僕だけのレベルアップ英雄譚 作:音菜/オトナ
ベル・クラネルという人物を知っているだろうか。ベル・クラネルというのは、「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」、通称「ダンまち」という作品に登場する主人公の男の子である。色々とヤバい祖父に影響されて、ハーレムを作るという目的の為に迷宮都市オラリオという場所にまで来たというある意味でやべー少年である。将来には世界屈指のプレイボーイになること間違い無しだろう。というか、作中で既に将来の嫁が数多くいた。
今さっき言葉に出てきた迷宮都市オラリオという場所。迷宮都市とは、何ぞやと思う人物がきっといる事だろう。別にその都市が迷宮のように入り組んでいるとかそういう訳ではない。ダンジョンという地下構造物の上に立っている都市だから、迷宮都市と名付けられたのだ。その迷宮都市には数多くの神々と冒険者がいる。
神というのは比喩でも何でもなく、マジのゴッドがいるのだ。超常の存在たる神々が。神々は神が住む天界から僕達が住む下界に降臨して、眷属を作り始めた。その眷属というのが、オラリオの地下に存在するダンジョンを攻略する冒険者と呼ばれる者達である。神とその眷属を総称してファミリアと呼んだりしている。冒険者達は、神の眷属となる時、
まぁ、ダンまちとか主人公の説明はそんな所で良いだろう。それでだ、これからが本題である。実は……
僕は、その主人公のベル・クラネルになってしまったらしい。
突拍子もない事を言っている自覚は僕にもある。物語の中の登場人物になっているとか意味分からないと思うであろう事も容易に想像できる。それでも信じて欲しい。間違いなく、僕はベル・クラネルとして生まれてしまったのだ。
事の発端を簡潔に説明しよう。
僕は死んだ。飛び降り自殺である。初手から凄まじい事を言っているが、今は無視してくれ。その時の事なんか一片たりとも思い出したくもない。それで、僕は死んだ。間違いなく。実は生きていて、これが夢とかいう事は有り得ない。30メートル以上の高さからコンクリートに向けて飛び降りたのだ。生きているはずがない。
それで目の前が真っ暗になって、闇の中を漂っているような感覚だった。その後、目を開けば、僕は生まれたばかりの赤子として1人の綺麗な白髪の女性の腕の中にいた。それで僕の目を見て、優し気にこう言うのだ。「あなたの名前はベルよ」と。
その時は頭の中は疑問で支配された。ベルってなんだ。どうして、僕は赤子になっているんだとか、色々な事への疑問で埋め尽くされた。
それでも、人というのは適応が早い生物である。1歳になる頃には、僕が置かれている状況は凡そ把握していた。僕が前世で死んだという事。そして、僕はダンまちのベル・クラネルとして生まれ変わったという事。
それに気が付いた瞬間、僕は絶望した。前世で死んでしまったという事実にでは無い。飛び降り自殺なんかしている時点でお気づきだろうが、前世では色々とあったのだ。色々と。じゃあ、何に絶望したのかと言うと、未来の事を考えて心が折れそうになっただけだ。
だって、そうだろう。物語の中のベル・クラネルは何度も死にかけていた。一歩間違えれば死んでいただろうという部分が数多くある。個人的には、その苦難を、その試練を乗り越えていくベルが好きだったが、その本人になりたかったと言えば、それは絶対にないと言える。
誰が喜んで痛い思いをしたいと言うのか。誰が好き好んで命のやり取りをするダンジョンになど潜りたいと思うものか。そもそも、僕は出会いなんぞ求めていない。僕を愛してくれる両親がいてくれるおかげでもう満足している。そういう事で、僕は迷宮都市オラリオに行くつもりは毛頭ない。
今の日常は満ち足りていると言うしかない。
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「ベル、あーん」
お母さんが僕の口までスープを掬ったスプーンを運んできてくれる。体は赤子、中身は17歳という某名探偵と同じような状態の僕には、この状況はしんどい。精神年齢が20まであと少しという僕が、誰かにこうやって食べさせてもらうというのは、精神的にくるものがある。
未だ赤子の僕は、筋肉がそれほど発達していないので仕方ないのだが、それでも精神的に辛いものは辛い。いや、ホントに。羞恥心で死にそうである。「やめてくれ」と声を大にして言いたいが、声帯も発達していない僕は「あーう」とかそれぐらいの言葉ぐらいしか発音できないのだ。
仕方なく、本当に仕方なく、スープを飲んだ。
お母さんが作ってくれたスープは美味しんだな、これが。飲まないのは勿体ないと思わせるぐらいには美味しいんだ。
ところで父よ。何故に、僕にそんなに羨望の視線を向けてくるのだ。今のやり取りに羨ましがる要素が何処にあった。
「ママぁ、僕にもあ~んして欲しいなぁ」
割とマジで何を言ってるんだ、こいつ。お前、何歳だよ。本当に何歳なんだよ。まさか、僕に向けていた視線は僕が「あーん」されていたのが羨ましかったとでも言うつもりか。それが許されるのは、付き合い始めたばかりの恋人ぐらいだと思うぞ。
いや、でも、うちの両親はいつもお熱いからどうなんだ……
いや、流石にないよな。流石にお母さんも断るよな。そう思って、お母さんの方に顔を向けてみたら、あら不思議。スープを掬って、スプーンを父さんの方に持っていくではないか。
「仕方ないなぁ。はい、あーん」
仕方ないとか言いつつ、声が若干上がっている。「あーん」をしてくれと言われて嬉しいのか。マジか。いやまぁ、夫婦仲が良好なのは良い事だと思うよ、うん。仲が悪い両親よりは、仲が良い両親の方が嬉しいからな。
何故か、目の前で今度は父さんがお母さんに「あーん」をしていたが、見て見ぬふりをしていおいた。目の前でイチャイチャしている両親を見ていると、子供の前で何をやってるんだよと思うが、悪い気にはならない。両親の幸せそうな笑顔を見ているだけでこっちまで幸せになれそうな気がする。
だが、そんな幸せはいとも容易く崩れ去るものなのだと知った。
世界は、僕に幸せを与えるつもりはなのだと知った。
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「いい? 絶対にここから出ちゃ駄目よ?」
僕が4歳になる頃、それは起きた。僕が住んでいた村に突如として不幸が襲来した。その不幸とは
とある神の眷属であった父親は、村を護る為に、家の外で闇派閥と戦っている。
せめて僕だけでも助けようとしたお母さんは、僕をある部屋のタンスの奥に隠した。やっと見つけた僕の幸福の象徴。それが手の届かない場所に行こうとしている。それだけは嫌だと闇派閥の注目を集める為にここを飛び出そうとしていたお母さんの服の裾を掴んだ。
「……行っちゃ駄目だよ。僕と一緒に逃げようよ、ね?」
お母さんは、僕の手を優しく握り締めた。
「ごめんね、それは出来ないの。ベル、好き嫌いはしちゃ駄目よ。ちゃんと食べて、パパ以上に大きくなって、強い男の子になるのよ。おじいちゃんみたいにハーレムを作るとか言わずに、好きな人を見つけて幸せにするのよ。ベル、あなたの事はずっと見守ってるわ。あなただけは生きて」
「”幸せな夢の中へ”【スリーピング・ベル】」
心地良い音がしたと思ったら、僕の意識はそこで終わった。
僕をまた独りにしないで……
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目が覚める。視界は真っ暗で、何も見えない。そうだ、僕はタンスの中で隠れていたんだった。耳を澄ましてみても、音はしない。闇派閥共は、ここを去ったのだろうか。
音を立てぬように、ゆっくりとタンスを開く。タンスの外も夜の漆黒に包まれていて、月の小さな光だけが頼りだった。足音を立てないようにゆっくりと歩いて、家中を探し回る。家の中には争ったような跡はあったが、誰もいなかった。
家の扉を開けて、外に出ると肉が焼け焦げたような悪臭が辺りに漂っていた。周りを見渡してみると、黒く焼け焦げた死体がそこら中に散乱していた。
「うぷっ」
人が死に、焼けた様を見た事で思わず吐き気がした。というか、吐いた。鼻を刺すような酸っぱい匂いの刺激臭と吐いた直後特有の酸っぱい味が口の中に広がる。その気持ち悪さでまた吐きそうになるが、口を抑えて何とか我慢する。
吐き気を我慢しながら、燃え尽きた村を歩き続ける。そして、見つけてしまった。
血の池に沈む2人の男女。その胸元には幾本もの剣が突き刺さっており、服は血の赤で染まっていた。顔に髪が掛かっており、顔を見る事は叶わない。それでも、その髪色で誰か分かった。意識を失う直前まで見ていたからだ。そんな訳がないと思いたい。でも、この村に白髪の女性はお母さん1人しかいない。
それでも……
ゆっくりと近付き、顔に掛かっていた髪を払う。お母さんであってほしくないという希望は、絶望へと変わった。何年も見てきた顔なのだからすぐに分かった。隣を見ても、同じようにずっと見続けてきた男の顔。
どちらとも、肌は血の気を感じさせない青白い肌となり、呼吸を止めた体はピクリとも動かない。
「あ、あぁあ、あぁぁあぁぁあああ」
これで終わったのだと悟った。僕の幸せはここで終わったのだと。もはや何も考えられない。何も考えたくない。涙も出ない。悲しみの声が出ない。ここで死んでしまえば、あの優しい両親とあの世で再会できるのではないかとも考えた。でも……
「なんだ、まだ生き残りがいたのか。ガキの悲鳴は大好物なんだよなぁ」
後ろから狂気を孕んだ声が聞こえた。ゆっくりと振り向くと、そこには黒色の外套に身を包んだ謎の人物がいた。声から判断するのに男だろう。その男の手には、血に染まった直剣が握られていた。男は足を進め、僕へと近付く。きっと、闇派閥であり、
「その髪と目…… お前、そいつらの息子か。今すぐ殺して、あの世で会わせてやるよぉ!」
言葉と共に、男が僕に向かって飛び掛かってきた。その凶刃は僕に振り下ろされる。不可避の刃が僕に迫るが、何故か、迫りくる刃はゆっくりと動いているように見えた。これが走馬灯という奴だろうか。生まれ変わって過ごした数年の記憶が蘇る。あの楽しかった日々の記憶が。
振り下ろされる刃は、容易く僕の命を奪い去るだろう。そうすれば、あの世に行ける。そうすれば、両親と再会出来る。そうすれば、また幸福な日々をまた送る事が出来る。だが何故か、僕の体は咄嗟に砂を掴んで男の眼に目掛けて投げ飛ばした。
僕が反抗するとは思っていもいなかったのだろう。驚愕に見開いたその目に、砂が諸に入った。思わずといった形で男は後退した。普通なら、こんな悪あがきをした所で避けられただろうが、あの男は僕を子供だと侮っていた。だからこそ、出来た事だ。だが、次はないだろう。
「よくもやってくれたな、このクソガキィ!」
目に砂が入った男は、その体から怒気を迸らせる。そして、男の姿が消えた。
「ぐふっ!?」
脇腹にトラックでも衝突したのかと思えるぐらいの衝撃が来た。吹き飛ばされた僕は、地面を数メートル転がった。息をするだけで胸が痛い。神の恩恵を刻んだ男の蹴りを食らって、無事で済む訳はないと思っていたが、これは肋骨が何本か折れているのかな。肋骨折れた事なんてないから分からないけど。
あまりの痛みに意識を手放しそうになるが、歯を食いしばって何とか耐える。ふいに口の中に鉄の味が広がった。そして、喉を逆流してきた液体を思いっきり吐き出した。
「ごふっ」
見れば、吐き出したそれは赤い血だった。血を吐き出した経験なんて、前世も含めて初めてだ。口の中が生暖かい血と鉄の味がいっぱいに広がって、めちゃくちゃ気持ち悪い。
「あ、がっ」
痛みに耐える事しか出来ず、動けなかった。そんな僕の首を男は掴んで、僕の体を片手で容易く持ち上げた。男の手で喉が塞がり、息が出来ない。息苦しさに悶え苦しむ事しか出来ない。徐々に視界が霞んでいく。体内の酸素が失われていき、体に力も入らない。このままでは、間違いなく死ぬだろう。
だが、今は自分の生死よりもついさっきの自分の行動に疑問を持っていた。何故、僕は今、男に向かって砂を投げたんだ? あの時、間違いなく僕は死のうとしていたのに。それなのに、抵抗していた。つまり、僕は生きたいという事なのか。そんな訳がない。
両親が死んで、村も壊滅して、今の僕に生きる気力などありはしない。生き残った所で今の僕には何も残っていないのだから。なのに、それなのに、僕は死に抵抗した。何故だ。分からない。
でも、ふとお母さんの最後の言葉を思い出した。
ー「ベル、愛してる。あなただけは生きて」ー
あぁ、そうか。そういう事だったのか。あの言葉が僕に生きる意志を与えていたのか。だから、僕は抵抗していたのか。お母さんが「生きて」と言っていたのだ。ならば、生きるしかないだろう。死んでいった両親の分まで。あの世で会った時、「僕はちゃんと生きたよ」と言えるように。
そう思うと、何故か体の底から少しは力が湧いていた。それでも、今が絶体絶命の事には変わりない。
とりあえず、この状況から抜け出す事が最優先だな。そういう事で、せーの!
「いったぁぁあああ!?」
男は絶叫と共に手の力を緩め、その隙に僕は抜け出す事が出来た。何をしたのかって? 思いっきり、手を噛んだだけだ。噛み千切る勢いで噛んだから、相当痛いはずだ。少しであるが、肉を噛み切ったような感触もあったし。
手元に転がっていた純白のナイフ。それは見た事がある。確か、お母さんが持っていたナイフのはずだ。お母さんのお姉さん、つまり叔母がプレゼントしてくれたとか嬉しそうに言っていたのを今でも覚えている。
心の中でお母さんに謝りながら、そのナイフを男の腿に突き刺した。
辺りに響き渡る男の絶叫。突き刺したナイフを抜き取り、男から距離を取る。そして、そのまま、村の近くにある森の中に飛び込む。森の中は茂みが多く、子供の僕が隠れるにはうってつけの場所だ。
そう思い、森に飛び込もうとした時だった。
何もないはずの場所で僕は吹き飛ばされた。
「……え?」
空中を舞う僕に襲ったのは痛みではなく、頭の中を埋め尽くす程の疑問だった。一体、どうして。何に吹き飛ばされたのか。全然分からない。だが、その答えはすぐに分かった。
「こんなガキにやられるとは、情けねぇなぁ」
何も無かったはずの場所から、男が現れた。あぁ、そうか。
魔法というのは、神の恩恵を刻んだ者の中でも一握りの者達にしか発現しない特別な力の事だ。発現する力は、人によって変わり、攻撃系の魔法だったり、援護系の魔法だったりと本当に様々だ。そして、この男は自分を透明にさせる魔法が発現した闇派閥だったのだろう。
あれだけ男の悲鳴が響き渡れば、男の仲間が来るのも当然だった。そこまで考えが巡らなかったとは、僕は余程抜けていたらしい。まぁ、どれだけ反省した所で既に意味はない。
地面に倒れ伏す自分の体を何とか動かそうとするが、指が少々動くだけだった。既に限界が近かった僕の子供の体は、男の一撃で限界を超えてしまった。むしろ、5歳にも満たない子供の体で闇派閥の男にあれだけ蹴られたりして、よく動けたなと思う。
「このガキ、どうしてやろうか」
透明になっていた男は、僕の顔を踏みつける。頭が割れるように痛い。体が動かない僕に出来るのは、踏まれた痛みに呻く事しか出来ない。
突然、右腿の部分がじんわりと熱くなった。その部分に目を向ければ、鉄の厚い刃が僕の肩を貫いていた。
「があぁぁああああ!!
僕の口から絶叫が放たれる。闇派閥のように痛みに慣れていない僕の体は、本能が命の危機を感じたのか、意識もせず、痛みすらも忘れて、体を暴れさせる。それでも、男は僕の頭を踏みつけたままびくともしない。
右腿の熱さと痛みに絶叫を上げている中、左腿にも似たような熱さが襲った。男に今度は左腿を貫かれたらしい。絶叫で疲労した喉が、また悲鳴を上げる。しかも、足に剣を突き刺したままのおかげで傷口が塞がり、血があまり流れない。そのせいで足の感覚は未だに残っている。血を流して足の感覚が少しでも鈍くなれば、どれだけ楽だっただろうか。痛みによって意識を失う事も出来ない。
このまま、僕は甚振られて死ぬのだろうか。僕は生きなくてはいけないのに。
こんな所で死ねない。死んでたまるか。そんな時、何処からともなく、女性の力強く、綺麗な声が聞こえた。
「その足を退けろ、外道ども」
ー【
PCで書いてるとスマホで見た時に文の密度がハンパない事になるんですよね。PCで2,3行執筆したら、スマホでは7,8行とかになっちゃいます。そこでアンケート!
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スマホだと見にくい。改行して欲しい
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このままでよし!
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どっちでもいい。作者の好きにしやがれ!