勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

71 / 183
71羽

 スバルたちが寝てからどれくらい時間が経ったでしょう。

 

「ねえ起きて。起きてって。ねえ」

 

 女性の声が聞こえます。

 スバルはゆっくりと目を開けました。

 

 外はすでに陽が沈んでいます。

 スバルたちの寝ていた建物のなかは、壁に取り付けられた燭台や蠟燭の火でうっすら灯っています。

 

「るしあ、どうしてメルの家で勝手に寝てるの? びっくりしたんだから」

 

 その声の主はるしあを揺すり起こそうとしているようでした。

 るしあは一向に目覚める気配がありません。

 それでも彼女は諦めずに「ねえ! ねえ!」と呼びかけ続けています。

 スバルは一度、目をぎゅっと閉じてから開けて彼女よく見てみました。

 

 レモン色の金髪をふんわりしたボブカットに切りそろえた、ひまわり色の目をした女性です。

 肩出しへそ出しのコルセットドレスにミニスカートという大胆な服装ですが、さらに大胆なのはその胸元です。

 健康的な白さと張りのある豊かな膨らみを谷間が見えるほど開けているのです。

 

「シュバア!」

(ママあ!)

 

 スバルは思わず跳び上がりました。

 直後、いくら揺すられ呼びかけられても一切起きなかったるしあがクワッと目を見開きます。

 そして「え? なに? なんなの?」とスバルに困惑している女性をドン! と押しのけて、「シュバア! シュバア!」(ママあ! ママあ!)と壊れた玩具のように繰り返しているスバルの頬にバチン! バチン! とビンタをかましました。

 

「スバル先輩! しっかりしてくださいスバル先輩!」

 

 叫びながらもう一発バチン! と叩いたところで「シュバ! シュバルバシュバルルシュババ……?」(はっ! スバルはいったい何を……?)とスバルが我に返りました。

 

「い、痛ったぁー、何するのよるしあ」

 

 一方るしあに突き飛ばされた女性は床に打った尻をさすりながらるしあを非難します。

 しかしるしあは彼女を無視して振り向こうともしません。

 

「ど、どうしたんデスか?」

 

 その騒ぎにキアラも目を覚ましました。

 

「ほんとだよー、久しぶりに帰ってきたと思ったら酷いじゃないるしあ」

 

 女性はまだ痛むのか、臀部をさすりながらゆっくりと立ち上がります。

 

「それはこっちのセリフよ!」

 

 するとるしあが彼女を睨みつけて怒鳴りました。

 

「どういうつもりメル! スバル先輩にチャームの魔法を使うなんて見境ないにも限度があるわ!」

 

「いや、メルは何もしてないんだけど」

 

 メルと呼ばれた少女はスバルの方を見ます。

 

「なんかそのアヒルさんがメルの胸を見てニヤニヤしながら近づいてきたのよ」

 

 るしあがスバルをぎろりと睨みます。

 スバルは目を泳がせながら「シューバシュバシュバ」(※スバルの笑い声です)とごまかすように笑いました。

 るしあは「ぐうう」と悔しそうに呻いてからスバルを抱きかかえます。

 

「スバル先輩、騙されないでください!」

 

 そしてスバルに言い聞かせるように、メルを指さしながら喋り出しました。

 

「彼女の名前は夜空メル、純情そうな言動をしていますが服の露出度から察しが付く通り、男あさりのたぶらかしヴァンパイア! ありとあらゆる名所をナンパスポットや変質者出没場所に塗り替えた挙句、公共の場出禁をくらったとんでもないBANパイアなんです!」

 

「ちょっ、変なこと言わないでよ! メルは一度だって男あさりなんかしたことないし、したくもないよ! ただ出かけるたびにナンパされたり痴漢にあったりしてるだけで」

 

「嘘つくな! そんなことで出禁はくらわねえ!」

 

「くらったんだから仕方ないじゃん! メルだって訳が分からないよ! メル行きつけの喫茶店や公園がいつのまにかナンパスポットとか不審者出没場所になってて、『もううちには来ないでください』ってみんなから言われて、辛くて辛くて泣きたいくらいなのにるしあにまでそんな酷いこと言われて。メルは被害者なんだよー」

 

「なーにが被害者よ! そんなに胸元開いてたら、そりゃ男も蛍光灯に群がる蛾のように吸い寄せられるわ! ちょっと膨らんでるからって谷間見せつけてんじゃねえよ!」

 

「ちょっと窪んでるからって僻まないでよ」

 

「窪んでねえよ!」

 

 るしあとメルはしばらくいがみ合います。

 しかしそれから少しして、メルが「はあ」とため息をつきました。

 

「でも、どうしてユー〇ューブも公共スポットもメルを出禁(BAN)にするの? メルが一体何をしたっていうのよ」

 

「胸を晒したわ。大罪よ」

 

「いいわよねるしあは。こういう悩みと無縁でいれて」

 

「はあ? え、あ、おお、ふ、ふーん。ま、まあ、そんなこと全然ないですけどねえ」

 

「シュバルルバ」

(強がんな)

 

 ぼそっと呟くスバルをるしあはまたぎろりと睨みつけます。

 そんなるしあにメルは苦笑しました。

 

「まあとにかく、帰ってくるなら帰ってくるで手紙の一つでも寄こしなさいよるしあ。いきなりメルの家の一階に寝袋並べて寝てるんだもん、それこそ変質者かと思ったわ」

 

「家? ふん、牢獄の間違いじゃないかしら」

 

「家だからね! お城をイメージして一生懸命建てたのに皆から牢獄牢獄って言われ続けて、人生ってなんでこんなにつらいのかしら」

 

 まあいいけど、とメルは諦めたように呟いてから続けます。

 

「とにかく、帰ってきたのならあやめとちょこ先生にも早く顔見せに行きなさいよ」

 

 言ってから、メルはふとスバルたちの方に目を向けます。

 そして今更気づいたように「あ」と口元に手をやりました。

 

「ごめんなさいメルったら、自己紹介もせずにベラベラと」

 

 恥ずかしがるメルに「いえ」とキアラが首を振ります。

 るしあが「あざとい」とぼそり呟きます。

 メルはそんなるしあを無視して「こほん」と咳払いしました。

 

「はじめまして、夜空メルと言います。るしあとは幼馴染で幼いころからの仲なんです。この子、ひどい癇癪持ちだったり独占欲が強かったりでいろいろ迷惑かけているでしょう? 一緒に冒険してくれてありがとうございます」

 

「いえいえこちらこそ、るしあさんにはいつも助けていただいて」

 

 メルとキアラがお互いペコペコしだします。

 るしあはメルに「母親みたいなことするな!」と怒鳴りました。

 

「はいはい」

 

 メルはそれを聞き流しました。

 

 スバル、キアラの紹介も終わり、四人は家から出ます。

 

「シュバ」

(うお)

 

 昼過ぎごろは無人だった通りが、陽の沈んだ現時刻、スバルやキアラからしても物珍しいさまざまな種族の人々が往来していました。

 コウモリのような羽を生やして口から牙を覗かせている人や、赤らんだ肌をして額から角を生やしている人々です。

 

「な、なんなんデスか? 彼らは」

 

「あれ? 吸血鬼や鬼をあまり見たことない? まあ希少種だしね」

 

「えっと、もしかしたら見たことあるかもしれないのデスが、覚えてなくて……」

 

「?」

 

 答えるキアラにメルが首を傾げます。

 しかし彼女が触れてほしくなさそうに苦笑しているのに気づいて、「まあ、そういうこともあるよね」と追及せずに本筋へ戻ります。

 

「ここオバケ村は魔女や鬼、吸血鬼といった希少種たちの集落なんだ。るしあやメルみたいに人と外見が変わらないのはともかく、やっぱり外の人から見れば純血に近い鬼や吸血鬼は珍しいんだね」

 

「あなたもるしあさんと同じで魔女なのデスか?」

 

 尋ねるキアラにメルは「ううん」と首を振ります。

 それから彼女は両人差し指で口元を広げ、尖った八重歯を見せました。

 

「メルは吸血鬼、羽こそないけどちゃんとしたヴァンパイアだよ」

 

「BANパイアでしょ」

 

「うるさい」

 

 そうこうするうちにスバルたちは「癒月診療所」と札が掛けられた白い建物の前までやってきます。

 

「ちょこせんせー、るしあが帰ってきたよー」

 

 表口のドアを開けながらメルが呼びかけます。

 

 入ってすぐ左手には無人の受付があり、奥に三つほど「診察室」とプレートがかかった個室があります。

 そのなかの一つから「はーい」と返事がありました。

 

「急患ですかー? 今はまだ時間外で受付の子がいないので、そのまま診察室1まで入って来てくださーい」

 

「違うってー。ちょこ先生、るしあが帰ってきたのー」

 

「えー?」

 

 少しして、診察室から女性が出てきました。

 

 青緑色の目をした金髪の女性です。

 その髪は腰元まで伸びています。

 頭には太い双角、肩にはコウモリのような羽を生やしておりどちらも真っ黒です。

 耳はエルフのように尖っており、胸が大きく、裏地が真っ赤な白衣を着ています。

 タイトな黒いミニスカートにガーターベルトが付けられており、ストッキングを吊るしています。

 そのミニスカートから悪魔が持つような、細く長く先端にハート型の突起が付いた尻尾が伸びており、ゆらゆらと揺れています。

 

「あー! るしあ様ー、お久しぶりー!」

 

 女性はるしあを認めて微笑みました。

 それから彼女はスバル、キアラにも目を向けます。

 

「あなた様方がるしあ様を連れてきてくれたの?」

 

「え? いや、まあ」

 

「ありがとー」

 

 女性はキアラの手を取ってギュッと握りました。

 

「わたくしはるしあ様の保護者で癒月ちょこと申します。わたくしはるしあ様のひいお婆様にあたる方に大変な御恩がありまして、その御恩を少しでもお返しできればと、身内を亡くしたるしあ様の面倒を幼いころより見させていただいていたのです。なのにある日突然るしあ様は離れの別荘に引きこもるようになり、ちょっとした反抗期なのだろうと思い待ってみるも帰ってこず手紙を送ってもなしのつぶて、どうしたものかと頭を悩ましていたのです。本当にありがとうございます」

 

 畳みかけるようなちょこの自己紹介に、キアラは「はあ」とか「へえ」とかとりあえず相槌を打ちます。

 ちょこは次にスバルの方へ向きました。

 そして先程のキアラにしたのと同じように翼を手に取って「わたくしのるしあ様が」と喋り出そうとします。

 

「……。ん?」

 

 しかし彼女はスバルの顔を見るなり唐突に言葉を止めて、目を顰めだしました。

 




 スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
 あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。