勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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 陽が沈み始めた頃、スバルたちは占い師に手渡された地図を頼りに宿屋へ行きました。

 そこはコミーノの町から少し離れたところに一軒ポツンとある宿で、玄関の横に「タイガ亭」と書かれた大きな看板が立てかけてあります。

 スバルたちが玄関度を開けるとチリンチリンと鈴のような音が鳴りました。

 すると、ぱたぱたと奥から誰かがやってきます。

 

 墨汁を垂らしたような黒い髪がよく似合うオオカミの獣耳をした女性です。

 彼女は前髪端の一房だけアクセントをつけて紅色に染めており、後ろ髪は腰元まで伸ばされています。

 そのふさふさした髪と尻尾を左右に揺らし走りながら「はいはいはーい! いらっしゃーい!」と黄土色の目を細め、スバルたちを出迎えます。

 

「ようこそタイガ亭へ。うちはこの宿を経営してます大神ミオと申します」

 

 言ってぺこりと彼女、ミオは頭を下げます。

 

「シュ、シュバアアア!」

(マ、ママあああ!)

 

 するといきなりスバルが叫びだし、吸い寄せられるようにヨチヨチとミオに近づいていきました。

 

「スバル先輩!」

 

 るしあは慌ててスバルを抱きかかえます。

 そして「シュバア、シュバア!」(ママあ、ママあ!)と壊れたように繰り返すスバルを片手で抱え直してから、もう片方の手でパシン! パシン! とビンタしました。

 

「しっかりしてくださいスバル先輩! 目を覚まして!」

 

「シュバ! シュ、シュバルバシュバルバシュババ……?」

(はっ! ス、スバルはいったい何を……?)

 

 正気に戻った様子のスバルにホッと胸を撫で下ろしてから、るしあはキッとミオを睨みつけます。

 

「一体どういうつもりですか!」

 

「いや、うちは何もしてないんだけど」

 

「とぼけないでください! 何もしてないのなら、どうしてあなたを見た途端スバル先輩がおぎゃり出してママあママあし出したんですか! るしあなんてずーっと屋敷で一緒にいたのに、一度だってそんなことしてくれなかったのに!」

 

「わ、わかんないよ。本当に何もしてないし。大体ほら、うちら初対面じゃん?」

 

 ミオはるしあの嫉妬が混じった言いがかりに苦笑しながら弁明します。

 

「初対面?」

 

 るしあはジト目で彼女を見ました。

 

「あなた、もしかしてるしあたちを上手く欺いているつもりなのですか?」

 

 それから「はん!」と鼻で笑います。

 

「ミオさん、あなたあの占い師ですよね? 何が知り合いの経営してる宿屋ですか、自分がその知り合いになりすましたりして。ちょっと声色を変えてローブを脱げばわかりっこないとでも思ったのですか? とんだお笑い種です」

 

 敵意を剥きだしてくるるしあに、ミオは「いやあ、参ったなあ」とやはり苦笑します。

 

「確かにそうだね、うん、初対面って言ったのは嘘だよ。でも全部が全部嘘ってわけじゃないんだ」

 

「ほう」

 

「かの大空スバルが弱いだなんて受け取られかねないような失言しちゃったのは、うちも本当に失礼だったって反省したんよ。それでお詫びに知り合いの宿屋を教えたはいいけど、うっかりその知り合いが明日まで宿屋を閉めて外泊するって言ってたのを忘れてたわけ。でももう地図まで描いて渡しちゃったしさ、今回はうちが知り合いに代わってあなた方をお出迎えしようって思って待ってたんだよ」

 

「本当ですかね」

 

 なおもいぶかしむるしあに「これは信じてよー」とミオが頼み込みます。

 

「シュバア」

(るしあ)

 

 スバルがるしあに話しかけます。

 

「シュババシュバルルバシュバシュバルルバ。シュババシュシュバシュバルルシュババシュバルルシュバルバ、シュバアシュバシュシュバシュババシュバルルシュバシュバルシュバルバシュバルルバシュバシュバルルシュバシュバルシュバルルシュバシュバルバシュバ」

(別にいいじゃんか、細かいことは。ようはタダで泊まらせてくれるってことなんだし、ミオがアの占い師だっていうのなら何度も行き先を教えてもらって助けられてる分むしろ安心シュバ)

 

 るしあは「しかしスバル先輩」と引き下がりません。

 

「この獣人、スバル先輩にチャーム魔法のような妙な妖術を使ってきたのかもしれないんですよ」

 

「シュバ、シュババシュバルバシュバルルバ、シュバ、シュバシュバルバシュバルルバシュバルルシュババシュバルバ」

(いや、あれはそういうのじゃなくて、その、ついスバルの本能が呼び覚まされたというか)

 

「本能?」

 

 るしあが首を傾げます。

 

「シュババ、シュバ、……シュバア」

(だから、その、……ほらあ)

 

 スバルはもじもじしはじめます。

 

「シュバア、バ。シュバ? シュバルシュバ?」

(胸が、さ。な? わかるだろ?)

 

「!」

 

 スバルに言われて、るしあはすごい勢いでミオの方へ振り向きました。

 

「え? な、なに? なんなの?」

 

 びっくりするミオですが、るしあの視線の先は彼女の顔よりやや下方にある胸、そのふくよかに膨らんだ大きなおっぱいです。

 

「ル、るしあだって!」

 

 るしあはスバルに向き直りました。

 

「るしあだってちゃんとあるでしょお! ほらあ!」

 

 それから彼女はスバルの方へ精一杯胸を張ります。

 あまりに一生懸命胸元を突き出しているので爪先立ちになってしまっていますが、本人は気づいていません。

 

「シューバシュバシュバシュバ」

(※スバルの笑い声です)

 

 するとスバルがいきなり声を上げて笑いだしました。

 

「シュバシュバシュバア、シュババシュバルバシュバルルバシュバルシュバルバシュバルルシュババ?」

(おいおいるしあ、それであるってなったら全部ありになっちまうだろ?)

 

「ううう、ひどい……」

 

 スバルの言葉にるしあはじんわり目を潤ませます。

 

「シュバ」

(あ)

 

 調子に乗りすぎたことに気づいたスバルは「シュ、シュババシュバア」(あ、あのさるしあ)と右翼を彼女に伸ばして謝ろうとしますが、その前にパシン! と弾かれてしまいます。

 

「バカあ! ああああん!」

 

 るしあはパアン! とスバルの頬に凄まじいビンタをしてから手近にあった部屋のドアを開けて中にはいり、バタン! と閉めて鍵をかけてしまいました。

 少ししてから「ああああん! ああああん!」と彼女の泣き叫ぶ声がしてきます。

 

「修羅場だねえ」

 

 ぼそりとミオは呟いてから「二号室チェックイン、と」とボードに挿まれた紙に何やら書き足しました。

 

「あの、すいマセン。どのお部屋をお借りしていいか、まだ教えてもらってなかったのに……」

 

 キアラがミオに謝ります。

 

「ん? あ、いいよいいよー、これはうちがただ個人的にどの部屋に誰がいるのかってメモしてるだけだから。さっきも言ったけど本当の宿屋の主人は今外泊中でいないからさ、あなたたちも一人一部屋好きなところ選んでよ」

 

 そう言ってくれるミオにスバルは一号室、キアラは三号室を選びます。

 二人ともるしあの部屋とは隣同士、しかもスバルは自分でドアを開け閉めできないので開けっ放しにしているためるしあの鳴き声がうるさいくらい響きますが、それでもできる限り離れない方がいいと思いそれらの部屋を選んだのでした。

 

 るしあの声による騒音状態はしばらく続きました。

 しかし、それからまた少し経つとるしあの泣き声は聞こえなくなりました。

 どうしたんだろうとスバルが思っていると、キイ、バタンと彼女の部屋の方でドアの空きしめする音がします。

 そしてひたひたと足音がします。

 気が付けばスバルの部屋の前にるしあが立っていました。

 るしあは目元を赤く腫らしながら枕を抱いています。

 それから彼女はベッドに座っているスバルの隣に腰を下ろし、枕をさりげなく傍らに置きました。

 そして寝転がったかと思うとスバルを抱きかかえてきて、そのまま無言でスバルの身体に顔を埋めてきます。

 スバルは黙って彼女の抱き枕にされてあげました。

 それからるしあは、まるでお気に入りのぬいぐるみを持ち歩くようにスバルを肌身離さず抱きかかえ、夕食、入浴、歯磨きを済ませます。

 そしてさも当然のようにスバルの部屋で一緒のベッドに入り、スバルを抱きかかえたまま眠りにつきました。

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

 深夜になります。

 外からたまにオオカミの遠吠えのような鳴き声が聞こえる以外しんと静まり返ったその時間帯に、わずかの音も立てない忍び足でタイガ亭の廊下を歩く人影が一つ。

 その人影はスバルがチェックインした一号室のドアの前までやってくるとレッグバッグに手を伸ばし、フォークを取り出します。

 そして音もなくドアを開け、真っ暗な部屋のなか、夜目に慣れた目をベッドで寝息を立てている布団のふくらみに向けます。

 人影はひたひたひたとベッドに近づきながらフォークを振るいます。

 フォークに現れたのは上級剣ソーセージのエビフライです。

 ベッドの前までやって来た人影は、そのエビフライをふりかざしました。

 

「そこまでシュバ」

 

「!」

 

 人影の背後からスバルの声。

 それからブン! とフォークが振るわれる音。

 直後、スバルが出したレジェンドソーセージ・ライトニングウィンナーの輝きが部屋中を明るくし、人影の人物を照らします。

 人影の人物、ミオの背中にスバルはライトニングウィンナーを突きつけました。

 

「そこに寝てるのはスバルじゃない、るしあだシュバ。剣士であるならソーセージを持たない者に剣を振るうことがどれだけ恥ずべきことかわかるだろ」

 

「いつからうちのこと、警戒していたの?」

 

 剣を突きつけられているにも関わらず、ミオは落ち着いたようで聞きます。

 

「ついさっきシュバ」

 

 スバルは答えました。

 

「ドアの向こうから一瞬だけ剣士の気配を感じた。だから急いで跳び起きて人間の姿に戻ったんだシュバ」

 

「なるほどねえ」

 

 独り言のように呟いてから、ミオは振り向きざまスバルに剣を振るいます。

 スバルはそれを受け止めてから後ろへ跳びました。

 

「なかなかやるシュバな」

 

「これでもチームのリーダー補佐を任されてる身だからね。なかなかやるぐらいには強くなくちゃいかんのよ」

 

 そう言ってからミオは大きく踏み込みます。

 

「だからあなたもうちに本当の実力を見せてみなさい、大空スバル!」

 

 そしてするどい一刀をスバルに振り下ろしました。

 

「そうしたいのはスバルも山々なんだけど、この部屋のなかでスバルが動き回るのはいろいろ壊してしまいそうで怖いシュバよ」

 

「そんなこと言っていられるのも今のうちよ!」

 

 苦笑いするスバルにミオが息つく暇なく斬りかかります。

 柔軟な筋肉を持つ獣人だからこその激しい連撃です。

 振り切ったと思ったらすぐまた次の一刀がやってきます。

 もしも人間であれば大振りで隙だらけな戦い方ですが、生まれながらに恵まれた身体能力を持つ獣人はある程度までその隙を補うことができるのです。

 仮にミオの相手が並の上級剣士であれば、息つく暇なく全力で斬りかかれ、しかも反撃する隙がないのですから絶望するしかなかったでしょう。

 しかし、今彼女の相手をしているのはレジェンド所有者の大空スバルです。

 

「いきなりどうしたシュバ」

 

 スバルはミオの連撃を防ぎながら彼女に話しかけました。

 

「まるで隙だらけシュバよ」

 

 しばらく受けに回っていたスバルは早くもミオの剣筋に慣れてきたようで、少しずつ攻勢に転じてきます。

 

「くっ!」

 

 そして気が付けば攻守逆転、スバルの猛攻をミオがひたすら受け止める防戦一方の展開となっていました。

 

「んー、……ん? んん! え! なにこれ!」

 

「スバルせんぱい、るしあさん! なんですかこの物音は!」

 

 ちょうどその時、剣を打ち合う音でるしあが目を覚まし、キアラが部屋に飛び込んできます。

 二人はミオと戦っているスバルを認めて「スバル先輩!」「スバルせんぱい!」と叫びました。

 

「二人とも大丈夫シュバ、もう終わらせるシュバだから」

 

「なにお!」

 

 スバルの勝利宣言にミオが吠えます。

 ミオは大きく剣を振りかざし、それをスバルに振り下ろそうとしました。

 

「だから隙だらけと言ってるシュバ!」

 

 しかしスバルはそんな彼女よりも早く剣を振るいました。

 ちょうど真上に振りかざされたミオのエビフライに、スバルのライトニングウィンナーが打ちかかります。

 パシン! と大きな音が響き、エビフライが弾き飛ばされてミオの手からフォークが離れます。

 その直後、彼女のフォークからエビフライが消えました。

 フォークは弾かれた勢いでくるくるくると宙を回転しながら落ちてきます。

 

「さあ、勝負はついたシュバ」

 

 スバルはミオの鼻先にライトニングウィンナーを突きつけました。

 

「どういうことなのか、説明してもらおうか?」

 

 スバルはミオに問いかけます。

 しかし、そう問いかけた直後に大変なことが起こりました。

 ちょうど三分が経ったのでしょう、ボン! という音と同時にスバルが煙に包まれて、アヒルの姿に戻ってしまったのです。

 部屋を照らしていたライトニングウィンナーも消えてしまったため、室内は真っ暗になります。

 

「スバル先輩!」

 

 るしあは大声で呼びかけました。

 一方、ドアのすぐ近くに立っていたキアラは手探りで電灯のスイッチを探り当て、それを押します。

 部屋に明かりがともります。

 

 そして、るしあとキアラは驚きの光景を目の当たりにしました。

 虹色フォークを足元に落としているアヒルとなったスバルと、ソーセージこそ出していないもののエビフライのフォークを右手に持ったミオが向き合っているという、先程とはまるで真逆の光景です。

 

「シュ、シュバルバ……」

(し、しまった……)

 

 スバルは己の失態を悔やみました。

 

 実際のところ、スバルたちのなかで現在戦闘可能なのはスバルだけです。

 というのもそもそもるしあは剣士ではないし、キアラは記憶を失ってしまい剣士として戦える状態ではないからです。

 そして一日三分しか戦えないスバルがその三分を使い切ってしまったこの現状、スバルたちにとってはまさに詰んだ状況でした。

 

「なるほど、これが大空スバルの実力ってわけね」

 

 ミオはそんなスバルを見下ろしながら口の端をゆがめます。

 

「やっぱり強いんじゃない」

 

 彼女は独り言を言いながら右手を動かしました。

 一方スバルはソーセージを振るわれるのかと思い「シュバ!」(くっ!)と目を閉じます。

 しかし、いつまで経っても痛みも衝撃もありません。

 

「大空スバル殿!」

 

 その代わり、ものすごい大声が彼女の正面から聞こえてきました。

 

「申し訳ございませんでしたあああ!」

 

「……シュバ?」

(……え?)

 

 ミオはフォークを振ってソーセージを出したのではなく、そのままレッグバッグに仕舞ったのでした。

 そして彼女は今、床に額をこすりつけてスバル土下座していました。

 




 スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
 あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。
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