勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「大空スバル、おまえはソーセージのフォークが何のために生み出されたか知っているか?」
「……」
「武器としてではない。飢えに苦しむ人々を救うため、食べても食べても決してなくなることのないソーセージという食べ物を生み出す魔法の道具として生み出されたんだ」
アキロゼは続けます。
「人々を救うために作られた道具を、あろうことか人々を傷つける道具に作り変えてしまうなんて、我々人間という生き物の醜い本質を垣間見せてくれる。今の大陸社会を見ろ。そのソーセージを扱える者と扱えない者とで決定的な上下関係を作り出し、ソーセージ持たざる者を社会の不適合者、さもなければ庇護対象の弱者というレッテルを張りつけ底辺の階級層へと押しやっているは誰の目にも明らかだ。ソーセージが生み出された目的とまるで真逆のことを、我々はソーセージを用いて行っているのだ。笑えてくるだろう大空スバル」
言いながら、アキロゼは笑うどころか不愉快そうに目元を歪めます。
「剣士の階級? 下だか中だか上だか知らんが、そんな格付けごっこをして遊ぶ暇があったらもっと他に考えなければならないことがあるはずだ。ソーセージはなんのために作られ、今後どうあるべきなのか。我々はソーセージの原点に帰らなければならない。原点回帰のすべを模索しなければならないのだ」
「それで。おまえの考える原点回帰とは何だシュバ」
「愚門だな。ソーセージ創造時の目的、飢えを満たすために食べ物を作り出す道具として再び作り変えること。そうでなくても人々を救う何らかの目的のために使用されること。少なくともソーセージによって社会格差を生み出すバカげた現状を終わらせることだ」
「なるほどな」
スバルは頷きました。
「わかった気がする。なぜソーセージを使わないおまえがレジェンド所有者であるのか、そのレジェンドソーセージがメタルホットドッグであるのかが」
「それは皮肉のつもりか。嫌なやつだな」
アキロゼは「まあいい」と言ってスバルに近づいて行きます。
彼女はところどころ傷ついた体のスバルを見ながら「見たところ、だいぶ体力が消耗しているようだな大空スバル」と話しかけました。
「もう近々おまえの動きは鈍りだし、ミスも生じてくるだろう。終わりは近い」
「そうだな。確かに終わりが近い」
スバルはアキロゼを見返しました。
「ただし終わるのはスバルじゃない。おまえだ、アキ・ロゼンタール」
「終わる? 私が?」
アキロゼは「ふん」と鼻で笑いました。
「面白いことを言ってくれる。やってみせてくれ」
「ああ!」
答えたスバルの姿が消えます。
その直後、スバルはアキロゼの目鼻先に現れてライトニングウィンナーを振るっていました。
「笑止」
しかしアキロゼはスバルの動きを目で追っていました。
左腕でスバルのソーセージを受け止めます。
続いて彼女は反撃のために右拳を握りしめ、スバルの腹部めがけて振り上げます。
スバルは避けようとしません。
もらった! と、アキロゼは確信しました。
ですがその直後、
「!」
アキロゼの脚が突然脱力し、彼女は地面に片膝つきます。
その拍子にスバルに放った左拳は空を切り、スバルの前髪が靡きました。
「バカな! なんだこれは!」
自分の身体のことなのに、アキロゼは困惑の声を上げて狼狽えます。
「体力を消耗していたのはスバルだけじゃなかったということさ」
それにスバルが答えました。
「そんなはずはない! 私はおまえの攻撃をすべて防いでいた!」
「アキロゼ。おまえは今までにレジェンド所有者と戦ったことはあるか?」
スバルの問いに、アキロゼは訝しむように見返します。
そんな彼女に「ないだろうな」とスバルは言いました。
「さもなければ、ライトニングウィンナーをあえて腕で受け止めて防御しようなんてことはしなかったはずだ」
スバルは続けます。
「十二本のレジェンドソーセージはそれぞれ何らかの属性を有していて、触れるだけでも身体に害を及ぼす。スバルのライトニングウィンナーは電流の属性を持つ。このソーセージの打撃を生身で受ければ重ねて電流がおまえの身体を蝕むんだ。強者であればあるほど、つまらないことで意識の集中を途切れさせないために痛覚を鈍らせる。それがあだとなり少しずつ蓄積される電流のダメージに気づかず積み重なり、今に至ったというわけだ」
「くっ!」
「それでも、スバルの振るう攻撃のなかには回避の方が容易い場合も多分にあった。それをあえて腕で受け止めていったのはソーセージを避けることへの拒み、武器としてのソーセージなど真っ向から叩き潰すというおまえのこだわり、剣士を見下すくだらないプライドだ。おまえはソーセージに足元をすくわれたんだ、アキ・ロゼンタール」
スバルは片膝ついた状態で彼女を見上げるアキロゼにライトニングウィンナーを突きつけます。
「降参しろ」
「降参?」
アキロゼはオウム返しに聞き返します。
「私が? 剣士であるおまえに!」
スバルは足を蹴って後方に跳ねます。
直後、スバルが先までいたところにアキロゼの拳が突き出されていました。
「確かにおまえの言うとおりだ大空スバル。私にはこだわりがある。おまえたち剣士の攻撃はすべてこの拳で防ぎ、この拳によって叩きのめして勝利してやるというこだわりが」
ふらつく足に喝を入れ、アキロゼが立ち上がります。
「だがな、それには私の戦う意味と直結した理由があるのだ。先に言っただろう、私の使命はソーセージのあるべき原初の形を取り戻すことだと。しかし現実としてソーセージは最強の武器とみなされている。私がいくら剣(ソーセージ)を手放せとおまえたち剣士に言ったところで、おまえたちは決して耳を貸そうとはしない。わかっているのだそんなことは。ならば証明するしかないだろうこの拳で! ソーセージに勝ることを証明するためならば、この腕に後遺症が残ろうが何百何千だろうと受け止めよう! そのうえで大空スバル、おまえに勝つ! そしておまえに敗北した天音かなたも倒し、私は私の拳を皆に認めさせる!」
「ちょっと待て!」
猛るアキロゼをスバルが制止します。
「なんだ!」
アキロゼは、意識してしまったせいで一気に襲い掛かっているのでしょう疲労に足掻いている最中ようで、余裕なさげの表情でスバルに怒鳴ります。
「いや、悪い。でもさ」
スバルは頬を掻きながら口ごもります。
アキロゼは「ちっ」と舌打ちしてから、立っているのがつらいのでしょう、身体を休ませるように片膝立ちになってから「何だ?」と再度聞きました。
「スバルはわからねえんだよ」
スバルは続けます。
「ぶっちゃけ言うけど、おまえはヤベエやつシュバ。素手で剣士と戦うってだけでも異常なのに、ライトニングウィンナーを使うスバルと互角に渡り合えるんだから。ソーセージ以上の可能性を認めさせるっていうのがおまえの目的なら、スバルはこの時点でもうおまえを十分に認めてる。なのに、レジェンドソーセージを使うスバルに対して、その攻撃すべて生身で受け止めようなんて鬼畜なハンデをどうして背負おうとするんだ。はっきり言ってスバルはこれ以上おまえと戦いたくない。おまえみたいなふざけたやつはもう大陸に現れないかもしれない、なのにそんなやつが後遺症を残してまでも戦うって言うんだからやりきれねえんだよ。でもスバルはレジェンド所有者を倒さなくちゃいけない理由がある。なあ、おまえだってこのまま戦えばどういう勝敗になるか見当がついているだろう? 頼むから降参してくれないか」
「……」
「なんでそこまで勝つことに執着する? スバルも、おまえがさっきから名指ししている天音かなたも、勝利という結果よりも戦いという過程でおまえの信念を認める剣士シュバ。勝つことが、必ずしも人がその勝者の強さを認めることじゃない。にもかかわらず、戦士生命を顧みずに勝つことだけに拘るのはバカげてるシュバ」
スバルが諭すように言います。
すると、
「『天音かなたには勝てないくせに』」
ぼそりと、アキロゼが呟くように言いました。