勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「お願いします。オバケ村が今どういう状況なのか、あなたの千里眼で見ていただけませんか?」
るしあの頼みにシオンは「ふむ」と頷きます。
「訳ありってわけね。よかろう」
シオンはバッとポーズを取ります。
右腕をピンと真っ直ぐ左に伸ばし、左肘を胸元に畳み込んで開き右目だけ覗かせるようにした格好です。膝と腰を折りながら精一杯に胸を逸らせています。
「開眼せよ、我が千里眼!」
声を張り上げてから「ふう」と満足げに一息つき、彼女はソファに座りもたれかかります。
かぶっていた魔女帽子を外してテーブルの上に置きました。
その帽子にはヒトデに目玉が付いたような飾りがあり、シオンが帽子から手を離すとすぐにその目玉が輝きだします。
目玉の光がプロジェクターのようにして壁に映像を映し出しました。
まぎれもなくオバケ村の外観です。
「シュバルルシュバシュバ!」
(ハイテクだなおい!)
「千里眼の秘密はその帽子にあったのですね」
「んなわけあるか」
るしあにシオンが訂正します。
「千里眼はあくまでシオンの能力。ただあんたたちも気になってるだろうと思ったからさ、この帽子を使って一緒に見えるようにしてあげてるんじゃん。普段は映画鑑賞にしかこの力は使わないんだからね。今回は特別なのよ特別。感謝してよ」
「シュバシュバルシュババシュバルルシュバシュバルバ。シュバシュバルシュバルバ」
(いや現地行って入場料払えよ。けち臭い魔女だな)
「ありがとうございますシオンさん」
「ふむ。で、とりあえずオバケ村を映してあげたわけだけど、これでもう消していい?」
「いえ、村の人たちがどうなっているのかが知りたくて……」
「村人たちと言われてもねえ」
シオンはまるでスマホ画面をフリックするように、中空で指をシュッシュッと滑らせます。
それに呼応して映像も素早く切り替わっていきます。
「誰もいないし」
「そんな」
るしあは思わずよろめきました。
「ちょこ先生、メル、なきり、みんな……」
「ん? ちょっと待って」
シオンは少し考えるように口元に指をあててから、中空でピンチインします。
画面の個物がそれに呼応して縮小され、より全体が映ります。
次に彼女は村から少し離れた小川近くの場所をピンチアウトして画面を拡大させました。
「あ!」
スクリーンの映像を見たるしあが声を上げます。
画面には多くの人々が映っています。彼らはオバケ村の住人です。
そのなかにはあやめとメル、ちょこ、カリオペもいます。
「あやめ! みんな!」
「どうやらうまく逃げ延びてたみたいね」
あやめは川辺の岩に腰かけながら、ちょこと会話しているようでした。
「一体何を話しているんデショウ?」
「待って。ミュートを解除する」
シオンが手元を一回人差し指でタップします。
『どう? あやめ様』
『うん。ありがとう余ちょこ先生。固いけど指先まで神経が繋がってる』
ちょことあやめの声が室内に響きます。
『さすが剣士ですわ。ふつうは焼け斬られた腕の縫合なんてできないんですよ』
『ふふふ』
『それでもまともに動かすには時間を要します。わたくしと一緒にリハビリしていきましょうあやめ様』
『うむ。ところでソーセージを振るえるようになるにはどれくらいかかる余?』
『わかりません。正直に言えば、無理かもしれません』
『剣士引退か』
『もしもの覚悟はしておいてください』
『やーれやれ』
軽く笑ってから、あやめの目が潤みだします。
『みんな、すまん余』
呟くように言いました。
『何言ってんだよお嬢』
『これからはあたしたちがお嬢を守るわよ』
あやめがオバケ村の人たちに慰められている映像を最後に、スクリーンは消えました。
「良かったじゃん」
シオンが帽子をかぶり直してスバルたちに振り返ります。
「ありがとうシオンさん」
もらい泣きをしたのでしょう、るしあは目元を拭ってから彼女に礼を言いました。
「本当に良かったですね、るしあさん」
「うん。キアラもありがとう」
「でも、あれですね。いろいろ大変なことがありマシタが、なんというか、寂しい気持ちになってしまうものなのデスね。紫咲シオン、あなたとこうして出会った時点で私たちのレジェンド探しも終わってしまったのデスから」
「ん? なんの話をしている?」
キアラの独白を聞き取ったシオンが首を傾げます。
「だってそうじゃないデスか。あなたはるしあさんがスバルせんぱいにかけたアヒル化の呪いを解く魔法を使える魔法使いなのデショウ? つまり私たちのスバル先輩を元の姿に戻すためのレジェンド探しは終わったんです。もちろんはあちゃまがレジェンド所有者狩りを行っている現状、彼女より先にレジェンド所有者を見つけて保護する役目は当然続行しマスけれども、私たちの初期の冒険の目的は達成されたのデス」
「キ、キアラ……」
るしあが恐る恐るキアラを振り返ります。
「あなた、スバル先輩にアヒルの呪いをかけたのがるしあだっていうこと、気が付いていたのですか? いつから?」
「今更デスね。薄々とであればかなり前からわかってマシタよ」
「ううう、ごめんなさい」
「いいデスよ、って私が言って良いかわかりマセンが、るしあさんはもう私たちの仲間も同然、つまりはスバ友同然デス。スバル先輩もきっとそうおっしゃるはずデス」
「シュバルルシュバ! シュバルルバ、シュバア!」
(そのお通りだ! よく言った、キアラ!)
「多分そうおっしゃっていると思いマス」
「ありがとう、スバル先輩! キアラ!」
「ちょ! ちょちょちょちょちょ! 待って! 待って待って!」
三者三様で抱き合うスバルたちにシオンが口を入れます。
「勝手にいい感じの雰囲気に持っていこうとすんなってマジで! いつシオンが大空スバルをアヒルから人間に戻してやれると言った? 言ってないし! 決して一言も!」
「どういうことデスか?」
「どうもこうもない。ぬか喜びさせちゃったみたいだけどさ、今のシオンはアヒル化の呪いを解く魔法なんか使えないし」
「シュバ?」
(あ?)
「アヒル化の呪いを解くなんて需要がない魔法、この偉大なシオンが後生大事に覚えているはずないじゃん。ぶっちゃけ言うけどさ、有力な技マシーンを手に入れたらいの一番に忘れさせる候補にあがるほど下らなくて使いどころがないクソ魔法じゃんあれ。クソザコの書に魔法を込めたからもういいかと思ってさ、忘れたついでに魔法創造に関するメモ書きとかも全部処分しちゃったんだよな」
「どうしてメモまで!」
「当時のシオンが断捨離にはまってたから」
「シュバル!」
(殺す!)
「ま、待ってくださいスバル先輩! 彼女は事実をそのまま口にしてるだけ! スバル先輩を小バカにするような意図はないのです!」
「シュバルシュバア! シュバルルシュバ!」
(放せるしあ! 放してくれ!)
「ねえ、シオンはアヒルの大空スバルがなに喋ってるかまではわかんないんだけど、なんか怒ってるんだよね。でもいいじゃん別に」
「シュバア?」
(ああ?)
「だってさ、先日の百鬼あやめの名前が加わってレジェンド所有者の署名が七人になったってことじゃん? もう半分越えてるし。ぶっちゃけ余裕じゃんこのままいけば」
「シュバ! シュバルシュババシュバルバシュバシュバルバシュバルバ!」
(処す! こいつだけはスバルの手で処さねばなるまい!)
「お、落ち着いて! 落ち着いてくださいスバル先輩! キアラ! スバル先輩を押さえるのを手伝ってください!」
「わかりマシタ!」
るしあとキアラが二人がかりでスバルを押さえます。
人間の姿であればともかく今のスバルはアヒルです、しばらくすると力尽きて彼女は地面に押さえつけられました。
「まあ、それはそうとして」
一方当のシオンは優雅に紅茶をすすってからカップをソーサーに戻します。
「そろそろシオンがこの屋敷まで来た本題に入りたいんだけど」
「あー、そのことなんだがなシオン」
「なに? フレア」
フレアが気まずそうに苦笑いします。
「先のあたしの手紙で頼んでいたことなんだがな、どうやら彼女たち自身の力で解決してしまったらしい。いや本当、わざわざ出向いてきてくれたのに無駄足させてしまってすまない。申し訳ないことをした。代わりと言ってはなんだが、あたし蔵書の魔導書を何冊かおまえにくれてやる。好きなのを持って帰ってくれ」
「いや。いらないし」
シオンは興味なさげに断ります。
「ここにある魔導書なんて暇なときに千里眼で好きに見てるし。いつでもどこでも見れるものをなんでわざわざ持ち帰らなくちゃいけないのよ、かさばるだけじゃん」
「おい。あたしそれ初耳なんだが」
「おまえのものは俺のもの世界のすべてはシオンのもの、わざわざ言うまでもないことじゃん」
それに、とシオンは続けます。
「何度も言わせないでよ、シオンは千里眼の魔女なんだってば。あんたたちのことは見えていたから私の手助けが不要になったことくらい知ってたわ。そのうえでやってきたの。シオンの用事を果たすために」
「おまえの用事?」
先の魔導書盗み見でやや不機嫌になったふうのフレアが聞きます。
「ええ」
「なんなんだそれは」
「ふむ。じゃあ話してあげようかしら、と思ったんだけれどタイミングが悪いわね。客人が来たわよ。まず彼女を出迎えてあげれば?」
言い終えるや否や玄関ドアがノックされます。
皆は顔を見合わせてからシオンに視線を向けました。
フレアが廊下へ出ていきます。
フレアはすぐに戻ってきました。
彼女に続いて女性が一人、客間に入ってきました。
「おー、おー、おー、おー。久しぶりだなア、おまえら」