とある幻想の夢想天生   作:大嶽丸

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最大主教

 

 

 初めに感じたのは、嫌悪感だった。 

 

 とある高級ホテルの一室。周辺区域一帯に人払いが張り巡らされたそこへ招かれた霊夢は目の前に置かれた小型ディスプレイに映る()()と対峙した。

 

『へぇ……“聖人”を打倒した魔術師というから如何に恐ろしきことかと思えば、げに可愛げがあることね』

 

 高く澄んだ声にも拘わらずそれは酷く耳障りで雑音のよう。ベージュの修道服を纏い、地に付くほど長い宝石のような金髪を持つその容貌は美しく、しかし画面越しからでも分かる醜悪な気配に霊夢は眉をひそめる。

 

 何だ、こいつは。若い見た目とは裏腹に、随分と長く生きているのは分かる。それ故に気配が人外に近いと思われるが、しかしそれでもこの言い知れぬ嫌悪感はまさか──。

 

「……あんたが、アークなんたらって奴?」

 

『いかにも。イギリス清教最大主教(アークビショップ)、ローラ=スチュアートといふけりよ。以後お見知りおきを』

 

 ゆったりと椅子に座り、寛ぎながら彼女──ローラ=スチュアートは悠然と名乗った。

 

『其方は件の魔術師、レイム・ハクレイでよろしいかしら?』

 

「………………」

 

「博麗霊夢? いかがなさいましたか?」

 

 暫しの無言。傍らに立つ神裂が心配そうにその顔を伺う。

 

「……ええ。そうよ」

 

 この女は推定無罪。疑わしきは罰する主義の霊夢としてはとりあえずその頭をかち割ってみるべき存在である。

 

 しかし、西の果てに居る彼女をこの場で追及しても無意味。それを行うのは実際に対面し、見極めてからでも遅くはないだろう。

 

 そう判断し、霊夢は警戒心を抱きつつも出しかけた矛を納める。

 

「……で、何その馬鹿な喋り方。ふざけてんの?」

 

『な、え、 お、おかしいの?  “日本語”とはこんな感じといふものではないければかしら!?』

 

 突っ込んだら負けかなとも思ったが、ただでさえ不愉快極まりないので指摘すれば、ローラは異様に慌てふためき、より支離滅裂な言動になる。

 

 どうやら敢えて茶化していた訳ではないらしい。日本書紀か古事記でも読んで学んだのだろうか。だとしても似非古文調過ぎるし、相当なアホだった。

 

「ねぇ、どういうことなの?」

 

「えっと……どうやら同僚にふざけた日本語を仕込まれたらしくて……」

 

「……あ、そ」

 

 意味が分からず、神裂に尋ねればそう答えられ、何とも言えない表情を浮かべる。こうも警戒しているのが馬鹿馬鹿しくなってしまう。

 

 尤も、油断ならぬ相手だということは変わらない。こいつは禁書目録に記憶を消去する術式を組み込んだ張本人なのだから。

 

『こ、こほん! では、自己紹介も済んだところで本題に入ることにするけりよ。──魔術師、博麗霊夢の処遇について』

 

 咳払いし、ローラは先程よりも真面目な顔をしてそう切り出す。

 

『実のところ結論はもう既に出ているのよ』

 

「!」

 

「………………」

 

 告げられた言葉に驚く神裂と、話が違うとそれを睨む霊夢。まだ審議中だと聞いていたが、結論が出てしまっているのならば口裏を合わせたところで意味がないではないか。

 

「最大主教、それは一体どういうことですか?」

 

『先日、博麗霊夢の身元保証人を名乗る者が我々に接触し、話をつけもうたりよ。赤髪の女、と言えば分かるのではなくて?』

 

「なっ……」

 

「……教授の奴、いつの間に」

 

 僅かに顔をしかめる霊夢。相も変わらず得体が知れない。一向に連絡が無かったのでもしかするとバレてないのかとも思ったが、やはりそんなことは無かったようだ。

 

 しかし、イギリス清教に直接交渉しに行くとは。なかなか大胆なことをしてくれる。

 

「で、内容は?」

 

『ええ。簡単に言ってしまえば、あなたをイギリス清教必要悪の教会(ネサセリウス)に雇用する……これを条件に今回の一件は放免にするということけりよ』

 

「なっ!?」

 

「……成程ね」

 

 教授が承諾したのならばまあ最悪の事態は避けられているだろうという一定の信用はあったが、かといってそれが満足の行く内容とは限らない。

 

 そう思ってはいたが、ローラが語った内容はなかなかに衝撃的なものだった。

 

「な、何を言ってるんですか最大主教! 彼女は学園都市の人間です。それをイギリス清教の一員にするなんてことは──」

 

『あら、何の問題が? 報告によると、彼女はフリーの魔術師なのでしょう? 元より必要悪の教会は実力主義。ならばあなたたちを打ち負かし、禁書目録の首輪すらも解き放った程の実力者を戦力に加えたいと考えるのは当然につき』

 

 さもありなんと、そう言ってのけるローラに神裂は言葉が出なかった。

 

(あー、何か既視感あると思ったらあれだ、ジャッジメントに加入させられた時の展開に似てるわね。あっちと違って永久就職っぽいけど)

 

 一方で霊夢はそんなことを思う。面倒事を好まず、魔術師を嫌う彼女からすればその総本山たるイギリス清教に所属させられるのは望むところではないはずだが、その割には存外落ち着いていた。

 

『それに、これはあなた方にとって最善の結果だと思ふのだけれど』

 

「は……?」

 

『形だけでもイギリス清教の擁護下であれば他の宗派もおいそれと手出しえせず。博麗霊夢とて、フリーの魔術師で居続けるよりも、後ろ楯があった方が善きにありけるでしょう? 望みこそせど拒む理由などなきことでは?』

 

「ッ、それは……」

 

「……そうね。悪くないとは思う」

 

 それどころか破格の条件と言えよう。少なくとも自分と敵対する連中の中にイギリス清教は消えるし、ローマ正教やロシア成教、その他の触発された馬鹿共への牽制にもなるのだから。

 

 故に、気に入らぬことがあるとすれば──。

 

「私に、あなたの配下になれと?」

 

 鋭い視線。これにローラは全く動じず、薄く笑みを浮かべる。

 

『あくまでも名目上、かしら。イギリス清教としてはそこらの魔術師ならともかく、聖人を打ち負かしてしまえる程の存在を前に、敵対など真っ平御免。しかし、放置して他の宗派に出奔せしめるのも都合が悪し』

 

「………………」

 

『どうかしら? この条件さえ飲んでくれれば、我々イギリス清教はあなたに手出しせず、学園都市で思うがままに暮らすことを容認しましょう。学園都市内での魔術絡みのトラブルが起きれば協力を要請するかもしれないけれど、それくらいは問題無きことでなくて?』

 

 こちらを見透かしたようにそう言うローラ。面倒事を押し付けているようにも思えるが、元より霊夢はこの街に魔術師が来て企てを起こすのであれば撃退するつもりであったのだから、その情報を得られるのであればむしろ都合が良かった。

 

 しかし、疑わしい。あまりにも話がうま過ぎる。

 

「……本当でしょうね? 後から反故にしようってんなら、容赦しないわよ」

 

『勿論。これはイギリス清教と博麗霊夢の間の正統な密約であり、決して違えるつもりなどあらず。不安であれば契約書でも一筆しようかしら?』

 

「ああ、そう。じゃあ──()()しましょうか。あなたと」

 

 そして、その言葉が決定打となったのか、遂に霊夢は首を縦に振った。

 

 疑惑は消えていない。だが、もしもローラ=スチュアートの正体が自分の思うモノであるのならば、()()に叛くことはしないだろう。

 

 たとえ予想が外れていたとしても、その時はその時。イギリス清教ごと葬り去れば解決だ。

 

『──ほう?』

 

 一瞬、ローラは──否、()()()()()()()()()()は固まるも、すぐに先程のように不敵な笑みを浮かべ、しかし先程よりも愉しげだった。

 

『では、イギリス清教必要悪の教会所属の魔術師、博麗霊夢……何卒よしなに頼もうかしら』

 

「ええ。よろしく。……後その日本語は早い内に直した方が良いわよ」

 

『……分かり申したわ』

 

 契約成立。こうして、一時はどうなるかと思われたが、話自体はつつがなく進み、霊夢は弱冠15歳にしてイギリス清教必要悪の教会へと招かれる。

 

 ──それが吉と出るか凶と出るかは、まだ誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 神裂火織は安堵した。

 

 霊夢が必要悪の教会にスカウトされたのは予期せぬ出来事だったが、どうにか大事にならずに済んだ。

 

 彼女が裁かれることが無くなったのもそうであるが、最悪イギリス清教、延いては魔術サイド全体と学園都市との戦争にも発展しかねない事態であり、そうなれば折角救われた禁書目録にも危険が及ぶためこれを避けられたのは最高最善と言えよう。

 

「しかし……良かったのですか? あなたは最大主教を随分と嫌っていた様子でしたのに」

 

 ふと、気になった神裂は今この瞬間から同僚という間柄となった霊夢へ問う。

 

「あら、気付いてたの?」

 

「はい。交渉が決裂してしまわないか冷や冷やしました。確かに彼女は信用ならない相手ではありますが……」

 

 資料によれば1909年から最大主教の地位に君臨する、つまり少なくとも100年以上は生きている魍魎。若く麗しい容姿とは裏腹にその内面は真っ黒で醜悪極まりない。

 

 それでも神裂は最低限の敬意は抱いていたが、禁書目録の記憶についてまんまと騙され、彼女の人生を滅茶苦茶にしたことからその評価は地に墜ちていた。

 

 故に、霊夢がローラ=スチュアートを嫌う理由はよく分かる。彼女にとって記憶を消すという行為は、その人そのものを殺すのと同義なのだから。

 

「まあね。勘だけど……あれは多分“敵”よ。私にとっては勿論、あんたらにとってもね」

 

「…………? それは、どういう?」

 

「機が熟したら教えてあげる。今の所は決して味方だと思わず、また惑わされないように警戒しておきなさい」

 

 それは忠告だった。神裂は困惑しながらもその言い分を飲み込んで頷く。

 

 彼女は聡明だ。自分の知らぬことに気が付いてもおかしくはない。最大主教がろくでもない存在であることは充分に理解していたつもりだったが、もしかするとその得体の知れなさは自身の理解の範疇を超えているのかもしれない。

 

「インデックスは、この街に残るんだっけ?」

 

「はい。“上”は大至急連れ戻せと命じましたが、現状は様子見……私たちもあの子をあんな目に遭わせた場所へ連れていくつもりは毛頭ありません」

 

 10万3000冊の魔道図書館が管理から外れたというのに何故そのような寛大な処置になったのかは不明であるが、禁書目録を落ち着かせ、自分たちもそれなりに準備を整えられる期間を与えられたのは僥倖だった。

 

「ふうん……それで、当麻の所に居候させる訳ね」

 

「その方が都合が良いかと。私としてはあなたの所でも構わなかったのですが、他の宗派や彼女を狙う輩を変に刺激することになる恐れがあったので……」

 

「良いんじゃない? あの二人は仲が良いし、私も他に当てがないならまだしも、子供の世話なんて頼まれても断ってたわ」

 

 共に暮らすことで上条当麻の記憶喪失がバレるかもしれなかったが、元より濃密であれ期間は短い付き合いだ。たとえボロが出ても違和感こそ覚えど感付かれることはないだろう。

 

 それに選択したのは上条だ。ならば尊重するしかあるまい。

 

(ま、ヘマした分の責任くらいは取ってやるわ。精々用心棒代わりになってやろうじゃないの)

 

 今後の方針は決まっていた。上条の本質と不幸体質が何ら変わっていない以上、本人にその気が無くともトラブルはいくらでも舞い込んでくるだろう。

 

 いつもなら御免被るが、彼を守り切ることが出来ず、記憶喪失を防げなかった身としては見て見ぬフリなど出来るはずもなかった。

 

 故に、己が出来得る限りは彼を守ろう。失われた記憶を取り戻す、その時まで──。

 

「ところで……博麗霊夢」

 

「ん?」

 

「……何故私たちは()()()に?」

 

 話が一段落したタイミングで、神裂が訝しげに問い掛ける。そう、先程からシリアスな会話をしていた彼女たちは実はとあるファミレスのテーブル席に座り、対面していた。

 

「まだ昼飯食べてないでしょ?」

 

「それはそうですが……人目もありますし、何もこのような店じゃなくても……」

 

「だって外食の気分だったんだもん。それにここ、他と比べて値段が安い割に味は悪くない優良店なのよ」

 

 あっけらかんとそう言って霊夢。そういうことを言っているのではないと困惑する神裂を他所に、彼女は呼び鈴を鳴らして店員を呼ぶ。

 

「すみません。日替わりランチ一つ。あなたは?」

 

「え? で、ではあなたと同じものを……」

 

「おっけー。それじゃ、日替わりランチもう一つと、コーラと麦酒(ビール)お願い。あ、一応言っとくけどそちらの()()()()が麦酒ね」

 

「え……?」

 

「かしこまりました」

 

 注文を承った店員が立ち去る。神裂は唐突に追加されたアルコール飲料に戸惑う。

 

「あの、私はお酒は……」

 

「大丈夫よ。私が飲むから」

 

「はい?」

 

「いやー、助かったわよ。未成年飲酒禁止とかいうクソみたいな法律のせいで()()()()()しないと酒が簡単に手に入らなくて困るわほんと」

 

 好物は何かと問われて霊夢が真っ先にあげるのは酒だ。如何なる食べ物もすべて酒の付属品に過ぎないと断言できるくらいには酒が好きである。

 

 しかし、この国は未成年の飲酒を法律で禁じている。それは学園都市もまた同じであり、人口の八割が学生なのもあってか酒類の販売は少なく、また取り締まりも厳しい。

 

 これも霊夢が学園都市を嫌う理由の一つだ。日々のストレスや疲労を吹っ飛ばすには酒を飲んで酔うのが一番だというのに。

 

「本当は日本酒が良いんだけどこの店じゃ麦酒くらいしかまともなのがないし、真っ昼間から居酒屋ってのもねぇ……」

 

「……あの」

 

「あ、もしかしてあなたも飲みたかった? なら、また後で頼んで──」

 

「──私も未成年なのですが」

 

 神裂がそう言った瞬間、霊夢はぴしりと固まる。

 

「え?」

 

「………………」

 

「……因みにお幾つで?」

 

「一応、今年で18になります」

 

 マジで? と驚いている霊夢を見て、神裂は露骨に不機嫌になり、物々しい雰囲気を纏う。

 

 彼女は大人びた外見からよく年齢を間違えられる。故に、年齢に関する話題は完全に地雷であった。

 

「……なんかごめんなさいね」

 

 流石の霊夢もやらかしたと指で頬を掻き、謝罪の言葉を口にする。これが“全然そうは見えないわね”とか“普通に20代後半かと思った”などと発言していれば神裂はぶちギレていたことだろう。

 

 神裂も霊夢に悪気が無いことを理解しているため湧き上がった怒りをどうにか鎮め、しかし霊夢と先程の店員にすらそう見られたことでやはり自分はそこまで年上に見えてしまうのかと内心ショックを受け、落ち込む。

 

「因みにステイルは14歳です」

 

「マジで!?」

 

 年齢は見掛けによらない。それは人間もそうでないものも、変わらないことのようだ。

 

「ま、気を取り直して一杯やりましょ? これからインデックスを守っていく団結会ってことで」

 

「……一般論として、子供がお酒を飲むのは体に悪影響を及ぼす可能性があります。まあ、私の知り合いにも何人か嗜んでいる者も居ますし、今更とやかく言うつもりはありませんが」

 

()()()()()()よ? 問題なんて何も無いわ」

 

 さも常識のようにそう言ってのける姿に思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

 意外な一面だ。魔術師であり、裏社会を生きる神裂としては別段未成年飲酒を咎めるつもりはないが、それでも彼女の倫理観からすればあまり好ましくない行為である。

 

 けれど、同時に嬉しくも思う。団結会、そう形容してくれたということは彼女は少なくとも自分たちのことを仲間……とまで言うのは烏滸がましいが、共通の目的を持つ同志くらいには思ってくれているということなのだから。

 

「なぁ~にが()()()()()()、ですの?」

 

 ですの。ですのですの。その甲高い声と共に発せられた聞き覚えのあり過ぎる語尾に、まるで死神の宣告を聴いたかのように霊夢は凍り付く。

 

 そういえば、彼女は自分がこのファミレスをお気に入りとしていることを知っていた。

 

「げっ」

 

「げ、とは何ですか、げとは。何日も無断欠勤してるかと思ったら……こんな所で何やってるんですの?」

 

 もう何度見たか分からない鬼の形相を浮かべ、白井黒子が立っていた。

 

「無断欠勤って、しばらく休むって美緯に連絡したはずだけど?」

 

「黙らっしゃい! 有無も言わさず通話を切ったくせに! 理由も無く同意すら得ていないのであれば、無断欠勤と同じですの! おまけにいくら電話機を掛けてもお出になりませんし!」

 

「……忙しかったのよ、色々と」

 

 自動書記との決戦の後、霊夢は事後処理のため数日ほど風紀委員の仕事を休んでいた。

 

 しかし、説明しようにも魔術関連のことなど言えるはずもなく、どうしたものかと頭を捻らせる。

 

「しかも聞き捨てならないことを聴きましたの。よもや風紀委員が未成年飲酒をしようなどとお思いで?」

 

「まさか。酒を頼んだのはそちらの()()()()よ? ねぇ、火織」

 

「は、はい。その通りです」

 

 話を合わせろ、と目配せされ、白井の突然の登場に驚きながらも神裂はそう言う。

 

 風紀委員(ジャッジメント)という単語が出た。記憶している限りではこの街の自警団だったはずだ。ならば未成年飲酒がバレれば面倒なことになる。

 

「……あなたは?」

 

「私は……その、彼女のゆ、友人の神裂火織と申します。そういうあなたは彼女のご知り合いで?」

 

「古代怪獣ツインテール。身長45メートル体重1万5せ」「風紀委員の同僚の白井黒子ですの。いい加減にしないとその口を縫い合わせますわよ? ……しかし、佐天以外にも友人が居ましたのね、あなた」

 

 疑わしいことこの上無いが、事実だとすれば意外であると思う。正直霊夢が誰かと友人と呼び合えるような関係になるほど仲良くなることが白井には想像出来なかった。

 

 ただでさえ佐天涙子という友人が居ることが驚愕に値するというのに……。

 

「失礼ね。そりゃ普通は友達の一人や二人くらいは居るもんでしょ、多分」

 

「……そうですか」

 

 ちらり、と白井は神裂へ視線を送る。

 

 結んで腹部を露出した白シャツに片側が破れたジーンズ……顔付きや言葉使いや真面目そうなのにその格好は霊夢に優るとも劣らず、奇抜でクールビズにも程があった。

 

(類は友を呼ぶ、ですの? 流石にこれはしょっぴかれてもおかしくない格好でしてよ……)

 

 露出同盟でも組んでいるのか。そんなことを思いながら白井は額に手をやる。

 

(それに、恐らく強い。上手く隠していますが、あのスキルアウトの大男よりも明らかに格上。この人の交流関係は一体どうなっていやがりますの)

 

 常に重心を崩さず、全く無駄が無い佇まい。一目見ただけで白井は霊夢の友人だと言う目の前の女性が只者ではないことを察していた。

 

 それこそ自身が真っ向からは勝てぬと判断したあの第七学区のスキルアウトのリーダーなどよりもずっと──。

 

(自宅も留守にしていて心当たりのある場所のどこにも居ないから本気で心配していましたが……また、知らぬ所でトラブルに首を突っ込んでいたんですのね……)

 

 容易に察せられる。木山の件といい、風紀委員の奉仕活動の傍ら一体何をやっているのだろうか。

 

 ろくでもないことなのは確かだが、いくら問い詰めたところではぐらされるのは明白。故に、白井は敢えて何も訊かなかった。

 

 神裂火織。後で初春に頼んで調べてもらおう。

 

「とりあえず……今からでも支部に戻ってくださいまし。“能力者狩り”と連続“切り裂き魔”事件で人手が足りませんの」

 

「えー」

 

「さっさと来るんですの!」

 

 往生際の悪い霊夢を怒鳴り付ける白井。それを前に神裂はどうしたものかとオロオロするばかりだった。

 

「ハァ……分かったわよ。という訳だから、悪いけど行かせてもらうわ」

 

「わ、分かりました。お構い無く……また何かあれば連絡します」

 

 折れたのは霊夢の方だった。もう少し今後の方針について話し合いたかったが、最大主教との交渉という最も重要な用件はもう済んだので神裂も同意し、立ち上がって白井へついて行く彼女を見送る。

 

「……あ、そういえばこの店のお代は──」

 

 気付いた時には、二人の姿は無かった。

 

 その後、先に会計が済ませてあるなんてことはなく、日替わりランチ二食を完食した神裂は泣く泣く自腹を切るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 鮮血が、飛び散る。

 

 とある路地裏の一角。普段ならばスキルアウトたちがたむろし、犯罪には事欠かさないこの場所は、真っ昼間にも拘わらずしんと静まり返っていた。

 

 否、つい先程までここはいつもよりも騒がしく、そして悲鳴が響き渡っていたのだ。

 

「………………」

 

 死屍累々。血溜まりの上に何人ものスキルアウトが地に伏しているその光景は、学園都市だと存外見慣れた光景ではあるものの、唯一違う点は彼らが皆等しくその命を奪われていることだろう。

 

 加えて、今回ばかりは彼らに非は無い。彼らはここで何もせず、或いは何かをしようとする前に、ただ運悪く()()()()()()()()、無惨にも殺された。

 

「……脆い」

 

 この惨劇を引き起こした張本人は小さくそう呟くと、死体の山には目もくれず、路地裏の奥へと消えていく。

 

 脅威は確実に、迫っていた。




ローラ「何故かバレてるっぽいけど敵対する意思はないっぽいしまあええか」

霊夢「実際に会ってみないと確認できないからとりあえず従っとこ。会ってもしそうじゃなくても怪しいからとりあえず殴るけど」

ローラ「ひぇっ」

☆「草」
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