勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「なんなんですか、ちょこ先生。スバル先輩の顔をじっと見て」
スバルをじっと見つめたまま喋らなくなるちょこに、るしあが聞きます。
しかしちょこは答えず、スバルを見る目をさらに細めます。
それから彼女はスバルの額に手を当てたり、目を開かせてを覗き込んだり、口の中を見たりしだします。
「るしあ様、このアヒルですが」
「スバル先輩よ」
「スバル様ですが、とても疲労が溜まっています。早く休ませてあげた方がいいと思いますわ」
「え」
ちょこの言葉を聞いたるしあは心配そうにスバルを見ます。
「スバル先輩、そうなのですか?」
「シュバ、シュババ」
(いや、別に)
「つらいのを我慢しているのでしたら、遠慮しないで言ってください」
「シュバ、シュババシュバルルバシュバルバシュバルバ。シュバルシュババシュバルバシュバ」
(いや、だから本当になんともないって。遠慮なんかしてないシュバ)
そう答えてからスバルは、足を踏み鳴らしながら一蹴してお尻を振るスバル・ダンス(アヒルver)を披露してみせます。
「シュババ」
(ほらな)
「本当ですね。良かったです」
るしあは胸を撫で下ろしてからちょこに向き直りました。
「元気じゃない。びっくりさせないでよちょこ先生」
「あれー、おかしいなー。顔色が悪そうだと思ったんだけど」
「るしあですら見分けづらいアヒルのスバル先輩の顔色をどうしてちょこ先生が読み取れるのよ。適当なこと言わないで」
「ごめんごめん」
ちょこはるしあに謝りました。
「まあ、なんともないならよかったわ。えっと、こっちのアヒルの方がスバル様で、そちらの方は?」
ちょこがキアラの方に向きます。
「小鳥遊キアラデス」
キアラはぺこりと頭を下げました。
「スバル様、キアラ様、ようこそオバケ村へ。何もない小さな集落ですが楽しんでいってくださいね」
そう言ってから「それでは、わたしくはこれで」とちょこは診察室の方へ戻ろうとします。
そんな彼女を「待った!」とるしあが呼び止めました。
「なんでしょう?」
ちょこは足を止めて振り返ります。
「実は、るしあはある人に会いたくてこの村に戻ってきたの」
「えっ。そんなにわたくしに会いたくなって?」
嬉しそうに聞き返すちょこに「ある人にって言ってるでしょ」とるしあが否定します。
「ちょこ先生がるしあに送ってきた手紙のなかで『森カリオペがやってきた』って書いてきたのあったでしょ?」
「書きましたね」
「彼女はまだこの村にいるの?」
「もちろん」
ちょこは頷きます。
「いるというより、彼女はもうオバケ村の一員です。ものすごく強い剣士で、この村を守るあやめ様のチーム『百鬼組』の副リーダーについてもらっています」
「彼女は今どこに?」
「廃墟になっている中央の旧教会を覚えていますか? わたくしたちがここに住み着く以前からある、人間の町だったころの忌まわしき産物の。わたくしたちとしてはすぐにでも打ち壊してやりたいんだけど、人間たちの怨念に呪われるのが怖くてそのまま放置し続けているあれです。カリオペ様はどういうわけかそこがお気に入りでして、旧礼拝堂の中央に棺を設置してそこで寝起きしています。そうですね、わたくしたちよりもやや遅めに起きる彼女のことですから、ちょうど今くらいが起床する頃だと思います」
ちょこがそう言い終わるや否や、るしあは「そこへ向かいましょうスバル先輩、キアラ!」と二人に呼びかけます。
「るしあ様! まずあやめ様に戻った挨拶をしに行きなさい!」
「そんなの後でするわよ! カリオペと会った後でね!」
ちょこにそう返してから、るしあはスバルを抱きかかえながらキアラの手を引いて走り出しました。
◇ ◇ ◇
「シュバルバシュバアバシュバシュバシュババシュバルババ」
(地元じゃるしあもですます口調じゃないんだな)
「当たり前です」
スバルのからかいにるしあがしれっと答えた時、「待ってよー」と言ってメルが三人に追いつきます。
彼女たちは中央の旧教会へ向かいました。
旧教会の礼拝堂は天井部分に大きな穴が開いており、そこから教会内へ月明かりが差し込まれています。
中央に置かれている黒塗りされた棺が、その明かりを受けて輝いていました。
「カリー、もう夜だよー」
棺に向かってメルが呼びかけます。
すると直後、ガタン! と何かがぶつかったような音が聞こえます。
それからギギギ、ギギギギギと擦れる音がして、棺の蓋部分がスライドしていきました。
「うう、痛っつぅ……」
開かれた棺から女性がむくりと上体を起こします。
彼女は額をさすりながら、ゆっくりとそこから出てきました。
桃色の髪を腰元まで伸ばした、血色の目をした女性です。
頭には小振りな黒いティアラをつけており、そのティアラで押さえられた透明なヴェールがちょうど髪全体を包むように身体の背面を覆っています。
また彼女の着る黒色のチャイナドレスのような服には深いスリットが入っており、その切れ目から白い生足が覗き見えます。
襟元に牙が並んだデザインのマントを羽織りながら、彼女はおもむろにスバルたちの方へ向きました。
そして目を見開きます。
「……キアラ?」
彼女は速足でキアラに向かってきました。
「キア……、くそどり、どうしてここニ?」
いきなり詰め寄って来る女性に恐怖を感じたのでしょう、キアラは慌ててるしあの後ろに隠れました。
それを見た女性は少し寂しそうに目を伏せて「くそどり……」と呟きました。
「あなたが森カリオペですか?」
そんな彼女にるしあが尋ねます。
彼女はそこでようやくスバルとるしあに気が付いたようで、二人を見ました。
それからメルの方へ目をやって「彼女たちハ?」と尋ねます。
「こっちは潤羽るしあ。ほら、以前カリに話したでしょ? メルの幼馴染で癇癪持ち、傲慢で唯我独尊なくせにビッグドリームを掴むとか言って村を出ていくものの結局自分が井の中の蛙だったことを知っただけで糸屑すら掴めず大口叩いた手前村にも帰るに帰れずずっと離れの別荘で引きこもってる根暗マンサーがいるって。そのるしあよ」
「ああ、例ノ」
「ちょっと。誹謗中傷も甚だしいんだけど」
掴みかかろうとするるしあをひらりと避けてから、メルは続けます。
「そして、そのるしあをこの村に連れてきてくれたお友達の二人よ。ほらるしあ、自分でも自己紹介して」
後ろに回られたメルにドン、と背中を押されてるしあは前に出てきます。
先のメルの紹介を聞いた後だからでしょう、その顔はひどく赤面しています。
「あ、あのですね、潤羽るしあと言います。その、さっきメルが言っていたことは、まあ、あながち間違いじゃないと言えばそうなのですが、でもるしあは決してそんな無茶苦茶な人間ではなくてですね」
「わかっています」
カリオペは笑って返しました。
「察してやってください。メルモ久しぶりニあなたト会えて嬉しくもあり、気恥ずかしくモある心境なのです。そんな彼女ノちょっとした照れ隠しですよ。常日頃かラあなたノことハよく聞いています。代々続く由緒正しきネクロマンサー、潤羽一族ノ当主としテ決して恥じない才ある魔法使いだト」
「へええ、ふーん。なーんだ、そうならそうと素直に言えばいいのに、かわいいところあるじゃないメル」
「そ、そんなこと言った覚えないわ! 適当なこと言わないでよカリ!」
今度はメルが顔を赤くし始めます。
るしあはそんな彼女をしばらくニヤニヤ眺めてから「こほん」と咳払いしました。
「改めまして、代々続く由緒正しきネクロマンサーである潤羽一族の現当主、かつその実力を幼馴染の吸血鬼からも太鼓判押されている潤羽るしあです」
「よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
微笑み返してから、るしあは足元のスバルを抱きかかえます。
「そしてこちらは大空スバル先輩です。シュバシュバとしか喋れないので代わりにるしあが紹介させていただきます」
「シュバルル」
(よろしく)
「大空スバル?」
カリオペがじっとスバルを凝視します。
「まさかとハ思いますガ、あの大空スバル? ライトニングウィンナー使いノ?」
「はい。まさにその大空スバル先輩です」
「これハ光栄です」
カリオペはスバルに対して最敬礼をします。
スバルもできる限り首を垂らしてそれ相応の礼を返そうとしますが、傍目からはふざけているようにしか見えません。
頭を上げたカリオペに、最後となったキアラが「小鳥遊キアラです」とぼそぼそ口にして手早くお辞儀しました。
そんなキアラにカリオペは無言でお辞儀を返しました。
「私ノ名ハ森カリオペ。るしあ、そしてスバル。そこニいるくそどりトいつも仲良くしてくれて感謝します」
言ってから、カリオペは二人に向かってまた頭を下げます。
「やはり、あなたはキアラの知り合いなのですね?」
るしあの問いかけに「ああ」とカリオペは頷きました。
「私トくそどりハ」
「あ、あの!」
喋り出そうとするカリオペを遮って、キアラが非難がましく彼女を睨みつけます。
「さっきから、その、わたしのことをくそどりくそどりって、あなた失礼デスよ」
カリオペはちらりとだけそんなキアラを見返します。
しかし一切取り合うことなくるしあに向き直り「私トくそどりハ」と続けました。
「私トくそどりハ、共ニ地獄ノような腐った世界ヲ抜け出しこの大陸ヘ逃げてきた亡命ノ友です」
答えるカリオペに「そうだったのですね」と相槌を打ってから、るしあは「カリオペさん」と切り出します。
「実は、るしあたちはあなたに会いにこの村へ来たのです」
「私ニ?」
「はい」
るしあはカリオペに、キアラが何らかの原因で記憶を失ってしまったこと、そして彼女の記憶を取り戻す手がかりを求めてカリオペに会いに来たことを話しました。
「なるほど」
カリオペは納得したように頷きました。
「それハおそらく、ただ記憶ヲ失ったトいうことでハありません」
「え?」
「くそどりハその敵とノ戦いデ命ヲ落としたノでしょう」
「どういうことですか?」
「くそどりハ、そして私モ、ただノ人間でハないノです」
「?」
答えになっていないような答えをるしあに返してから、カリオペはキアラに向き直ります。
「本当ニ久しいなくそどり。ト言ってモ、今ノおまえハ私ノことヲ覚えていないだろうが」
「くそどりって言わないでください」
「こうしておまえト再び会う日ヲ、私ハずっと楽しみニしていた。二人デ酒でモ飲み交わし、互いニそれまデあったことヲ笑いながラ語り合えるト思っていたんだ」
「……」
「だガこうしていざ出会ってみれば、おまえハ私ノことヲ覚えていないト言う。正直少々寂しい気持ちだ。しかシな、私ハそのことガ嬉しくもあるんだ。くそどり、おまえモ己ノ身ヲ捧げられる主ニ出会えたトいうことガわかったノだかラ」
言ってから、カリオペはキアラの手を取ります。
「思い出せくそどり、我らガ故郷である魔界ノことヲ。私ト共ニ過ごした日々ヲ。そしテ大陸ニ降り立ったあの日、別れ際ニ交わした約束ヲ」
「まかい? やくそく?」
「我らハ約束したのだ、ホロ・デ・ソーセージ大陸デ敬愛する主を見つけたのち、再会ヲ果たそうト」
カリオペはキアラの手を取ったまま片膝をつき、その手の甲に口づけします。
直後、急にキアラはよろめいて額に手を当てました。
「……、カ……リ……?」
それから彼女は呻くようにカリオペの名前を口にします。
カリオペはそれに「ああ」と答えました。
「久しぶりだな、くそどり」
「あ、あれ? ここは?」
するとキアラは先程まで痛がっていたのがウソのように、憑き物が落ちたような顔で目を瞬かせてから、周りを見回しはじめます。
「カリ、スバルせんぱいに、るしあさん」
キアラは首を傾げました。
「ここはどこデスか? どうしてカリが?」
「キアラ! 記憶が戻ったのですね!」
るしあがキアラに抱きつきます。
「記憶?」
キアラは聞き返しました。
「おまえハずっと記憶ヲ失っていたんだくそどり。彼女たちハそんなおまえノ記憶ヲ取り戻すためニ、はるばるこの村ニいる私ヲ尋ねて来てくれたんだ」
説明するカリオペに「そうだったんデスか」とキアラは頷きます。
「はあちゃまを足止めした後、スバルせんぱいたちに上手く逃げていただいた頃合いでわたしも退くつもりでいたのデスが、死んでしまったのデスね」
「なにヲ落ち込む。名誉ノ負傷ならぬ名誉ノ負死だ」
「カリにも面倒をかけたよ」
「水臭いことヲ。私トおまえノ仲だろう」
答えてから、カリオペは落ち込んでいるキアラを抱きしめます。
その時でした。
穴の開いた天井から何かがカリオペの後方に音もなく落ちてきました。
それは人のようでした。
その人影は片手をブン! と振るい、手にしていたフォークにソーセージを取り付けます。
異様に長く青白い輝きを放つレジェンドソーセージ、クリスタルサビロイです。
「はあちゃま!」
彼女の姿を見たキアラが叫びました。
「なに!」
それを聞いたカリオペが後ろを振り返ります。
キアラは急いでレッグバッグに手を伸ばし、チュロスのフォークを取り出そうとします。
しかしそんなキアラの動作より早く、はあちゃまは駆け出しました。
「はあちゃまっちゃまー!」
はあちゃまはフォークの持ち手を両手で握り、キアラとカリオペ二人を串刺しにするようにクリスタルサビロイを突き出します。
「くそどり!」
カリオペがキアラを突き飛ばしました。
その勢いでキアラは尻もちをつきます。
直後、ぐさりと生々しい音が辺りに響き渡りました。
「カリ!」
キアラが叫びます。
キアラを突き飛ばしたカリオペの胸元に、はあちゃまの繰り出したクリスタルサビロイが貫通して突き刺さっていました。
スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。
登場人物・森カリオペの喋り言葉にカタカナが混じっているのは誤字ではありません。喋りが片言であることを表現するための仕様です。