とある幻想の夢想天生   作:大嶽丸

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上条さんの記憶喪失について感想で色々と言われてますねぇ……自分的には上条さんの記憶喪失は確定事項で原作の展開が崩壊するのもありますが、記憶が残るよりもそっちの方が面白そうな展開が幾つか思い浮かんでいたので。

あと当初の予定では霊夢が失敗するのに説得力を持たせる為に霊夢と上条さんの二人だけでペンデックスに挑む予定でした。けどそしたらステイルと神裂があまりにも不憫だったので……(特にステイルは今後活躍するかも分からんし)

他にも霊夢が光の羽に触れてやばいことになるパターンも書いてましたが……没になりました。


中道

 

 

 “窓のないビル”

 

 第七学区に存在する、学園都市の中でも一際異彩を放つ建造物。

 

 そこに、二人の人物が居た。

 

「……予定とは、随分と違ったみたいだな?」

 

 巨大なビーカーのような生命維持槽。その中で彼は培養液に浸かり、プカプカと浮かんでいた。

 

 銀髪に緑眼。男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える、中性的という言葉を超越した容貌をした“人間”──。

 

 学園都市統括理事長、“アレイスター=クロウリー”は無表情のまま、問いかける。

 

「………………」

 

 相対する人物は、何も答えない。

 

「君の予定では、今回の事変で彼女……博麗霊夢は“失敗”するはずだった。()()()と違って、一切の記憶を消し去る為に」

 

「………………」

 

「しかし、結果として博麗霊夢は無傷。代わりに上条当麻が記憶を失う羽目になったが……ああ、心配せずとも上条当麻の記憶喪失の件に関しては全くの無問題だ。充分に修正が利くし、むしろ好都合と言える」

 

「………………」

 

 沈黙を貫く相手に対して、まるで機械から発せられるような、無機質で感情の起伏を全く感じさせない声でアレイスターは淡々と語る。

 

()()が居る中で干渉したのは失敗だったな。あの右手は、運命や因果すらも破壊する。故に、君が定め、お膳立てした未来は崩壊した。──尤も、君はそれすらも想定の内かもしれないがね」

 

「……神浄の討魔

 

 ここで初めて、アレイスターの話に一切関心を示さなかったその人物が口を開く。

 

 そこにどのような感情が籠められているのかは分からない。アレイスターには声どころか顔も、そもそも今対峙しているのが()()()()()()まるで靄が掛かったように上手く()()()()()()()()()()

 

 気味が悪い。彼が他者に対してそう感じたのは、一体何世紀ぶりだろうか。

 

「──ふむ。興味を持つのは結構だが、勝手な行動は慎んでもらいたい。既に私の計画(プラン)は軌道から逸れている。これ以上狂わされると修正のしようがなくなってしまう」

 

 アレイスターが警告する。目の前の存在が上条当麻に興味本位で接触されるのは、喜ばしくない。

 

 しかし、その脅しにも近い警告が無意味なのも理解していた。学園都市統括理事長としての権威も、かつて世界最高と謳われた大魔術師としての名声も、あれには何の抑止にもならないのだから。

 

「………………」

 

 故に、そんな存在がこちらに配慮してくれる程度は()()()()()のはアレイスターにとって幸運だった。

 

 こくりと頷くと()()は踵を返す。

 

「……厄介な奴に目を付けられたものだ。計画(プラン)を悉くかき乱してくれる君の存在にはいつも頭を悩ませられているが、今回ばかりは同情するよ」

 

 その存在が窓のないビルから、この世界から完全に消え失せたのを確認し、残されたアレイスターは溜め息交じりに呟く。

 

 自身の“プラン”とは関係の無い事象ではあるものの、個人的に興味をそそられる。

 

 かの“幻想を生きる巫女”の行く末には──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 博麗霊夢にとって、上条当麻とは別に特別な人間でもなんでもない、ただのクラスメイトだ。

 

 不幸だと嘆きながら、自らトラブルへと突っ込んでいくお人好しの大馬鹿者。いつか痛い目に遭うだろうとは、取り返しのつかない事態になるだろうとは思っていた。

 

 今回がそうだったという話──しかし、少なくとも己の手が届く範囲に居る限りは、そんなことはさせないとも、思っていた。

 

 ◼️◼️◼️◼️◼️は、楽園の調停者にして()()の守護者。それはこの学園都市であろうとも、どこであろうとも決して変わりはしない。

 

 故に、目の前で守れなかった、救えなかったという事実に彼女はどうしようもなく打ちのめされる。

 

 佐天の時と同じ。何故こうも詰めが甘く、取り零してしまうのだ。

 

「結果から先に言うと、彼の記憶は“破壊”されてしまっているね?」

 

「……そう」

 

「驚かないんだね? まあ、君も()()()()()()だとすれば当然と言えば当然かな?」

 

 病院にて。以前からの顔見知りであるカエル顔の医者の診断結果を、霊夢は噛み締めるように聞いていた。

 

 ──上条当麻という人間は脳医学上、死んだ。

 

 思い出を司るエピソード記憶の中枢器官をズタズタに破壊され、かつての記憶をすべて失ってしまったのだ。

 

「因みに治る見込みは?」

 

「ゼロと断言していいね? 何せ脳細胞ごと死んでいるからね? 君のように多少の“抵抗力”で断片的に残っている可能性はあるかもしれないが、治療に関しては現代の医学では不可能だよ?」

 

「現代の医学では、ね……」

 

 その言葉は幼少の頃から飽きるほど聞いた。しかし、彼女はつい最近()()()()()、ということも理解していた。

 

 自分と上条では状況が違うのかもしれないが、それでも不可能など、有り得ないのだ。

 

「……私は、あなたよりも優秀な医者を知っているわ」

 

「──ほう? それは興味深いね?」

 

 カエル顔の医者は目を剥く。自惚れではないが、冥土帰し(ヘヴンキャンセラー)なんて呼ばれている自身よりも優れた医者が存在するのだという。

 

 厳密には医者ではなく、薬師だが。

 

「今はどこで何してるか分からないけど……必ず、見つけ出す」

 

 希望的観測。しかし、あの“白い羽”を、かつて己が記憶を奪った要因を見た時から、霊夢は確信していた。

 

 この記憶は、偽りなどではなく、“幻想”は確かに存在するのだと。

 

 今この瞬間から、自らの悲願は、渇望は、己が為だけの望みではなくなった。たとえ、それが単なる自己満足な罪滅ぼしであろうとも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「なんつってな。引ーっかかったぁ!」

 

 開けっ放しの病室から笑い声と怒声、それから悲鳴が響き渡る。

 

 しばらくして、禁書目録がぷんぷんと怒った様子で飛び出し、こちらに気付くこと無く走り去っていった。

 

(……あいつ)

 

 病室へ足を踏み入れた霊夢はベッドの上に居る上条へと視線を向ける。歯形が大量についたボロボロの枕を見れば何があったかは容易に想像がついた。

 

 よもや記憶が残っている、などという希望は抱かない。しかし、上条はどこまで行っても上条なのだろう。

 

「……良かったの? あれで」

 

「え?」

 

 こちらを向いた上条は困惑の表情を浮かべる。自分が誰だか分からないその反応に、霊夢は切なく思う。

 

 分かっていたことだが、たとえ性格は変わらぬともあの同級生で腐れ縁だった上条は、もうどこにも居ない。

 

「えっと、君は……」

 

「食蜂操祈。あんたは私の内縁の夫にあたるわ」

 

「あ、そうですか……はぁっ!?」

 

「嘘よ」

 

「嘘かよ!」

 

 一瞬こんな美少女がっ!? と期待した喜びを返してほしい、と上条は恨めしそうな視線を送る。対して霊夢はそんな反応にくすりと笑い、そして溜め息を吐く。

 

「やっぱり忘れてるのね、全部」

 

「……すまん」

 

「いいえ、謝るのは私の方よ。あんたをこんな目に遭わせたのは私の判断不足のせいだから」

 

 そう言い、霊夢は頭を下げる。彼女にとっては人一人を死なせたも同義、いくら謝っても気が済むはずがなかった。

 

「あ、いや、止してくれっ。大体の話はあの手紙を読んで把握している。魔道書とか魔術とかよく分かんないけど……多分、俺がやりたくてやったんだろ? だから、食蜂? さん……君が謝ることではない、と思う」

 

「……そ。ま、あんたならそう言うとは思ってた。あと私の名前は食蜂ではないわ」

 

「そこも嘘なのかよ……」

 

 あっさりと霊夢は引き下がった。上条にいくら謝罪したところで押し問答になることは分かっていたからこそ、己の中でのみ戒める。

 

「……あんたは、これからずっと、隠し通していくつもり?」

 

「………………」

 

「いずれボロが出るわよ? 今言っちゃった方が、気が楽なんじゃない?」

 

「……それでも、あの子だけには泣いてほしくないって、思ったんだ」

 

 自身の右手を見ながら決意した様子で語る上条を見て、霊夢は笑みを浮かべる。

 

 この会話に加え、先程の禁書目録とのやり取りで、充分に理解出来た。目の前のこの少年はたとえ記憶を失っていようとも、その在り方は変わっていない。

 

 ──上条当麻の()()()は、決して失われず、そこに存在するのだと。

 

「なら、精々頑張ることね。私も口裏くらいなら、合わせてあげるわ」

 

 故に、霊夢は手を差し伸べる。あの時と、何ら変わらない様子で。

 

「──博麗霊夢」

 

「え?」

 

「私の名前よ。また新しい関係を築くとしましょう? 当麻」

 

「……おう、よろしくな。博麗」

 

 その手を上条は迷わず取る。

 

(さっきだって……君には、君にだけは謝ってほしくない、自分を責めないでくれって思ったんだ)

 

 確かな暖かさを感じながら上条は思い返す。つい先程、霊夢を見た時に感じたのは困惑と、それを覆い尽くすような安堵──。

 

 彼女が目の前で、この世界で生きていることへのどうしようもない程の歓喜だった。

 

 親友? 想い人? 尊敬する人? 分からない。けれど、本能的に理解した。

 

 きっと、彼女は記憶を失う前の自分にとって大切な、かえがえのない存在だったのだと──。

 

(案外、覚えているのかもな俺……)

 

 何処に、と問われれば一つしかあるまい。脳細胞が焼き切れようとも、忘れられぬモノが何処にあるとすれば。

 

 ──“心”に、決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 上条の病室を後にした霊夢は屋上のフェンスに背を凭れ、黄昏れていた。

 

(……さて、あいつらにはどう説明しましょうか)

 

 記憶喪失の件は隠し通すと約束した。しかし、上条の周りには察しのいい者たちが多い。特に心当たりのある一人はその手の分野に長けているためすぐに気が付くことだろう。

 

 故に、一部の、知るべき人間にはあらかじめ真実を教えておくことにした。

 

 たとえどんなに辛く、絶望的なことであろうと、後から知ってしまうよりはずっとマシだと思ったから。

 

「ハァ…………で、何か用?」

 

 そう問えば、二つの人影が現れる。

 

 魔術師、神裂火織とステイル=マグヌスだ。

 

「……あなたの存在を、然るべき場所へ報告しました」

 

 申し訳なさそうに、神裂は言う。理解しているのだろう。それによって彼女の平穏が崩れ去ってしまうことを。

 

 霊夢の表情は変わらない。

 

「……で?」

 

「イギリス清教は、あなたの処遇を決めかねています。何分イレギュラーが過ぎる」

 

 二人が提出した報告書により、英国には波紋が広がっていた。禁書目録の“首輪”の破壊もそうだが、極東の島国に、それも科学の総本山たる学園都市に聖人を真っ向から打破する程の魔術師が潜伏していたのだというのだから。

 

 どこの所属か、それともフリーなのか、他の宗派に気付かれているのか、学園都市は一体どこまで把握しているのか、上層部は大騒ぎだった。

 

「中にはあなたを捕縛して連れて来い、と進言する者も居ます。尤も、私たちでは到底不可能ですが……」

 

「ふうん……そりゃ面倒ね。どうでもいいけど」

 

 神裂の言葉を受け、霊夢はそう切り捨てる。教授に言われて隠してきたが、バレてしまったのならば悪びれもせず開き直るまでだ。

 

 これにステイルが眉をひそめる。

 

「どうでもいい、だと? 君は自分がどういう状況なのか分かっているのかい? はっきり言って今の君は戦争の火種だ。このままでは他の宗派との摩擦が──」

 

「それがどうでもいいって言ってんのよ」

 

「な、に……?」

 

「あんたらがどこで騒いでどう判断しようが、私には関係無い。喧嘩を売ってくるってんなら、イギリスだろうがローマだろうが叩き潰してやる」

 

 悠然とした態度で霊夢は言い放つ。その発言には一切の虚飾も躊躇も無かった。

 

「……本気かい?」

 

「ええ。勿論」

 

 何という傲慢さ。信じられないといった様子でステイルは顔を歪める。隣の神裂も同様の反応だ。

 

 ──イカれてる。

 

 いくら聖人を倒せるだけの実力があろうと、彼女が敵に回そうとしているのはイギリス清教、延いては魔術サイド全体であり、無謀にも程がある。

 

 しかし、彼女と敵対することで魔術サイドに甚大な被害が及ぶであろうこともまた事実。あの自動書記(ヨハネのペン)との戦い、あれですら()()()()()()()()()()()()()()()()配慮していたというのだ。

 

 底が知れない。上層部が手をこまねいているのはそういった理由もあるのだろう。

 

「本当に申し訳ありません。あなたは禁書目録の恩人だというのに……」

 

 神裂が頭を下げる。元々彼女とステイルは霊夢の存在を伏せておくつもりだった。

 

 しかし、どういう経緯かは不明であるが、一連の戦闘は既にイギリス清教に知られてしまっており、到底隠し通せるようなものではなかったのだ。

 

「……で、私にどうしろってのよ?」

 

「幸いにも最大主教……我々の上司は、事を荒立てたくない様子でした。あなたの特異性についても知られていませんし、極端な判断にはならないと思います」

 

 私たちも全力で弁護しますから。そう言う神裂であるが、所詮は魔術師の言うことなのでいまいち信用ならない。

 

 尤も、神裂に関しては魔術師とは思えぬ程に善性な存在であることは薄々理解していたが。

 

「特異性って?」

 

「はい。……能力者なのでしょう? あなたは」

 

「なっ!?」

 

「………………」

 

 気になった発言について問えば、逆にそう尋ねられた。霊夢は僅かに顔をしかめ、片やステイルは驚愕の声をあげる。

 

「何を言っている、神裂? 能力者が魔術を使えるはずがないだろう。況してやあんな法王級を凌駕する大魔術を……」

 

「確信を持ったのは自動書記の発言からです。10万3000冊の魔道書の知識を自在に組み合わせられる存在があらゆる手段を講じた撃墜術式も、宙に浮く彼女を墜とせなかった……そこまで来ればむしろそれは魔術ではないと考える方が自然です。そして、ここは学園都市。となればこの街が生み出した異能である超能力ではないかと思いました」

 

 妥当な推理に霊夢は少しだけ感心する。記憶の圧迫の話を大して調べもせず、盲目的に信じ込んでいたことからてっきり単細胞な脳筋なのかと思ったが、無知蒙昧なだけでそれなりに頭は働くようだ。

 

 しかし、困った。よりにもよって一番面倒な連中にバレてしまった。教授の説教が怖い。

 

「概ね正解よ。私のは生まれついてのものだけどね」

 

「馬鹿な……」

 

 唖然とするステイル。もし事実だとすれば自身が想定していたよりもよっぽど深刻な問題になるからだ。

 

 能力者でありながら魔術を扱う。それならまだ例は居るが、反動も無しで自在に行使出来るなど前代未聞であり、科学サイドと魔術サイドの両方の領分を侵す大罪人に等しい存在ではないか。

 

「い、一体どういう裏技を使ったんだい? 奴みたいに反動を再生させてる訳ではないみたいだが……」

 

 目の前の人物が自分たち必要悪の教会にとって排除すべき存在なのを理解した上で、ステイルは真っ先に思い浮かんだ疑問について尋ねる。

 

 協力者である男は肉体再生(オートリバース)という能力で魔術の反動をある程度は回復させていた。より高位の能力であれば反動すらも克服出来るだろうが、そもそも霊夢には反動を受けている素振りすら無かった。

 

「どう、って言われてもね。私も後から知ったのよ、この世界の常識だと能力持ちが魔術を使うと死にかけるって」

 

 教授から説明を受けていなかったら知る機会は無かっただろうと霊夢は思い返す。

 

 才能の無い者たちが編み出した異能……そういう意味では起源は同じなのかもしれないが、やはり魔術と()()は違うものであり、彼らは魔法使いではなく、魔術師(ニンゲン)なのだろう。

 

 かといって霊夢は、そのどちらにも当て嵌まらない存在なのだが。

 

「簡単に説明すると、私の扱う“術”は、()()()()()使()()()()()()()()()()()ものなの」

 

「──は?」

 

 またしても固まるステイル。神裂もその発言は予想外だったようで驚きを隠せない。

 

 だが、同時に合点が行く。自動書記が霊夢の魔術を前に解析不能と結論付けたことにも。

 

「ふざけるな……! そんな協定を肥溜めに掃き捨てるようなことが許されるはずが……!」

 

「知らないわよ。私はただ()()()()()()だって認識していただけだし、そもそも科学だの魔術だのと一緒にされるのは心外だわ」

 

「なっ……!?」

 

「だってそうでしょう? 能力持ちなんてこの街ができるずっと昔から居るってのに、ちょっと有名になったからって勝手に科学側に分類されるし、魔術師(あんた)らは古臭い伝統だの骨董品だのを尊ぶくせに巫女術も陰陽術も一括りにして同列に扱い、それまであった例外は排斥しようとする……いい迷惑よ、そっちの常識を押し付けないでくれるかしら」

 

 とんでもない暴論に絶句する。否、一部は確かに筋は通ってはいるが、だからといって科学と魔術の二大勢力に真っ向から歯向かうなど正気とは思えなかった。

 

 そして、恐ろしいことに弱者の戯言ではなく、この少女には確かな実力が備わっている。

 

(ああ、理解したよ……君には僕たちの常識なんて全く通用しないってことがね)

 

 忌々しげにステイルは顔を歪める。これまでの会話から察するに、彼女は自身が魔術サイドである自覚が無く、それどころか科学サイドとすら思っていない。

 

 完全なる個人主義。十字教三大宗派の権威など意に介さず、己がルールだと言わんばかりに我道を往く秩序への反逆者……そういう意味では神裂以外の聖人たちに近いが、単に単独行動を好むだけのあれらと違って明らかに協定に反する存在な分、たちが悪かった。

 

 それとも彼女には彼女なりの秩序があるのか……どちらにせよ、このままでは話は平行線を辿るばかりだろう。

 

「……その話を、私たちに打ち明けて良かったのですか?」

 

「口裏合わせてくれるんでしょ? なら、少しは認識を擦り合わせておこうかと思って」

 

「それは……交渉の場に立ってもらえるという認識でよろしいのですか?」

 

「ええ。話くらいなら聞いてやるわよ」

 

 言動とは裏腹に霊夢は話し合いには前向きな反応をする。彼女としてはこんなことに手を煩わせている暇は無いため穏便に済ませられるのならそれはそれで良かった。

 

「おい神裂、本当に良いのか? 確かに彼女はあの子の恩人だが、あまりにも……」

 

「はい。いくら異端といえど、彼女に悪意は存在しません。それはこれまでの僅かな語らいでもよく分かりました」

 

 元より自分たちが初めから事情を説明していれば敵対することも無かっただろう。後から話を訊けば彼女が禁書目録を救おうとしたのは何の打算も無い善意によるものだったらしい。

 

 そういう意味では、神裂は霊夢に対して恩義だけでなく、敬意すら抱いていた。本人は頑なに認めないだろうが、その根本は上条当麻と同じ。誰かの為に無償で戦えるような人間なのだろう。

 

「……そうかい。好きにしたまえ」

 

 この返答に不満げにしながらもステイルはこれを容認する。素直でないものの内心は恩を仇で返す行為はしたくなかった。

 

 それに、彼としても禁書目録に首輪を付け、彼女の人生を滅茶苦茶にするだけでなく、自分たちを騙し利用し続けたイギリス清教は気に食わない。

 

「決まりですね。後日、最大主教との交渉の場を設けます。英国ではなく、この街で行うのでその点については安心してください」

 

「そ。ま、流石に英国まで来いって言われたら面倒臭かったから助かるわ……ジャッジメントの仕事もあるし」

 

 同意する霊夢。これに内心二人は安堵する。一時はどうなるかと思ったが、とりあえずこの場は切り抜けることが出来た。

 

 後は最大主教との交渉の場で問題が発生しないことを祈るばかりだ。

 

「それでは、連絡先の交換を──」

 

「はいはい。電話番号とアドレスね、というかケータイ持ってるんだ」

 

 魔術師は文明の利器とかを嫌う原始人なイメージがあったが、流石にそれくらいは活用しないとこの現代社会で生活することは不可能か。

 

(さて、こいつらの上司と話ねぇ……()()()()()()()()()()()()()()()()()を相手にすんのは正直嫌だけど……仕方無いわね)

 

 禁書目録の件で既にイギリス清教へのただでさえ悪い印象はだだ下がりだった霊夢は内心そう思う。

 

 この時、霊夢の立場を重んじて彼女を英国へ招いて交渉の場を立たせるという選択をしなかった神裂は英断だった。もしもそうしなかった場合、彼女は猛烈に後悔したであろう。

 

 何故なら博麗霊夢と最大主教、ローラ=スチュアートが直接顔を合わせた瞬間、魔術サイドどころか世界をも巻き込むとんでもない事態に発展するかもしれなかったのだから──。

 





~英国で対面した場合~

霊夢「何で妖怪がいんのよ」

ローラ「は?」

博麗霊夢VSコロンゾン

ファイッ!

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