勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「スバル先輩!」
動かなくなってしまったスバルを目にしたるしあが叫びます。
るしあはスバルの翼を急いで放し彼女を揺すりました。
しかしスバルは反応しません。
「何してくれるのよこの藪医者!」
るしあはキッとちょこを睨みつけました。
「なんでこと言うんですのるしあ様」
ちょこは心外だと言わんばかりにため息をつきます。
「ほら、よくご覧になって。スバル様の熱も下がっているでしょう?」
「下がったというか、頭から血の気が引いて真っ青になっているだけだと思いマスが」
るしあ、キアラ、カリオペの三人がちょこへ疑いのまなざしを向けます。
「な、なんですかあなたたち! その目は!」
ちょこは胸に手を当てて「いいですわ! ならこうしましょう!」と提案します。
「スバル様が目を覚ました時、彼女は完治していますわ! 絶対に! もしそうでなければ、わたくしのことを磔にでもなんでもなさったらよろしくてよ!」
「す、すまないちょこ先生」
「そうですよね、いただいてあまりに失礼な態度デシタ」
堂々と宣言するちょこにカリオペとキアラが謝ります。
さすがのるしあも「うう」と呻いて怯みます。
彼女は気絶しているスバルをちらりと見てからちょこ先生に向き直りました。
「ご、ごめんちょこ先生。スバル先輩を助けてくれて」
「いえいえ、わかってくれればいいんですわ」
彼女たちにちょこは微笑み返しました。
それがちょうどいい区切りだと思ったのでしょう、「うむ、まあ一件落着だな」とカリオペが頷きます。
それから彼女は「さて」と言って、気絶したスバルを抱きかかえました。
「これデ大空スバルハ一安心です。さあ、急いであやめ嬢ト合流しましょう」
「ちょっと待ってくださいカリオペ様。スバル様はしばらく安静にしていただけなければ困ります」
「心配無用だちょこ先生。そのようニ気ヲつけて運ぶことニする」
「いや、無理でしょう。ここへ駆けこんできたのを見る限りでは」
ちょこが苦笑しますがカリオペは聞く耳持たず診察室から廊下へ出ます。
「ちょっと待ってください」
今にもまた走りだそうとするカリオペをるしあが止めました。
「ずっと聞きたかったのですが、合流合流って何をそんなに急いでいるのですか。はあちゃまの目的はレジェンド所有者のみ、るしあたちが守らなくてはならないのはスバル先輩だけです。それなのに、安静にしておかなくてはいけないスバル先輩を担いでまでどうしてあやめと合流しなければならないのか、るしあにはさっぱりわかりません。せめてもう少しスバル先輩を休ませてあげてからにしていただけませんか?」
「何ヲ悠長なことヲ言っているのですか!」
カリオペが大声でるしあに返します。
「はあちゃまノ目的ハスバルさんのみ? 違います! なぜなラ、あやめ嬢こそ私ガレジェンドソーセージ・ゴーストベーコンヲ譲った現レジェンド所有者なのですから! 早くしなければ、はあちゃまニ襲われてしまうかもしれないじゃないですか!」
「あ、あやめがレジェンド所有者!」
衝撃の事実にるしあは思わずオウム返ししてしまいます。
「どうしてそれを早く言ってくれないんですかカリオペさん!」
「すまない! 私ハすでニ言ったつもりデいたのです! しかし流れから察してくれてモいいでハないですか!」
言い争いを始めるるしあとカリオペに「一体何を話しているのですか?」とちょこが聞きます。
「うるさい!」
「ちょこ先生にハ関係ないです!」
「あやめ様の名前が出てきて関係ないはないでしょ。いいから話しなさい」
二人は先程はあちゃまに襲われたこと、そのはあちゃまの目的はレジェンドソーセージを奪い取ることなのでゴーストベーコンの所有者であるあやめも危険な状況であるということをざっくりと彼女に説明します。
「なるほど。それは大変ですね」
言葉とは裏腹にちょこは随分落ち着いた様子です。
「でもカリオペ様、だからと言ってスバル様を雑に扱わないでください。ちょっとした揺れで先程の薬を吐き出してしまうと困るんですわ」
「しかし!」
「話は最後まで聞いてください。そこで、なのですが」
ちょこはカリオペからスバルを取って抱きかかえます。
「スバル様はわたくしが運びます。これなら何も問題ありません」
「おおお! なんて頼もしいんだちょこ先生!」
「さあ、早くあやめ様の元へ向かいましょう」
ちょこは受付の女性に事情を説明してから、スバルを抱えて走りだします。
カリオペ、キアラ、るしあも彼女に続きました。
◇ ◇ ◇
るしあたちが向かったのは村の入り口から最も離れた北側に位置する和風の大きな屋敷です。
屋敷の中に入っていくつかの襖を開けていくと開けた部屋に出ます。
その正面には木彫り細工を赤塗したような精巧な椅子が設置されており、そこに少女が座っています。
額から日本の細い角を生やした、長い白髪の鬼の少女です。
髪は両側でお団子に結んでおり、そのお団子を鈴のついた髪留めでとめています。
肌は驚くほど白く、それと対照的に墨色の着物を着ています。
彼女は頭の横に斜めに付けた鬼の仮面や茜色の目、また腰元に下げた黒柄と赤柄の二振りの旧刀が相まって、美しい中にも不気味な雰囲気を漂わせています。
「おおおお! あやめ! 大変なのです!」
部屋に入るなりカリオペは大声で女性に呼びかけました。
「そんなに慌ててどうした余」
女性はかわいらしく小首を傾げて尋ねます。
「ペーラ! ペラペーラ、ペラペーラペラペーラ!」
するとカリオペは急に聞き取れない言語を口にしだして、身振り手振りを交えながら必死に彼女へ何かを伝えようとしました。
「あははは」
それを見た女性は笑います。
「カリオペは興奮しすぎると魔界の言葉を喋るからなあ、余にはさっぱりわからん余」
「では同郷のわたしが通訳しマショウ」
そう言って前に出るキアラの頭にカリオペはチョップをかまします。
「あやめ、大変なのです!」
カリオペははやる気持ちを押さえながら、改めて彼女にはあちゃまのことを話しました。
「ふむ」
聞き終えた女性は神妙そうな顔で頷きます。
「なるほど。するとメルの言っていたことは本当だったんだなあ」
彼女がそう呟くと、椅子の物影から「でしょ?」と言ってメルが現れます。
「聞いてよみんなー。あやめったら『こんなボロボロの村に何を好んで押し入ってくる者がいる余』って笑ってさ、全然取り合ってくれなかったのよー」
「いやいや、悪かった。悪かった余。余が浅はかであった」
苦笑しながら女性はメルに謝ります。
それから彼女は「およ」とキアラの方に目を止めました。
「これはこれは、お客人がいらっしゃるよ。自己紹介せねばな」
「話を逸らさないで」
まだまだ引きずろうとするメルを無視して、「ようこそオバケ村へ」と女性はキアラに笑いかけます。
「余は百鬼あやめ、この村の村長でありチーム・百鬼組のリーダーでもある者余。メルから聞くにるしあが大変お世話になっているとか。感謝する余」
頭を下げるあやめに「いえいえこちらこそるしあさんにはお世話になりっぱなしで」とキアラはお辞儀を返します。
それから彼女も自己紹介を始めました。
「わたしは小鳥遊キアラ、そして今は気絶中ですがスバルせんぱいです」
「ふむ。まあせっかく来たんだから、ゆっくりしていってほしい余」
あやめはそう言って椅子に座りなおします。
そんな彼女に「あやめ!」とカリオペが大声を上げました。
「うお、なになに、びっくりした余」
「ゆっくりしていってほしいよ、じゃないですよ! あやめの剣ヲ狙う不届き者ガ現れたト言っているでしょうが!」
「ああ、そうだった。ごめん余」
「すぐニ逃げましょう!」
「いやいや待つ余カリオペ。逃げると言ってもどこへ行く余? おまえたちの話を聞くにまだその危険人物は余がレジェンド所有者であることを特定できていないようだし、そんなやつがこの村にうろついているかもしれないのであれば、なおさら余は村のみんなを残して離れるなんてできない余」
「しかし」
「強きは弱きを守るためにあるべし。ゆえに余はみんなを残してこの村を出るなんてことは絶対にしない余」
頑なに拒むあやめに「仕方ないですね」と言って、カリオペは諦めたようにため息をつきます。
「まあ確かニ、敵ハあやめガレジェンド所有者デあることニまだ気ガ付いていないようですし、下手ニ動くのモ良くないかもしれませんね」
「であろう余」
「ですガ、私ノそばからハ離れないデください」
「ふむ。それは容易いこと余」
カリオペが「離れるな」と言ったのはほどほど近くにいろという意味でしょうに、あやめは椅子から立ち上がって彼女にぴったり密着しはじめます。
そしてそんな彼女の行動は常日頃なのか、誰もツッコミをいれません。
「あやめ。るしあからもあなたに頼みたいことがあるの」
「ん? なに余?」
「実はるしあたちもレジェンド所有者を探していて、というのもスバル先輩のアヒルの呪いを解くためにすべてのレジェンド所有者の署名が必要なのよ。だからあやめの名前もこの本に書いてくれない?」
「どーれどれ」
あやめはるしあからクソザコの書を受け取りますが、その表紙を目にした途端に顔を顰めます。
それから疑るようにぺらぺらとページをめくっていき、何人も名前が連なっているのを認めてから「わかった余」と頷きました。
彼女は部屋を出てから筆ペンを持って戻ってきます。
達筆な字で「百鬼あやめ」と書いてからるしあにクソザコの書を返しました。
「ありがとう」
るしあはそれを受け取ってなかを確かめます。
あやめの名前が加わり、クソザコの書には七人分の名前が記されました。
「あやめ様」
ちょこがあやめに話しかけます。
「唐突ですが布団をお借りしてもよろしいですか? 気絶しているスバル様を横にしてあげたいんです」
「ああ、それなら余の使ってるのを貸してあげる余。ふふふ、低反発仕様のお気に入り余」
ちょっと待ってる余、と言ってあやめが取りに行こうとします。
ですが、そんな彼女をメルが「あ。いいよいいよ」と呼び止めました。
「あやめやみんなはいざという時のために万全の状態で待機しててよ。そういう雑事は剣士でない戦力外のメルがやるから」
「卑屈な言い方はやめる余。メルにはいつも助けられてる。あと別に体力を使うようなことでもないから気を使わなくても大丈夫余」
「卑屈じゃなくむしろ感謝の気持ちから言ってるの。それに、手伝えることがあるなら手伝いたいっていうのもメルの気持ちの問題だからさせてよ。今回はいざという時が来ても何もできそうにないからさ、こういう時くらい何かしておきたいの」
「そこまで言うならお願いする余。正面の襖を開けた部屋の押し入れに入ってると思う余」
「わかった」
メルは頷いてからスバルたちの入ってきた襖をあけて向こう側の部屋へ行きます。
かと思えば、数秒もしないうちに走って戻ってきました。
「随分早いわね、ていうか布団はどこよメル」
るしあが尋ねます。
というのもメルは手ぶらで戻ってきたからです。
しかし彼女は「そんな場合じゃない!」と答えてからカリオペの後ろへ隠れました。
その直後、メルがやってきたところの襖が蹴破られます。
そしてハートンたちが続々と部屋に入ってきて、最後にはあちゃまが踏み込んできます。
「なるほど」
あやめがそれを見て口を開きました。
「確かに、強いて言えば布団を敷いている場合ではないようだ余」
スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。