勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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 アキロゼが大の字に倒れます。

 

「や、やったあ! スバル先輩!」

 

「スバルせんぱい!」

 

 るしあとキアラがスバルの元へ駆けよりました。

 

「お、おう……」

 

 小さく答えてから、スバルも体力を使い果たしたかのようにへなへなと地面に腰つきました。

 ちょうどその時、るしあのバッグの中から光が漏れ出ます。

 

「スバル先輩! 見てください!」

 

 るしあはバッグの中からクソザコの書を取り出して、ページを開きスバルの方へ見せました。

 新たなページに「アキ・ロゼンタール」の名前が刻まれていました。

 

「か、勝った……」

 

 スバルは疲れた目を強く瞑りながら、絞り出すように言いました。

 

「そうか。私は負けたのか」

 

 スバルのすぐそばで声がしました。

 仰向けに倒れているアキロゼでした。

 

「納得できないか?」

 

 スバルはアキロゼを見下ろしながら聞きます。

 アキロゼは「ふん」と鼻を鳴らしました。

 

「納得できないことがあるとすれば、レジェンドソーセージを見くびっていた私自身に対してだ。おまえに対して不満はないよ大空スバル。むしろ、私は満足している」

 

「……」

 

「私が今まで戦ってきた剣士たちは皆が皆、私を近づけさせないよう躍起になって距離を保つような戦法ばかりを使ってきた。おまえのようにわざわざ私に突っ込んでくる剣士なんていなかったからな。そして何より最後の最後、おまえは私の攻撃をあえて受け止めた。私の意表を突く作戦だったのかもしれないが、私はな、おまえの信念を見せられたような気がした。嬉しかった」

 

「ふん」

 

 満更もなくスバルが笑います。

 アキロゼも口角を上げました。

 

「私はもしもという仮定の話は好きじゃないが」

 

 アキロゼは大空を見上げて、独りごとを言う調子に喋りだします。

 

「もしも私がソーセージを捨てようと固く決意する以前におまえのような剣士と出会えていたら、夢と希望、絆としてのソーセージの可能性を目の当たりにしていたら、私はソーセージを手放すことをとどまっていたかもしれないな」

 

「アキロゼ……」

 

「勘違いするなよ大空スバル」

 

 アキロゼはスバルの方へ視線を向けます。

 

「私は別に過去の決断を後悔しているわけではない。今は感傷的になっているからそう思えているだけ、すぐに正気に戻るだろうよ。ただ、そう思えるくらいに清々しい気分だと言っているんだ」

 

 言ってアキロゼが上体を起こした時でした。

 

「楽しげに何を話しているのかしら?」

 

 すぐそばの茂みががさがさと物音を立て、中から女性が姿を出しました。

 

「元気そうでなりよりだわ大空スバル」

 

「はあちゃま!」

 

 スバルがは立ち上がろうとしますが、上手く力が入らないようで腰を上げることができません。

 はあちゃまはそんな彼女を「ふん」と鼻で笑ってから、視線をアキロゼに移します。

 目を細めて彼女の腰元、レッグバッグを見やりました。

 

「『鉄の意思』メタルホットドッグのレジェンド所有者、アキ・ロゼンタール」

 

 所有するレジェンドソーセージの名前に、アキロゼが鋭いまなざしをはあちゃまに返します。

 アキロゼははあちゃまの姿をまじまじと見ながら「おまえは」と口にしようとします。

 

「騙されないでくださいアキロゼさん!」

 

 るしあが彼女に呼びかけました。

 

「見た目こそ赤井はあとですが中身はまるで別人、彼女はクリスタルサビロイによって生み出された――」

 

「わかっている」

 

 アキロゼはるしあの言葉を遮りました。

 

「並々ならぬ邪悪なオーラ、噂に聞いたトップランカーがこんなオーラをまとっているはずがない」

 

 吐き捨てるように言うアキロゼに、はあちゃまはむしろ嬉しげに微笑みます。

 

「おめえええ!」

 

 スバルが怒鳴りました。

 

「毎回毎回なんなんだよ! タイミングを見計らったように出てきやがって!」

 

「見計らったように、ではないわ大空スバル。見計らって出て来てるのよ」

 

 しらっとそんなことを言います。

 スバルはいらっと顔を顰めました。

 

「言っておくがアキロゼはスバルとの戦闘直後で疲弊してるんだ! こんな状態の時に戦いを挑むなんてしやがったら――」

 

 喋り途中でボン! とスバルの周囲に白煙が立ち、スバルはアヒルの姿に戻ります。

 

「シュババシュババシュババシュバシュバル!」

(容赦しねえからなこの野郎!)

 

「何言ってるかわからないわあ、大空スバル」

 

 はあちゃまは白々しく困ったふうを装います。

 スバルはシュババババと歯がみしました。

 

「るしあさん」

 

 そんなスバルの後ろでキアラがるしあに耳打ちします。

 

「スバルせんぱいとアキロゼさんを連れて、フェニックスのところへ。そしてできるだけ遠くへ行ってください。それまで私が足止めしマス」

 

「でもキアラ、あなたは」

 

「もうご存知デショウ、私はいくら死のうが蘇る不死鳥の化身。たとえふたたびこの命尽きることになっても蘇り、記憶を失ってもカリの元へ連れて行ってもらえれば元に戻りマス。それに私としても、二度もこの女に殺されるつもりはありマセン」

 

「逃がすと思う?」

 

 耳聡くキアラたちの会話を聞き取ったはあちゃまが割って入ります。

 

「言っておくけど、あなたの剣筋はすでに見切っているわ小鳥遊キアラ。もしまた私の邪魔をしようと立ちはだかることになったら、十秒とかからず斬り伏せてすぐに大空スバルたちを追いかけるわ」

 

「はったりデス」

 

「どうかしらね。ああでもあなたはいくら殺しても蘇る魔界のゾンビだったわね小鳥遊キアラ。一思いに殺しはせずに、半殺しのまま手足を斬って道端に放っておくことにするわ」

 

「シュババ!」

(やめろ!)

 

 スバルが叫びます。

 るしあもキアラの裾をぎゅっと握りしめました。

 

「スバルせんぱい。るしあさん。私のことは心配しないでください。それより早くフェニックスの元へ」

 

 キアラがレッグバッグからフォークを取り出し、チュロスを出そうとします。

 その時です。

 

「おい」

 

 彼女らの横から、声がしました。

 

「察するに、彼女の目的はメタルホットドッグの所有者である私なのだろう? 当人の私を差し置いて勝手に話を進めないでくれ」

 

 アキロゼが立ち上がります。

 

「アキロゼさん! まだ急に動いては!」

 

 るしあがアキロゼに駆け寄って肩を貸そうとします。

 しかしアキロゼはるしあを押しのけました。

 

「私をおまえたちと一緒にしないでくれ。もう十分に休むことができた」

 

 言ってからカツンカツンと爪先で地面を蹴って、足や腰の感覚を確かめはじめます。

 

「……」

 

 本当なのですか? と言いたげにるしあはスバルの方を見やりました。

 スバルは首を振りました。

 

「シュバルババ。シュバルルシュバシュバルルシュバルバシュバル」

(強がりだ。回復したとしても程度が知れる)

 

「アキロゼさん、今はそんなことを言っている場合では」

 

 スバルの確認を取ったるしあは改めてアキロゼに手を貸そうとします。

 しかしアキロゼはそんなるしあの前に腕を突き出して、彼女を制止させました。

 

「大空スバル。小鳥遊キアラ。潤羽るしあ」

 

 アキロゼは順々にスバルたちを見回します。

 

「言っておくが、私はおまえたちの仲間でもなんでもない。仲良しごっこは止してくれないか」

 

「んな!」

 

 るしあがカチンときたように頬を膨らませます。

 

「るしあたちだって、別にあなたのために言ってるんじゃないですよ! でも皆が生き延びるための手立てはないかと思ってですねえ!」

 

 るしあは込み上がってくる不満をアキロゼに言い立てようとしました。

 しかしその手をキアラが掴み、握りしめます。

 驚き言葉を止めて振り返るるしあに、キアラは無言で首を振りました。

 

「はあちゃま、とか言ったな」

 

 アキロゼははあちゃまに向き直り腕を組みます。

 

「先ほど言ったように私はすでに戦闘するだけの体力は回復した。私と戦いたいと言うのなら好きにかかって来るがいい。ただし、それ相応の覚悟の上でな」

 

「ふん。なにを偉そうに」

 

 はあちゃまは鼻で笑いました。

 

「言っておくけれど、私はずっと大空スバルとあなたの戦いを観させてもらったわ。そのおかげであなたの必勝法も見出すことができたの」

 

「ほう」

 

 アキロゼは笑い返しました。

 

「それは楽しみだな」

 

「あなたは愚かなレジェンド所有者よアキロゼ。レジェンドソーセージを所有していながらそれを使用せず、殴ることしか考えてないのだもの。あなたの猿みたいな戦い方を見ていると不憫のあまり心が痛むわ、前時代でさえ野蛮人と蔑まれたことでしょうね」

 

 アキロゼは腕を組んだまま欠伸をしました。

 

「あなたの攻略法は至って単純よ」

 

 はあちゃまはフォークを振るいクリスタルサビロイを出しました。

 

「言わずもがな短所はそのあまりに短いリーチ、一定距離を保ちつつダメージを与えていけばいずれあなたは力尽きるわ。私のクリスタルサビロイは全ソーセージのなかで最長の2メートルの長さを誇る。仮に懐へ入られたとしても私であれば難なく対処することができるし、そもそも私はそんなへまをしないわ。あなたの持つメタルホットドッグのスキルはこれ以上なく容易く私のものになる。これは退屈なくらいのイージーゲームよ」

 

「御託はいい」

 

 アキロゼは腕組みを解かず、はあちゃまを見据えます。

 

「さっさと来い」

 

「言われなくても!」

 

 はあちゃまがアキロゼに飛びかかりました。

 と言っても詰めたのはほんの数メートル程度、彼女がさきほど宣告したようにアキロゼとの距離を2メートルほど開けたところからクリスタルサビロイを振るいます。

 

「さっきから、拳が私に訴えかけてくるのだ」

 

 アキロゼがぼそりと呟きます。

 

「はあちゃま! おまえには決して容赦せず慈悲も与えずに、徹底的に叩きのめせとな!」

 

 直後、アキロゼは自分に向かって振り下ろされるクリスタルサビロイを左掌で受け止めます。それをぎゅっと握り込んで捕らえました。

 

「え! な、なに!」

 

 はあちゃまは動揺を隠しきれません。

 アキロゼにソーセージを掴まれてから、まったく動かすことができないのです。

 

「バカな! こんなことが!」

 

 フォークを両手で持って引き離そうとしますが、びくともしません。

 一方アキロゼはクリスタルサビロイの剣身を持ったまま大きく足を踏み込んで、はあちゃまの懐まで潜り込みます。

 

「……ッ」

 

「どうやら、ゲームの難易度を見誤ったようだな」

 

 アキロゼは右手を握り込み、はあちゃまの腹部に五発、六発と叩き込みます。

 

「がは……ッ、ぁ……ッ」

 

 はあちゃまは身体をくの字に曲げて顔を苦悶に歪めました。

 アキロゼはさらに拳を叩きこもうとしますが、ふと何かに気づいたように目を見開き、後方へ跳んではちゃまから距離を取りました。

 

「よ、よくもやってくれたわね!」

 

 やや辛そうな前傾姿勢で、腹部を左手で押さえながらはあちゃまが憎らしげにアキロゼを睨みます。

 一方アキロゼはそんなはあちゃまよりも自分の左手具合の方が気になるようで、その震える手を握り開きしています。

 

「なに? もしかしてびっくりしてるの?」

 

 はあちゃまは嘲るように笑いました。

 

「体力を消耗した状態で私のクリスタルサビロイをそんなに握り込んで掴み続けて、無事で済むわけないでしょう。やっぱり脳筋なのね」

 

 はあちゃまは歯を食いしばってから、屈んだ上体をぐっと起き上がらせます。

 

「もうあなたは左手を使えない! さっきみたいな小細工はできないということよ!」

 

 言ってから、はあちゃまは再びアキロゼに飛びかかりました。

 

「確かにな。私の左拳はしばらくの間、使い物にならなさそうだ」

 

 アキロゼは一つ息を吐いてから「だがな」と続けます。

 

「使い物にならなさそうだからと言って、ではもう使えないですねと引っ込めるような生温い信念など持ち合わせていないのだ私は! 私にとっての両の拳はおまえたちにとってのソーセージ、使わなくてはならないときに使えぬようなナマクラ刀ではない!」

 

 アキロゼは声を張り上げてから、はあちゃまが振るうクリスタルサビロイをふたたび左掌で受け止めました。

 先程と同様はあちゃまの懐に入り込もうとします。

 

「シュバルバ」

(あぶない!)

 

 アヒルのスバルが喚きます。

 その直後、アキロゼの後頭部を強烈な衝撃が襲いました。

 

「わかってるのよ。あなたみたいなタイプが出来ない出来ないっていうのを無理やりにでもしてやろうって猪突猛進になることは」

 

 しなりを加えられていたクリスタルサビロイがアキロゼに掴まれた直後、その剣身をぐにゃりと曲げてアキロゼの後頭部を強打したのです。

 

「ぐ……ッ、ぅ……」

 

 しなりである分威力が弱まっているとは言え、もともとの体力が少ないことに加え後頭部という打ちどころが悪いためでしょう、アキロゼは一瞬抗うような呻き声を上げたものの、立ったまま気を失ったように白目を剥いて動かなくなりました。

 だらんと力なく両腕を下げ、掴んでいたクリスタルサビロイも手放してしまいます。

 

「ふん」

 

 はあちゃまはそんなアキロゼを鼻で笑い、あらためてソーセージを振りかざします。

 

「これで終わりよ! アキ・ロゼンタール!」

 

 彼女は無防備なアキロゼの頭部めがけて、ソーセージを横なぎに振るいました。

 

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