勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「はいハニィ。さあどうぞ中へ」
女性は笑いかけてからドアを身体で開けたままに押さえ、るしあたちを店内へ招き入れます。
「ありがとうございマス」
キアラが礼を言って中に入りました。
るしあもそれに続こうとしますが、そこでふとスバルの様子がおかしいことに気づきます。
スバルはるしあの脚にべったりと引っ付いて、どうやらドアを開けてくれている女性に見つからないようにしているようなのです。
「どうしましたか?」
女性が尋ねます。
「いえ。なんでもないです」
るしあは答えてから、スバルに構わず店内に入ることにしました。
それでもスバルはるしあの足元にしつこく纏わりつくので歩きにくいことこの上ありませんが、どうにか三人は女性が案内したテーブル席にたどり着きました。
「こちらがメニューです」
女性がるしあとキアラそれぞれにメニュー表を渡します。
二人は礼を言ってから受け取って、さっと品目に目を通します。
「スバル先輩は何を食べたいですか?」
るしあは相変わらず脚に引っ付いているスバルに呼びかけますが、スバルは無言です。
「スバル先輩?」
「ねえ客さん、旅の人でしょ? どこに向かっているの?」
女性が馴れ馴れしく話しかけてきました。
彼女はメニュー表を渡した後も引っ込んだりせず、その場に残っていました。
「どこって……」
るしあは言いよどみます。
フレアやシオンが言うに、スバルを呼びだしている「偉大な人」は相当の人物らしいのです。そんな人がいる場所へ向かっていることを見ず知らずの他人へ口にするのは憚るべきだと思ったのでした。
「南です」
「南ってアバウトね」
「それ以上は言えません」
「ふうん。そう。まあいいけど」
女性は興味なさげに言います。
それからさて、どこかへ行ってくれるかと思ったら、彼女はるしあたちのテーブルの空席に勝手に腰を下ろしてきました。
「お仕事はいいんですか? お姉さん」
迷惑そうな声音でるしあが聞きます。
「いいのいいの。呼ばれたら行けば」
女性は軽く笑って答えました。
「それよりお互い自己紹介しましょうよ。ねえ、それくらいならいいでしょ?」
「はあ。別に構いませんが」
「私の名前は星街すいせい、彗星のごとく現れたスターの原石! 今は見ての通りそのスターっぷりを発揮してこの『星降り亭』人気の看板娘!」
「そうですか」
「ほら。あんたたちは?」
「自己紹介はしますが、その恥ずかしい口上はしませんよ」
「恥ずかしい言うな」
「潤羽るしあです。そっちに座っているのが小鳥遊キアラ。そして今はなぜかテーブルの下で隠れていますが、そこにいらっしゃるのは大空――」
「シュババ」
(言うな)
ぼそりとスバルが口にします。
「え?」
「シュバルバシュバルバシュバルルバシュバ。シュバル」
(スバルの名前は言わないでくれ。頼む)
「大空……、なに?」
すいせいが続きを促します。
「いえ、今にも大空に羽ばたこうとしているかのようなアヒル一羽です」
「ふーん。大空に羽ばたこうとねえ」
すいせいは怪しむようにスバルを見据えます。
「すいちゃんには、なんかガタガタ震えてろくに翼を広げることもできなさそうに見えるけど。ていうかアヒルって飛べるの?」
「余計なお世話です。というか何なんですかあなたは、るしあのアヒルにケチつける気なんですか」
るしあが不機嫌そうに聞くと、すいせいは慌てて「ううん! 全然そんな気ないのよ!」と首を振ります。
ちょうどその時です。
「おーい! すいちゃーん!」
「俺たちのスターの原石ー!」
店の常連でしょう、テーブルを付き合わせているところで酒を飲んでいる十数人、その酔っ払いたちがすいせいを呼ぶ声がします。
「あ。呼ばれてる! 行かなきゃ!」
これ幸いとすいせいは席を立ちました。
そしてそそくさと彼らの元へ向かおうとしますが、ふと何かに気づいたように足を止めてから戻ってきました。
「そうそうお客様、もうご注文はお決まりで?」
「まだですが。あなたが話しかけてきたせいでろくにメニューも見れませんでしたので」
るしあが嫌味を言います。
すいせいは笑顔で返してから、
「それでしたら」
と続けます。
「もしコレに上限がなければ、なのですが」
言いながら、彼女は広げた右手の親指と人差し指を結んでお金のジェスチャーをします。
「不肖ながらわたくし星街すいせいが調理担当実姉の姉街に言いつけて、文句のつけようもない当店自慢の品々をこの卓上にご用意いたします。いかがでしょうか」
すいせいがそう口にすると周囲から「いいなあ!」「いいなあ!」と羨む声が上がります。
「どうしましょう?」
るしあはキアラに尋ねます。
「いえ、私に聞かれても……」
決定権はありマセンので、と彼女は苦笑いで返します。
「あの、いいでしょうか?」
るしあはテーブルの下のスバルに聞きました。
一方スバルは、それが自分に対するものだと気づかなかったようで数秒ほど無言でいました。しかしるしあ、キアラ、そしてすいせいの視線が自分に集まっていることにハッとして、そこでようやく気付き首をカクカク縦に振りました。
「それでお願いします」
「はいハニィ。かしこまりました」
すいせいは満面の笑みで答えてから奥の調理場へ消えていきます。
それから少しして戻って来ると、またニコリとるしあたちに愛想笑いしてから常連客たちの方へ向かっていきました。