勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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「ねえおかゆー、ころねお腹すいたよお」

 

 ふぶきがレジェンドソーセージ・ポイズンチョリソーを構えてスバルに吠えた時、それを眺めながらころねがおかゆに話しかけました。

 

「ころさん、おにぎりでよかったら食べるー?」

 

 どこからかおかゆがおにぎりを取り出します。

 

「あ、食べる食べるー」

 

 ころねはそれを受け取ってかぶりつきました。

 

「ねえおかゆー。唐突なんだけどさあ、ころねたちフブキちゃんの片腕やってんじゃん。でも役職手当が5ソセレってちょっと少なくない? もうちょっと上げてくんないかなあ」

 

「……あのねころさん、今まで黙ってたけど、実はぼく5ソセレじゃないんだ」

 

「え、ま、待って。それってどういうこと?」

 

「わからない?」

 

「わからないよー」

 

「それが5ソセレの理由だよ」

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

「たあ!」

 

 フブキがポイズンチョリソーを振るいます。

 スバルはそれを後ろに跳んでかわします。

 するとフブキは素早く剣を引き戻し、今度は大きく踏み込んで突きを繰り出しました。

 スバルはライトニングウィンナーでその鋭い一閃を弾き返します。

 

「くっ!」

 

 フブキは弾かれた剣の軌道を力技で修正し、スバルに攻撃の隙を与えないよう斬りかかります。

 

 なるほど、とスバルは思いました。

 フブキの戦い方はタイガ亭でスバルに襲いかかってきたミオとまるで同じでした。

 剣速も剣の重みも瞬発力も、チームリーダーだけあってミオより数段上であるものの、切り返し方や追撃の仕方が驚くほどにそっくりです。

 そのため初めて戦う相手にもかかわらず、スバルはすぐに彼女の動きに慣れてしまいました。

 

 当初こそ防戦一方に思えたスバルでしたが、フブキが剣を振り切ったあとに見せるわずかな隙にちょっかいを出すように攻撃を仕掛けていき、それを何度か繰り返していくうちにフブキのペースが崩れていきます。

 スバルはさらに続けていきます。

 気づけば攻勢の主導権がフブキからスバルに入れ替わっています。

 あっという間に、フブキの方こそ防戦一方の状況となっていました。

 

 スバルの攻撃を防ぎながら、フブキは再び攻勢に転じる機会をうかがいます。

 しかし戦い方に関して、彼女よりもスバルの方が一枚も二枚も上手でした。

 力押しで隙だらけの攻撃を獣人の身体能力を頼みに戦うスタイルのフブキは、スバルの繰り出すフェイントが見抜けないのです。

 

 自分であれば振り切るだろうと思えるところで「しめた隙あり!」と思い手を出したら、待ってましたと言わんばかりに弾かれて危うく斬られそうになったのも一度や二度ではありません。

 それでもどうにか持ち前の身体能力で食らいつき打ち合いを続けるフブキでしたが、剣を受け止めることだけに手いっぱいになってしまったところで足払いを受け盛大に転んでしまいます。

 フブキはすかさず身体を支えようと地面にソーセージを突き立てますが、そこでスバルがライトニングウィンナーを彼女の鼻先に突きつけました。

 

「あ、あう」

 

 戦意の喪失を示すように白狐の耳と尻尾が垂れ下がります。

 それからフブキの持つポイズンチョリソーのソーセージが消え、彼女の手に虹色のフォークだけが残ります。

 

「あ」

 

 すると直後るしあのバッグのなかから一瞬フッと光が漏れました。

 もしやと思いクソザコの書を取り出しページをめくったるしあは「スバル先輩!」とスバルに呼びかけながら駆け寄ります。

 

「クソザコの書に新しい名前が!」

 

「なに!」

 

 ライトニングウィンナーを消してから、スバルもるしあが開いているクソザコの書を見ます。

 ラミィのサインが書かれた次のページに、パソコンで打ち込まれ印刷されたようなフォントで「白上フブキ」と名前が書きこまれていました。

 

「やったあ!」

 

 叫んだ直後、スバルはボンという音と共に白煙に包まれてアヒルの姿に戻ります。

 

「ううう、負けたー」

 

 一方フブキは尻もちついて項垂れながら、ため息をつくように呟きます。

 

「これでわかった? フブキ」

 

 そんな彼女の前にミオがずいっと出てきました。

 

「ポテンシャルだけで勝てるのは上級剣士まで、それ以上が相手だとちゃんとソーセージと向き合った上で剣を持たないと通用しないって」

 

「ミオお」

 

「スバルやみんなもありがとうね。やっぱりあなたたちに頼んでよかったよ」

 

「ううう」

 

 自分たちのチームリーダーが負けた直後だというのにミオは慰めるどころかその敵に礼など言っている、フブキは面白くなさそうに「ふん」と鼻を鳴らしました。

 

「あーあ、さすが激戦の時代にランキング5まで駆け上がったチームのリーダー様はお強いお強い、いっそのことゲーマーズをスバ友の傘下に入れてもらおうかしらね」

 

 そう口にするフブキにミオが振り返り、「フブキ」と言って睨みつけます。

 

「そういうことにならないよう強くなってほしくて、うちがどれほど骨を折ったことか。スバルたちも他に行くところがあるにもかかわらず無理言って来てくれてるんだから、バカなこと言わないで」

 

 口調を強めるミオに、フブキは怯えたように「あ、あう、ごめんよー」と謝ります。

 しかしフブキはちらりとスバルの方を見て、

 

「でも本当に強いんだな、あんなアヒルなのに」

 

 と、ぼそっと呟きました。

 そんな彼女にスバルが「シュバ」(おい)と不服そうに突っ込みます。

 ちょうどその時でした。

 

「ふふふ。それは大空スバルが強いんじゃなくて、あなたが単に弱いだけじゃない?」

 

 奥の茂みから聞き覚えのある声がしました。

 

「シュバシュババ、シュババ」

(この声は、まさか)

 

「はあちゃまですか!」

 

 スバルたちは声のした茂みから離れます。

 フブキ、ミオ、ころね、おかゆの四人もただならぬ雰囲気を察し距離を取りました。

 

茂みががさがさと音をたて、そこから誰かが姿を現します。

 

「ブブー」

 

 それははあちゃまではありませんでした。

 彼女のチームメンバーであるハートンです。

 

「なんだ、ハートンですか」

 

 るしあはホッと胸を撫で下ろしました。

 

「シュバ、シュババシュバルルババシュバシュバルルシュバ」

(いや、安心するのはまだ早いシュバ)

 

 そんな彼女にスバルが注意します。

 

「シュバシュバババシュバルルシュバシュバルババ、シュバルルバシュバルバシュバルルバシュバルルシュバルババ。シュババシュバルバ」

(はあちゃまに知らされたら厄介だし、ハートンはメンバー全員が上級剣士だ。油断するな)

 

「そ、そうですね」

 

「よく状況が呑み込めないんだけど、あれってハートンだよね? 数年前に剣士を引退した赤井はあと率いるチームメンバーの」

 

 尋ねるミオに「はい」とるしあが頷きます。

 

「話が長くなってしまうので詳しいことはお話しできませんが、るしあたちはその赤井はあとの別人格に狙われているんです」

 

「何か恨みを買うようなことでもしたの? 元トップランカー相手に怖いもの知らずだね」

 

 苦笑しながら聞くミオに「そうじゃないんです」とるしあが返します。

 

「赤井はあとの別人格、はあちゃまがスバル先輩のライトニングウィンナーのスキルを手に入れたくて付け回しているんです。彼女との勝負に負けたレジェンド所有者はそのスキルを奪われ、レジェンドソーセージ自体も使えなくなってしまうんです」

 

「え、それって、もしかして白上のポイズンチョリソーも?」

 

 さっきまで他人事のように聞いていたフブキが話に割り込みます。

 るしあは「もちろんです」と答えました。

 

「はあちゃまの目的はすべてのレジェンドソーセージのスキルを手に入れること。スバル先輩もそうですが、あなたもはあちゃまがやってくる前に早く逃げなくてはいけません」

 

「はん! 誰が逃げるものか! 白上が返り討ちにしてやる!」

 

 こぶしを握り締めてフブキが言い返します。

 

「シュバルバ」

(やめとけ)

 

「やめなさいって。さっきぼこぼこにされた後でよくそんなこと言えるわね」

 

 奇しくもスバルと同じことを口にしたミオは「まあ、事情はよく分かったよ」と頷き、ハートンの方へ向き直ります。

 

「とにかくこの子はこのまま帰すわけにはいかない。しばらく気絶していてもらおうかな」

 

 言いながら、ミオはレッグバッグからフォークを抜き取りブン! と振るいます。

 彼女のフォークに上級剣エビフライが突き刺さります。

 一方ハートンは慌ててフォークを取り出そうとしますが、ミオは彼にそんな暇すら与えぬ速さで大きく踏み込み剣を振り下ろそうとします。

 しかし、

 

「やれるものならやってみたら?」

 

 その時ハートンの着ぐるみの中から、さきほど彼が発した「ブブー」とはまるで異なった声が聞こえてきました。

 直後、ハートンの首回りを縫い付けている赤い紐が不気味に光り出します。

 シュルシュルと衣擦れするような音と共に、その赤い紐がひとりでに解けていきます。

 すべて解き終えるやパカッと首回りの部分が開きます。

 着ぐるみの中に人はおらず、沼のように濁り黒ずんだ闇で満たされています。

 しかし、その闇の沼の中からいきなりぬっと細く白い腕が突き出てきました。

 闇の沼で隠れていた腕以外の部分も、這い出るように順次着ぐるみから抜け出てきます。

 

「はあちゃまっちゃまー」

 

 そうしてスバルたちの前に姿を現したのは金髪碧眼の長髪に紺色のジャンパースカートを着た女性、はあちゃまでした。

 一方ハートンは、さっきまで確かにいたはずの着ぐるみを着込んでいた彼女のチームメンバーの一人は、まるで初めからなかったかのように消えてしまっています。

 ただその着ぐるみだけが、綿の抜けたぬいぐるみのごとく地面に折りたたまれれるようにして彼女の足元に落ちました。

 

「ふふふ、すごく良いタイミングでのはあちゃまワープ。ありがとんハートン」

 

 言いながらはあちゃまは持ち主がいなくなったハートンの着ぐるみを踏みつけ、それを横に蹴り除けました。

 

「……」

 

 はあちゃまを見たキアラが、そっとるしあの手を掴んできます。

 るしあはその手を握り返してあげました。

 

「あら」

 

 はあちゃまがそんなキアラに気づいて目を向けます。

 

「あなた、生きていたのね。さすがスバ友、ゴキブリ並みにしぶとい生命力だこと」

 

 はあちゃまに話しかけられたキアラが額に手を当てて「うう」と苦しそうに呻きます。

 るしあはキアラの頭を覆うように抱きしめながらはあちゃまを睨みつけました。

 

「そんなに警戒しなくてもいいわよ。しゃしゃり出てさえ来なければ、わたしは何もしないんだから」

 

 言ってから、はあちゃまはスバルとフブキのほうを見てにやりと笑いかけました。

 

「ねえ? 二人とも」

 

「シュバ!」

(くっ!)

 

 すでに人間に戻れる三分間を使ってしまったスバルは、はあちゃまから距離を取ろうと下がります。

 

「面白い」

 

 一方、そんなスバルと対照的にフブキはずいっと前へ進み出ます。

 はあちゃまに笑い返しレッグバッグに手を伸ばします。

 

「白上が相手になってやろう!」

 

 そう叫んで、フブキが虹色フォークを掴んだ時でした。

 

「タイガ!」

 

 ミオが声を張り上げました。

 するとミオが乗ってきた巨大な猫がフブキの側までやってきて、彼女の襟元を咥えてひょいと背中へ放り投げます。

 

「ひゃあ!」

 

 フブキはごろんと転がりながら猫の背に乗せられます。

 猫は「にゃあ」とミオに向かって鳴きました。

 ミオは頷き返します。

 それからミオは「ころね! おかゆ!」と二人に呼びかけました。

 

「フブキとスバルたちをお願い!」

 

「おーけー」

 

「任せてよおミオしゃ」

 

 いつの間にかフェニックスに乗っていた二人が答えます。

 

「さあ、乗って乗って」

 

 我が物顔でおかゆがるしあに手を伸ばします。

 

「いや、フェニックスはるしあたちの仲間なのですが」

 

 一応ツッコんでからるしあはスバルを抱いておかゆの手を取り、引き上げてもらいます。

 一方キアラはころねに引っ張り上げてもらいすでにフェニックスに騎乗しているのですが、ちらりとその場に一人残るミオに目をやりました。

 

「あ、あの、おまえは?」

 

「あー、うちのことはいいからいいから」

 

 ミオが笑って答えます。

 

「よくないわ」

 

 はあちゃまがそれに返します。

 

「逃がすわけないでしょう?」

 

 彼女がそう言うと草陰からハートンたちが飛び出してきます。

 

「行って! 早く!」

 

 叫んでからミオはエビフライを手に、はあちゃまに飛びかかりました。

 はあちゃまはそれをいなしてすぐスバルたちを追いかけるつもりだったのでしょう、走りながらクリスタルサビロイでエビフライを弾き返そうとします。

 しかしミオは弾かれた剣を即座に斬り返してはあちゃまの急所を狙ってきたので、仕方なく足を止めて防ぎました。

 

「ハートン!」

 

 はあちゃまが叫びます。

 ハートンは慌ててフォークを取り出そうとします。

 しかしすでに駆け出すフェニックスに突破口を開かれ、フブキを乗せたタイガにも逃げられてしまいます。

 

「ちっ」

 

 はあちゃまは舌打ちしました。

 それからミオに向き直り「やってくれたわねえ」と恨み言を言います。

 

「これで二度目よ。二度もこんな逃げられ方をされるなんて、本当に屈辱的だわ」

 

「それはご愁傷様」

 

 はあちゃまはミオの返しに余程イラついたのでしょう、眦がピクンと上がります。

 しかしすぐに笑顔で取り繕って「そのセリフはそのままあなたにお返しするわ」と口にしました。

 

「うちに?」

 

 首を傾げるミオに「ええ」と彼女は頷きました。

 

「チームリーダーに良いように利用された挙句こうして最後は身代わりとなって死んでいく、あなたのようにチームに沼った無知な剣士を見ると私は胸が痛むの。気の毒でならないわ」

 

「気の毒? うちが?」

 

 聞き返してから、ミオは「ふふ」と含み笑いをもらします。

 

「何がおかしいの?」

 

 はあちゃまが眉を顰めました。

 

「ううん、おかしくはないよ」

 

 ミオはそんな彼女に首を振りながら答えます。

 

「ただ、あなたは推しに夢中になったことがないんだと思ってさ」

 

「推しに夢中?」

 

 今度は「ふん」とはあちゃまが鼻で笑い返しました。

 

「あなたたちが推しだのなんだの言って崇拝してるリーダーたちが、あなたたちのことを一体どう思っているのか教えてあげましょうか? 自分の名をホロ・デ・ソーセージ大陸中に轟かせるために延々と回り続けてくれる都合のいい歯車、推しだのなんだの騒いで自分の目的達成のために勝手に盛り上げってくれるありがたい踏み台、要はそんなとこよ」

 

「悲しい人だね、うちらの繋がりをそんなふうにしか理解できないなんて」

 

 ミオはため息をついて続けます。

 

「歯車と言ってもらって構わない、でももっと言えばうちらはリーダーの身体の一部であり血肉、ゆえに体内で血液が循環するのはごく当たり前のこと。うちらはリーダーと喜怒哀楽を共有し同じ夢を抱いた同志の集まり、リーダーはそんなうちらの夢を全部受け止め、この大陸に実現してくれようとしているのさ。リーダーがあってのうちらだしうちらがあってのリーダー、リーダーの目的それすなわちうちらみんなの目的。だからこそ喜んでこの身を捧げることができるんだよ!」

 

 そう言い終えてから、ミオは静かに剣を正道に構えました。

 




 スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
 あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。
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