勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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「おまえたち、旅の者か?」

 

 スバルたちの後方から声がかけられます。

 

「「「!」」」

 

 るしあはともかく、気を抜いていたとは言え剣士であるスバルとキアラは気配を察知できていなかった失態です。

 反射的に、キアラはフォークを引き抜いてソーセージを声の主へ構えます。

 スバルも人間の姿に戻ろうとしました。

 

「なんだ。道に迷って往生しているのかと思い親切心で声をかけてやったのに、あろうことかソーセージを向けてくるなんてとんだ礼儀知らずだな」

 

 声の主である彼女は呆れたようにため息つきました。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 キアラは慌ててソーセージを引っ込めフォークを仕舞います。

 スバルも変身を中断しました。

 

「ふん。まあいい」

 

 彼女はちらりとスバルを一瞥します。それからキアラとるしあに向き直り、腕組みしながら近づいてきました。

 

 彼女は海中を映すような深い水色の目をして、ふんわりした金髪をツインテイルに結んで腰元まで伸ばしています。

 白いワンピースの上から青色と水色基調にしたブレザーを羽織っており、紅色のネクタイをしています。

 

 彼女はるしあたちの前で足を止めました。

 

「私の名はアキロゼことアキ・ロゼンタール」

 

「潤羽るしあと言います。こちらは小鳥遊キアラ。そして大空スバル先輩です」

 

 お互いに紹介し合います。

 

「大空スバル、やはり」

 

 スバルを見下ろすアキロゼが呟きました。

 

「シュバ?」

(ん?)

 

「いや。なんでもない」

 

 見上げてくるスバルから視線を外し「ところで」と話しかけます。

 

「そろそろ昼食時だが、おまえたちはもう食事を済ませた後か?」

 

「いえ。今から準備をしようとしていたところです」

 

 答えるるしあに「それはちょうどいい」とアキロゼが微笑みます。

 

「実は私も今から食事にしようとしていたところなのだが、昼食用にと思い捕まえた川魚がやや多過ぎてな。殺生したからには食ってやるのが責任だと思うものの私一人では手が終えない。もしよかったら一緒に片づけてくれないか」

 

「それは助かりますが」

 

 るしあはちらりとスバルの方を見ます。

 その目がアキロゼという人物を警戒すべきなのかどうか問いかけます。

 

「シュバルルシュバルバ」

(ごちそうになろう)

 

 スバルはるしあに答えました。

 

「シュバルシュババシュバルバシュバババシュバルシュバ。シュバシュバルルシュババシュバルバシュバルルシュバシュバルシュババ、シュバルシュババシュバルシュババシュバルバシュバルルバシュバルシュバルルバシュバルシュバシュバ」

(少なくとも邪悪なオーラは感じない。でも一方的に厚意に甘えるのはよくないから、スバルたちもたまき君とジョゼフに取ってきてもらう野草を分けるべきシュバ)

 

「わかりました」

 

 るしあはアキロゼに向き直ります。

 

「ではお言葉に甘えさせていただきますが、魚肉だけでは偏りがあります。るしあたちもちょうど使役するアンデッドに食べられる野草や木の実を探しに行かせるところだったんです。それらを採取し終えたあとでご一緒しませんか?」

 

「ふむ。それはありがたい」

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

 キアラが水辺近くで火を起こします。

 その間にアキロゼが捕ったという魚の場所へスバルとるしあが案内されます。

 

「シュバ?」

(ん?)

 

 スバルは意外そうにその場所を見ました。

 アキロゼは捕りすぎてしまったと言っていました。だからてっきり一網打尽に魚を捕らえた、網が張られた川辺に連れていかれると思っていたのです。

 しかし着いたところは、川辺は川辺でも川の流れがないに等しい浅瀬を適当に大小の石を円の形に並べた簡素な囲いがされた場所で、そのなかに十何匹という川魚たちがぴくぴく身体を痙攣させながら水面に浮かんでいます。

 しかもその魚たち、釣り針を外されたような跡も、体を叩かれて大人しくさせられたような跡もありません。全く綺麗な口元と胴体です。

 にもかかわらず痙攣を起こしているのですから、アキロゼが捕まえた魚だと知らなければ何かの病気にかかっているに違いないと判断したことでしょう。

 

「シュバシュババシュバルバシュバルバシュババ? シュバルバシュバルルバシュバルルバ」

(どうやってこんなに捕まえたんだ? 魚網も釣り竿も使わずに)

 

 スバルは独り言のつもりで呟きました。

 しかしそれを聞き取ったるしあが通訳すべきと思い「あの」とアキロゼに話しかけます。

 

「どうやって捕まえたのですか? こんなにたくさんの魚を」

 

「ん? ああそうか、気になるものなのか」

 

 アキロゼは魚籠のなかに魚を入れながら答えます。

 

「水面を思い切り叩くんだ、拳でな。そうすれば半径数メートルの魚たちはその振動に驚きショック死に似た状態になる。その後の回収が面倒と言えば面倒だが、何も道具を必要とせずに食料が手に入るから私はこの方法で魚を捕るようにしているんだ」

 

「ええ? そんなことって」

 

 るしあは試しに水面を殴ってみます。

 しかし何も起こりません。

 それどころか彼女を小バカにするように目の前で小さな魚がちゃぷんと跳ねました。

 

「おい。遊んでないで手伝ってくれないか。回収作業が面倒だと言っているだろ」

 

「あ。ごめんなさい」

 

 るしあは謝ってから魚籠に魚を詰め込むのを手伝いました。

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

 たまき君たちが戻ってきたところで、スバルたちとアキロゼは焚火を囲い食事を取りました。

 彼女たちは焼き魚を頬張り野草も食べ終えます。

 そうして食後に暖かなコーヒーなどマグカップに入れ、お互いの旅の目的などを差し障りない程度にぼかしながら喋っていた時です。

 

「ところで」

 

 アキロゼが誰にでもなく話しかけました。

 

「おまえたちは天音かなたを知っているか?」

 

「え?」

 

 るしあとキアラ、スバルが顔を見合わせます。

 どういう意図で聞いているのかわからないため、

 

「えっと、まあ。はい」

 

 といった具合にるしあが答えました。

 

「ふむ。そうか」

 

 アキロゼは頷いて続けます。

 

「私と天音かなたはホロ・デ・ソーセージ大陸西方の高地地方、天界出身の同郷でな、共に同じ学校に入学した。私たちの母校、天界名門天音学校はほんの一握りの人間しか入ることのできない狭き門、しかし入学さえすれば剣士として一流の実力が身につくことを保証される知る人ぞ知る登竜門。天音学校では剣術が必修となっていて、卒業試験の代わりに上級剣士の資格を取ることになっている。天音かなたはそこの首席卒業生だ」

 

「シュバルルシュバルルバシュバルルシュバルシュバルシュバルル? シュバシュバルシュバ」

(卒業条件が上級剣士資格獲得? ヤバすぎるだろ)

 

「天音学校?」

 

 キアラが呟きます。

 

「偶然ですか? 天音かなたの氏と一緒デスよね」

 

「偶然ではない。天音学校は天音かなたの一族が経営している学校だ。あの女は上級剣士養成学校を創立するような剣士一族のサラブレッド、にもかかわらず卒業後も学校経営等に煩わされず好き勝手を容認されるほど群を抜いた実力の持ち主。噂によればメードとかいう港町で孤島の悪魔なんて呼ばれているらしい。本人が耳にしたらさぞ遺憾に思うだろうな」

 

「はあ」

 

 るしあが頷きます。

 

「その彼女がどうしたというのですか?」

 

「いや、どうしたということはないんだが、彼女から興味深い話を聞かせてもらってな」

 

「興味深い話?」

 

「ああ。この天音かなたという女あまりに強すぎてな、レジェンド所有者でもないのに敗北を経験したことがなかったのだ。ところがとうとう敗れたらしい。唯一の黒星はライトニングウィンナーの使い手大空スバルだと、嬉しそうに教えてくれたよ」

 

 アキロゼはおもむろに腰を上げからスバルを見下ろします。

 

「私はおまえをずっと探していたんだ大空スバル。天音かなたに敗北を教えたおまえをな」

 

「シュバルババシュバシュバシュバルルシュバババ」

(さっきからグダグダまだるっこしいな)

 

 スバルもアキロゼを見上げます。

 

「シュバルババ、シュバルバシュバルシュバルシュババ」

(要するに、スバルと勝負したいわけか)

 

「スバル先輩と勝負したい、あなたはそう言っているのですか」

 

「いかにも」

 

「シュバルル。シュバルババ」

(断る。悪いがな)

 

 スバルは即答しました。

 

「シュバルバシュバルルシュバシュバルババシュバルルシュババ。シュバシュバシュバルババシュバルシュバルシュバシュバルルバシュバルババ、シュバルルバシュバルルシュバシュバルバシュバルルシュバ」

(スバルは三分しか人間に戻れないんだ。またいつはあちゃまが襲ってくるとも限らない現状、いたずらに変身するわけにはいかないシュバ)

 

「すいませんが、お断りしたいのだそうです」

 

「ふむ。なぜだ?」

 

「スバル先輩は一日に三分間しか人間に戻ることができないんです。今のるしあたちははあちゃまという強敵がいて、彼女にいつ襲われるかもわかりません。そういった緊急時に備えて温存しておきたいのです」

 

「ふむ」

 

 アキロゼは腕を組みます。

 

「やはり天音かなたの言うとおりだな。なかなか戦いに応じようとしない」

 

「シュバ、シュバルルバシュババシュバルシュバルシュバシュバルシュババ」

(いや、あの時と今はかなり状況が違うけどな)

 

「しかし、これを見ても同じことが言えるか?」

 

 アキロゼはレッグバックに手を伸ばしフォークを取り出します。

 

「シュバ!」

(なに!)

 

 スバルは思ず叫びました。

 アキロゼが取り出したのはただのフォークではありません。

 世界に十二本しかないレジェンドソーセージ、その虹色フォークだったのです。

 アキロゼはブンと振るいます。

 するとフォークの先に異様なソーセージが現れました。

 

 長さはおよそ120センチ、ホットドッグ系統の形をしたソーセージです。

 晴天の陽光を受けるそのソーセージは混じり気のない水銀色で、凹凸少ない金属特有の、ぬらぬらとした水っぽい輝きを見せています。

 

「天音かなたから聞いたぞ大空スバル、おまえは訳あってレジェンド所有者と勝負がしたいらしいじゃないか。私はおまえの望むレジェンドソーセージ・『鉄の意思』メタルホットドッグの所有者だ。それでも私の申し出を断るのか?」

 

「……シュババ。シュバルババ」

(……そうか。なるほどな)

 

「スバル先輩?」

 

 アヒルスバルの身体が光り輝きます。

 光が収まったあと、人間となったスバルが現れます。

 スバルはゆっくりと腰を上げました。

 

「これは感謝しなくちゃいけないな。シオンのやつが北に向かえと言ったのはこのことだったってわけか」

 

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