勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
かつてソーセージは地上で最も堅い物質と言われていました。
人々はソーセージに対抗するため、その打撃に耐えうる防具を作り出すことを試みるようになります。そうした長年の試行錯誤の末、生み出されたのがソセレ合金でした。
しかしソセレ合金による防具は硬さこそソーセージに勝るものの、非常識なまでの重量を剣士に負担させる欠陥物でした。
その失敗は人々の教訓となり、ソーセージに対抗する装備の力点を防御ではなく回避に、重厚化から軽量化へとシフトさえるきっかけとなりました。
こうしてより軽く、自由に身動きしてソーセージを避ける装備が主流となったのです。
このような時代に生きるホロ・デ・ソーセージ大陸の人々のなかで、一体誰が想像できたというのでしょう。
――ソーセージを素手で握り潰すということを。
◇ ◇ ◇
「ば、バカな……、素手でソーセージを握り潰すなんて……」
キアラが愕然と呟きます。
それはスバルの心中の代弁でもありました。
「なにを驚く?」
アキロゼは視線をスバルに向けたままキアラに問いかけます。
「ソーセージを使わずして剣士を倒さなくてならないのだ。これくらいのこと、出来なくては話にもならないだろう」
アキロゼは構えます。
スバルが着地するタイミングを見計らって拳を叩きこもうとしています。
ソーセージを粉砕するほどの拳です。その拳が万全で迎え撃つ態勢で放たれるのです。
一方スバルは防ぐためのソーセージがなくなってしまっています。
スバルが取るべき手段は甘んじて生身で受けるか、避けるかの二択しかありません。
そしてライトニングウィンナーが消滅する姿を目の当たりにしたスバルは、そのような恐ろしい拳をまともに受けることの危うさをひしひしと感じていました。
「シュバア!」
地に足が付いたその一瞬、スバルは全力でもって回避します。
アキロゼも着地の瞬間を狙っていたはずなのに、彼女の拳は空を切りました。
「驚いた」
アキロゼが呟きます。
「避けたのか? あのタイミングで」
拳を引いて顔の前まで持ってきてから、不思議そうに掌を握り開きさせます。
そんなアキロゼから数メートル距離を取った場所にスバルの姿が現れます。
スバルは荒い呼吸を落ち着かせようと大きく息を吐いてから、額ににじむ冷や汗を右手で拭いました。
スバルはソーセージが消失したフォークをまたブンと振るい、新しいライトニングウィンナーを出現させます。
アキロゼがスバルに向き直りました。
「天音かなたの言っていた、大空スバルの人間離れした速さというのは満更誇張ではなかったというわけか」
「どっちが人間離れだバカ野郎!」
スバルが叫びます。
「スバルじゃなきゃ、いいやスバルでも全力でなけりゃ避けられなかったぞあんなの! スバルを殺す気かおまえ!」
「何を言っている」
アキロゼが心外そうに顔を顰めます。
「殺す気だのなんだのとシュバシュバ大袈裟に言ってくれるが、それほどではないだろうが。私が自分で自分の拳を受けたことがないから確かとは言えないが、威力はせいぜいおまえたち剣士が振るうソーセージよりもやや強い程度のはずだ」
「人間殺せる威力だろうがそれは!」
「天音かなたの一撃を受けてもぴんぴんしていたと聞いている。ならば問題ないだろう」
「さっきから天音かなた天音かなたうるせえよバカ野郎! どんだけ好きなんだおまえ!」
「好き?」
アキロゼは顔を顰めました。
「私が天音かなたに抱く感情はそういうものではない。彼女は私がいずれ倒す敵だ」
それからアキロゼは「お喋りが過ぎた」と言って仕切り直します。
「さあもう呼吸は整っただろう大空スバル」
「いちいち癇に障るシュバなあ天界出身者ってやつは、どいつもこいつも。言っとくけどおまえが話し始めたんだからな!」
今度はスバルから仕掛けます。
彼女はアキロゼに飛びかかりざまライトニングウィンナーを振るいました。
アキロゼはやや身を屈めます。
スバルのライトニングウィンナーを左腕で受け止めてから、踏み込み一気に懐まで距離を詰めました。
アキロゼのリーチは彼女の拳があたる範囲、逆にスバルとっての射程外になります。
もともと警戒したうえで飛び込んだスバルは後方に跳ね、余裕をもってアキロゼの拳をかわしました。
「……ぐっ!」
しかしアキロゼの拳から放たれる風圧がスバルの身体を吹き飛ばします。
先程アキロゼの風圧を受けた大木が今度はスバルの身体をぶつけられ、大量の落ち葉が舞いました。
スバルは強かに打った後頭部を押さえながら「いてて」と呻きます。
「天音かなと言いおまえと言い、その天音学校ってところの卒業生はなんなんだよマジで。バケモノしかいねえか」
「おまえにだけはそんなこと言われたくないな」
アキロゼは腕を組みながらスバルを見返します。
「それにおまえは一つ大きな誤解をしている大空スバル。確かに私は天音学校に入学したが、学校の卒業生ではない」
「?」
「私は退学したのだ。学校創立以来初めての退学者だ」
アキロゼは続けます。
「私は上級剣士資格どころか中級剣士にすら昇級できていない。そのせいで風当たりも強くてな。落ちこぼれ剣士、栄誉ある学校の汚点、天界の恥さらし、……ほかにもいろいろと不名誉な異名を学友たちから付けられたが忘れてしまった」
「バカな!」
スバルが言い返します。
「これだけの力があって中級剣士試験にも受かってないなんて何の冗談だ!」
「冗談ではない。事実だ。ある日を境に私はソーセージを振るうことに耐えられなくなった。嬉々として剣士試験に挑む学友たちに疑問を感じずにいられなくなった。私はソーセージを捨てたんだ。ソーセージを武器に敵を倒そうと躍起になることの愚かさに気づいたんだよ」
「ふざけるな!」
スバルは激昂します。
「中級剣士にすらなっていないヒヨッコがソーセージの何を知っている!」
「皆が皆同じような文言を口にする。その手の説教は聞き飽きた」
アキロゼが言い終わるや否や、スバルの姿が消えます。
次の瞬間にはアキロゼの目前に現れて、ライトニングウィンナーを袈裟斬りに振り下ろしていました。
しかしアキロゼの目はスバルの動きを捉えていました。
右腕を頭上に上げてソーセージの一振りを防ぎ、並行して左手の握り拳でスバルの腹部を突き上げようとしてきます。
スバルはふたたび消えるような速さでそれをかわし、アキロゼとの距離を開けました。
スバルが攻撃してもアキロゼは防ぎ、アキロゼが攻撃してもスバルはかわす、といった攻防が続きます。
しかしスバルはかわす、と言っても全てをかわしきれているわけではありません。
アキロゼの拳を避けても、拳から放たれる凄まじい風圧が追撃してきます。
いくらスバルが速くても小回りの利く腕はかわすが精一杯、避ける方向が直線状にならざるを得ないこともしばしばあります。そういった場合にアキロゼの風圧をまともに受けてしまうのです。
スバルの身体には徐々にダメージが蓄積されてきていました。
「なあ大空スバル」
荒い呼吸のスバルに、不意にアキロゼが話しかけてきました。
「おまえは、ソーセージのフォークが何のために生み出されたか知っているか?」