勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「ぐ……ッ」
フレアはよろめいた後でソファに力なく座り込みます。
「ぽ、ポルカー! ポルカー、おるかー!」
廊下に向かって声をかけてから数秒後、
「おるよー」
と返事しながらポルカが客間に入ってきました。
「どうしましたか? 師匠」
「すまないポルカ。急に具合が悪くなってな。飲み水を持ってきてくれるか?」
「わかりました」
ポルカはすぐにグラス一杯の水を持って戻ってきました。
フレアはそれをあおってから一息つき、ゆっくり顔を仰向きにします。
ソファの背もたれにもたれかかり目をつむり、黙って眉間を揉み始めます。
「で。シオンがこの館にわざわざ来た理由なんだけどさ」
唐突にシオンが話し始めました。
「シュバシュバシュバルシュバルバシュバ、シュバシュバルバシュバルルバシュバルバ」
(この重苦しい空気のなか、その話を切り出すのすげえな)
「大空スバル、光栄に思いなさい。『偉大な方』があなたをお呼びよ」
「シュバ?」
(あ?)
「えっと、誰がスバル先輩を呼んでいると言いましたか?」
るしあが聞き返します。
「『偉大な方』よ」
繰り返すシオンに、るしあは「はあ」とだけ頷きました。
そんな反応なのはるしあだけではなくスバルとキアラ、ラミィにポルカ、つまりシオンとフレア以外の全員です。
「……、なに?」
フレアは驚いたように上体を起こし、身体を乗り出すようにしてシオンに向き合いました。
「それは本当なのか?」
「本当でなければこのシオンがわざわざ出向くわけないじゃん」
フレアに答えてからシオンは再びスバルの方へ向きます。
「大陸南端に立つ塔へ向かいなさい大空スバル。あの方がそこであなたを待っているわ。シオンはそのことを伝えるためにここへ来たの」
「あの方がスバルに一体どういった要件があるんだ? かつてあたしがあの方と共に大陸にソーセージ・フォークをもたらせたとき、人々はその恩恵をあろうことか武器として改悪した。その裏切りを受けて以来、あの方は決して地上に干渉しなくなった」
「そんなのシオンは知らされていないわ。ただこのことを言伝られただけ。あの方曰く、受けるも断るもあなたの勝手、じっくり考えた上で結論してほしいということだけれど、はっきり言って選択の余地はないわよ大空スバル。長年口を閉ざしていたあの方がわざわざ名指しで誰かを呼ぶなんて異例中の異例、そうせざるを得ない何かがあることだけは間違いないのだから」
「そうだな」
フレアもシオンに頷きます。
「行ってこいスバル。なに、別に今すぐ館を出て向かえと言っているんじゃない。一日二日くらいゆっくり休んで身体の疲れを取ってから、万全の準備を整えて出発しろ。なにしろ場所はホロ・デ・ソーセージ大陸の南端、長旅になる。『じっくり考えた上で』と言っているんだ、そのくらいの余裕をもって向かってもいいということだろ? シオン」
「ええ」
当事者であるはずのスバルの意思をそっちのけで新たな旅が決定していきます。
しかしスバルも嫌という様子ではなく、やれやれまたかといったふうで欠伸を一つする程度です。
「すべての道は最南の塔へ通ず、大陸に敷かれているたいていの道は塔へ通じているわ。だからあなたたちがまず向かうべきは手近にあるどこかの町ね。そこから伸びる街道を南へ辿っていくのが一番の近道に――」
言いかけたシオンの口が止まります。
急に顔を上げてどこか遠くを見るような目になります。
にやりと笑いました。
「いいえ、とりあえず館を出たらまっすぐ北へ向かえばいいわ」
「シュバ?」
(あ?)
「なに?」
フレアが顔を顰めます。
「シオン、最南の塔へ向かうなら整備された道を使うべきだろう。彼女らを乗せて走るフェニックスの負担も大分違ってくる。それを何で、よりによって正反対の方角へ」
「いいから。シオンの言うとおり北へ真っ直ぐ行けってば。行けばわかる。そしてシオンに感謝し喜び讃えることになるわ。さすが千里眼の魔女シュバってね」
言い終えてからシオンはまた紅茶を口に含みます。
これ以上説明する気はないという意思が、その態度からありありと察せられます。
フレアはため息をつきました。
「まあ、こういうことだスバル。今日はゆっくり休んで疲れを取れ。そして頃合いを見て出発してくれ。とりあえず北方へ真っ直ぐに」
「シュバア」
(ええー)
正反対の方角へわざわざ向かう無駄足を嫌うに加え、少なからずシオンに対する不満のあることがスバルの渋い顔から見て取れます。
「おまえの気持ちはわからないこともない」
フレアはスバルの肩に手を置きました。
「しかしこの女、自他ともに千里眼の魔女の異名を認めるだけあってその目は確かなものがある。北方には何かがあるんだ」
「シュバルババ」
(わかったよ)
スバルはフレアに頷きました。
◇ ◇ ◇
翌日になりました。
一日休んですっかり全快したスバルたちは、朝食を済ませてからさっそく出発することにしました。
旅のメンバーはお馴染みの、スバルとるしあ、キアラの三人です。
フェニックスに乗って真っ直ぐ北方へ走らせます。
そうして進むこと数時間、彼女たちは行く手を東西に走る川によって阻まれます。
「困りマシタね」
キアラがフェニックスから降りて周囲を見回します。
「この川、付近は穏やかな流れですが先は相当な急流になっているようデス。しかし近くに橋らしきものが見当たりません。もちろんスバルせんぱいが行けとおっしゃるならば、フェニックスに強行させて渡らせマスが」
「シュバルシュバル」
(やめておこう)
「しなくていいそうです」
「そうデスか。ではどこか橋が架かっていないか私が探索してきマショウか?」
「シュバ。シュバシュバル」
(いや。引き返す)
スバルは続けます。
「シュバシュバシュバルシュババシュバルルシュバシュバルバシュバルバ。シュバルシュバシュバルルシュバルバシュバルルシュババシュバルル。シュババシュバルシュバルバ。シュバシュバルルバシュバルルシュバ。シュバルルシュバ」
(そもそもスバルたちの目的地は南にあるんだ。なのにとりあえず理由もわからず北に向かった。けれど何もなかった。あのクソガキにたばかられた。それだけシュバ)
「キアラ。スバル先輩は言われた通り北に行ったけど何もなかったから、もう引き返して普通に最南の塔へ向かうと言っています」
「わかりマシタ」
キアラがフェニックスに乗りなおします。
「行くぞフェニックス!」と呼びかけて拍車をかけようとしました。
その時、ぐううとお腹の鳴る音が聞こえました。
「シュバ!」
(くっ!)
スバルが顔を赤面させます。
「キアラ。お腹がすきましたね」
るしあがキアラに話しかけます。
「朝食を取ってからだいぶ時間が経っていますし、このあたりでいったん休憩にしませんか? 近くが川辺なので水がありますし」
「そうデスね」
「では少々待ってください。一応食料は数日分ありますが、旅先で何があるかわからないことは重々経験済みなのでできる限り節約した方がいいでしょう。たまき君とジョゼフを召喚して食料を調達させます」
「シュバル」
(頼む)
ルシアがたまき君とジョゼフを呼び出します。
そして二人を林の中へ向かわせようとした時です。
「おまえたち、旅の者か?」
スバルたちの後方から声がかけられました。