勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「誠に申し訳ございませんでした!」
「シュ、シュババシュバ?」
(な、なんだシュバ?)
スバルは訳がわからず困惑します。
深夜スバルに襲いかかってきたミオは、彼女の勝利が確定した状況になったにもかかわらず急に土下座しはじめたのです。
「かの大空スバルの実力が本物かどうか確かめるために闇討ちをしかけた無礼、どうかお許しください! あなた様はやはり噂通りの実力の持ち主でした!」
ひたすら頭を下げるミオに、るしあは「どういうことなのか説明してください」と彼女を警戒しながらスバルを抱きかかえて問いかけます。
「はい、もちろん全てお話します」
ミオは話し始めました。
「実は、うちは白上フブキ率いるランキング4のチーム・ゲーマーズに所属する剣士です。ゲーマーズは獣人のみで構成されたチーム、リーダーの白上フブキはもちろんチームメンバー全員が何らかの種族の獣人なのです。そのため戦い方も獣人の高い身体能力に頼り切ったゴリ押しばかり、なまじフブキは獣人のなかでも群を抜いた剣の才を持つためそんな力任せの戦い方でチームをランキング4まで引っ張ってきてしまったのです」
「それの何がいけないのですか?」
首を傾げるるしあに「いけないのです!」とミオは声を荒らげます。
「フブキは本来ならトップランカーとなっていてもおかしくない実力を持っていながら、いや持っているからこそ、これまでずっと子供のような戦い方で順調にやってのけてしまった。だけれど今後はそんな戦い方で更なる高みへ上り詰めることなんて、できるはずがありません。なのにあの女ときたら、言うに事欠いて『なら自分より強いやつを連れてきてみろ』と大言し鍛錬までサボりだす始末。剣士として一番成長が期待できる年頃の戦乙女が、お山の大将気取りで堕落しはじめているのです。これではトップランカーを目指すどころか上位ランカーの地位まで危ぶまれる、そこで我らゲーマーズのチームメンバーは総出でもってフブキに一泡吹かせられる実力者を探していたんです」
「それでスバル先輩に目を付けたんですね」
確認するるしあに「まさに」と彼女は頷きます。
「大空スバルと言えば、五年前の失踪さえなければ今頃チーム・スバ友をトップランカーに導いていただろうと噂されるほどの剣士。きっとフブキを懲らしめてくれるだろうと思いました。しかし噂はあくまでも噂、その真偽を確かめず鵜呑みしてフブキの元へ連れて行き、返り討ちにされるようなことになれば彼女をさらに天狗にさせてしまいます。そこで我らゲーマーズの情報網によって特定できたレジェンド所有者と当たらせて実力を確かめようということになりまして」
「でもそのレジェンド所有者たちに勝てなかったと聞いたから、その実力が本物かどうかを自分自身で確かめようとした、ということですか?」
言葉を引き継ぐるしあに「まさにその通り」とミオが答えます。
「どうかこの通りです大空スバル殿、うちと一緒にゲーマーズの拠点の里『アスノミヤコ』に来ていただいて、井の中の蛙となっている小娘にきついお灸をすえていただけませんでしょうかあ!」
ミオはまた額を床に擦りつけました。
「どうしますかスバル先輩」
ぼそぼそとるしあがスバルに話しかけます。
「今は殊勝にあんなこと言ってますが実際スバル先輩は襲われてますし、どこまで信じていいか怪しいですよ。第一るしあたちにだって一刻も早く行くべきところがありますし、寄り道してる時じゃないとるしあは思うんです。それに彼女の言うゲーマーズって、要するにランキング競争の相手の一つなのですよね? こっちに利益があるわけでもなし、わざわざ敵に塩を送ることないんじゃないですか」
「シュババア、シュババシュバルバシュバシュババシュバルルシュバルシュババシュバア。シュバシュバルルシュバシュバルルシュバルバシュバルシュバルルバシュバルシュバルバ、シュバルルバシュババシュバルルシュバルバシュバルルバ。シュババシュバルバシュバルバシュバルルバシュバルバシュバルルバシュババシュバシュバルバシュバルバシュバルバシュバシュバシュバルル。シュバシュバルバシュバシュバルバシュバル。シュババシュバアバシュバルバシュバシュバルバシュバルルシュバルシュババ」
(いやまあ、そんな利害の良し悪しで考えなくていいぞるしあ。正々堂々お互いベストを尽くす戦いを望むことこそ、ソーセージ道を準ずる剣士の精神だ。それに今までレジェンド所有者の居場所へ導いてくれたのを思えば助けてやりたいって気持ちもある。だが確かにタイミングが悪い。今はキアラの記憶を取り戻す方を優先したいシュバな)
スバルの返答にるしあは頷きます。
それから彼女は土下座しているミオの方へ向き直り「あの、申し訳ないのですが」と断ろうとしました。
「アヒルの呪いを解くためにすべてのレジェンド所有者を探しているのだとか!」
しかしるしあの口にする「申し訳」あたりで、ミオがそれを遮るように声を張り上げます。
「我らがリーダー・白上フブキもレジェンドソーセージを所有する十二人のうちの一人です! そのことを踏まえたうえで、どうかうちの願いを聞き入れていただけませんでしょうか!」
なにとぞ! と頭を下げる彼女に、スバルとるしあは顔を見合わせました。
◇ ◇ ◇
タイガ亭で一泊した翌日、スバルたちは大きな猫に乗るミオに案内されるままゲーマーズの拠点、アスノミヤコへ向かいました。
さすが獣人たちが本拠地に選ぶ場所、アスノミヤコの周囲はるしあの屋敷周辺以上の深い森林で覆われています。
その森林地帯の中心部に様々な獣人たちの生活する集落の住まいがあるのですが、それらは石や木などの自然の材料をそのまま活用して組み立てられています。
「さて、皆さんはどこかへ向かう途中だと言うしうちも早くフブキと戦っていただきたいと思っているのですが、煩わしいことに我らゲーマーズにはリーダーと戦うための手続きというものがあります」
「手続き?」
聞き返するしあに「はい」とミオは頷きました。
「ゲーマーズにはフブキが特に信頼を置き片腕と称する剣士が二人降ります。その二人を倒した者にしかフブキに戦いを挑むことができないのです」
「大変じゃないですか!」
るしあが声を荒らげます。
「そんな凄腕の剣士を倒さなくてはいけないなんて! スバル先輩が人間に戻れるのは三分だけ、その二人を倒してから白上フブキの相手をするのはいくらスバル先輩でも無理ですよ!」
ここにきて「やっぱりるしあたちのこと騙してるんじゃないですか」と、るしあは再びミオのことを疑りはじめます。
しかしミオは「大丈夫大丈夫」と笑って答えました。
「その二人とは適当に戦ってくれるだけでいいんだよ、もちろん大空スバル以外が。キアラさん、レッグバッグを付けてるところを見るとあなたも剣士なのでしょう? 軽く二戦してくれないかな?」
「え? わたしデスか?」
急に話を振られたキアラは瞬きします。
「無茶言わないでください」
るしあがキアラの代わりに答えます。
「キアラは確かに腕の立つ剣士ですが、今は記憶を失っているんです。記憶を失って以後一度もソーセージを出したこともないんですから、いきなり戦えなんて無理ですよ」
「えー、別にいいと思うけどなー」
ミオはそう呟いてから、今度はるしあに「じゃああなたは?」と聞きます。
まさか自分に白羽の矢が来るとは思っていなかったのでしょう、るしあは喉の奥から「ヴェ?」とすごい声を出しました。
「あなたはって、るしあは剣士ですらないのですが」
「大丈夫大丈夫、うちのエビフライのフォーク貸してあげるから」
「いや、あの、そういう問題ではなくて」
るしあはごにょごにょと言ってから、諦めたように「はあ」とため息をつきます。
「仕方ないですね、ここはたまき君に戦ってもらいましょう」
「シュババ」
(マジか)
スバルが驚いたように聞き返します。
「それしかないでしょう」
どうにでもなれという顔でるしあが頷きました。
「だれ? たまき君って」
ミオが首を傾げながら尋ねてきます。
るしあはそんな彼女に「るしあの仲間の上級剣士です」と答えました。
◇ ◇ ◇
スバルたちはフェニックスに乗ったまましばらく進み集落の外れに出ます。
そこに一本の細い道があり、脇に「挑戦者の道」と書かれた野立ち看板が立てられています。
その道をまたしばらく進むと急に開けた場所に出るのですが、そこで行き止まりになっています。
「たのもー! たーのーもーおー!」
その場所に着くや否やミオが巨大な猫から降り、両手を口元に添えて大声を出しました。
彼女の声は森に響き渡ります。
それから十数秒立ちますが一向に返答らしきものはありません。
スバルたちは、とりあえず自分たちもフェニックスから降りておこうと地面に足をつけました。
ちょうどその時です。
「もぐもぐー」
「ゆびゆびー」
奥の茂みから二人の女性が現れました。
一人は薄紫色で硬そうな髪質のショートヘアに猫耳猫尻尾の女性です。
首に首輪のような黒いチョーカーをつけ、おにぎりのロゴが入った薄黒色の上着と白のズボンを着ています。
足は裸足のまま黄色いスニーカーの踵を踏みつぶして履いており、服は上下ともサイズを一回り大きいものを着ていますが、上下の服の間からへそを覗かせています。
彼女は深みのある紫色の目を細め、また「もぐもぐー」と口ずさみました。
一方、もう一人は犬耳犬尻尾の女性です。
明るい茶色の髪を三つ編みで二本に結び胸元まで垂らしています。
赤い首輪チョーカーと前髪を留めているホネ型の髪留めが特徴的で、ノースリーブの白いワンピースにレモン色のジャケットを羽織っています。
こちらの女性も好奇心旺盛そうなくりくりした茶色い目をスバルたちに向けながら「ゆびゆびー」と謎の言葉を繰り返しました。
「あれらが先ほど説明した二人の獣人剣士、猫の方が猫又おかゆ、犬の方が戌神ころねです」
ミオがスバルたちに二人を紹介します。
それが終わるタイミングで犬の方の獣人、戌神ころねが「いかにも」と頷きました。
「わ、われらが、しらかみふぶきをまもる、そうへきのけんし、だ。われらのむ、むらおさ、しらかみふぶきと、た、たたかいひ、……たたかいたく」
「あはは、ころさん咬んでる上にすごい棒読みだー。あとはぼくが喋っとくからもういいよー」
「ご、ごめんよおかゆー。緊張しちゃって、舌がよく回らなくてさー」
はいはい、と言ってから猫又おかゆがスバルたちに向き直ります。
「まあ以下略ということで」
「それはないよおかゆー」
「ええー、そお? もうそれでよくなーい?」
「よくないよー」
「でもさ、小学校の全校朝会とかで校長先生がどうでもいい話を延々と喋り続けるよりも、壇上にあがってすぐ『以下略!』って終わってくれたらみんな喜ぶと思うんだけどなー」
「そうかもしれないけど、とりま校長先生に謝ろうよ」
「あはは。ごめんなさーい、校長せんせー。もぐもぐ」
「口にものを入れたまま謝るんじゃありません!」
ころねとおかゆは二人でコントらしきことをし始めてしまいます。
「ちょっと!」
そんな二人にるしあが大声を上げました。
「なに二人で楽しそうにお喋りしてるんですか! るしあたちの相手をするんじゃないんですか!」
怒鳴るるしあに「ああそうだった、ごめんごめんー」とおかゆが謝ります。
「じゃあころさん、ぼくたちどっちからにする? じゃんけんで決める?」
「ころねから行くー」
「わかった」
ずかずかずかと、ころねが前に出てきます。
「さあ、そちらさんは誰が来るの?」
ゆびゆびー、と口ずさみながらころねが問いかけます。
「たまき君!」
るしあが手を前に突き出して叫びました。
するとぼこぼこと地面が盛り上がり、たまき君が地上に現れます。
「ふん」
それを見たころねが鼻で笑いました。
「なにかと思えばあんでっど」
「あの、ちょっとイントネーションがおかしいですよ? アンデッドです」
どうしても気になったるしあが指摘します。
「うるさあい!」
するところねが唐突に大声を張り上げました。
「いんとねーしょんのことを言うんじゃない!」
「ふふふふふ、どうやらあの子はころねの逆鱗に触れてしまったようだね」
ころねの後ろで腕を組んでいるおかゆが笑いだします。
「え?」
「この勝負、面白くなってきたよ」
おかゆは意味ありげに言ってから、ニヤリと口角を上げました。
スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。