とある幻想の夢想天生   作:大嶽丸

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思い付きで書いた。続くかは分からん。


プロローグ

 

 

 楽園は何処に──。

 

 少女はただ渇望し、夢想する。

 

 “学園都市”。

 

 それは東京西部に存在する科学の総本山。あらゆる教育機関や研究施設の集合体であり、その名の通り人口二百三十万人の八割を未成年の学生が占めている。

 

 外部より数十年も進んだ最先端の科学技術で運用されているこの街は、ある研究に心血を注いでいた。

 

 PSI──超能力。

 

 念動力、空間移動、発火能力。この街では、脳を開発することで人為的に異能の力を発現させる技術を実用化させており、この街で暮らす学生は皆それを受け、何らかの能力を所有している。

 

 大半が無能力であったり日常生活においてもあまり役に立たぬものであるが、中には現状の科学技術では再現不可能なものや頂点となれば軍隊にも匹敵する程の力を有する。

 

 学園都市では、そんな学生たちが、自らの能力を高める為に日々努力し、切磋琢磨していた。

 

 ──自分は、何故この場所に居るのだろうか? 

 

 少女は思う。高層ビルの建ち並ぶその街並みとそこを歩く大勢の人々を()の上から見下ろしながら。

 

「……喧しいわね」

 

 人の声、歩く足音、電車や自動車の走る音、機械類による電子音、ビル風、etc、etc……あちこちから響き渡る騒音の総てに煩わしさを覚え、ただ嫌悪する。

 

 そこは科学の街。人工的な“能力持ち”が暮らす箱庭。ありとあらゆる例外が悉く否定された、“幻想”の居場所など許さぬ世界。

 

 少女は憂いた。

 

 何故この場所なのかと。

 

 少女は嘆いた。

 

 何故あの場所ではないのかと。

 

 己は──◼️◼️◼️◼️だというのに。

 

 生まれながらに感じていた疎外感。どこに居ても馴染むことが出来ず、目に映る何もかもが色褪せて見える。

 

 この街へ来てからその感情はより一層強くなるばかり。しかし、別に世界が異常な訳ではない。少女こそがこの世界にとって拒絶するべき()()であるのだから。

 

 それは少女自身も確かに自覚しており、故に彼女はこの世界に生まれ落ちた運命を呪う。

 

 呪ったところで、何も変わらぬ訳だが──。

 

 気だるげに溜め息を吐き、そんな諦観を抱きながら少女は地面へと降り立つ。

 

 瞬間。行き交う人々の視線が彼女へと寄せられる。そこには好奇と困惑が入り雑じっていた。

 

 当然の反応だろう。少女がその身に纏っているのは学園都市には明らかに場違いである紅白な巫女装束。それも下は袴ではなくスカートになっており、腋部分が無く素肌が露出している。

 

 加えて、艶のある黒髪に整った顔立ち。その容姿は大和撫子然とした美少女なのだから注目するなと言う方が無理があった。

 

「………………」

 

 堂々と恥ずかしげもなく。少女は然したる反応も示さず、何食わぬ顔で街道を歩く。

 

 空を飛ぶ不思議な……いや、この街の人間は空を飛ぶことも不思議とすら思わない。そんな程度では、もはや異常には成り得ぬ場所なのだ。

 

 それでも人々の目を引いたのは巫女装束だったからであるが、ただでさえ外と異なるものでありふれ、変わり者が多いのもまたこの学園都市。最終的にはそういうコスプレイヤーが居てもおかしくはないという認識に落ち着き、やがて大衆の興味は薄れ、人混みの中へと溶け込む。

 

 異常を容易く受け入れる。さも当たり前であるかのように。そんなこの街の在り方すら少女は毛嫌いし、忌々しくさえ思った。

 

「……あん?」

 

 だからだろうか。突如として響き渡る轟音に彼女は足を止め、苛立った声を上げる。

 

 音がした方角へ視線を向ければ黒い煙が上る建物があった。そこは銀行であり、平日の真っ昼間にも関わらず閉めていた防犯シャッターが爆発したのだ。

 

 つい先程それを認識した少女はそのようなことを理解してはいなかったが、煙の中から現れた顔を隠した三人組の男たちを見て、強盗の類いであることは容易に察せられた。

 

 鳴り響く警報。白昼堂々と行われた犯行に場が騒然とする。その混乱は瞬く間に人から人へと波状して伝わり、悲鳴や怒号が飛び交う。

 

「あー、だるい」

 

 そんな周囲の状況に反して少女は冷めた目でその光景を見据え、怠惰の言葉を吐き捨てる。

 

「何でこうも面倒事ばかり起こるのかしらねえ……」

 

 学園都市は最新鋭の科学技術を有する。それは防犯システムも例外ではなく、加えて武力行使が可能な独自の警察組織が存在するにも関わらず治安は悪く犯罪率は外部と比べても異様に高い。

 

 ──この街は退屈しない。

 

 果たしてそれは誰の言葉だったか。騒動や事件に巻き込まれるという意味では少女はその言葉に概ね同意するが、無意味に惰眠を貪るのを至福とする彼女にとっては余程暇を持て余さない限りはなるべく避けたいことだ。

 

 少女が目の前で行われる悪行を至極どうでもいい事象だと思いながらも、黙って見過ごせぬ性分なのであれば、尚更だった。

 

「……本当に、くだらない」

 

 溜め息混じりに少女はそう呟き、()()()

 

 そこに正義感や義務感など特にある訳でも無く、あるとすれば未だに抱き解決出来ぬ疑問へのどうしようもないイライラをぶつけること。

 

 謂わばストレス発散である。

 

「おい! グズグズすんな! 警備員(アンチスキル)が来る前にさっさとズラかる……は?」

 

 故に、彼ら強盗たちは運が悪かった。

 

 多少お粗末な所はあるものの逃走用の車両まで用意した計画。後々どうなるかはともかく成功する見込みのあったはずの彼らの犯罪は、少女という意図せぬ“天災”によって崩れ去ることになるのだから。

 

「ごきげんよう、良い天気ね」

 

 少女の名を、“博麗霊夢”。

 

 楽園無き世界でその名と力を持ってして生まれ落ち、幻想として生きる運命(さだめ)を受けた、ただの巫女だ。

 

「なっ、何だテメェ……ッ!?」

 

 いつの間に、とリーダー格と思わしき男が目を見開く。気が付けば仲間が居るはずの自身の隣には巫女服の少女が立っており、足下にはその仲間が白目を剥いて転がっていた。

 

「見て分からない? 通りすがりの巫女さんよ」

 

「ふざけんな! クソアマが舐めやがって!」

 

 初めこそ動揺していた男であったが、仲間が目の前の少女に無力化されたと理解すると怒りの形相を浮かべ、その掌から小さな炎を発生させた。

 

 少女──霊夢はそれを冷ややかな目で見る。

 

「へぇ……それでさっきの爆発を起こした訳ね。えっと確か……何だっけ? パイロなんとかって奴よね、それ」

 

発火能力(パイロキネシス)だ! へっ……今更ビビっても遅いぜ! 消し炭にしてやる……!」

 

 発火能力(パイロキネシス)。念動力で対象物の分子運動を高めることで発火現象を引き起こすという、学園都市においてはメジャーな能力であるが、低い強度(レベル)でも殺傷力が高く危険な能力だ。可燃物も無くこれだけの炎を発生させていることから、少なくともそのレベルは3はあるだろう。

 

 能力者ということはつまり学生。力を手にすれば、それを使用したくなるのは人間の(さが)である。況してや成人にも満たない若者がそんな手に余る力を手に入れてしまった場合どうなるかは、分かり切っていた。

 

 力に驕る者。力に溺れる者。そうやって増長し、不平不満の果てに非行に走る。

 

 中には能力の強弱で他者を差別し、弱者を見下す者まで現れる始末。それに対抗せんと力を持たぬ者たちも彼らへ憎悪を向け、群がって武装するという悪循環を度し難いことに、この街は看過していた。

 

「じゃあ、やってみれば?」

 

 燃え上がる炎。生身の人間がそれに当たれば火達磨になることは明らかであり、そして男は霊夢を焼き殺すことに躊躇は無かった。

 

 しかし、そんな恐ろしい力を前にしても霊夢は余裕の表情のまま挑発して見せる。ご自慢の能力を見せ付けても臆するどころか眉一つ動かさない。

 

 見下すような視線。それは自らの能力に対して絶対的な自信を持つ男には耐え難いものだった。

 

「そうか! なら焼け死ね!」

 

 痺れを切らし、遂に男は炎を放つ。ボールのように飛んで行くそれは少しでも掠れば一瞬にして燃え広がり、霊夢の全身を焼いて死に至らしめるだろう。

 

「──遅いわね」

 

 が、それはあくまで当たればの話である。

 

 霊夢は何てことのないように身体を僅かに動かす。それだけで彼女の横を通り過ぎて炎はあらぬ方向へと消えていく。

 

「何っ!?」

 

 あっさりと避けられたことに男は驚愕する。ならばとより大きな炎を放つが、これも当たらない。

 

「そんな馬鹿な……!」

 

「馬鹿はそっちでしょ。弾をでかくしたって、鈍いままだったら意味ないわよ」

 

 信じられないといった表情をする男。対する霊夢はつまらなそうに吐き捨てる。

 

 あまりにも単調な軌道。加えて、彼女からすれば男の放つ炎など止まっているに等しいまでに遅鈍であった。

 

「ふ、ふざけるなっ!」

 

 その指摘と目の前の現実を認められず、男は半ばやけくそ気味に何度も炎を放つが、やはりただ真っ直ぐに飛んでくるそれらを霊夢は最小限の動きで回避しながら距離を詰めていく。

 

 炎……霊夢の朧気な記憶は竹林に住まう蓬莱人を想起させ、しかし彼女とは比べるのも烏滸がましい代物だと否定する。

 

「畜生、どうなってやがっ──!?」 

 

 ──昇天蹴。

 

 霊夢は充分な距離まで近付くと、何故当たらないと混乱する男の顎を思い切り蹴り上げる。

 

 俗にサマーソルトキックと呼ばれる蹴り。華奢な身体から繰り出された一撃にも関わらずそれは大柄な体格が宙に浮く程の威力であり、脳を大きく揺さぶられた男は泡を噴いて倒れ伏す。

 

「さてと──」

 

 これで二人目。霊夢の視線は既に最後に残った一人へと向けられている。

 

「う、嘘だろ……!?」

 

 最後の一人は唖然としていた。大の男二人が、それも一人は強能力者(レベル3)の発火能力者だというのに、たった一人の少女に為す術も無く叩きのめされ、白目を剥いて倒れ伏している光景はさぞや衝撃的なものだろう。

 

「どうする? 降参する?」

 

「ッ……糞が!」

 

 気だるげにそう問い掛ける霊夢。男は舌打ちし、ズボンに突っ込んでいた拳銃を取り出す。

 

 銃刀法違反のある日本ではそう易々と手に入る代物ではないが──。

 

「させないわよ」

 

「なっ!?」

 

 その銃口を向けるよりも早く霊夢は回し蹴りで拳銃を弾き飛ばした。

 

 路上を転がる拳銃。痛んだ手を押さえながら男はあまりにも一瞬の出来事に目を見開き、戸惑う。そんな明らかな隙を晒す男に霊夢は攻撃することなく、ただ彼を見据える。

 

 心なしかその目付きは鋭くなっていた。

 

「もう一度訊くわ。降参する?」

 

「ヒィッ!?」

 

 再度問えば男は悪態を吐くどころか怯えた声を出す。完全に戦意を喪失していた。リーダー格とは違い、無能力者(レベル0)で銃を失ってしまっては、霊夢に対抗する術を何一つ持ち合わせていなかったのだから当然の反応と言えよう。

 

 その様子を見て霊夢は安心する。大人しく投降してくれた方が面倒が無くて楽だった。

 

「く、来るな……!」

 

 しかし、男は思わぬ行動に出る。何を血迷ったのか霊夢に背を向けて逃走を図ったのだ。

 

「あん?」

 

 あまりの怯え様に霊夢は呆気に取られるも即座に逃がすまいと地面から足を離し、後を追う。大の男が年端もない少女を相手に逃げ出し、そして追い掛けられるその有り様は何とも情けなかった。

 

「おいガキ! こっち来い!」

 

「えっ な、何っ!?」

 

 何らかの能力により浮遊する霊夢の速度は男の全力疾走よりも速く、掴まるのも時間の問題。そんな時、進路方向にたまたま居た小学生くらいの子供に、天はまだ自分を見捨てていないと男はにやりと笑う。

 

「動くんじゃねぇ! こいつがどうなってもいいのか!」

 

 そのまま男は走る勢いに任せて子供が反応するよりも早く掴みかかり、軽々と持ち上げて抱え込む。

 

 人質。陳腐だが、この場においては最適な判断だろう。実際、男を追おうとしていた霊夢は動きを停止させたのだから。

 

「……成る程ね」

 

 気紛れで見せた慈悲が、仇となった。

 

「ち、近付くなよ! 少しでも動いたらこのガキぶっ殺すからな!」

 

 懐中から取り出した小さな折り畳み式のナイフを子供の首筋に向け、ゆっくりと後退りしながら男は叫ぶ。

 

 対する霊夢の表情は変わらない。全く動じていないその態度は酷く不気味であるが、男の心には幾分かの余裕が出来ていた。

 

 動きを止めたということは人質が有効であることは明白。このまま隙を見せずにいれば事前に用意していた逃走用の車まで逃げ切れるはずだと。

 

 尚、その後どうするかや人質の始末など男の脳内の片隅にも無く、ただ場の窮地から脱することしか考えていない。

 

「た、助けて……」

 

 一方、霊夢は視線を男から子供へと移す。突如として捕まり、凶器を向けられた子供は混乱しながらも自身の危機的状況を理解し、目尻に涙を溜めながら怯えていた。

 

 そんな姿を見ても霊夢は動じた様子を見せることはなく、それどころか面倒臭げに頭をポリポリと掻く。

 

「勿論。助けるわよ」

 

 すると霊夢が男へと掌を翳す。あまりにも唐突な動作に男は一瞬呆けた顔をするもすぐに自身の命令を無視したことに激昂する。

 

「おいゴラァ! 動くなって──がはぁ!?」

 

 見せしめに子供を傷付けようとした次の瞬間。男は後ろへと吹っ飛んだ。

 

 その衝撃でナイフを落とし、子供からも手を離してしまう。尻餅をつき、男は突然の衝撃と痛みに何が起きたのか理解出来ず混乱する。

 

 そして、気が付いた時には子供を抱き止めた霊夢が目と鼻の先にまで接近していた。

 

「あっ、ちょ、待っ──」

 

 ゴッ

 

 有無を言わさず鋭い足刀が男の顔面にめり込み、その意識を刈り取る。

 

 これで三人目。倒れた男が起き上がる気配が無いことを確認すると霊夢はふぅと一息吐き、抱き抱えていた子供をゆっくりと地面に下ろす。

 

「……大丈夫? 怪我とかしてない?」

 

「え? う、うん……」

 

「そう。なら良かったわ」

 

 ぽかんとしていた子供であったが、霊夢にそう問われるとこくりと頷く。男に掴まれた腕は多少痛むもののこれといって目立った外傷は無かった。

 

「その、あ、ありがと……ございます」

 

「どういたしまして。まあ、元はと言えば私が悠長にして逃がしたせいだから別に感謝とかしなくていいわよ」

 

 礼を言う子供に対し、霊夢は素っ気なくそう言いながら視線を逸らす。

 

「──またあなたですの」

 

 すると背後から声を掛けられる。聞き覚えのある甲高い女の声だ。つい先程まで気配を感じることはなかったため霊夢は眉をひそめた。

 

 つまり気配を消せる者か、そういうことが出来る能力の持ち主ということになり、そして恐らく後者だろう。

 

 振り向けばやはりと言うべきか、見覚えのあるツインテールの少女が立っていた。

 

「随分と早いじゃない。仕事熱心ね」

 

「たまたま現場に居合わせただけですの。もっとも、対処する前に貴方が乱入して全員蹴散らしてしまいましたが……」

 

「ふーん」

 

 訊いておいてどうでも良さげな反応。これにツインテールの少女は僅かに頬を引くつかせる。

 

 お嬢様のように上品な口調。そのニットベストの制服は学園都市でも五本の指に入る世界有数の名門中学のものであり、また彼女が高位の能力者であることを表していた。

 

 しかしながらそんなものに興味の無い霊夢は知らないし、知ったところでどうでもいい。

 

 故に、目の前の少女は単なる面倒事でしかなかった。

 

「何度言ったら分かりますの? 学園都市の治安維持活動は私たち“風紀委員(ジャッジメント)”の仕事だと。あなたの行動は一歩間違えれば傷害罪に成り得るのですのよ?」

 

 風紀委員(ジャッジメント)

 

 罪を犯すのが学生ならばそれを取り締まるのもまた学生。そんな学生のみで構成された治安維持組織であり、学園都市に存在する自警団の片割れ。

 

 ツインテールの少女もまたその一員だった。彼女は友人たちとお茶をしている際、偶然今回の銀行強盗に居合わせ、そして目の前の少女が瞬く間に無力化する場面を目撃した訳だ。

 

 これにツインテールの少女改め“白井黒子”は顔をしかめながら注意喚起する。客観的に見て霊夢の行動は称賛されて然るべきなのではあるが、一歩間違えれば無謀。彼女からすればあまりにも危険な行為であり、到底看過すべきではなかった。

 

 初めてではなく、過去に何度も似たようなことを繰り返しているのならば、尚更だろう。

 

「じゃあ何? 黙って見てろってこと?」

 

「そうは言ってませんけど……他にも方法はあるでしょう? 私たちや警備員(アンチスキル)に通報なさるとか」

 

「けどあんたら、いつも来るの遅いじゃない。それで手遅れになったらこっちの寝覚めが悪くなるのよ」

 

 ばっさりと、白井の言葉を切り捨てる。

 

「なっ……」

 

「そもそも私は別に好きで面倒事に関わってる訳じゃないの。あんた達がさっさと駆け付けてさっさと解決してくれるならそれに越したことはないわ。まあ、無理だからこうなっているんでしょうけれど」

 

「な、なっ……!」

 

 歯に衣着せぬ物言い。特に暗喩もせず自分たちが役立たずであると吐き捨てられ、わなわなと震える白井。奇しくもそれは彼女と同じように荒事に関わる敬愛する“お姉様”と似たような発言であった。

 

「と、とにかく! 一般人が事件に首を突っ込まないでください!」

 

「そう言われてもねぇ……えっと、あなた名前何だっけ? 白黒みたいな名前だった気がするけど」

 

 ふと霊夢は尋ねる。はて、目の前のツインテールの名前は何だったか。以前に名前を聞いたことがあったような気がするが、どうにも思い出せない。

 

「白・井・黒・子ですわ! いい加減覚えてくださいまし!」

 

「やっぱり白黒じゃないの」

 

「だから! 白黒ではありませんの!」

 

 うろ覚えな様子でしかも白黒呼ばわりされたことに白井は顔を真っ赤にさせて叫ぶ。

 

 しかし、霊夢はどこ吹く風。そんな開き直った態度がより神経を逆撫でさせるが、当の霊夢にそのようなつもりは微塵も無いのが余計にたちが悪い。

 

「で? もし首を突っ込むのを止めなかったら私を逮捕でもするのかしら?」

 

「えっ? いえ、それは……」

 

「なら、文句言われる筋合いは無いわね。あなたの説教に付き合ってる暇も無いし、帰らせてもらうわ」

 

 思わず言い淀んでしまう白井。すかさず霊夢はそう告げ、彼女へ背を向ける。

 

「ッ、逃げられるとでも──」

 

 有無を言わさずに立ち去ろうとする霊夢を行かせまいと白井は能力を行使しようとする。

 

 彼女の能力は空間移動(テレポート)。それも外部の技術では再現不可能とされる大能力者(レベル4)だ。その限界飛距離は81.5mであり、直線上に連続で移動した場合の速度は時速に換算すれば288㎞/hにもなる。

 

 故に、追跡から逃れることは至難の業。例え自動車を使用したとしても容易く追い付くことが可能であり、目の前の少女を引き止めるくらい朝飯前に思われた。

 

「そうね。──だから少し飛ばすわ」

 

 が、次の瞬間。霊夢は一気に飛翔し、ぶわりと風が巻き起こる。

 

 突風に等しい風圧。間近で受けた白井は思わず怯み、よろけてしまう。

 

「!? しまっ──」

 

 ハッと前方を確認するも時既に遅し。

 

 空を見上げれば、彼女は遥か遠くに居た。もはや白井の空間移動では届かぬ程の高さに。

 

「~~~~~~! あれのどこが異能力者(レベル2)ですの!」

 

 まんまと逃げられてしまった。

 

 あの一瞬で空間移動の範囲外へと逃れる瞬間飛行速度。どう低く見積もっても強能力者(レベル3)はあるのが妥当な評価であり、詐欺も良いところである。

 

 地団太を踏みながらキー! と甲高い叫び声を白井はあげるが、空の彼方へと消えた霊夢にはもはや聴こえるはずもなく、ただ虚しく木霊するだけだった。

 

「ハァ……さっさと帰って寝よ」

 

 対する霊夢は学園都市の空を漂いながら、心底疲れた様子で溜め息を吐く。

 

 これは、幻想を生きる少女の物語。

 

 ──その序曲である。

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