勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
9羽
西の孤島に向かうため、スバルたちがやってきたのは港町メードです。
メードはコミーノから一番近い港町でした。
「なにぃ? 西の孤島まで船を出してほしいだと?」
「はい」
スバルたちがまず向かったのは船場です。
そこで船の整備をしている男に、西の孤島まで船で送ってくれないかと頼んでいました。
「もちろん船賃は十二分にお支払いします」
るしあはソセレ硬貨でぱんぱんに膨れた袋を取り出し男に見せます。
「やなこった」
しかし男は迷うことなく断りました。
「なんでですか」
「なんでもクソもねえよ。あんなところ、船を出せれるところじゃねえんだ」
男はふんと鼻を鳴らし、「さあ邪魔だ邪魔だ」とスバルたちを追い立ててから作業に戻ります。
「なんなんですか、あの態度。こっちはいくらでも払うと言っているのに」
しばらく歩いてから後ろを振り返り、るしあがこぼします。
「仕方ないデスよるしあさん、世の中にはいろいろな人がいマスから。別の人にあたりマショウ」
「シュバシュバ。シュバシュバシュバルルシュバシュバルバシュバシュバ」
(そうシュバ。いちいち気にしてたらきりがないシュバ)
「ポジティブシンキングですね、スバ友は」
彼女たちはふたたび船場で船を持っていそうな人を探します。
メードは有名な港町です。
船を所有している人はすぐに見つかりました。
「西の孤島に連れていけだあ? 冗談じゃない!」
しかし、どの船人に頼んでも「西の孤島だけは嫌だ」の一点張りで断られます。
仕方なく三人は船場から引き揚げました。
「何か変デスね、この町は」
とにかく、どうして船人たちが西の孤島へ船を出したくないのかわかりません。
スバルたちはその事情を知るため酒場へと向かいました。
「いらっしゃい」
昼間の酒場はあまり客が入っていません。
スバルたち三人はカウンター席に腰かけます。
「ご注文は?」
店主が尋ねます。
「ミルクとメロンソーダ、ビールを。それぞれジョッキで」
三人分を注文するるしあに「9ソセレね」と店主が言います。
しかしるしあは12ソセレをカウンターに置きました。
「マスター。聞きたいことがあるのですが、いいですか?」
「なんだい?」
「実は」
聞き返す店主に、るしあは船人たちが西の孤島へ行きたがらない理由を聞こうとします。
しかしそれより早く「マスター!」と、隣のカウンターに座っている女性が割り込んできました。
「船長もビール」
「さすがに飲みすぎじゃないですかねえ」
「ビール!」
「はいよ」
根負けしたように店主が頷きます。
一方ビールを注文した女性は、いきなりるしあ達のほうを指さしてきました。
「この子たちのおごりで」
「13ソセレね」
「……」
るしあは眉間にしわを寄せながら、卓上に重ね置いた12ソセレに1ソセレ硬貨を追加します。
「ありがとー!」
それを見た女性はけらけら笑いながら礼を述べました。
「……どういたしまして」
ぶすっとしながらるしあが返します。
「やだなもー、そんな不機嫌そうな顔しないでよー。船長この町にすっごく詳しいからさ、奢ってもらったお礼になんでも教えてあげちゃう」
そう言ってから、彼女は右手に持つジョッキの中身をぐいぐいあおりました。
そんな彼女の卓上は空のジョッキで置き散らかされています。
相当お酒が入っているようでした。
「ぷはあ! うめえええ!」
彼女は緋色の髪をツインテールに結っており、右目には眼帯を当てています。
頭には海賊のキャプテンが身に付けていそうな物々しい被り物をしています。
「あんたたち、名前は?」
ジョッキから口を放し、彼女はるしあたちに聞いてきました。
「潤羽るしあといいます。こっちは小鳥遊キアラ、そしてスバル先輩です」
「よろしくデス」
「シュバルシュバ」
(よろしく)
三人はそれぞれ軽く頭を下げます。
「ふふん、いいなあ青春してて」
女性はるしあたちを順々に見回して、最後にスバルで止まります。
「とくにアヒルちゃんはいい名前つけてもらって愛されてるじゃないですかあ、かぶってる帽子が前後逆ですよっと」
「シュバシュババ! シュバルシュシュババシュバ!」
(おいやめろ! これでいいんだシュバ!)
前後の向きを変えられたスバルのキャップ帽をるしあが元に戻してあげます。
それを見た女性は「あらー、ごめんごめん!」とまた笑いながら謝って、ビールを一口飲んでからるしあ達に向き直りました。
「船長の名前は宝鐘マリン、船長でもマリンでも好きなように呼んでよ。まあ別にどっかの船の船長ってわけじゃないんだけどねえ」
キャハハハ! と一人で受けて笑って、またビールを流し込みます。
「では船長、さっそく聞きたいのですが」
聞きたいことだけ聞いて早くここから立ち去ろう、そう言いたげな顔でるしあはマリンに話を切り出します。
するとマリンは身体を乗り出すようにして「お、なになに?」と促しました。
「実は、るしあたちは訳あって西の孤島へ行きたいのですが、船場の人たちに頼んでもみんな嫌がって船を出してくれません。どうしてなのか知りませんか?」
「……」
るしあの問いかけに、マリンはニコリと微笑み返してからまたビールを傾けます。
もうジョッキの中身は空なのに、残った泡を食べようとしているようでした。
「船長、どうしてですか?」
じれったくなったるしあが聞きなおします。
「うるせえな」
ぼそっとマリンは言いました。
「え?」
「西の孤島? はん! そんなの船長の知ったこっちゃないし!」
マリンはそう吐き捨てるなり、いきなりガン! とジョッキをカウンターテーブルに叩きつけるように置いて「マスター!」と声を張り上げました。
「ビールはまだ! いつまで待たせるの!」
店主は「はいはい」と答えながらマリンの卓上に新しいビールジョッキを置きます。
彼女はそれに手を伸ばそうとしました。
「え、ちょ、待ってくださいよ! おごったら何でも教えるってさっき自分で」
「ああああ! うるせえええ! どっかいけえええ!」
追及しようとするるしあに、マリンは駄々をこねる子供のように両手両足をじたばたさせます。
すると、余程その騒ぎがうるさかったのでしょうか、
「おい、おまえたち」
いつからそこにいたのかスバルたちの後ろに、筋肉隆々の肉体にタンクトップを着た男が腕組みしながら立っていました。
「他の客に迷惑だ、ちょっとついてきな」
男は鋭い目の先を表口に向けて言ってから、先に歩いていきます。
スバルたち三人はお互いに目を合わせ、唾を飲み込み覚悟を決めてから彼の後に続きました。
男は酒場を出たあと店の路地裏へ入っていきます。
そうしてしばらく歩いてから、おもむろにスバルたちに振り返りました。
「ここまで来ればいいだろう」
呟いてから、彼は「悪いなお嬢ちゃんたち」とスバルたちに謝りました。
「この町では西の孤島のことは禁句、みんなあまりその話を聞きたくないからよ。こんな場所でもなけりゃ話してやることもできねえんだ」
そう喋りだす男に、スバルたち三人はホッと胸をなでおろします。
「でもあなたは大丈夫なのですか? その、西の孤島についてお聞きしても」
ふと疑問に思ったるしあの問いかけに男は苦笑しました。
「大丈夫かどうかと問われれば、まあ正直言うと大丈夫ではねえな。だけど俺たちの船長、ああいや元船長な? が迷惑かけた分は尻拭いしなけりゃいけねえからよ」
「元って、あの人は本物の船長だったんですか?」
尋ねるるしあに「もちろんさ!」と男は目を輝かせます。
「船長は船長でもただの船の船長じゃねえ、海賊船さ! チーム・宝鐘海賊団って言えば、海の男ならだれでも聞いたことがあるくらいの大海賊だったんだ! 俺たちはホロ・デ・ソーセージ大陸を囲うあらゆる海を踏破し、あらゆる海賊を打ち倒してきたんだ! ……二年前まではな」
急に男の顔が曇りました。
「二年前?」
聞き返するしあに「そう、二年前さ」と、男は苦々しそうに頷きます。
「当時、船長と俺たち宝鐘一味は向かうところ敵なしだった。そんなある日、西の孤島に腕の立つ剣士がいるって噂が入ってきたんだ。酒の席のことだったし、船長はその場で勝利宣言してから翌日西の孤島に向けて出航した。ところが西の孤島にいた剣士は腕が立つどころの話じゃねえ、バケモノみたいなやつだったんだ。船長はそいつに敗北して、急ぎ孤島から船を出した」
そこまで言ってから、男は深く息を吐きました。
「運が悪かったんだ。帰りにひどい嵐にあってな、宝鐘一味の半数が命を落とした。それでもやっとのことでメードに戻ってきたわけだが、あの日以来、みんなは西の孤島が怖くてたまらなくなったし、船長は船長で起きちまった不幸を全部自分の責任だと思って酒ばかり飲むようになっちまった」
しゃべり終えてから、男は遠く海の方に目をやります。
その顔がなんだかとても寂しそうに見えて、るしあは「ごめんなさい」と謝りました。
「いろいろ思い出したくないようなことをお聞きしてしまって」
「良いってことよ。それより、どうしておまえたちは西の孤島なんかに行きたいんだ?」
男の問いかけを受けて、るしあはちらりとスバルを見ます。
スバルはそれに頷き返し「シュバア、シュバル」(るしあ、頼む)と答えました。
「実は」
るしあは男に、自分たちは大空スバルを人間に戻すため、その西の孤島の剣士を倒さなくてはいけないという事情を打ち明けました。
「へえ、これがあのライトニングウィンナー使いの大空スバルねえ」
男はスバルを持ち上げながらまじまじと観察します。
「シュバアシュバ」
(そうだシュバ)
「そうか。でもそういうことなら引き留める必要はねえか」
スバルを下に降ろしてから、男は「実を言うとな」と話しはじめます。
「さっきの話をしたあとでよ、お嬢ちゃんたちにはあそこに絶対に行くなって忠告するつもりでいたんだ。もしバカンス気分や興味本位だったらやめておけってな。だが事情が事情のようだし、このアヒルが本当にあの大空スバルだって言うのなら、ひょっとしたらマジで西の孤島のバケモノ剣士を倒しちまうかもしれねえしな」
それから男は少し考えるように腕を組みだし、「あまり期待はしないでほしいんだが」とまた喋りだします。
「この町の海沿いに紫色の屋根をした大きな屋敷が建ってる。そこに湊あくあって言うお嬢ちゃんが一人で住んでいるんだが、その子が何とか号とか言うでけえ船を所有しているんだ。ダメ元で船を出してくれないかどうか頼むのもありかもしれねえな」
「そんなことまで、わざわざありがとうございます」
スバルたち三人はぺこぺこ頭を下げました。
「良いってことよ。ああ、それとこれ、忘れるところだったぜ。受け取ってくれ」
男はズボンのポケットに手を突っ込んでから握りこみ、るしあに向けてその握り拳を突き出します。
「? はい」
るしあがそのすぐ下で両手を広げると、彼は握りこぶしを解きます。
すると数枚のソセレ硬貨がるしあの手のなかに落ちてきました。
「さっき酒場で飲み物の料金を払っちまった後なのに、俺がここに呼び出したから飲み損ねちまっただろ。メロンソーダとミルクとビール、それとうちの船長に奢らされたビール、全部で13ソセレだったと思うがあってるか?」
「あ、いいですいいです、るしあたちが勝手に払ったのですし、十分すぎるほどのお話をしていただいたので」
恐縮するようにるしあが断り、渡されたソセレ硬貨を男に返そうとします。
しかし男は「そんなわけにいかねえよ」と、そんな彼女を頑なに拒みました。
「俺も今はただのチーム無所属剣士になっちまったが、それでも宝鐘海賊団の元一味だ。そして船長は海賊をやめたとしてもずっと俺たちの船長なんだよ。船長のことで人様に不快な思いさせるわけにはいかねえ、これだけは絶対に譲れねえんだ。いいからよ、仕方ねえとあきらめて受け取ってくれねえか。な」
「は、はい、そこまで言うなら」
るしあは男から受け取った硬貨を硬貨袋のなかに入れます。
「ありがてえ。じゃあなおまえたち、船出してもらえるといいな」
それから男は軽く手を振り去っていきました。
スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。