勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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「今のあなたに星の輝きはかけらもない。赤井はあとの下位互換人格、私はまるであなたに負ける気がしないの」

 

「黙って聞いてれば好き放題言ってくれるじゃない」

 

 はあちゃまはクリスタルサビロイを構えます。

 

「下位互換人格? 負ける気がしない? はん! あなたの直感が下級剣士並みに衰えたってことは十分わかったわ!」

 

 はあちゃまはクリスタルサビロイを振りかざし、すいせいに飛びかかりました。

 すいせいはフォークの持ち手を握り込みます。

 襲いかかるはあちゃまと向き合いながら、目を大きく見開きます。

 すいせいの水色の目が、闇よりも深く染まりました。

 直後、彼女の持つダーク・ヴァイスヴルスト、そのソーセージの纏う黒い霞が性質を異にして、周囲の暗闇よりも深い黒に染まり替わります。

 最早すいせいの右腕を闇に溶け込ませるような霞ではありません。闇の中で色濃くくっきりと浮かび上がる、自然界には存在しないような色の霞です。

 ダーク・ヴァイスヴルストのスキル『悪意』の発動です。

 このスキルは体力が完全状態であることを条件に発動可能となり、使用者の攻撃力を50%上昇させます。

 すいせいは黒い霞によって覆われた腕を振るい、ダーク・ヴァイスヴルストではあちゃまのクリスタルサビロイを叩きました。

 

「しまった!」

 

 はあちゃまは思わず己の失態を口にします。

 忘れていたのでしょうすいせいの初手発動スキルの存在に加え、相手がすでに引退した剣士という侮りもあったのでしょう、はあちゃまの手からクリスタルサビロイがすっぽ抜けてしまいます。

 フォークは星明りを受けながら真上に飛ばされていきました。

 一方相手がフォークを手放したからと言って、すいせいが攻撃を中断しなければならない道理も法もありません。

 まして剣士現役時代に「最凶剣士」「サイコパスすいせい」の悪名を轟かせたすいせいです、躊躇いも手心を加えるような甘い心も一切ありません。

 容赦なくはあちゃまの胴体にダーク・ヴァイスヴルストを叩き込み、真横に弾き飛ばしました。

 はあちゃまはしばらく地面と水平に飛ばされていき、その先に生える木にぶつかったところで停止します。

 木がべきりと折れて倒れたすぐそばで、彼女は四つん這いに起き上がりました。

 

「がはッ! かはッ!」

 

 息が止まっていたのでしょう、はあちゃまは何度も咳き込みます。

 

「ほんと、やめてほしいわ」

 

 すいせいがはあちゃまを見下ろしながら呟きました。

 

「赤井はあとの姿をして、つまらない手なんかにひっかかる。こんな光景、見たくなかった」

 

「くっ!」

 

 ちょうどその時すいせいのもとに、真上に飛ばされていたクリスタルサビロイのフォークが降ってきます。

 すいせいは中空のそれを左手で掴み取りました。

 

「……ッ」

 

 はあちゃまは立ち上がりながら、苦々しくすいせいを睨みつけます。

 しかしすいせいは、手に取ったそのフォークをはあちゃまの方へ投げてやりました。

 はあちゃまの足元にクリスタルサビロイのフォークが転がります。

 

「なんのつもり?」

 

「なんのつもりもないわ。早くソーセージを出して構えなさい下位互換人格」

 

 それでも警戒するはあちゃまに、すいせいは呆れたようにため息をつきます。

 

「現役時代にサイコパスだのなんだの勝手に呼ばれてたけどね、私だってソーセージに忠誠を誓う剣士だったのよ。戦闘最中にフォークを手放す間抜けにソーセージを叩き込むことはしても、フォークを持たない相手にソーセージを振るう外道はしないわ。それが星詠みの線引きよ」

 

「ふん。甘ったるい線引きね。後々で後悔するといいわ」

 

 はあちゃまはフォークを拾い上げてから改めてクリスタルサビロイを出しました。

 しかし彼女は先程のように飛びかかろうとはしません。

 すいせいは依然として『悪意』を発動しており、50%の攻撃力バフがかかっています。

 しかも引退したとは言え相手はベテランの剣士です。なめてかかると痛い目を見ることは、先の衝突で十二分に身に染みています

 

「来ないなら私から行くわ!」

 

 すいせいが駆け出します。

 それは引退して三年とは思えない速さで、ダーク・ヴァイスヴルストから吹きだす黒い霞が彼女の足に追いつかず尾を引いています。

 すいせいははあちゃまの目の前までやってきました。

 はあちゃまは剣を構えようとすらしていません。

 何かあるな、とすいせいは思いました。

 しかしだからと言って、せっかく詰めた距離を理由もわからず開けてしまうのも間抜けに思われました。

 すいせいははあちゃまめがけて、ダーク・ヴァイスヴルストを逆袈裟に斬り上げようとします。

 

「ハートン!」

 

 はあちゃまが声を張り上げました。

 すると直後、はあちゃまとすいせいの間にハートンが飛び込んで割って入ります。

 

「なに!」

 

 すいせいは慌てて剣を止めました。

 

「はあちゃまっちゃまー!」

 

 飛び出してきたハートンによって作られたすいせいの死角、そこからいきなり、しなりを帯びたクリスタルサビロイが突き出されてきます。

 

「これは!」

 

 すいせいは急いで後ろへ跳ねました。

 彼女のその即座の判断は的確でした。

 もう少し行動が遅ければ致命傷を負わされていたでしょう、先程すいせいが立っていた場所でクリスタルサビロイが空を切ります。

 しかし、

 

「ふふふ。傷を負ったわね、星街すいせい」

 

 今の不意の攻撃で、すいせいは左腕にかすり傷を負いました。

 これが他の剣士であれば「だからなんだ」と鼻で笑って返すところですが、ダーク・ヴァイスヴルストの使い手であるすいせいでは場合が違ってきます。

 すいせいの目が、黒色から水色へと戻ります。

 ダーク・ヴァイスヴルスト周囲の霞が鋭さを失ったように薄れだし、すいせいの右腕が闇夜に溶け込みます。

 スキルの発動条件である体力完全状態が満たされなくなったために、『悪意』による攻撃力バフが解除されたのです。

 

「なんてことをするのよ」

 

 すいせいは顔を俯かせながら、低く震えた声で呟くように言います。

 

「油断したあなたが悪いのよ。だからつまらない手なんかに引っ掛かる。『悪意』のバフ効果を失ったからって急に怒りださないでほしいわ」

 

「そうじゃない!」

 

 すいせいは顔を上げ、はあちゃまを睨みつけます。

 

「ハートンを! 長きに渡って苦楽を共にし、あんたを頂のステージに立たせるために己の剣士人生すべてを捧げてくれたチームメンバーを、よりにもよって肉の盾として使うか! この恩知らずが!」

 

「それらは赤井はあとに対する恩よ。私には関係ないわ」

 

 はあちゃまはしれっと返します。

 

「私と彼らの関係は目的を同じくする同志よ。あなたたちの所有するレジェンドソーセージのスキルを奪取するという目的のね。その目的達成ために私は剣としてレジェンド所有者と戦い、彼らは盾として私を守る。ただそれだけのことよ」

 

「なるほどね」

 

 すいせいは込み上がる怒りを押さえつけるように、強くフォークを握りしめます。

 

「スバルからあんたのことを、ソーセージ道から外れた剣士とは聞いていたけれど、どうやら人の道すらも外れてしまっているようね」

 

 言い終わるなり彼女は駆け出しました。

 ダーク・ヴァイスヴルストを振るいます。

 右腕部分が黒い霞で覆い隠されていることをいいことに、身体全体で逆袈裟に斬り上げるような体勢を取りながら、剣を持つ右腕だけは独立させたように異なる動作、横なぎに振るいます。

 

「……ッ、小賢しい真似を!」

 

 一瞬困惑させられたものの、はあちゃまは素早くクリスタルサビロイを守りに構えてダーク・ヴァイスヴルストを受け止めました。

 すいせいの攻撃は続きます。

 彼女自身が一癖も二癖もある性質であることに加え、先でわかるようにダーク・ヴァイスヴルストはフェイントを仕掛けるのに向いたソーセージです。

 すいせいは絶妙なフェイントを織り交ぜながら攻めていきます。

 ですが、癖の強さで言うならはあちゃまも負けていません。

 また彼女のクリスタルサビロイも驚異的なしなりを巧みに用いることでフェイントに応用できるソーセージです。

 二人は互いに一歩も譲らずしばらく打ち合い、タイミングを同じくして後方へ跳ねました。

 

「ふふ、ふふふふ」

 

「?」

 

 距離を取ったはあちゃまが急に笑い出します。

 

「強いわね星街すいせい、剣士を引退して三年も経つのに大したものだわ」

 

「どうも」

 

「でも、強いは強いでもレジェンドソーセージを所有するほどじゃない。打ち合ってそれがよくわかったわ」

 

「……」

 

「せいぜい上級剣士内の上の上、小鳥遊キアラやゲーマーズ幹部の犬猫狼どもの程度よ。激動期にランキング二位を維持し続けたチームリーダーの強さではないわ」

 

 はあちゃまはクリスタルサビロイを軽く振って剣のしなりを確かめるように見ます。

 

「実はね、さっきはあなたの出方をうかがいながら打ち合っていたの。初端で痛い目を見たからね。でもあなたの実力が警戒するほどじゃないってことが十分わかったから、次から本気でいかせてもらうわ。そういうわけだからあまりびっくりしないでちょうだいね」

 

「……やっぱり、衰えてるわよね」

 

 すいせいは軽くため息をつきました。

 

「まあ、そりゃそうよね。もう引退してから三年も経ってるんだもの。さすがのすいちゃんも現役の頃と変わらずに、とはいかないわよね」

 

 でも、と彼女は続けます。

 

「あんたが私と打ち合ってわかることがあったように、私もあんたと打ち合って色々わかることがあったわ」

 

「へえ。なにかしら」

 

「あんたは私の剣筋を把握しきれていない」

 

 すいせいはさも重大なことであるように口にします。

 それを聞いたはあちゃまは「ぷっ」と吹きだしました。

 

「なにかと思えば、バカバカしい。まさかあなた、さっき数合打ち合ったくらいで私の剣筋を見切ったつもりでいるの?」

 

 すいせいは無言です。

 はあちゃまは「おあいにくさま」と続けました。

 

「言ったばかりのことを親切にもう一回言ってあげるわ星街すいせい。私は手を抜いていたのよ、これはとても大切なことだからちゃんと覚えてもう言わせないでちょうだいね。さっきは剣速も剣筋もあなたに見切られないようわざと落として打ち合っていたの。それをあなたと来たらしたり顔で『あんたは私の剣筋を把握しきれていない』だったかしら? そういうセリフはスベッた時に恥ずかしいからもう二度と口にしない方がいいわ」

 

「いいからかかってきなさい。私から攻めてあげてもいいけど。そうすれば全てわかるわ」

 

「ああそう」

 

 はあちゃまは呆れたように言ってから、すいせいに向かって駆けだします。

 

「それじゃあわからせてもらおうじゃないの!」

 

 はあちゃまを迎え撃つすいせいは、構えを取ろうともせず見るからに隙だらけです。

 先の意味ありげな言葉が相まって、それが逆にはあちゃまを警戒させます。

 そのため、はあちゃまはバカ正直に真正面から斬り込むことはさけて、不意打ちに近い攻撃でもう一度だけ様子見しようと考えました。

 わざと大振りにクリスタルサビロイを振り下ろします。

 すいせいは依然ダーク・ヴァイスヴルストを構える様子なく横に動いてそれを避けました。

 その回避経路ははあちゃまの計算通りです。

 クリスタルサビロイがしなります。

 蛇が獲物に飛びつくようにして、すいせいの右脇めがけて突き進みます。

 しかし、その一閃はすいせいに届きませんでした。

 クリスタルサビロイの前にいきなり黒い霞が現れたと思ったら、堅い金属音と共にその先端が弾かれたのです。

 

「な、なに」

 

 はあちゃまは再度剣を振るいます。

 しかし同じように黒い霞に弾かれます。

 それが何度も続きます。

 

「バカな!」

 

 はあちゃまは思わず叫びました。

 もちろんクリスタルサビロイを弾いているのは黒い霞ではありません。

 黒い霞によって覆われた、すいせいのダーク・ヴァイスヴルストです。

 それでもはあちゃまは黒い霞によって弾かれているような気味の悪い違和感を覚えずにいられませんでした。

 というのも、弾いている本人であるすいせいが、クリスタルサビロイの方をほとんど見向きもしていないからです。

 そのせいですいせいとは別の意思を持った黒い霞が、すいせいを守って防いでいるかのような錯覚を覚えてしまうのです。

 もっともはあちゃまにとって、ダーク・ヴァイスヴルストにそういう力があったという話であれば、どれだけ救われた気持ちになれたでしょう。

 

「まさか、本当に……」

 

 なにより恐ろしいことは、振るわれる剣を見るまでもなく防ぎきるほどに、自分の剣筋を見切られてしまっていることだからです。

 

「たった数合剣を交えただけで、この私の剣筋を完全に把握したというの?」

 

 はあちゃまは振るっていた剣を止め、震えた声で聞きます。

 

「数合じゃないわ」

 

 すいせいは静かに答えました。

 

「何千何万いいえそれ以上、私はその剣と打ち合ってきた」

 

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