。

 

「シュバア」

(キアラ)

 

 スバルはキアラに呼びかけてから目を閉じます。

 そしてアヒルから人間の姿に戻ります。

 

「え、ええええ!」

 

 すると当然の反応ですが、キアラは腰を抜かしたように尻もちをつきました。

 

「ア、アヒルさん、人間だったのデスカ……?」

 

「……、うん。そうシュバ」

 

 彼女は素直に問いかけているだけだとわかっているのに、スバルの胸にその言葉がグサグサと突き刺さります。

 

「びっくりさせてすまないシュバ」

 

 スバルはキアラに手を差し伸べます。

 キアラはそれを掴んで立ち上がりました。

 

「スバル、今はアヒルの呪いのせいで一日に三分しか人間に戻れないけど、本当はアヒルじゃなくて人間なんだ」

 

 説明するスバルに「へええ」とキアラが相槌を打ちます。

 

「でも、どうして今その貴重なお時間を使って人間に戻ったのデスカ?」

 

「そ、それは……」

 

 みんなのようにキアラと普通に喋りたいからと、スバルはそう答えようとします。

 しかしなぜかそう口にするのが恥ずかしく思えてきて「け、剣の稽古をつけてやろうと思ってな」と言いました。

 

「キアラ、記憶を失う前のおまえはかなり腕の立つ剣士だったんだ。だけどここ数日全くソーセージを振るってないようだし、腕がさび付いてないかスバルが見てやろうと思ってな」

 

「アヒルさんはお強いんですか?」

 

「当然シュバ。五年前まではスバルがおまえに剣を教えていたんだからな」

 

「わ、わたしのお師匠様デスか!」

 

「少し違うけど、まあそう思ってもらって差し支えないシュバ」

 

「し、失礼しましたシュバ!」

 

「語尾をまねしなくてもいい!」

 

 ついツッコミを入れるクセで語気を強めてしまうスバルに、キアラが「申し訳ありマセン師匠!」と頭を下げます。

 

「いや、本当にそんな堅苦しい関係じゃないからリラックスしてほしいシュバ。スバルとキアラは師弟関係というより家族みたいな関係というか、師匠とか呼ばれるよりはスバルせんぱいとか、そんなふうに呼んでほしいシュバ」

 

「ス、スバルせんぱい、デスか……?」

 

 恐る恐る口にするキアラに、スバルは「うむ」と満足げに頷きます。

 

「ではキアラ、さっそく見てやるシュバ。まずソーセージを出すところから始めるシュバよ。レッグバッグからフォークを取り出し、それを振るってソーセージを出すんだシュバ」

 

 ゲームのチュートリアルキャラクターのように指図しだすスバルに「はい」とキアラは頷いて、レッグバッグのなかを手探ります。

 しかししばらくそうやって手をつっこんでから、彼女は「んん?」と眉を顰めました。

 

「あの師匠、じゃなかったスバルせんぱい」

 

「どうしたシュバ?」

 

「え? フォークがない?」

 

「はい」

 

 スバルはキアラが口を開けてみせるレッグバッグのなかを見ます。

 確かに何も入っていません。

 

「おま、剣士にとって命の次に大切なフォークを……」

 

 つい説教じみたことを言ってしまうスバルに、キアラはしゅんと項垂れて「ごめんなさい」と謝りました。

 スバルはそんな彼女に気づいて「大丈夫、大丈夫シュバ」と慌てて笑いかけます。

 

「それはあくまで心得の話シュバ。言うても一番大事なのは命、きっとフォークをなくしたことに気づかないくらい必死に逃げたんだシュバ。今度町の武器屋へ新しいフォークを買いに行こう」

 

「はい」

 

「まあでも今は模擬剣を使ってもらうシュバ。キアラのソーセージ・チュロスとは勝手が少し違うけど、これならスバルも手合わせしてやれるしむしろちょうどよかったシュバ」

 

「はい」

 

 スバルは玄関前に立てかけてある日本の模擬剣を手に取って、片方をキアラに手渡します。

 

「それじゃあキアラ、好きなようにかかってこいシュバ」

 

「はい!」

 

 それから一分弱、スバルはふたたびアヒルになるまでキアラの打ち込みを受けてやりました。

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

 さらに数日が経過しました。

 スバルは昼前の時刻にキアラを庭に呼び出して三分間の手合わせをしてやり、そのあと一緒に昼食を取るということを続けていました。

 キアラはスバルのことを「アヒルさん」ではなく「スバルせんぱい」と呼び慣れるようになりました。

 ちなみに、この頃になるとノエルとラミィの怪我もすっかり完治していました。

 ノエルは白銀聖騎士団の駐在している村に戻りチームと合流していますが、時々館に顔を出しに来たりしていました。

 一方ラミィは怪我が治ってからもしばらくは寝転びながらお酒ばかり飲んで好き放題していたのですが、庭でスバルがキアラに稽古をつけているところを見て興味を掻きたてられたようで、そのすぐそばにねねを呼び出して無理やり彼女に稽古をつけるなどし始めました。

 またそうやってねねを鍛えてやるのがホロファイブの方針としていつの間にか定まったようで、日替わりにねねの相手がぼたんやポルカに代わったりしました。

 時々ねねは耐えられなくなってサボりました。

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

「シュバルババシュババ? シュバア」

(進捗はどうだ? るしあ)

 

 昼過ぎの三時ごろ、スバルはるしあのところへ顔を出しに行きました。

 

「全然です」

 

 るしあは首を振りながら答えます。

 

「一冊二冊それらしい本が出てきてもいいと思うに、ソファに座りながら戸棚や冷蔵庫にあるものを手元に持ってくる魔法やら、何もせずに毎晩風呂が沸く魔法やら、なぜわざわざ魔法を使ってまで思うようなものばかりで」

 

「シュバルバシュババ」

(見境ねえな)

 

「そうなんですよ」

 

 スバルとるしあは苦笑し合いました。

 

「さて、じゃあまたるしあは頑張(がんば)るしあ・モードに入ります」

 

「シュバルバシュバア」

(悪いなるしあ)

 

「どうしたんですか急に」

 

 るしあは少し驚いたように聞きます。

 

「シュバ、シュバルババシュバシュバルルバシュバシュバルバシュバシュババシュバ、シュバルバシュババシュバルバシュバルルシュババ」

(いや、スバ友のために頑張ってもらって本当に感謝というか、スバルは何もできなくて申し訳ないというか)

 

「キアラはスバ友でもありますがるしあの友達ですもん、頑張って当り前ですよ。キアラのおかげでこうしてみんな無事でいられるわけですし」

 

 それに、とるしあは続けます。

 

「この調子だと本当に見つかるのかどうか正直怪しい感じなんです。もしできそうだったら、スバル先輩も何か手かがりになりそうなのを探してくれませんか?」

 

「シュバルバ?」

(手がかり?)

 

「はい。よく聞くじゃないですか、ふとしたことがきっかけで記憶を取り戻したとか。キアラの言動からそういう手がかりのヒントがつかめないとも限りませんし。キアラとの付き合いの長いスバル先輩だからこそ気付けることもあると思うんです」

 

「シュバルバ、シュバルバシュバルルシュババ」

(そうだな、注意してみることにする)

 

 頷くスバルに「ありがとうございます」とるしあは微笑みます。

 

「シュバ? シュババ」

(ん? 待てよ)

 

 唐突にスバルが考えはじめます。

 

「シュバルルシュバルバシュバルルシュバ、シュバルババシュババシュバルルシュババシュバ」

(関係ないかもしれないけど、そういえばちょっと気になることがある)

 

「気になること?」

 

「シュバル、シュババシュバアバシュバルバシュバババシュバルババシュバシュバルババ、シュバルバシュバアバ『シュバ』シュバルルバシュババシュババ」

(スバル、前にキアラが寝てるところを見たことがあるんだけど、その時にキアラが「カリ」って寝言を言ったんだ)

 

「カリ、ですか?」

 

「シュババシュバルバシュバシュバルルシュバシュバルル、シュバルシュバルシュババシュババ」

(そんな名前のやつスバ友にはいないし、少し引っかかってたんだ)

 

「そうなんですか」

 

 るしあは少し考えてから「でも」と続けます。

 

「るしあはカリってどこかで聞いたことがありますよ」

 

「そうなのか?」

(シュバルババ?)

 

「はい」

 

 るしあは口元に手を当てて俯きながら「うーん」とか「むーん」とか唸ったあとで、「あ」と顔を上げました。

 

「そうです、故郷からの手紙です」

 

「シュババ?」

(手紙?)

 

「はい。スバル先輩とレジェンド所有者捜しに出る際、もうしばらくるしあの屋敷には帰らないだろうと思って屋敷内を整理したんです。その時に、長い間放置していた郵便受けに大量に突っ込まれた故郷からの手紙に気づきまして、面倒くさいとは思ったのですが、大事が書いてあれば行けないと思いすべて流し目してみたんです」

 

「シュババ?」

(それで?)

 

「いつごろ出されたのかは配達日を見ていないのでわからないのですが、そのなかのいくつかに確かカリ――森カリオペという剣士が村にやってきたと、そう書いてあったんです」

 

「シュバシュバルバ」

(森カリオペ)

 

 スバルがオウム返しに口にした時です。

 ガシャガシャガシャーン! と彼女たちの後ろで盛大に何かが割れる音がしました。

 びっくりして振り向いてみると、差し入れを持ってきていたのでしょうキアラが足元にカップやソーサーなどを落として割ってしまっていました。

 

「シュバア!」

(キアラ!)

 

「怪我はありませんかキアラ!」

 

 スバルとるしあは慌ててキアラに駆け寄ります。

 幸いなことにキアラに怪我はないようです。

 しかし、

 

「うう、うううう……ッ」

 

 キアラは急に頭を抱えて蹲りだしました。

 

「シュバア、シュバルバシュバルババ?」

(キアラ、頭が痛いのか?)

 

 スバルが心配そうにキアラの顔を覗き込みます。

 

「待っててください。すぐフレアさんを呼んできます」

 

 るしあは走って部屋を出て行こうとします。

 

「だ、大丈夫デス、平気デス」

 

「しかし」

 

「いきなり頭痛がしたので、びっくりしてしまっただけで。もう大丈夫デス」

 

 キアラはそう言いながら立ち上がります。

 しかしまだ頭を押さえたままです。

 

「でも、どうしてでしょう。カリ? 森カリオペ? その名を聞くと、ズキズキと頭が痛みます」

 

「シュバア?」

(キアラ?)

 

「なにか、なにかとても大事な名前のはずなのに、思い出せない。思い出そうとすると、頭痛がして邪魔してくる。もどかしいデス……」

 

 それからまた「うう」と呻くキアラに、スバルとるしあは顔を見合わせました。

 




 スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
 あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。
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