勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「これは千里眼に感謝しなくちゃいけないな。シオンのやつが北に向かえと言ったのはこのことだったってわけか」
独り言を言うスバルにアキロゼが笑いかけます。
「勝負する気になったのだな大空スバル」
「おうよ!」
スバルは答えてからレッグバッグに手を伸ばします。
フォークを取り出しブンと振るってライトニングウィンナーを出現させました。
「ふむ」
一方、それを認めたアキロゼは何を考えてかメタルホットドッグを消してしまいます。
「おい!」
スバルが怒鳴りました。
「なんなんだよおまえ! スバルと戦いたいんじゃないのかよ!」
「おかしなことを聞いてくれるな。そのための準備をしているんじゃないか」
アキロゼはフォークをレッグバッグに仕舞い終えてから、やや肘を曲げた左腕を前方へ突き出し右腕を脇下に添えるようにして、スバルに向き直ります。
「どこからでもかかってこい、大空スバル」
「はあ?」
スバルはあんぐりと口を開けました。
「おま、ふざけてんのか! 素手で! 素手でソーセージを持つスバルに戦うっていうのか! バカにするんじゃねえぞ!」
激昂するスバルですが、一方のアキロゼも「バカにしているだと?」と右の眦をぴくんとさせます。
「なあ大空スバル。なぜ人はソーセージで戦うのだろうな」
「あ?」
「獣に牙があるように、私たち人間には両の拳がある。この拳こそが人間の人間たる武器だ。ソーセージに頼らずとも私たちは己の拳によって強さの頂にたどり着けるのではないか、そう考えたことはないか?」
「な、なにを言っているんだおまえ」
ただならぬ雰囲気を感じ取り、スバルはたじろぎます。
「なぜソーセージで戦うかって? それはスバルが剣士だからだ! 剣士が剣を持って戦うのはそれ以上追及しようがない根本原理、なぜそんな疑問を挟む! おまえだってレジェンドソーセージを所有する剣士だろ!」
「違うな」
アキロゼは即答します。
「私はとうの昔に剣を捨てたのだ、ソーセージを振るうことの愚かさに気づかされてな」
「……」
「ゆえに私は剣士ではない。私の武器はこの拳のみ、私は拳闘士なのだ」
「そうだとして、だ。どうしてそんなやつがレジェンドソーセージのフォークを所有している? よりにもよって『鉄の意思』メタルホットドッグを!」
「なぜ私がレジェンドソーセージの所有者などというものになっているのか、正直言うと私自身もよくわからない。しかしこれを所持している限り、このフォークの武器としての強さに目が眩み集り寄ってくるバカどもを成敗してやれる。私が剣士でもないのにこのフォークを所有している理由はただそれだけだ」
そこまで喋ってから「話は終わりだ」とアキロゼは区切りをつけます。
「さっさとかかってこい大空スバル。私としては別に時間を気にする理由などないのだが、おまえには厳しいタイムリミットがあるのだろう。それともまさか怖気づいたのか? 最速の剣士と名高い大空スバルが、ソーセージを使わないと言っている私に」
アキロゼは挑発するように言います。
「そういうわけじゃない。……ないけれど」
しかしスバルはなおも躊躇います。
ソーセージを持たない者に剣を振るう、それはソーセージ道に反する外道の行いではないかという葛藤が邪魔するのです。
「どうやらつまらないことを考えて迷いが生じているようだな。しかし大空スバル、それは私に対する侮辱だぞ。ソーセージを使わない相手など戦うに値しないとおまえは言っているんだ。私はそんなふうにして私を見くびる輩が大嫌いだ」
「……」
「わかった」
アキロゼはため息をつきます。
「おまえが来ないならば私から行く!」
言うや否や、彼女は踏み込みます。
たった一歩の踏み込みですが、その跳躍距離が常人離れしているために、数メートル開いていた彼女とスバルとの間合いが一気になくなります。
アキロゼはスバルの顔面に向けて正拳を叩き込みました。
るしあにはそう見えました。
しかし、アキロゼが右拳を放った先にスバルはいませんでした。
五メートルほど奥に見える大木が正拳の風圧を受けてドシン! と大きな音をたててパラパラと木の葉を散らしただけです。
「わかったよ!」
スバルは上空に跳び上がって避けていました。
中空でライトニングウィンナーを振りかざしながら大声を上げます。
「アキロゼ! あとになって後悔するんじゃねえぞ!」
スバルは着地と同時にアキロゼに向かってソーセージを袈裟斬りに振り下ろします。
「後悔? 私が?」
アキロゼはゆっくり見上げながら口角を上げました。
「笑止」
彼女は自分に向かって振り下ろされるライトニングウィンナーを、左掌で受け止めます。
「なに!」
「ソーセージは最強の武器、ソーセージを持たないものは哀れな弱者とする偏見は剣士の醜い奢りだ大空スバル」
アキロゼの左手の甲に見える青筋が浮き出し、大きく脈打ちます。
ぎちぎちぎちと、何かが軋むような音がスバルの耳に聞こえました。
「私はな、おまえたちのそんな蒙昧を打ち砕くために戦っているんだ!」
アキロゼが声を張り上げます。
その直後です。
アキロゼに掴まれていたスバルのソーセージ、ライトニングウィンナーの剣身が、彼女の掌のなかで風船を握り込まれたかのようにぐにゃりと歪み、その箇所からソーセージの膜が弾け飛び、パアン! と大きな音がして破裂します。
それらが一瞬にして起こったのです。
「え? え? な、なにが起こったんですか?」
るしあが狼狽えながらキアラに聞きます。
「ば、バカな……」
るしあに答えると言うよりは、独り言のようにキアラが口にします。
「そんなことが、できるのデスか? 素手でソーセージを握り潰すなんてことが……」
キアラのその呟きを聞いて、るしあは思わず背筋をぞっとさせました。