勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「ぐっ!」
はあちゃまは呻き声をあげて斬られた箇所を押さえました。
「言い忘れていた余」
一方あやめはゴーストベーコンを一振りして付いた血を払ってから、はあちゃまへ向き直ります。
「ゴーストベーコンには他のソーセージにない特徴があって、その形状をある程度まで自由に変えることができるん余。余の場合、ニメートルくらいまでは普通に引き延ばして戦えるから気を付けると良い余」
「……。今更のご忠告ありがとう」
はあちゃまは口元を引き締めます。
それからあやめに向かって飛びかかり、クリスタルサビロイを振り下ろそうとしました。
しかし彼女が剣を振るう前に、あやめはゴーストベーコンを二メートル半まで引き延ばし、振りかざしている状態のクリスタルサビロイを叩きました。
そんなことをされるとは思っていなかったのでしょう、はあちゃまは空中でバランスを崩してしまいます。
一方あやめはその隙を見逃さず、はあちゃまが着地する直前のタイミングで踏み込み軽く一太刀あびせます。
「……ッ」
はあちゃまは歯を食いしばって痛みに耐えます。
そしてせめて相打ちにと思ったのでしょう、クリスタルサビロイをしならせてあやめの身体を突き刺そうと狙っていきます。
ですがあやめはそれを重々警戒していたようで、一見チャンスに思えるはあちゃまへの追撃をやめていたことが幸いに、視界の端で捉えていたクリスタルサビロイをひらりとかわします。
それから距離を取るように後方へ大きく跳ねました。
その後も二人は剣を交えますが、時間が経とうとあやめの優位は変わりません。
あやめの体格は小柄であるので本来の得意な距離は近接なのでしょうが、かと言って120センチや200センチの中距離、長距離用ソーセージの扱いがぎこちないわけでもなく、打ち合いなど同程度にそつなくこなしながら様々な剣捌きを見せてくるので、はあちゃまとしてはなかなか彼女の剣筋の核心部分が掴みにくいのです。
一方であやめははあちゃまの剣筋を捉え始めている節があり、顔に余裕すら浮かび始めています。
とは言えこのまま何十何百と打ち合い続ければ、はあちゃまもあやめの動きが読めるようになり戦況も変わっていくでしょう。
しかしながら、そこまではあちゃまが凌ぎきれるかどうかは正直怪しい状況でした。
あやめが恐ろしいくらいに慎重なのです。
隙ありとしか思えない瞬間に気づいても決して深追いはせず、少しずつ少しずつ確実にダメージを与えていくのです。
流れを変える一撃を入れるなどして、どうにか自分のペースに持っていった状態で打ち合いたい今のはあちゃまにとって、それはこの上なく嫌な戦い方でした。
このまま確実にダメージが積み重なっていくと、おそらく剣筋を把握する前段階で力尽きてしまう。
そのことにはあちゃまは気づき始めていました。
あやめがゴーストベーコンを120センチに伸ばした状態で飛びかかります。
対するはあちゃまは剣を構えようともせず下ろしたままです。
避ける気配もありません。
「何をボケっとしている余!」
あやめは構わず剣を振り下ろそうとしました。
しかしそのタイミングで、はあちゃまは声を張り上げました。
「ハートン!」
直後、ハートンがはあちゃまとあやめの間に飛び込んできます。
「なんと」
不意の乱入に、あやめは思わず驚きの声をもらしました。
しかし彼女はすぐに対処します。
ゴーストベーコンを果物ナイフ程度に短く縮めてから空振りさせて、目の前に現れたハートンを蹴飛ばしてから自分も着地したのです。
一方はあちゃまは、そんな着地直後の彼女に向かってクリスタルサビロイを振るってきます。
あやめはとっさにはあちゃまの懐へ踏み込み潜り込むことで攻撃をかわし、ちょうど目の前に見えた彼女の左脇めがけてゴーストベーコンを横なぎに打ち込みました。
ぐさりと音がして剣が深く食い込みます。
これまでにないクリティカルヒットです。
はあちゃまは痛みで顔を歪ませ、口の端から血を伝わせました。
「やったあ!」
それを見たるしあが思わず喜びの声を上げます。
一方あやめは「ふむ」と頷いて、されど油断はせずに、はあちゃまが反撃に移らないうちに剣を引き抜き距離を取ろうとします。
「……、む?」
しかしどういうわけか、いくら引いても剣が抜けません。
「やっと、捕まえたわ」
「なに?」
声に気づき顔を上げたあやめは、はあちゃまが笑っていることに気づき首を傾げました。
それから視線をやや下に下げて、彼女の肘元に目をやってから正気を疑いました。
はあちゃまはゴーストベーコンを脇で挟み込み、ちょっとやそっとでは抜けないようにしていたのです。
「これでちょこまか動き回れないでしょ?」
「お、おまえ正気か余! レジェンドソーセージを傷口に押し付けるなんて、自分が何してるのかわかってるのか余!」
レジェンドソーセージにはそれぞれ何らかの属性があります。
長時間ソーセージに触れているだけでも危険であるのに、それを自分から傷口に押し付けるなど狂気の沙汰でしかありません。
事実、あやめが叫んでいるうちにもゴーストベーコンに接しているはあちゃまの傷口が、膿ができ始めているような気持ち悪い黄土色に染まりだしています。
「私が正気かって? ふふ、ふふふふふ」
しかしはあちゃまはそう口にしながら笑いだしました。
そして思わずごくりと唾を飲み込むあやめの隙をついて、脇を押さえていた方の手を素早く伸ばし、彼女の利き手をしっかりと掴んで固定しました。
「正気よ。ええ、至って正気だわ。だってこの程度の傷なんて、私がゴーストベーコンのスキル『不死の魂』さえ手に入れればすぐに回復できるんだもの」
瞬間、はあちゃまの目がじんわりと赤く染まります。
さらにその直後、彼女の手にするクリスタルサビロイにも変化が生じます。
青白い輝き放つソーセージの中心部分に赤い光が煌めいて、そこから凄まじい熱気が周囲に溢れ出したのです。
「こ、これはまさか、マグマ・ホットドッグの……ッ」
言いかけてから、あやめは信じられないように首を振り「バカな!」と叫びました。
「『断末魔』はマグマ・ホットドッグのスキルのはず! どうしてクリスタルサビロイの所有者であるおまえが使える余!」
「そのスキルを奪い取ることこそがクリスタルサビロイの真のスキル、そして奪い取ったからには当然それを使用することもできるわ」
答えるはあちゃまに、あやめは「くっ」と呻き声をもらしてからフォークを力の限り引っ張ります。
しかし剣はびくともしません。
ならばと彼女はゴーストベーコンの形状を短身幅広に変化させ、はあちゃまの傷口を押し広げます。
しかしはあちゃまの執念まさに凄まじく、掴む力を力みこそすれ緩める気配がありません。
彼女はしっかりと左手であやめの利き手を掴んだまま、もう片方の手で75%攻撃力強化されたクリスタルサビロイを振り下ろそうと持ち上げます。
「あやめ!」
見ていられなくなったカリオペが思わず叫び、あやめに駆け寄ろうとします。
「来るな余!」
しかしあやめはそんな彼女を大声で制止しました。
「こうなっては最早やむを得なし! ちょこ先生、今すぐるしあたちを外へ逃がすの余! カリオペ、おまえも同行して無事スバル殿たちが村を出るまで護衛する余!」
「わかったわ!」
「断る!」
二人の返事は同時でした。
ちょこ先生が肯定しカリオペが否定しました。
「あやめ!」
カリオペが声を張り上げます。
「私ハそのゴーストベーコンヲあなたニ譲った瞬間から、私自身モあなたノ剣トなることヲ誓った! 所有者ヲ離れて振るわれるソーセージなどなし! 私ハここニ残りあなたヲ守る!」
「カリオペ! おまえが本当に余の剣であるならば、所有者の意に反するソーセージこそこの世になし! 余のことは心配するでない! それよりるしあたちを無事この村から送り出してくれ余!」
「彼女らにはクソ鳥ガついています!」
「戦闘不能のスバル殿と剣士でないるしあにちょこ先生、そんな彼女らをたった一人で守り切るのが無茶なことくらいわかるだろう余! 余のことは大丈夫だから早く行け!」
「し、しかし……」
それでもカリオペは動こうとしません。
「カリオペ! 弱者を助くは強者のさだめ! そしてこの大陸における弱者とはソーセージを持てぬか弱き種族! 今おまえがこの場で守るべきは誰なのかよく考えてみる余! ここまで言ってもわからなぬならば、余はおまえをチーム・百鬼組から除名する!」
「な、なに? ああそうか! ならば勝手ニ――」
ならば勝手にすればいいと、カリオペはまさにそう口にしかかった言葉を飲み込みます。
そして悔しそうに唇を噛み締めてから「くそ!」と吐き出しました。
「あやめ! すぐニ戻ってきます! それまでどうかご無事デ!」
大声で伝えてから、カリオペはキアラの方へ振り返ります。
「剣ヲ抜けくそどり!」
「おお!」
キアラはフォークを引き抜きチュロスを取り付けました。
るしあとちょこも走りだす心の準備をします。
「ハートン!」
はあちゃまが呼びかけます。
すぐさまハートンたちがカリオペたちの行く手に集まり立ち塞がりました。
「よく聞いてくれ!」
カリオペも大声でるしあとちょこ、キアラに話しかけます。
「私ガ突っ込んで突破口ヲ開く! ルシアさんトちょこ先生ハとにかく急いで走り抜けてください! くそどり! おまえハ彼女たちガ負傷せぬよう最後尾から守れ!」
「りょーかい!」
「行くぞ!」
言うや否やカリオペがベーコンを手にハートンたちへ肉薄します。
彼女の前方で剣を構えるハートンにベーコンを振り下ろし、受け止めたハートンのフォークを弾き落とします。
そしてフォークを失った彼に強烈な蹴りを入れて、奥の部屋まで蹴り飛ばしました。
あまりの豪快さに他のハートンたちが息をのみます。
「今だ!」
カリオペの合図にスバルを抱えたちょことルシアが駆け出します。
そんな彼女たちを妨害しようとハートンたちが牽制に剣を振るいだしますが、後続のキアラが尽くそれらを打ち払いました。
「……」
カリオペたちが逃げ出す後姿を、はあちゃまはわざわざ振りかざす手を止めて横目で見送ります。
「意外だ余」
そんな彼女にあやめが話しかけました。
「随分涼しい顔でいるんだな。お目当てのレジェンド所有者を逃がされて、もっと怒り心頭に癇癪を起すと思っていた余」
「ふふふ。大空スバルはいいのよ。実はね、適当に相手をしてから泳がせてあげることにしているの。彼女は優秀な探知犬よ、毎度毎度レジェンド所有者を嗅ぎつけて教えてくれる」
「ふん。せいぜい咬まれないように気を付けるといい余」
「ご忠告ありがとう。でもね小鬼さん、それは今のあなたに向けられるべき言葉だわ」
はあちゃまはクリスタルサビロイをゆっくりと振り下ろしていきます。
「私はこれでも人の心を持った人の子よ。あなたたちのような鬼じゃない」
「何を言い出す余唐突に。人の皮をかぶったバケモノが」
「敗北を認めなさい百鬼あやめ。そうすれば私はあなたに傷一つ付けることなく立ち去ってあげるわ。逆に、そうしなければ取り返しのつかないことになるわよ」
「断る」
「即答したわね」
呆れたように言うはあちゃまに「無論余」とあやめが答えます。
「言っておくが、余がおまえとこうして戦っている理由はルシアたちや村のみんなを逃すための時間稼ぎというだけじゃない余。余は弱きの味方、百鬼組のリーダー余。その余が、伝説級の強さを持ちながら平気で弱者をいたぶるおまえのような腐りに腐り切ったクズ相手に負けを認める? はん! 誰が認めるものか余!」
「なんですって?」
「おまえなんぞ見ているだけでも虫唾が走る。取り返しがつかないか何か知らないが、したければ煮るなり焼くなり好きにすればいい。それでも余は決して敗北など認めはしないから余」
「よくぞ言った劣等種族。じゃあたっぷり後悔させてあげるわ」
はあちゃまは張り付いたような笑みを浮かべてから、「断末魔」のバフがかかったクリスタルサビロイをあやめの右肩に押し付けました。
「……ッ」
あやめは唇を噛み締めて痛みに耐えます。
「どう? 少しは気が変わったかしら?」
問いかけるはあちゃまに、あやめは「ふん」と鼻で笑いました。
「ぬるい、あまりにぬる過ぎて欠伸が出る余。やはりパクリもののスキルは程度が知れる、これならば村の小鬼たちが悪戯で飛ばす鬼火の方がまだまし余」
「その強情いつまで続くかしらね」
「それは余のセリフよ。おまえこそ顔に出さず強がっているものの、先程からずっとゴーストベーコンを傷口に押し当てたままの状態であろう余。もう相当身体の腐敗が広がっているのだろう? 余とおまえ、このまま続いて取り返しのつかないことになるのは間違いなくおまえが先。手遅れにならないうちに剣を引く余」
「ふふふ、あなたはどうやら私の言っている『取り返しのつかない』の意味がわかっていないようね」
はあちゃまはクリスタルサビロイを強く握り込みます。
「このまま続いて? バカなことを言わないでちょうだい。私のクリスタルサビロイは『断末魔』によって75%の強化がかかっているのよ。このままが続くはずないでしょう!」
そして信じられないほどの力でぐいぐいぐいと押し込んでいきます。
「負けを認めなさい!」
「いや余!」
「認めなさい!」
「くどい!」
「どっちが!」
いよいよはあちゃまの顔も苦痛を隠す余裕がなくなってきます。
「これが最終通告よ! 百鬼あやめ、剣士でありたければ敗北したと宣言なさい!」
「だーれがそんな屈辱口にするか余! べーっだ!」
あやめははあちゃまに舌を突き出しました。
そんな彼女に、今度のはあちゃまは何も言い返しません。
ただ無言で、さらに力を込めて一気にクリスタルサビロイを押し込みます。
直後、スコン! と歯切れのよい音が響きました。
その瞬間、稲妻が走ったようにあやめの視界が急に眩しい白色で満ち満ちて、それからふっと静かな暗闇に沈みました。
スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。