とある幻想の夢想天生   作:大嶽丸

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もう年明けてる上に前回から三ヶ月以上経ってるってマジ?

遅くなって申し訳ございません。


因縁

 

 

 ──私、上条当麻は不幸に愛されているとしか思えない青春を送っている。

 

 心の中でそんなことを独白しながら自称世界一不幸な少年は陽の落ちた学園都市の街を我武者羅に走っていた。

 

 理由は単純。背後から追いかけてくる不良たちの魔の手から逃れるためである。

 

「がああああ! しつこ過ぎるぞあんたら!」

 

 何故こんなことになってしまったのか。彼を知る者が見れば誰しもが“またか”と呆れることだろう。

 

 いつもと何ら変わらない。持ち前の正義感と親切心による善意の行動。ファミレスで女子中学生が不良に絡まれているのを見掛け、助けてやろうかなと思い、声をかけたところ色々あって逆上した不良たちに追われる羽目になった。

 

 無能力者(レベル0)とはいえ腕っ節にはそれなりに自信がある上条であるが、一人や二人ならともかくこんな集団が相手では流石に袋叩きにされてしまうので、振り切るか諦めてくれるまでこうして逃げ続けているのだ。

 

(前は爆破テロに巻き込まれるし、夏休み直前だってのに本当にツイてない……!)

 

 不幸だー! ともはや口癖となった嘆きを叫びながら走る、走る。そうして鉄橋の位置まで来て漸く怒声と足音が聴こえなくなった。

 

「ハァ……ハァ……やっと、撒いたか?」

 

 息を切らしながらしゃがみ込む上条。この距離までの全力疾走はかなりきつかったが、どうにか振り切れたことに安堵する。

 

「不良を守って善人気取り? 熱血教師ですかぁ?」

 

「げっ」

 

 それも束の間、声に反応して振り返ればそこにはファミレスで絡まれていた女子中学生が不遜な態度で立っていた。

 

「まさか……あいつらが追いかけて来なくなったのって……」

 

「うん。邪魔だったから焼いといたわ」

 

 あっけらかんとそう言いながら髪をかき上げ、バチバチと青白い火花を発する女子中学生。

 

 ──改め、()()()()()()()・御坂美琴。

 

「やっぱり……」

 

 上条は頭を抱える。自分の善意が無駄になってしまったのを察してしまったからだ。

 

 彼が助けようとしていたのは目の前のビリビリ中学生などではなく、絡んでいた不良の方だった。彼らが不用意に手を出そうとしている少女の素性を知っていたが故に。

 

 この学園都市に()()しか存在しない超能力者(レベル5)にして第三位の電撃使い(エレクトロマスター)。そう考えれば今回最も不幸なのはそれを知らずに絡んでしまった今頃黒焦げになっているであろう不良たちかもしれない。

 

 否、それでも上条は己の方が不幸であると自信を持って言える。

 

 何せ目の前の超能力者は闘争心を剥き出しにしており、これから喧嘩を売られようとしているのは明白であったのだから。

 

「ねぇ、レールガンって知ってる?」

 

「……はい?」

 

 聞き慣れぬ単語に首を傾げる上条。対する御坂はスカートのポケットから何かを取り出す。

 

 それはゲームセンターのコインだった。 

 

「別名“超電磁砲”。フレミングの運動量を利用して砲弾を撃ち出したりするんだけど、どうしても電力の問題から巨大な物になっちゃうのよね」

 

 キンッと響く金属音と共に、コインが彼女の手から宙に打ち上げられる。 

 

「だけど、私がその電力を補って磁力も上手いこと利用すると……!」

 

 そして、パチンとコインを指で弾いた瞬間。凄まじい轟音と共に、橙色の閃光が瞬いた。

 

 上条が反応する間もなくその軌跡は彼の真横を通り抜け、橋を縦に分断するかのように大地を焼く。

 

 かろうじて、あのコインが射出されたということだけは理解出来た。

 

「なっ……」

 

「こんな風に、ただのコインでも音速の三倍で飛ばせばそこそこの威力が出るのよ」

 

 とてもじゃないが、“そこそこ”なんてレベルではない威力だ。電熱が肌を撫でる感覚に冷や汗を流しつつ、飛び退いた体勢のまま上条は声を張り上げた。

 

「まさか……連中を追い払うのにそれを……!?」

 

「はぁ? 馬鹿にしないでくれる。無能力者共の料理法くらい心得ているわよ」

 

「いや、俺も無能力者なんだけど……」

 

「どの口が言ってんのよ……とまあ、挨拶はこのぐらいにして勝負を──」

 

 獰猛な笑みを浮かべ、電流を纏う御坂。どうやら既に臨戦態勢のようで上条はもう何度目か分からない展開にげんなりした表情をしながら、いつでも右手を出せるように身構える。

 

 本当に、ツイてない。だが、今回ばかりはまだ希望が残っていた。

 

「──こんな時間に何やってんのよ」

 

 その時だった。救世主が舞い降りたのは。

 

「なっ……!?」

 

「その声は……!」

 

 スタッと二人の間に誰かが降り立つ。突然の、それも空からの乱入者に御坂は目を見開き、そして上条は聞き覚えのある透き通るような声に歓喜した。

 

 彼は闇雲に逃げていた訳ではない。この場所はある人物の自宅近隣。一縷の望みをかけて上条はここまで必死で向かっていたのだ。

 

 思い当たる中で、最も頼りになる存在の元へ。

 

「博麗──ってあれ?」

 

 が、次の瞬間には御坂と同じように驚きの表情を浮かべる。そこに立つのは、上条の予想通りクラスメイトである博麗霊夢その人であった。

 

 彼が驚いたのはその服装。いつもの紅白な巫女装束ではなく、半袖のパーカーにホットパンツを着用していたのだ。

 

「……何よ?」

 

「いや、えっと、その格好……」

 

「ああ、これ。この前、友人と買った物よ。折角だし着てみようかと思って」

 

 何というか、普通の格好だ。巫女姿と学生服ばかり見慣れた上条は困惑してしまう。何せ今の今まで私服姿の霊夢なんて見たことなかったからだ。

 

 彼女の言う友人というのは例のサテンルイコなる女子中学生で間違いないだろう。てっきりあの爆破テロ騒ぎで有耶無耶になったかと思ったが、ちゃんと買い物はしていたようだ。

 

「どう? 変かしら?」

 

 そんな態度に眉をひそめながらも、霊夢は問う。

 

「へ? あ! い、いや! そんなことないぞ! むしろ滅茶苦茶似合ってますとも! よっ! クールビューティ!」

 

「そ。ありがと」

 

 物珍しさで困惑していたのを誤解されたかと思い、慌てて訂正し、誉めちぎる上条。無論、世辞などではなく本当に似合っており、正直な感想だ。

 

 ラフな格好にも拘わらず様になっており、雅さすら感じる。恐らくどのような服装であろうと、彼女は着こなしてしまうのだろうと上条は友人との付き合いにショッピングを薦めた過去の自分へ最大限のグッジョブを送った。

 

 博麗霊夢真人間化計画の出だしは好調である。吹寄や小萌が見れば感動すら覚えるだろう。

 

「な……なっ……なななな……!」

 

 一方、完全に蚊帳の外と化していた御坂はそんなやり取りを前にわなわなと震えていた。

 

「何イチャついてんだゴラァ!」

 

「あ?」

 

 突然の怒声に振り返った霊夢。そこで漸く同級生と対峙していた存在の顔が見覚えのあるものであることに気付く。

 

「……ミサカミサカだっけ? こんな所で何してんの?」

 

「御坂美琴よ! 博麗さんこそ何で……というか! あ、あいつとどっ、どういう関係なのよっ!?」

 

「あいつって……当麻のこと?」

 

「とととととととととととととととと、とうっ、ま……!?」

 

「?」

 

 こてん、と首を傾げる霊夢。顔を赤らめ、吃りながら目に見えて動揺している姿は、以前会った時とはだいぶイメージが違う。

 

 そもそも何故こんなにも動揺しているのか全く理解出来ず、後ろの上条へ視線を送るも彼もまた当惑している様子である。

 

(な、何であいつと博麗さんが……そ、それに下の名前で呼んでたってことはまさか……!?)

 

 対して御坂は完全に冷静さを失っていた。上条とあの霊夢が知り合いで親しげな様子なだけでも衝撃的だというのに、何と彼女は下の名前で呼んだのだ。

 

 一般的に、しかも異性が相手を下の名前で呼ぶのは家族か相当親しい関係であり、実際には霊夢が基本的に誰に対しても下の名前で呼ぶだけなのだが、それを知る由が無く、年頃の少女である御坂が在らぬ誤解を抱くのは必然と言えよう。

 

 在らぬ誤解とは勿論、そういうことだ。

 

「……で、騒がしかったから文句言いに来たんだけど。どういう状況なのよ、これ?」

 

 よもやそのような脳内ピンクなことになっているなんて露程も思っていない霊夢は訝しげな視線を送りながら何があったのかを問いかける。

 

 幻想御手(レベルアッパー)の現物を持ち帰り、後のことは白井と固法に任せて早々に帰宅し、漸く骨を休められるかと思った矢先に襲ってきた騒音。初めに聞こえてきたのは男たちの怒声であり、いつものように馬鹿な不良共が喚いているのかと思えば今度は大砲のような凄まじい音が響き、何事かと様子を見に来るとそこには見覚えのある顔が二つもあった。

 

 上条当麻と御坂美琴。一見すると接点なんて無さそうな意外な組み合わせであるが、こんな場所で何をしているのだろうか。

 

「えっと……実はこいつが不良に絡まれてて、たまたま見掛けた俺がその不良を助けようとしたら追いかけられて、その不良はこいつにやられて、んで今こいつに勝負を挑まれようとしていたところ……だな」

 

「はぁ?」

 

 答えぬ御坂に代わり上条が噛み砕いて質問に答えるが、状況を把握するどころか余計意味が分からなくなる。

 

 不良の方を助けるというのは御坂が超能力者だと知っていれば納得が行くが、何故勝負を挑まれることになったのだろうか。

 

 それに、超能力者(レベル5)無能力者(レベル0)に勝負を? 

 

「一応確認するけど、あんた“が”勝負を挑んだ訳ではないわよね? 遂にその右手で天下を獲る気になったとか」

 

「はい!? いえいえ滅相もございません! 今回の件に関しては上条さんは完全な被害者ですことよっ!?」

 

 言い間違いかもしれないと訊けば上条は心外とばかりに即座には否定して己が潔白を主張する。変な敬語口調なのが無性に腹が立つ。

 

「……らしいけど、弁明はある?」

 

 再び御坂へ視線を戻す。彼女は未だに固まったままブツブツと小声で何かを呟いていた。

 

「ねぇ、聞いてんの?」

 

「──え? な、何よ?」

 

「だから、こいつに勝負を挑んだって本当?」

 

 何度か呼び掛けて漸く反応した御坂。先程までの話を一切聞いていなかったようであり、若干の苛立ちを覚えながら霊夢は再度問いかける。

 

「そ、そうよ! 今から勝負するところだったのよ!」

 

「……あ、そう」

 

 弁明するどころか全面的に認めた。これに霊夢は溜め息を溢し、呆れ返った様子で額に手をやる。

 

 一体何故そのようなことになったのか気になるものの事実確認し、先に仕掛けたのが御坂の方であることが解ったので動機や経緯を問い詰めるつもりはない。

 

「あのねぇ……レベル5ってのは、血の気が多い奴ばかりなの? 痴話喧嘩なら他所でやってちょうだい」

 

「はぁ!? だっ、誰と誰が痴話喧嘩ですって!?」

 

 御坂がこめかみに青筋を立てる。どうやら今の発言は彼女の地雷を踏んでしまったらしいが、霊夢はそんなことで退くような人間ではない。

 

「そりゃあなたとこいつ以外に誰が居るってのよ。急に大声出さないでちょうだい。喧しいわね」

 

「何ですって……!!」

 

 空気がピリつく。それは比喩ではなく文字通りであり、プルプルと震えながら御坂が纏う青白い電流によるものであった。

 

 一応フォローすると、普段の彼女ならばこの程度でキレることはない。況してや相手は知人で虚空爆破(グラビトン)事件の際に友人を助けてもらった恩もある。

 

 しかし、宿敵との勝負に水を差されたこと、少し、ほんの少し気になっている男子と親しげな会話を見せつけられたことに加え、彼女が憤る何よりの理由がその()だった。

 

(何なのよ、まるで有象無象を見るような冷たい眼……前とは全然違うじゃない……!)

 

 見下されているとすら思った。あの時も無気力な目をしていたが、それとは全く違う、こちらをどうでも良さそうに見据える様は酷く冷徹なものに見えた。

 

 これは単に霊夢から見た御坂の評価が友人の友人から騒ぎを起こす迷惑者にグレードダウンしただけに過ぎないのだが、御坂が気付くはずもない。

 

「何? 今度はバチバチうるさいんだけど」

 

「お、おい博麗っ、あんまり煽るなよ、ビリビリを怒らせたらヤバイことに……」

 

「あー? ビリビリー?」

 

 明らかに殺気立っている御坂にも臆することなく、鬱陶しげな視線を向けていた霊夢だったが、上条の言葉にふと思い出す。

 

 そういえば佐天は御坂のことを、こう呼んでいた。

 

 ──学園都市第三位の超電磁砲(レールガン)、常盤台中学のエース、誰しもが憧れる電撃姫、だと。

 

 常盤台中学なる学校は知っている。世界有数のお嬢様ばかりが通う学舎の園であると、青髪ピアスから聞かされたことがあったからだ。

 

 レールガン、というのが能力名のことなのかは知らないが、電撃姫という呼び名からして電気系統に関係した能力、それこそ電撃使い(エレクトロマスター)か何かなのだろう。

 

 であれば、だ。自ずと答えは見えてくる。

 

「もしかして……あなたが例のビリビリ中学生?」

 

 ブチッと堪忍袋の緒が切れる音が響く。

 

「ビリビリ言うんじゃねぇゴラァァ!!」

 

 直後、前髪から迸るように放たれた高圧電流。突如として視界を埋め尽くす雷光に霊夢は瞠目し、反射的に飛び退く。

 

「……危ないわね、いきなり何すんのよ」

 

 数本の毛髪が焼け落ちる。完全に不意を突かれ、然れどギリギリで回避に成功した霊夢は突然の攻撃に瞠目しながらも目を鋭くさせ、確信した。

 

 間違いない。彼女こそが、いつぞや話題に出たビリビリ中学生なる存在であると。

 

「なぁっ!? 避けたっ!?」

 

 一方、御坂は驚愕する。つい頭に血が昇って電撃を放ってしまったことを焦るよりも先に、後ろのツンツン頭の少年のように不可解な右手で防ぐ訳でもなく平然と、ただ普通に避けられたことに。

 

「ちょっ、大丈夫か博麗っ!?」

 

「ええ。平気よ、避けたし」

 

「お、おお……マジか。雷って避けられるもんなのかよ」

 

「あんたが言う?」

 

 流石に手加減はしているだろうが、それでもただでは済まない威力の電撃に上条は心配して声をあげれば霊夢は何食わぬ顔でそう言う。

 

 恐るべき反応速度。安堵しつつも改めて戦慄する。上条もまた()()()()()とも言うべき上条自身も理解し難い人間離れした技能を持っているが、霊夢のそれはもはや未来予知にさえ等しいものだった。

 

「にしても……まさか問答無用でぶっ放してくるなんてね。もうちょっと理知的な奴だと思っていたんだけれど、どういうつもり?」

 

 呆れと失望。そんな感情を隠すことなく露にし、あの電撃を目の当たりにしても霊夢は全く動じず、悠然とした態度で御坂と対峙する。

 

(ッ……やっぱり、只者じゃなかったのね)

 

 ギリッと歯軋りする。ここで漸く御坂は理解した。以前に彼女が自身が超能力者だと知っても大した反応を見せなかった理由を。

 

 ──強者の余裕。

 

 有象無象を視ているようだというのは正しくその通りであり、彼女はこちらを脅威とすら認識していないのである。

 

 しかも相手は本来であれば格下のはずの異能力者。御坂はレベルの強弱で差別するような人間ではないが、あからさまにこちらを見下す霊夢の態度はプライドの高い彼女にとっては酷く癇に障るものであった。

 

 しかし、無能力者にも拘わらず己の電撃を無効化する目の前のツンツン頭の少年のように低位の能力者の中にはまだ予想だにしない存在が紛れている可能性は充分にあった。

 

(あいつと同じ、特殊な能力なのかしら? 空中浮遊とあの時爆発を防いだ()()()()()に加え、電撃を避ける程の反射神経……全く繋がりが見えないわね)

 

 念動力、空力使い、或いは重力操作、はたまた全く性質の違う能力か。理解不能さで言えば上条の右手と同等かそれ以上の霊夢の能力を御坂は冷静に分析し、考察する。

 

 しかし、現時点ではあまりにも情報が足りない。

 

「──上等よ」

 

 故に、彼女が望むことは一つ。

 

「今から私と勝負しなさい! 博麗さんっ!」

 

「……はぁ?」

 

 何を言ってるんだ、こいつは。

 

 こちらを指差し、闘争心を剥き出しにする御坂。その言葉に霊夢は耳を疑い、何故そのような思考に至るのかと顔をしかめる。

 

「嫌よ。面倒臭い」

 

 無論、了承してやる道理は無く、きっぱりと断る。しかし、目の前の殺気立つ少女はそれを許す様子ではないようだ。

 

「あれだけ挑発しておいて今更逃げるなんて言わせないわよ! ──それに、あんたとは前から戦ってみたいと思ってたから丁度良いわ!」

 

「……まるで狂犬ね」

 

「あ゛あ゛んっ!?」

 

 溢れる溜め息。これならまだ一方通行(アクセラレーター)の方が話が通じるだろう。

 

 御坂と会ってまだ日が浅いが、そんな彼女への評価は決して悪いものではなく、これまで会ったことのある超能力者たちと比べると比較的好ましい印象を抱いていた。

 

 しかし、こちらに向かってガンを飛ばしてくるその有り様を前にしてやはり超能力者にはろくな奴が居ないということを再認識する。

 

「ちょっと待てよビリビリ!」

 

 すると上条が怒りを露にしながら呼び止める。

 

「いきなり電撃飛ばしてきたかと思えば博麗に勝負を挑むって……何を言ってるんだお前は!」

 

「うるさいわね! あんたとの決着は後で付けるから大人しく見ていなさい!」

 

「あ、奇跡的に矛先が別の所に向いたと思ったら上条さんはしっかりロックオンされたままなのでございますのね。……じゃなくてっ! 博麗の言い方は確かにアレだが、言ってることは確固たる事実で悪いのは先に攻撃したお前なんだからな!」

 

「何よ!? また私に説教するっての!?」

 

「お前なぁ……! 説教説教ってそういう話じゃないだろ……!」

 

 この場所まで誘い込んだ上条が言うのもどうかと思うが、そもそも彼の目的はあくまで()()()()()対処をさせる為であり、超能力者である御坂の相手をさせるつもりなど微塵も無かった。

 

 対する御坂は逆ギレ。その身に纏う電流が威嚇するようにバチバチと青白い火花となって弾ける。

 

「……あほくさ」

 

 そんな言い争いを冷めた眼で見ていた霊夢は吐き捨てるようにそう呟き、二人へ背を向ける。

 

 進行方向は愛しの我が家。あまりにも馬鹿馬鹿しく、付き合い切れなかった。

 

「ちょっと! どこ行くのよ!」

 

 が、当然御坂に気付かれる。

 

「帰る。私の負けでいいから」

 

「ハァッ!? ふざけないで! ここまで虚仮にされて終われる訳ないでしょ!」

 

「知らないわよ」

 

 そう切り捨て、ギャーギャーと喚く声を無視して霊夢は宙に浮く。それを見て御坂が攻撃動作に入った時には時既に遅く、彼女は以前に白井から逃れたように凄まじい速さで飛翔しており、あっという間に射程外へ逃れていた。

 

 今日は耳栓をして寝よう。

 

「~~~~~~~!!」

 

 どんどん小さくなっていく霊夢の姿に、地団駄を踏む。

 

 一方、上条はホッと胸を撫で下ろす。あはや大喧嘩に発展するところだったが、どうにか事なきを得たようだ。

 

(良かった~! 博麗とビリビリが戦うとか、とんでもないことになるのは目に見えているからな……)

 

 霊夢は確かに強い。異能力者でありながらスキルアウトが百人束になろうが無傷で薙ぎ倒すし、高位の能力者が相手だろうと瞬殺する。そんな与太話のような、学園都市の常識を覆す光景を直接見たことがあるからこそ、上条は霊夢を“強さ”という観点においては誰よりも信頼していた。

 

 しかし、今回の相手はこの学園都市において最強と目される超能力者であり、それも序列第三位に位置する存在。

 

 何度も追いかけられていた上条はその恐ろしさをよく知っており、電気や磁力を自在に操る彼女と戦えば如何に霊夢といえど厳しい状況になるだろうと思った。

 

(つーか、そこまで人間離れはしていないと信じたい。電撃を平然と避けるのはやべーとしか言い様がないが)

 

 それに霊夢が勝つにしても、彼女は一片の容赦も無く御坂を痛め付けるだろう。それこそ以前に言ったように“ボコボコ”にしてしまうに違いない。

 

 御坂はあんな態度だが、根は悪い奴ではないことは分かっている。故に、自分とならともかく他人、それも同級生と争うのは許容できなかった。

 

 もしも戦闘に発展した場合、上条は真っ先に割って入り、全力で止めようとするだろう。

 

「…………」

 

「……ん?」

 

 ふと御坂へ視線を戻すと彼女はこちらを睨んでいた。そこで気付く。霊夢が居なくなった今、再び己に矛先が向くのは至極当然の帰結であったことに。

 

「あー、その、御坂さん?」

 

 咄嗟に宥めようとする上条であったが、ゴロゴロと、腹に響くような音に動きを止める。

 

 まさか、と空を見上げた。

 

「ちょっ!? 本気かよっ!?」

 

 真っ黒な雲が渦巻いていた。時折この位置からでもはっきり見える程に青白い閃光を放ちながら。

 

 ──雷雲だ。

 

「ふ、不幸だああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 そうして巨大な落雷と共に再開した追いかけっこは朝方まで続いた。

 

 因みに場所が鉄橋であった為に電流が街を伝い、周辺区域に大規模な停電が発生し、エアコンも止まったため就寝していた霊夢は猛暑で地獄を見たという。




みこっちゃんとのバトルは後々。
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