勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
80羽
「……シュバ?」
(……ん?)
「気が付きましたか? スバル先輩」
スバルが目を覚ましたのは陽が落ちようとしている頃でした。
木々が茂った場所に建てられた野営テントのなかで、ちょうどるしあが寝袋を準備しているところでした。
「シュバア? シュバ? シュバルバシュババ、シュバアバシュバルバシュバシュバルルバシュバ……」
(るしあ? あれ? スバルはたしか、キアラの記憶を取り戻そうとして……)
「はい。カリオペさんのおかげでキアラは無事記憶が戻りました」
「シュバルババ!」
(そうだった!)
「今は見張りについてもらっていますので、ちょっと待ってください。スバル先輩が目覚めたことを知らせればすぐにやってくると思います」
るしあがテントを出てからしばらくして、キアラが中に駆け込んできました。
「スバルせんぱい!」
「シュバア!」
(キアラ!)
「よかった! 目が覚めたんデスね! 本当に良かったデス!」
「シュババシュバルルシュバルバ! シュバアア!」
(それはスバルのセリフだ! キアラあ!)
スバルとキアラが抱き合います。
るしあはそんな二人を微笑ましげにしばらく眺めます。
それから項垂れて、目元を右手で拭います。かと思えばゆっくりとため息をついて、屈んでから身体を丸めだしました。
「シュ、シュバルシュババ? シュバア」
(ど、どうしたんだ? るしあ)
スバルがるしあの異変に気付いて問いかけます。
「何でもないです。大丈夫です」
「シュバルルバ。シュバルシュババシュバルバシュババ」
(嘘つくな。とてもそうは見えないシュバよ)
スバルが右翼でるしあの背中をさすります。
そんな二人のやりとりから大体の会話を察したのでしょう、キアラが「スバル先輩」と言って入ってきました。
「キアラたちはオバケ村ではあちゃまに襲われ、やっとの思いで逃げてきたのデス。しかしそのせいでオバケ村のみんなが大きな被害を受けマシタ。るしあさんはきっと、オバケ村のみんなことが心配なんデス」
「シュバ? シュバルルシュバシュバ? シュバルルシュバルバシュバルバシュバア」
(何? どういうことシュバ? くわしく説明してくれキアラ)
スバルの頼みに、シュバル語のわからないキアラは首を傾げます。
「オバケ村の一員であるあやめがレジェンドソーセージ、ゴーストベーコンの所有者だったんです。はあちゃまがあやめとスバル先輩を襲ってきたのですが、あやめがるしあたちを逃がしてくれたんです」
仕方なくるしあがスバルに説明します。
終えると彼女はまた顔を膝元に埋めました。
「みんな、大丈夫でしょうか……」
「シュバア……」
(るしあ……)
「大丈夫デスよるしあさん! カリがいるのデス! きっとカリがどうにかしてくれていマス!」
キアラがるしあを励まします。
「そうですよね。ありがとうございますキアラ」
るしあは力のない笑みを浮かべました。
◇ ◇ ◇
数日をかけて三人はフレアの館に戻ってきました。
「おかえり。どうだった?」
フレアが出迎えます。
「はい。キアラは無事記憶を取り戻すことができました」
「おお、そうかそうか! それはよかった! でもるしあ、おまえなんだか元気ないな。旅先で何かあったのか?」
「ううん、そんなことないです」
「ふうん。まあ、そういうことにしておこう。それはそうとおまえたち、いいタイミングで戻ってきた。ちょうど今、あたしの古い知り合いが客間に来ていてな、おまえたちの話をしていたところなんだ」
「古い知り合い?」
「ほら、キアラの記憶を取り戻す方法がないかどうか手紙を書くと言っただろ? あまり期待はせずに返信を待っていたんだが、驚いたことにご本人自らお出ましくださったというわけさ。まあキアラの記憶が戻った今となっては今更と言えるかもしれないが、名の知れた古の魔女だ。会っておいて損はない。とにかく中へ入れ」
「はい。でもその前に、ねねたちに挨拶しにいかないと」
「放っとけ放っとけあんなお子様ファイブ。地下室やら蔵やらで記憶を取り戻す手がかりを探しているのやら遊んでいるのやら好き放題やってるだけだ。ノエルはちょっとした用事で外出中だしな。そんなことより件の魔女に会うのが先決。神出鬼没で有名なヤツでな、いつ気まぐれでいなくなるかわからない」
「は、はあ」
言ってフレアはスバルたちを屋敷の中へ入れます。
「すごい偶然だよシオン。ちょうどスバルたちが戻ってきたところだ」
客間に入るなりフレアが言いました。
「偶然? あー。偶然って思っちゃってるのかー」
客間のソファに、シオンと呼ばれた小柄の女性が腰かけています。
彼女は紅茶を一口含んでから「このシオンの異名を忘れちゃったのかなフレアは」と振り向きます。
「シオンには大空スバルたちがもう近々やってくることはわかっていたんだな。だからあえて彼女たちの話題を振ったというわけなのに」
銀髪の長髪に金色の目をした少女です。
パッツン切りそろえた前髪から短い眉が覗かせます。
薄紺色の縦縞が入った上着と同模様の靴下をして、スカートは際どいほど短いミニです。
結び目に星型の髪留めが付いた黒紫色のケープを羽織っており、手には黒手袋をしています。
「はじめまして。大空スバルとその御一行」
シオンはにやりと笑いかけてから、立ち上がります。
「我が名は紫咲シオン、ソーセージ出現以前の前時代から大陸で生きる古の魔女。シオンはたとえ何千里離れていようがありとあらゆるものを見通すことができる。凡人者共はこの偉大な力を畏怖してシオンを二つ名で呼ぶ、『千里眼の魔女』と」
「シュバルシュババシュバ? シュバシュバル、シュバルバ……」
(千里眼の魔女? その名前、どこかで……)
「おいおい大空スバル、おまえはこいつの造った魔道具のお世話になっているだろ」
フレアが呆れたようにため息つきます。
「シュバ?」
(ん?)
「シオンこそ、おまえが人間に戻るための魔道具『クソザコの書』の作者だ」
「シュババ!」
(それだ!)
「いかにも」
シオンが頷きます。
「懐かしいわクソザコの書。知り合いの子孫だとかいう小娘に、アヒルの呪いを解いてほしいと頼まれてさ。その場で解いてやってもよかったんだけど、話を詳しく聞いてみると彼女自身が独占欲のあまりにかけた呪いだっていうじゃん。なんかパパッと治すのは違う気がしてきて、魔法を込めた魔導書を渡す形にしたんだよな。冒険の苦痛を共に分かち合ってこそ本当の愛が生まれるわけじゃん知らんけど。その魔導書がさらに下った子孫によって、しかも似たような理由で使われることになるなんて、ほんと業の深い一族よね潤羽家は」
「そう言ってやるな。どっちも結局アヒルの呪いを解くために危険な冒険に出ているんだ。素直になれないだけで根は善人なんだよ」
「わかっているけど」
「シュ、シュバルバシュバルルシュババシュババ……?」
(お、おまえがクソザコの書の作者……?)
スバルが呟きながら一歩、二歩とシオンに近づきます。
「おお! これあれじゃん! 感動の出会いのシーンで良く目にする抱擁のシチュエーション! すごく知っている! シオンはしばしば都内の映画館を鑑賞しているんだよな千里眼で!」
シオンは感極まるように叫んで両手を広げます。
「そうだ大空スバル! シオンだよ! シオンがあの魔導書の作者なんだ!」
「シュバアアア!」
(そうかあああ!)
スバルはシオンの胸元に飛び込みます。
「シュバシュバアアア!」
(このやろおおお!)
嘴で彼女を突きまわしました。
「痛た! 痛たたた! ええ! なんで!」
「シュバ! シュバシュバ! シュバルルシュバシュバルシュババシュバルシュババ! シュバシュババシュババシュバルシュバルバババ!」
(この! このこの! 屈辱感煽る名前付けやがって! そのせいでみんな署名しづらくなってんだよ!)
「スバル先輩! 落ち着いてください!」
るしあがスバルを押さえつけて宥めます。
「シオンさん」
それからシオンの方へ話しかけました。
「ん?」
「あなたが持つという千里眼、今も使うことができますか?
「無論使えるわ」
「ならお願いがあります。大陸北方にオバケ村という小さな村があるんです。そこが今どういう状況なのか教えていただけませんか?」