とある幻想の夢想天生 作:大嶽丸
「────」
神裂は言葉を失う。鮮烈な極彩色の輝きが迸り、空間を幻想的に染め上げる。
“
「がっ……ぁ……ッ!?」
身を焦がすような痛み。光自体に熱量は存在しないが、膨大で高密度な魔力の塊であるが故に、恐るべき破壊力を秘める。
その美しい光景とは裏腹に、ただただ純粋な暴力だった。
幸いだったのは、それがロシア成教の者が扱う魔術のように霊的な存在に対する絶対的な特効、そして妖怪や悪魔といった
故に、そういう要素を持たない、あくまでも人間の範疇に収まっている者にとっては、ただの魔力弾に過ぎない。
(まずい、このままでは──ッ)
しかし、それでも、聖人である神裂があまりの激痛に意識を失いかける程の威力。たとえ人間相手であろうと致命傷と成り得るだろう。
尤も、そこに殺意があればの話だが。
(……イン、デッ……クス……!)
歯を食い縛り、刀に力を籠める。だが、もはや勢いを増すばかりの魔力の奔流を押し返すことは不可能であり、神裂は抵抗すら出来ずに呑み込まれ──。
「………………」
やがて光が晴れ、霊夢は瞼を上げる。
「……逃げたわね」
眼前の地面は抉れ、まるで隕石でも落下したかのような巨大なクレーターが出来上がっていた。
神裂の姿は見えない。跡形も無く消し飛んだ……ということは有り得ないため押し潰される前に逃走したのだと判断する。
そう、逃げられた、逃がしてしまったのだ。
「ふぅ……久々に動いたから疲れた」
しかし、あそこまでの実力を持つ魔術師をみすみす野放しにしてしまったことによる苛立ちよりも先の戦闘での疲労感が勝る。
明日は筋肉痛だろう。魔力で補強しているとはいえ音速についていくなんて無茶をしたのだから。
(存外、手強かった。まさか“夢想封印”まで使わされる羽目になるなんて)
油断と慢心。この有り様はそれが招いた結果といえよう。神裂は霊夢の予想を上回る実力者だった。
最初から様子見無しで臨めば、みすみす被弾してしまうような失態は無く、もっと早くに決着はついていたはずだ。
故に、霊夢は己を戒める。余裕と慢心は決して違うのだと。
「ん?」
その時、携帯の着信が鳴り響く。
こんな時間に誰かと思いながら霊夢は懐中から取り出して画面の宛名を見た瞬間、顔をしかめる。
『ハァイ♪ こんばんわ霊夢♪』
「……何の用?」
仕方なく通話に出れば、女の唄うような声がする。霊夢の能力開発担当者である、あの赤髪の研究員だ。
霊夢は用件を問いつつも、大方は察していた。
『フフ、惚けちゃってぇ……随分と派手に暴れたみたいね?
「……相変わらず情報が早いわね、教授」
『上層部も気付いているんじゃない? あなたはいつも周辺の
赤髪の研究員……以後、霊夢が呼んだように“教授”と呼称することにしよう。どうやら彼女は先程霊夢が“夢想封印”を使用したことを把握しているようだ。
口振りからして実際に見てはおらず、何らかの方法で観測したようだが……。
『それで、あれだけ不用意に使うなと念押ししたはずなのだけれど──』
「しょうがないじゃない。強かったんだもん」
『へぇ? それはそれは。あなたにそう言わせるなんて、何があったのかしら? また第一位とでも殺り合った?』
「──魔術師よ」
『!!』
声はおちゃらけているが、遠回しに非難する教授。しかし、霊夢が戦った存在の名を口にすると、雰囲気を一変させ、その声に好奇の熱が帯びる。
『……あらあら。驚いたわ。素敵なご客人ね』
「何が素敵よ。あんた、学園都市に魔術師は来ないって言ってたじゃない。科学との摩擦がどうのとかって」
『ええ。そのはずだけど……何事においても例外は存在するってことね』
悪びれもせずにそう言ってのける教授に、霊夢は苛立ちを覚える。しかし、いくら責めたところで彼女がその調子を崩さないことは以前の経験から分かっていたので軽く舌打ちするだけに留めた。
「その様子からして、何も知らなかったって認識でいい?」
『ええ。あくまでも私は科学の人間。彼らが裏で何をやってるかなんかいちいち把握してないわ』
「ふん、宗教被れがよく言う。──本当でしょうね?」
『本当よ。フフフ』
相変わらず何を考えているか分からない奴だ。教授とは学園都市へ来る以前からの決して短くはない付き合いであるが、未だに彼女のことを霊夢は全く信用していなかった。
得体が知れないのもあるが、一重に彼女が何かを企んでいることを分かっていたが故に。
『けれど、興味深い話だわ。侵入者の情報は無かったから余程隠匿に長けているのか、或いは正真正銘招かれたお客さんなのかも』
「イギリス清教の、えっと……ネセサリウスとか言ってたわ。あんたなら、知ってるでしょ?」
『勿の論よ。
魔術師にとっての警察……成程。だから自分がその名を知らないことを疑問に思っていた訳だ。
しかし、霊夢はさも当然のような反応をしているが、科学サイドであるはずの教授が、何故こうも魔術師の情報に精通しているのだろうか。
『そういう訳だから、イギリス清教の中でも選りすぐりの精鋭が集まってるのだけれど……どんな魔術師だったのかしら?』
教授が尋ねる。もはや霊夢を咎めるよりも学園都市へ潜入してきた魔術師への興味が優先されていた。
「神裂っていう、大太刀みたいなデカい日本刀を振り回す女。セイジンとかどうの言ってたわ」
『──あら、
「知ってんの?」
『キリスト教が信仰する救世主──即ち“神の力の一端”を生まれながらに保有している人間のこと。因子の強さによってピンキリだけど大抵は肉体的にも魔術的にも普通の人間と比べ物にもならない別格な存在よ』
「ふうん……要するに、
『そうなるのかしら? あなたの視点だと。他の神話体系で見られるデミゴッドとは少し違うみたいだけれど』
クスクスと教授は笑う。対する霊夢はその説明を聞いて道理でやたらと強かった訳だと納得する。
神の力を宿した人間……十字教が崇拝する神とやらについて詳しくはないが、八百万の神々とはまた性質が違うのだろう。
『で、その聖人様はどうしたの?』
「………………」
『もしかして逃げられちゃった? 流石のあなたでも聖人の相手は厳しかったのかしら?』
返ってきた沈黙に対して見事言い当てた教授は意外そうな反応をする。
聖人はその戦闘力から、魔術世界の組織間においては核兵器に匹敵する戦略価値を持つとも言われているが、教授はそれを理解した上で博麗霊夢が本気を出せば聖人を打破することが可能だと認識していた。
噂に聞く“二重聖人”とやらなら話は変わってくるが。
「別に。少し油断してただけよ」
『あらそう。けど今後はあんまり派手にやるのは控えてちょうだい。原石とはいえ
「……そうね」
確かにその通りである。教授のように知れる奴には知られてしまっていることだろう。
曰く、学園都市と魔術師はそれぞれ“科学サイド”だの“魔術サイド”だのと云われ、不可侵の条約を結んで互いに均衡を保ち合っているらしい。
それを当て嵌めると、霊夢の存在は条約違反。両陣営が看過する訳もなく、最悪存在そのものを消し去ろうとするだろう。
でも、と霊夢は語気を強める。
「あんたの命令に従っているつもりはないから。私は私がやりたいようにやる。其処んとこ理解しておくように」
そんな世界の事情など知ったことではなく、誰の指図を受けるつもりもない。何故そのような些事なことで不自由を強いられなければならないというのか。
こちらが譲歩してやる理由は更々無く、科学サイドだろうが魔術サイドだろうが敵対すると言うのであれば真っ向から叩き潰すまで。
ともあれ面倒事に巻き込まれたくないのも本音であるため一応は教授の言葉には従うが、それで調子に乗られるのも癪なので釘を刺しておく。
『……ええ。勿論よ、素敵な霊夢ちゃん』
そんな威圧にも物動じせず、教授はより愉しげに微笑む。
『それじゃあ、魔術師について何か分かったならまた教えてね? 個人的にすっごく興味あるから』
「あっそ。用件はそれだけ?」
誰が教えるかと内心吐き捨てながら霊夢は通話を切る。
「……めんどくさ」
怠そうに首を回し、ぼそりと呟く。
幻想御手に続いて、今度は魔術師。トラブルがトラブルを呼び込んでくる。どうやらこの街は霊夢に平穏を与えるつもりはないようだ。
しかし、実を言うと良かった点もあった。
(……少し
あの時、あの瞬間。死を覚悟していた霊夢は謎の声に導かれ、反射的に夢想封印を放った。
回避を怠り、被弾しそうになった際、ああやって対処するのは基本中の基本であるが、それすらも彼女は忘れてしまっていた。
忘却という事象を彼女は最も恐れ、忌み嫌う。知っていたはずのことを忘れてしまい、覚えていたという事実すらも曖昧になっていく。
それは実に耐え難いことである。故に、時折思い出す記憶の断片に少しだけ安堵するのだ。
忘れていたとしても、失われてはいないのだと。
(私の死に場所はそこではない、か……どこの誰だか分からないけど確かにそうかもね。なら、精々生き足掻いてやるわよ)
実際、霊夢は踏み止まった。あのまま終わってしまってもいいと思っていたというのに。
──自分にとって、声の主は一体どんな存在だったのだろうか。
それすらも思い出せない。けれど、だからこそ、博麗霊夢は生き急ぐ。
彼女はこの世界に生まれ落ちたことを憂い、悲観しながらも在りし頃の
たとえ、その先に何も無かろうと……。
(……帰って寝よ。一応美緯に連絡しておこうかしら)
ファミレスで白井らと別れてからどれくらいの時間が経ったか。既に日は落ちてしまって辺りは暗い。
帰宅しても文句は言われないだろうが、念のため固法にメールを送っておこうと霊夢は再び携帯を開く。
それとほぼ同時だった。再び着信音が鳴り響いたのは。
「あん? ちっ……まだ何かあんの?」
『博麗! 今ちょっと時間大丈夫かッ!?』
「……当麻?」
てっきりまた教授だと思い、眉をひそめながら電話に出るが、聴こえてきたのは男の声。画面に表示される名前を確認すれば電話相手は不幸なクラスメイト、上条当麻だった。
何やら焦った様子の声。こんな時間にどうしたのかと疑問に思うと同時に、嫌な予感がする。
端的に言えば、トラブルの匂いがした。
「何? また面倒事に巻き込まれたとか言うんじゃないでしょうね?」
『ッ……その……おっしゃる通りで……』
そして、見事に的中する。
「あのね、ビリビリの時もそうだけど自分の手に余るようなことを私に押し付けてくるのやめてくんない? 私はあんたと違って無謀なヒーロー気取りでも馬鹿みたいなお人好しでもないんだから」
巻き込まれたか、或いは自分から首を突っ込んだか……上条が何かしらの事件や騒動に巻き込まれるのは半ば日常的であり、危険な目に遭っているところをたまたま居合わせた霊夢が助けてあげた回数は決して少なくはない。
そのせいかどうも頼られているような気がする。
『うっ……いつになく辛辣。もしかしなくても今ご機嫌が悪いので?』
「機嫌悪いってか疲れてんのよ。丁度さっき厄介な奴に絡まれて撃退したとこ。だから今回は勘弁してほしいんだけど……」
『そ、そんなこと言わないで聞いてくれ! 実は“魔術師”っていうヤバイ奴に襲われて大変なんだ!』
「……は?」
『ほら、博麗ってそういうの詳しかっただろ? 何か知ってるんじゃ……あれ? おーい、博麗さんー?』
上条の口から魔術師という単語が出てきたことに霊夢は目を見開き、硬直する。
思えば、神裂と戦ったこの場所は自宅近隣。それはつまり上条や土御門が住まう学生寮からも近いということ。もしも神裂の仲間が付近に居たとして、人払いを幻想殺しで無効化してしまう上条が鉢合わせしてしまう可能性は大いにあった。
「……あんたという奴は。つくづく運が無いわね」
『え? あの……博麗……?』
「さっさと説明しなさい。一体何があったのかと、今どこに居るのかを」
今宵はまだまだ、長くなりそうだ。
霊夢はもはや何度目か分からない溜め息を吐き、上条の言葉へ耳を傾ける。
上条は現在、担任の月詠小萌のアパートに匿ってもらっているらしい。文面だけでは何故そのような状況になっているのか意味が分からないが、事情を聞けば概ね納得した。
「……相変わらずボロいわね」
目の前には、景観にそぐわない年季の入ったアパートが建っていた。
ここへ来たのは酔い潰れた小萌を運んできた時以来だろうか。しれっと霊夢も飲んでいたら未成年飲酒だと説教されたのを思い出す。
ぴんぽーん、とチャイムを鳴らす。
「小萌先生ー? 博麗ですけどー」
暫し待機。しかし、何の反応もない。
「……蹴り破りますよー」
「ああ! 待ってください! 博麗ちゃんが蹴ったら普通に壊れてしまいますぅ!」
スッと足を構えた瞬間。慌てた声と共に、がちゃりとドアが開かれる。
「冗談ですよ、そんなに慌てなくても」
「ほ、本当ですかぁ? 博麗ちゃんなら
「……流石に失礼では?」
「いっつも問題児なのが悪いんですよ! もう!」
現れたのは家主である小萌。普段の格好とは違い、兎の耳がついた幼児向けのパジャマを着用していた。
年相応……ではなく、見た目相応の趣味なようだ。尤も、霊夢はとうの昔から知っていたので特に新鮮味など感じる訳も無くプンスカと怒る彼女を宥めながら靴を脱いで玄関へ上がる。
「で、あの馬鹿は……」
「あ、はい。上条ちゃんなら“シスターちゃん”と向こうに居ますよー」
小萌の案内に従い、霊夢は奥の居間へと進む。そこには夏休みにも拘わらず補習を受けていたせいで制服姿のツンツン頭の少年と、その横に敷かれた布団の上で眠る修道服を身に纏った銀髪の少女が居た。
「博麗! 来てくれたか!」
「来てやったわよ、このアホンダラ」
その姿を見た途端に顔を輝かせる上条。彼からすれば現状を打破することが可能な唯一の希望なのだから当然の反応であろう。
「それが例の?」
「あ、ああ。
──禁書目録。
明らかな偽名で上条はすやすやと寝息を立てる修道女のことを呼んだ。
「本人から直接説明してもらいたかったんだけど……叩き起こしていい?」
「ちょ、駄目だって! こいつさっきまで重傷だったんだからな! ってか電話で説明しただろ!」
「……しょうがないわね」
重傷……先程の電話でどんな怪我をしていたか上条に問えばそれは大きな刃物で切り裂かれたようなものだったらしい。
神裂が持っていた日本刀。そして血の匂い。点と線が繋がり、事の経緯を察した霊夢は溜め息を吐く。とんでもない厄ネタと上条は関わってしまったのだ。
(ま、こいつに非は無いわね)
この広い学園都市。自宅のベランダに追われる身の銀髪シスターが引っ掛かるなんて、どんな確率だと。
そこから首を突っ込んだのは上条だが、ここまで来れば不可抗力と言う他無く、追っ手の魔術師を撃退できたのは非常に幸運であったと言えよう。
「なぁ、博麗は魔術についてどこまで知ってるんだ?」
すると上条が小声で問いかける。近くに居る小萌に聴こえないようにするためだろう。その意図を汲み取り、霊夢もまた声を潜めて答えた。
「……詳しくは知らないわ。そういう連中が居て、こそこそしてるってくらい。関わり合いたくないもの」
「そ、そうなのか……じゃあイギリス清教とか魔術結社とかは……」
「まあ、名前くらいなら。つまり……この子の所属はイギリス清教ってこと?」
イギリス清教に魔術結社。上条が知るはずでない単語。ならばそれを誰から教えてもらったかと言えばこの修道女だろう。
そして、修道女ということは教会の関係者。ローマ正教やロシア成教やらの名が出なかったということはその説明の中で彼女はイギリス清教の名前しか出していなかったということになり、そこから霊夢は推察した。
「ああ、そう言ってた」
これに上条は肯定する。
「成程……要するに仲間割れ、ってことで良いのかしらね?」
「は? どういうことだ?」
「私もさっき魔術師と戦ってね。そいつが恐らくこの子に傷を負わせた奴なんだけど……自分のことをイギリス清教って言ってたわ」
「なっ!?」
上条は驚愕する。魔術師と戦っていたのも驚きだが、それよりも禁書目録を襲った人物が彼女が所属するイギリス清教の者というのは一体どういうことなのだ。
「じゃあ、俺が殴り飛ばした赤髪の魔術師も魔術結社とかじゃなくてイギリス清教ってことかよ?」
「恐らくね。そいつはその子をどうするって?」
「……そういえば
ビンゴだ。神裂の発言とも合致する。その赤髪の魔術師とやらも彼女と同じくイギリス清教の回し者で間違いないだろう。
「じゃ、じゃあ……あいつらはインデックスの仲間だったのか? もしかして俺って余計なことをしたんじゃ……」
「そう結論付けるには情報が足りないわよ。保護対象ってことはこの子はよっぽど特別な存在ってことだけど……何か聞いている?」
霊夢が尋ねればそういえば電話では事の経緯を簡潔に話したのみでまだ禁書目録の特異性を伝えてなかったと上条は矢継ぎ早に説明する。
曰く、完全記憶能力の持ち主で、10万3000冊もの魔道書を脳内に詰め込んでいるのだと。
「へぇ……つまり
「……いや、それを言うなら
「にしても
それを10万3000冊。特別な方法があるのか、それとも好奇心から何冊か読み漁っても何ともなかった霊夢のように単にそういう体質なだけなのだろうか。
どちらにせよ、禁書目録なる少女が如何に特異で重要な存在であるかは理解した。
故に、疑問が生じる。
「……きな臭くなってきたわね」
「ん? どうした?」
「妙だと思わない? そんな魔術師からしたら喉から手が出る程の存在。私が保護者様ならこんなことになる前に英国の総力を上げて取り戻そうとするわ」
「…………あ」
確かに。上条は漸くその可能性に思い至ったと言わんばかりに間抜けな声を漏らす。
「そ、それってつまり……!」
「ええ。連中が裏切り者の可能性もあるけど、そうなると護衛が居ないのがおかしい。意図的に学園都市に侵入させた可能性だってあるわ」
淡々と告げる霊夢。それは上条にとってあまりにも絶望的な事実だった。
「ってことは何だよ……アイツをイギリス清教に送り込んでも、何の問題も解決しないってのかよ!?」
「声がでかいわよ。落ち着きなさい」
「これが落ち着いてられるか……ッ!」
ドンッ! と壁を殴る音が上条の怒りを表すように響く。
無理もない。ゴールだと思っていた場所が、実は連れて行ってはいけない場所だと告げられたのだから。
「良いから落ち着きなさい。小萌先生が聞いてるってこと忘れないでよ」
「あっ……」
「か、上条ちゃん……?」
不安そうな顔でこちらの様子を伺う小萌。その姿を見て上条も頭が冷える。
幸いにも魔術がどうのということは発言していなかったが、それでもイギリス清教と聞けばあの銀髪シスターに関係することであろうことは容易に察せられるだろう。
「……小萌先生。すべてとは言わないけど、事情は後で話すつもりです。だから今は何も言わないでくれませんか?」
「うっ……分かりました。必ず説明してください。約束ですよ? 博麗ちゃん」
いつになく真剣な眼差しの霊夢に小萌も只ならぬ事態だと理解し、教師として大人として事情をすぐにでも聞くべきだと思いながらも彼女の意志を尊重して部屋を出ていく。
それを確認すると霊夢は再び上条へ視線を戻す。
「ふぅ……ったく、気を付けなさいよ」
「す、すまん……けど、これからどうすんだよ? 相手が組織ならインデックスを守り通すのだっていつか限界が来る」
上条が問う。この絶望的な状況を打破する方法を彼は思い付かない。
だが、目の前の少女なら、或いは……。
「さて、ね……詳しい事情をそいつから聞くまでは何とも言えないわね。私としては赤の他人だしそのまま引き渡しても良いんだけど……あんたは納得しないでしょ?」
「当たり前だろ!」
「何でそうまでして助けたいの……ってのは愚問ね。あんたはそういう奴だものね。相手が魔術師とか関係無いか」
ほとほと呆れた様子でそう言いながらもある意味では霊夢も同類だ。口では何と言おうが、結局のところ目の前で起きていることを見逃すことは出来やしない。
一方、上条は自分は霊夢が言うような上等な人間ではないとギリッと歯軋りする。
──私と一緒に地獄の底までついて来てくれる?
そう今にも消えてしまいそうに悲痛な笑顔で問いかけてきた彼女に対し、自分は何も言えなかった。
その結果が、この有り様だ。
だからこそ、次は迷わないと決意する。
「……分かったわよ。私も手伝ってあげる」
そんな心境を知らない霊夢は、しかしその確固たる決意を理解し、あっさりとそう言ってのける。
魔術と科学──そして幻想を生きる巫女が交錯した瞬間だった。
夢想封印
霊夢の十八番。色とりどりのホーミングする光弾を次々と放ち、相手に当たると炸裂する。
この光弾は妖怪が最も嫌う“有難い光”であり、あらゆる妖怪を問答無用で封印するらしいが、完全体華扇には弾き飛ばされてた。人間にもダメージを与えられる。
尚、場合によっては札をばら蒔くパターンもあり、夢想封印・散だの夢想封印・瞬だの数多くの派生がある。