僕だけのレベルアップ英雄譚 作:音菜/オトナ
意識が覚醒する。目を開けると、見覚えのない木の天井が目に入った。どうやら、誰のかも分からないベッドで俺は寝かされているらしい。そういえば、俺は足を剣で貫かれていたんだった。それでも、何故か、全然痛くない。
掛け布団を退かして、剣で貫かれたはずの足を見てみる。
「え?」
思わずといった形で声が出た。何故なら、そこにあったはずの傷が何もなかったかのように消えていた。痛みは全くなく、全てが悪い夢のように思えてしまう。だが、起きた惨劇も全てが現実のものであったと、俺の脳が訴えていた。
だとしても、ちょっと理解が追い付かない。女性の声が聞こえた時点で記憶が途切れている。きっと、あの直後に意識が落ちたのだろう。そして、目が覚めれば、見知らぬ部屋に寝かされており、あったはずの傷も消えている。本当に何が起きたのだろうか。
「目が覚めたか」
僕の頭の中が疑問で埋まっている中、扉から1人の女性が入ってきた。その声は俺が意識を失う直前に聞こえた女性の声と一緒だという事に気が付いた。そして、部屋に入ってきた女性に目を向ける。
え、お母さん……?
入ってきた女性が一瞬であるが、お母さんと重なって見えた。瞬きした後、そこにいたのは黒いドレスを纏った白髪の女性であった。自分の記憶を出来る限り探ってみるが、こんな綺麗な女性と会った覚えはない。恐らく、これが初対面のはずだ。だが、何故か、その女性の顔を見るとお母さんの顔を想起してしまう。
「……あの、あなたは?」
聞いてみるのが1番早いという結論に落ち着いて、問いを投げかける。
「あぁ、私か。私の名はアルフィア、アルフィア・クラネルだ。お前の母の姉、つまりはお前とは叔母という関係になるのか。ここは私の家だから安心すると良い。あと、叔母さんと言ったら消し飛ばす」
成程、お母さんの姉か。道理でお母さんと重なって見えた訳だ。最後の「消し飛ばす」宣言は、聞こえなかった事にしよう。うん、俺は何も聞こえなかった。俺の精神状態を正常に保つ為、何も聞こえなかった事にしよう。きっと、それが正解のはずだ。
そして、ここでお母さんからアルフィアさんについての話を聞いた事があったのを思い出した。
曰く、オラリオでもトップ10に入る程の実力者。
曰く、オラリオ屈指のファミリアであるヘラ・ファミリアの幹部である。
曰く、3大クエストの1つ、リヴァイアサン討伐の立役者である等々。
とりあえず、お母さんはシスコンであるという事とアルフィアさんはヤバい人であるという事が判明した。今思えば、お母さんはずっと「お姉ちゃん」としか言っていなかったら、俺はその人の名前を聞いた事が無いという事に気が付いた。せめて、名前だけでも教えておいてくれよ、お母さん。
女性が誰なのかも分かった。ここが何処なのかも分かった。最後に、聞かなくてはいけない事について質問をする。口に出す事すら憚られるが、息子である俺が真実から目を背ける訳にはいかない。
「…………それで俺の両親はどうなりました?」
既に答えなど分かり切っている。だが、それでも、聞いておきたかった。アルフィアさんはこの質問をされるのが分かっていたのか、真実を即座に僕に告げた。
「お前の両親は死んだよ。お前に断りもせず悪いとは思ったが、遺体は村があった場所に埋めておいた。墓参りに行くというのなら、同行しよう」
アルフィアさんから聞かされた言葉は予想通りのものであった。予想出来ていた言葉であった。その真実を知る覚悟は出来ていた。
そのはずなのに、どうしてかな。心がぐちゃぐちゃになって、自分でもこの感情がよく分からない。両親が死んだ事への悲しみ。両親を殺した闇派閥への怒り。俺1人だけ生き残ってしまった罪悪感。それらが混沌と混ざり合って、何も考える事が出来ない。
覚悟していたはずなのに、どうして、視界が霞むんだ。どうして、俺は涙を流しているんだろうか。
俺とアルフィアさんしかいないこの小さな部屋で、俺の嗚咽の小さな音だけが響き渡る。涙が零れて、他人のベッドを汚してしまっていると分かっているのに、涙を止める事は出来ない。どれだけ堪えようとしても、涙が流れる事をやめてくれない。
そんな時だった。
突然、人の温もりを感じた。アルフィアさんはその細い腕で俺を抱きしめてくれていた。アルフィアさんは何も言わなかったが、優しく抱きしめてくれた。お母さんがシスコンになったのも、何となく分かる気がする。
アルフィアさんの静かな優しさに触れ、堪えていた分の涙まで溢れて止まらなくなってしまった。涙でアルフィアさんの服が汚れると思って、距離を取ろうとしても、アルフィアさんはそれを許してくれず、むしろ、もっと強く、優しく抱きしめてくれた。
前世を含めた精神年齢は20を超えているというのに、年甲斐もなく、大声を出して泣いてしまった。
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俺が号泣してから暫くして、気持ちも落ち着いてきて、涙も止まった。涙を流し過ぎたせいか、目に少しばかりの違和感がある。きっと、酷い顔をしているだろう。
「……その、あの、もう、大丈夫です」
そして、中身が20を超えた男が綺麗な女性にあやされて号泣とかいう羞恥心が限界を超えるレベルの事件が発生している事に気が付いた。情けなさとか羞恥心とか色々な感情が混ざり合って、顔が噴火しそうな程に熱い。今なら、羞恥心だけで死ねる気がする。
俺がもう大丈夫な事を告げると、アルフィアさんは僕から手を離してくれた。
「落ち着いたか?」
俺の顔をじっくりと見ながら、そう問いかけてくるアルフィアさん。その質問にこくっと頷いて、もう大丈夫だと告げる。アルフィアさんみたいに綺麗な女性に見つめられるというのは、気恥ずかしく、思わず目を逸らしてしまった。
「そうか、ならいいが…… それとドアの前で盗み聞きしてる大男、入って来い。さもなければ、魔法で吹き飛ばす」
アルフィアさんがドアの方に視線を向けて、魔法の脅迫を行う。ついさっきも叔母さん発言したら消し飛ばす発言したり、今も吹き飛ばす発言をしたり、やっぱりアルフィアさんってだいぶおっかない人なのではなかろうか。その予測は的外れではない気がする。
「分かった、分かったから! 魔法を使うな! 俺を殺す気か!?」
そう言いながら、慌てて扉を開けて入ってきたのは、全身を黒い鎧に包んだ男だった。顔にある無数の傷跡と、赤黒い髪の毛が特徴的な大男だった。あと、今のやり取りで2人の上下関係が何となくであるが分かった気がする。勿論、アルフィアさんが上で、大男さんが下である。
割と失礼な事を考えている俺の顔を、今度は大男さんが覗き込んできた。ついさっきもアルフィアさんが覗き込んできたが、俺の両親と知り合いだから似ているのかどうかを見ているのだろうか。
「ほぅ、赤い目は父親そっくりだな…… 似ているのは目だけであって欲しいが」
そう、俺の赤い目は父親譲りである。白髪や顔は母親譲りだ。後半、小声であったが、ばっちり聞こえた。要するにアレだろう。お父さんの悪い部分には似ていないで欲しいという事だろう。お父さんのそういう部分はお母さんから聞かされた事がある。
主神と一緒に女湯を覗きに行ったり、率先して逃げたり等々、醜聞には事欠かなかった人物であったらしい。それでも、優しさと明るさを持ち合わせた性格で、好かれていたらしいが。お母さんと結婚して僕が生まれてからは、鳴りを潜めたらしいが、昔は相当ヤバかったらしい。
お父さんの醜聞を知っているという事は、お父さんの関係者だろう。
実は、この人はお父さんの兄弟でしたとかいうパターンはないのだろうか。髪色も性格も全くに廷無さそうであるが、それでも可能性は無きにしも非ず。そういう事で聞いてみるか。
「あの、おじさんは、お父さんの兄弟とかですか?」
その言葉を聞くや否や、おじさんは膝を落として、四つん這いになってしまった。心なしか、ズーンという効果音が聞こえてきそうなほどに落ち込んでいる。俺は何か変な事を聞いてしまったのだろうか。
謝ろうと口を開けた時、おじさんがぶつぶつと何か言っているのが聞こえた。
「お、おじ、おじさん…… 確かに42だが、おじ、さん……」
どうやら、俺のおじさん呼びがクリティカルヒットしたらしい。失礼かもしれないが、42は十分おじさんに区別される気がするのは、俺だけだろうか。いや、前世でも42はおじさん判定だったように思う。ただまぁ、これだけ落ち込まれると申し訳なさが凄まじいから、謝っておこう。
「その、すみまs……」
「そんなに落ち込むな、おじさん。事実なんだからそんなに落ち込むな、おじさん。ベル、ちなみにこのおじさんはザルド。お前の父親の兄弟とかいう訳ではなく、ゼウス・ファミリアの幹部であり、お前の父のかつての仲間だったおじさんだ」
俺の言葉を遮って、アルフィアさんがザルドさんに更なる追い討ちを仕掛けた。まさかのおじさん呼び連続攻撃をするとは、おっかない。ここまでいくと、もはや可哀想とさえ思えてしまう。てか、ザルドさんはお父さんの仲間なのか。道理でお父さんを知っている訳だ。
おじいさん呼びの落ち込みからは立ち直ったのか、ザルドさんは立ち上がって、口を開いた。
「ごほん、改めて、俺の名はザルド。お前の父親とは、同じファミリアに所属していた仲間だった」
成程、そういう事か。こんな強そうな男の人と仲間って、やっぱりお父さんは人脈
アルフィアさんはお母さんが所属していたヘラ・ファミリアの幹部で、ザルドさんはお父さんが所属していたゼウス・ファミリアの幹部。両ファミリアとも、長い間オラリオで覇権を取り続けてきた二大派閥と言われるぐらいには凄いファミリアである。
今は色々とあって、殆どの団員が壊滅、生き残った団員は世界各地に散らばったと両親は言っていた。それでも、その二大派閥の幹部となれば、その強さは僕が想像できる範囲を大きく超えている。一撃で海を割ったり、山を消し飛ばす事が出来たとしても、僕は驚かない自信がある。
「さて、ベル。お前のこれからについて話をしよう」
アルフィアさんが僕に向かって、そう言った。僕のこれからについての話。確かに、それは今の僕にとって、1番重要な事だ。両親が死に、金も家も何もないただの子供である僕の未来はどうなるのだろう。だが、正直な所、両親が死んであまり時間が経っていないせいか、あまり頭が働かない。ついさっき、泣けるだけ泣いたが、それでも気持ちの整理が完全に出来たかと聞かれれば、それは無いと言える。
なんて思っていると……
「そう言いたい所だが、まだ整理には時間が掛かるだろう。だから、今日はゆっくりと休め」
アルフィアさんが優しい声音で言ってくれた。僕の心の内なんかはお見通しという事だろうか。命を助けてもらって、手当までしてもらって、こうしてベッドも貸してくれている。至れり尽くせりとは、まさにこの事。だからこそ、またアルフィアさんに甘えてしまうのは、どうかと思ってしまうのだ。アルフィアさんの気遣いを無下にする訳にもいかないが、また甘えてしまうのはいけないような気がして……
「別に何も思う必要は無い。私とお前は確かに血が繋がっている家族なのだから。いいから今はゆっくり休め。でないと、魔法で吹き飛ばす」
前半、めっちゃ良い事言ってくれたのに、最後の最後で台無しである。目を細めて、脅迫してくるとか本当に怖すぎるよ、アルフィアさん。今日だけで魔法の脅迫を何回も聞いた気がする。
でも、そうか。よくよく考えたら、今の俺の家族はアルフィアさんだけという事になるのか。両親は死に、祖父母に会った事すらなく、俺に唯一残った血縁者はアルフィアさんだけになる。祖父も祖母を既に亡くなったと両親から聞いている。
「お休み、ベル」
アルフィアさんは、僕の頭を優しく撫でてくれた後、部屋の外に出た。その後を追うようにザルドさんも部屋を出る。そして、部屋に残ったのは、ベッドの上に座る僕1人だけ。
子供の体は未だに闇派閥の男達に反抗した時の疲れが残っているらしい。ベッドで横になり、目を閉じれば、僕はあっという間に、夢の中へと沈んでいった。
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スマホだと見にくい。改行して欲しい
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