勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
92羽
「……」
「気が付かれましたか、アキロゼさん」
目を覚ましたアキロゼにるしあが話しかけます。
アキロゼは周囲を見回しました。
「ここは?」
「るしあたちの野営テントです。ちなみに時刻は夜の七時頃、ちょうど夕飯にしようとしていたところです。もし食べられそうならどうですか?」
「いただこう」
アキロゼは負傷した左脇を押さえながら起き上がります。
そして彼女はスバルたちと食事を取りました。
「あのあと、どうなったのだ?」
アキロゼが食べながら聞きます。
「私が負けたことは覚えている。愚かにも敵の策にはまり地に膝をついた。そのあとは?」
アキロゼの問いに、るしあたち三人が顔を見合わせます。
「はあちゃまは」
るしあが答えました。
「スキルが手に入ったとわかるとすぐ、目的は果たしたとばかりに去っていきました。面目ないですが、るしあたちはそれをただ見ていることしかできませんでした」
「スキルが手に入った?」
「フォークを見てみてください」
アキロゼはレッグバッグからメタルホットドッグを取り出します。
「む」
彼女は眉を顰めました。
メタルホットドッグのフォークは虹色の輝きを失い、さび付いたように黒ずんでいました。
「クリスタルサビロイのスキルなんです。その所有者に負けてしまうとスキルを奪われ、フォークは黒ずみソーセージすら出すことができなくなってしまうんです」
アキロゼはフォークを何度か振るいますが、るしあの言うとおりソーセージが出現しません。
「すいません。アキロゼさんが戦う前に、るしあがしっかり伝えていればよかったのですが」
申し訳なさそうにるしあが謝ります。
「いや」
アキロゼは首を振ってフォークを仕舞いました。
「覚えている、おまえは説明しようとした。それを遮ったのは私だ。謝らないでくれ」
「でも、せっかく生身のままメタルホットドッグのスキルを使えるようになったのに」
アキロゼ本人よりもるしあの方が残念そうです。
「別にそうでもないさ」
アキロゼは笑いました。
「もともとスキルに頼らずやっていく気だったんだ。それにな、私は嬉しかった。スキルが使えたことじゃない、ソーセージを出さずともスキルを使わせてくれたメタルホットドッグの意思を確信できたからだ。少々黒ずんでしまったものの、私はこのフォークの示す道を信じて進むことができる。敗北したにもかかわらずレジェンドソーセージのフォークが手元にあることを幸運と思わなくてはならない」
「アキロゼさん……」
「まあそれはそうと、大空スバル」
アキロゼがスバルに話しかけます。
スバルはお椀に嘴を突っ込んで食べていたのを中断し、顔を上げました。
「シュバ?」
(んあ?)
「おまえとの戦いは悪くなかった。戦うことで理解し合う、そういう戦いもあるのだとわからされたよ。またいつかおまえの剣と私の拳を交わしたいものだな」
「シュバ。シュバシュバルシュバ」
(おう。受けて立つシュバ)
「受けて立つと言っています」
「次こそは私が勝つ」
言ってからアキロゼはごろんと横になり、すぐに寝息をたてはじめました。
◇ ◇ ◇
翌日になりました。
アキロゼと別れたスバルたちは南端の塔をめざします。
しかし先のアキロゼとの戦いではあちゃまが現れたように、今度もはあちゃまやハートンたちによって尾行されているかもしれません。
スバルたちは一直線に目的地へ向かうことを避けて東西南北めちゃくちゃに進んだり、進行困難な森林地帯や逆に隠れる物影が一切ない草原地帯へ入るなどして、いるかいないかもわからない尾行をまくことに一週間を費やしました。
そうして改めて南端の塔を目指してフェニックスを走らせます。
「もうそろそろ食料が尽きてしまいますね」
るしあがため息をつきました。
「問題は食料だけではありマセン。ここ一週間、気が張り詰めた状態で走り続けているためフェニックスの疲労がかなり溜まってしまっていマス」
そういうキアラも、るしあも疲れた顔をしています。
「シュバルバ」
(そうだな)
スバルがるしあの方を向きました。
「シュバルババシュババシュバルル。シュババシュバルルシュバルバシュバルバシュババ、シュバルルバシュバルシュバルシュバルシュバルル」
(今晩は宿に泊まろう。そこでゆっくり休んで疲れを取って、食料も少しばかり売ってもらおう)
「はい!」
るしあは元気よく頷いてからスバルの言葉をキアラに伝えます。
二人の顔が喜びでにやつきました。
限界間近だったのは疲労だけではなくストレスもです。
久々に宿のベッドで寝付ける今夜を想像し、彼女たちは心躍りました。
「走れ! フェニックス!」
キアラが大声で言います。
フェニックスは力強く地面を蹴って走る速度を上げました。
◇ ◇ ◇
夕暮れ頃になりました。
街道沿いを走ることしばらく、ぽつんと一軒の家が見えてきました。
大きな二階建てです。
その建物の一階からどっと大勢の笑い声が聞こえてきます。
スバルたちは近づいてドア前の看板に目をやりました。
星降り亭、と飾り文字で書かれています。
内容を読んでみると一階が酒場、二階が宿屋の酒場兼宿屋で、酒場の方は零時過ぎまで開店しているようです。
さきほどの笑い声はその酒場の客たちのものだったのでしょう。
ちょうどいいタイミングで見つかった宿屋、そして中から聞こえてくる楽しげな声にるしあは目を輝かせます。
「スバル先輩、ここで一泊しませんか?」
「シュバ」
(ああ)
スバルが頷いたのを見てから、るしあはドアを叩きました。
すぐに「はーい」と女性の声がします。
「……ッ」
するとなぜか、スバルが身をすくめるように身体を丸めました。
「スバル先輩?」
るしあがスバルを不思議そうに見ます。
そうしている間にガチャリとドアが開いて、中から女性が出てきました。
水色の髪を右側でポニーテイルに結んだ、水色の目をした女性です。やや癖毛が強く、結んだ髪や耳元の毛先が軽くカールしています。グレイに黒のチェックが入った帽子とワンピースをしていますが、ワンピースのスカートは右半分だけゴシック調の布地になっています。ワンピースには腰回りに紺色のベルトが巻かれており、ベルトの後ろ部分には漆黒色の帯が結ばれふくらはぎまで垂れています。
そして手には黒い指ぬきグローブをはめています。
スバルたち三人を一目見るなり客とわかったのでしょう、彼女は満面の笑みを作って微笑みかけました。
「はいハニィ」