とある幻想の夢想天生   作:大嶽丸

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ここからしばらくは科学サイドの話


切り裂き魔

 

 

「──能力者狩り?」

 

 あの後、久々の酒への名残惜しさを感じながら白井に支部へと連れて来られた霊夢は眉をひそめて聞き返す。

 

「はい。そのような事件が多発しておりますの」

 

「ふうん……やっぱり夏は馬鹿共がはしゃぐわねぇ……」

 

 幻想御手事件が収束し、しばらくは平穏な日々が訪れるかと思いきやまた新たな事件が起きていた。

 

 無能力者狩りは別段珍しくもなく、霊夢が風紀委員を辞めるきっかけにもなった事件であるが、能力者狩りとは珍しい。それに詳細を訊けばターゲットは低位の能力者だけでなく強能力者(レベル3)や中には大能力者(レベル4)も含まれており、尚且つ成功させているのだから異常性は高かった。

 

 “AIMジャマー”でも使ったのだろうか。恐らく犯人は図に乗ったスキルアウト共。元より高位の能力者に対抗するだけの戦力のある駒場の一派は今更そのような暴走はしないだろうし、彼らとは別グループだろう。

 

 その推理を告げれば白井も頷く。

 

「私もそう思っていましたの。被害が起きたのは第十学区とその周辺が多かったことから恐らくその区域を根城としている連中かと」

 

「なら、そこら辺で張り込むなりおびき寄せるなりして取っ捕まえれば終わりね」

 

「ええ。上手く行くかはともかく、それが妥当な案ですの」

 

「うーん……もう少し事態を見守ってから動いた方が良いのではないですか?」

 

 腕に覚えのある二人がそんな作戦を練っていると、傍らでそれを聞いていた初春が悩ましげな表情でそう言った。

 

「そうね……正直、この事件は私も慎重に動いた方が良いと思うわ」

 

 その提案に固法も同意を示し、対して白井は首を傾げた。

 

「何故ですの?」

 

「嫌な予感がするのよ。能力者を率先して狙うも何も、まずどうしてその人が能力者だと分かったのか、とかね」

 

「しかし、被害者が増え続けるようでしたら我々も動かない訳には……」

 

「だからこそ慎重に動かないといけないのよ。私たちが被害者になるのだけは避けないと」

 

 その通りだ。風紀委員までもが敗れた、なんて一般人に思われたら面子が丸潰れだ。

 

 理解はしていても納得は行かなかったのか白井はぐぬぬと顔をしかめる。

 

「何だ、それなら私は問題無いじゃない」

 

 すると霊夢があっけらかんと言い放つ。

 

「え? あっ……確かに博麗さんは能力使えなくても強いですもんね」

 

「でも、あなたって能力による推進力とかで打撃の威力を上げてるんじゃないの? 機動力とかも」

 

 成程と手を叩く初春とは違い、固法は神妙な面持ちでそう尋ねる。

 

「はぁ? 誰から聞いたのよ、それ」

 

「いや単に私の考察だけど……違うの? じゃあ、どこにそんなパワーが……」

 

 固法は霊夢の人間離れした強さを能力による補助によるものだと独自に分析していた。良い線行っていると思っていたのだが、この反応からしてどうやら違うようだ。

 

「そりゃ普通に霊力こめて……いや、まあとにかく別に不良共をボコるのにそんな小細工いらないでしょ。少なくともそんな方法で使ったことないし」

 

「そうだったの……え、じゃあ素であの身体能力ってこと? 細身に見えて筋肉の塊なのかしら」

 

「……ゴリラですの?」

 

「あん?」

 

 酷い言われ様だが、彼女らの言葉はごもっともである。何せコンクリートをぶち抜いたり銃弾を避けたりと高位の肉体強化系能力者も真っ青な馬鹿げた身体能力を度々見たことがあった。

 

 今ではすっかり感覚が麻痺してしまっているが、普通に考えたらおかしい。

 

「まあ、無意識って可能性もあるけど……それじゃあ事件の取り締まりは博麗さんに任せて私たちは情報収集しましょうか」

 

「そうですね。私はネットの情報を漁ってみます」

 

「……私も、体術にはそれなりの心得が」

 

「囲まれたら無理でしょ」

 

「うぐっ……」

 

 霊夢への対抗心からか白井は不服げだった。元より現場主義な彼女からすれば直接解決にあたれず、よりにもよって霊夢に任せっきりになるのは嫌なのである。

 

 しかし、固法が許してくれるはずもないのでどうしようもない。

 

「はいはい。とっとと捕まえてくるわよ」

 

 能力者狩り。物騒ではあるが、魔術師絡みと比べれば断然楽であり、箸休めに等しい。

 

 しばらくは楽させてもおうと霊夢はわりと乗り気であった。

 

「……それと、これはもう警備員(アンチスキル)が担当の事案になるんだけど博麗さんにも一応言っておくわ」

 

「ん?」

 

 すると固法が切り出す。白井や初春も心なしか先程よりも真剣な顔をしていた。

 

「──連続切り裂き魔事件。“学園都市のジャック・ザ・リッパー”なんて呼ばれて世間を騒がせている連続殺人鬼よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 始まりは三日前。とある路地裏でかなり大きな刃渡りの刃物で身体を切り裂かれたと思われる一人の女子学生の遺体が発見された。

 

 殺人事件として警備員が捜査を担当するも程無くして同じように殺害された遺体が別の場所で見つかり、その翌日、翌々日にも同様の事件が発生した。

 

 被害者の数は8人にも上り、その性別、年齢、学校、能力も全部別々で特に関係性は見受けられなかったが、傷口からどの事件でも凶器の形状が完全に合致したことから警備員は同じ人物の犯行だと断定。この事件を連続無差別通り魔事件だと結論付けた。 

 

 この学園都市で起きた連続殺人事件。しかも世界的に見ても優秀とされる日本警察をも上回る最先端の捜査能力を持つはずの警備員が未だに容疑者の影も形も掴めていないという事実に世間は震撼し、恐怖と話題性を以て19世紀末に霧の都ロンドンに現れた正体不明の殺人鬼から取って名付けられたのが切り裂き魔──“学園都市のジャック・ザ・リッパー”だった。

 

(……私がインデックスの件で色々とやってる間に、そんなイカれた奴が出てきてたのね)

 

 路地裏を歩きながら、道理で警備が厳重になっている訳だと霊夢は納得する。

 

 各地に増設された監視カメラ、定期的にパトロールする警備員たち。捜査しつつもこれ以上被害者を出すまいと彼らは奮闘していた。

 

 お蔭で普段たむろしている不良の数も少なく、カメラの死角で細々とやっている。こんな中で能力者狩りなんて蛮行を行っているのは一体どこの馬鹿なのだろうか。

 

(むしろ隠れ蓑になるから都合が良いのかも)

 

 切り裂き魔の捜査に全力を注ぐ中、能力者狩りに構ってやれる程の余裕は警備員には無い。それは敵が風紀委員だけであることを意味し、能力者狩りにとって非常にやりやすいのかもしれない。

 

 どちらにせよ、傍迷惑な話だ。

 

 あまりにも手掛かりが少ない。犯行グループを特定するに足り得る情報が無い以上、歩き回って現行犯で取り締まるしかなかった。

 

 故に、こうして適当な路地裏を徘徊しているのだが……。

 

(ま、避けられるわよねぇ)

 

 博麗霊夢、正確には“鬼巫女”の名はスキルアウトの間では有名である。

 

 スキルアウトの団体を幾つも壊滅させるだけではなく、無能力者狩りを邪魔した報復として襲撃してきた強能力者、大能力者を含んだ集団を一方的に叩きのめし、病院送りにしたなどという逸話を聞けば、誰が好き好んで関わろうとするだろうか。

 

 そのためただでさえ少ない不良たちはその特徴的な紅白を視た瞬間にそそくさと逃げてしまう。

 

 偽者かもしれない。しかし、本物だったら最悪病院送り。というか彼女以外に恥ずかしげもなくあんな格好をするような奴なんていない。

 

 そんな訳で数日後にどこかのハンバーガーショップで食い倒れる影の薄い少女はその巫女装束から鬼巫女ではと恐れられ、不良に絡まれなくなるのだが、それはまた別の話。

 

(これなら制服とかで変装した方が良かったかしら。……いや、絶対その方が良かったわね、次からそうしよ)

 

 所謂囮捜査。実際それが一番手っ取り早い。尤も、目当てのスキルアウト以外が絡んでくる可能性もあるが、そこはまあ虱潰しだ。

 

「──ん?」

 

 その時だった。曲がり角付近で何やら騒ぎ声が聴こえてくる。

 

 何事かと覗き込んでみると──。

 

「……何やってんの?」

 

「ん? おおっお前はっ!」

 

 何やら一人の男がスキルアウトの集団と殴り合いの喧嘩をしていた。その男は霊夢に気付くと気さくな笑顔を浮かべ、手を振ってくる。

 

 よく見れば、知っている顔だった。

 

「美緯の元カレじゃない。釈放されてたんだ」

 

 黒妻綿流。かつて、第十学区とその一帯のスキルアウトを取り纏めていた人物であり、あの固法美緯と交際していた相手である。

 

「おう、久しぶりだな! 鬼巫女の嬢ちゃん!」

 

 黒い革ジャンを着込んだ男──黒妻は再会を喜びながらスキルアウトを一人、また一人と殴り倒していく。

 

「くそっ! また来たぞ……!」

 

「能力者か? なら、あれを使え!」

 

「あ?」

 

 そんな光景を眺めていると、リーダー格らしき男がそう叫び、どこからともなく黒板を爪で引っ掻いたような耳障りな甲高い音が周囲に響き渡る。

 

「喧しい」

 

「ぐはぁっ!?」

 

 しかし、霊夢は多少顔をしかめるだけで構わず指示した男へ近付き、蹴り飛ばす。

 

「効いてない!? こいつも無能力者か!?」

 

「ちっ! 囲め囲めぇ! 能力者じゃないならタコ殴りにしろ!」

 

 騒然とするスキルアウトたち。成程……この()が能力者への対抗手段か。確かにやたらと耳障りで不快だが、動けない程ではないと、霊夢は些か拍子抜けした。

 

「あれ? 嬢ちゃん、異能力者(レベル2)じゃなかったっけ?」

 

「私にあんなのが効くとでも?」

 

「だよな! ヒュー、流石だな!」

 

「とりあえずコイツら全員捕まえるから、話はその後にしましょう」

 

「おう! 助かるぜ!」

 

 ただでさえ黒妻が一人で圧倒していたというのに、そこに霊夢までもが加わった。

 

 結果は誰から見ても明らかであり、瞬く間に10人近く居たスキルアウトたちは全滅してしまう。

 

「ちっ……外に居た連中は逃げたわね」

 

 辺りに気絶したスキルアウトたちが転がる中、霊夢は舌打ちする。気付くのが遅れたが、路地裏の外に車を停めていたらしく、霊夢が戦っている間に不利と判断して逃走したようだ。

 

 恐らくその車内に、能力者を無力化する音を発する何かがあったのだろう。

 

「ふぅ……いやぁ、やっぱり無茶苦茶強いな嬢ちゃん」

 

「あんたも変わりないようね」

 

()()()()かなり酷い怪我をしていたが、どうやらその腕っ節の強さは変わっていないようだ。

 

 何の装備もなくステゴロで殺り合えば駒場にも勝てるのではないか。それが霊夢の黒妻への評価であった。

 

「……で、何で喧嘩してたの?」

 

「ああ、それは……」

 

「この殿方が、危ないところを助けてくださいましたの」

 

 すると物陰から長い黒髪の少女が現れる。白井や御坂と同じ常盤台の制服を着ていたことから能力者狩りのターゲットになっていたということは容易に想像出来た。

 

「あなたは?」

 

「失礼。私、婚后光子と申しますの」

 

 何故か扇子を片手に持った、如何にもなお嬢様。ですのですの喧しい白井といい、常盤台とやらの生徒は皆このような口調なのだろうか。

 

 ……いや、少なくとも御坂は普通だったし、もう一人の知り合いも今時風のアホっぽい喋り方だった。

 

「危ないところだった、ってことは能力がやっぱり使えなかったの?」

 

「え、ええ……先程の耳障りな音を聴いた瞬間、頭痛がして能力が使えませんでした」

 

「そう……」

 

 どうやら虚仮威しではなく、本当に効果があるようだ。あれを使え、という発言からして装置か何かだろうか。

 

 通常、能力を使うには脳内で高度な演算を行う必要がある。それが必要の無い霊夢も問題無く動けたとはいえ確かに頭が痛くなる程の音。これが普通の能力者にはより過剰に聴こえてしまうとなると、演算が妨害されて能力の使用が困難になる……素人なりに考えた推理だが、AIMジャマーなんてものが存在する以上、可能性は大いにあると言えよう。

 

「……あの」

 

「ん?」

 

「こちらが名乗りましたので、そちらも名乗るのが礼儀ではなくて?」

 

「あー? ……博麗霊夢よ」

 

 名を尋ねられ、片眉を上げながらも霊夢は名前を教え、腕章を見せる。

 

「風紀委員の方でしたのね。危ないところを助けていただき、本当にありがとうございます。あなたも……あれ?」

 

「ん?」

 

「あの殿方は何処へ?」

 

 先程まで居た黒妻の姿が見えず、きょろきょろと辺りを見回す婚后。霊夢も気付いて面倒臭そうに額に手をやる。

 

「……逃げやがったわね、あいつ」

 

 大方捕まると思ったのだろう。今更スキルアウト同士の抗争程度でしょっぴくつもりは無かったのだが……。

 

 とりあえず霊夢は裾から携帯を取り出して支部へと連絡する。

 

「もしもし? 私よ」

 

『もしもし。何か情報が掴めたんですの?』

 

「あー、黒子? 早速だけど現場を押さえたわよ、能力者狩りの」

 

『もうですの? ……相変わらず仕事が早いことで』

 

 電話に出たのは白井だった。

 

「黒子って、それにその声、まさか白井さんっ!?」

 

「あん? 知り合いなの? ってか同じ学校だし、そりゃそうか」

 

『どうかさないましたか?』

 

「被害者がトキワダイの生徒であなたのこと知ってるみたい。近藤峰子って言うんだけど──」

 

「ちょーっ! は、博麗さん!?  白井さんに言うのだけはやめていただけます!? というか婚・后・光・子ですわ!」

 

「はぁ? 何でよ?」

 

「なんでもです!」

 

『……思いっきし聴こえてますわよ、婚后光子』

 

 急に慌てふためく婚后に霊夢は怪訝な表情を浮かべる。一方、それを聞いて白井は電話越しで小さくほくそ笑んだ。

 

 婚后光子とはライバルという言葉が一番しっくり来る関係でいつもいがみ合っている。そんな彼女が詳細は分からないが無能力者にやられそうになった、ということなのだから。

 

『で、何があったんですの? そちらの方は一応大能力者の空力使いなのでスキルアウト風情に遅れを取るとは思えないのですが……』

 

 後で盛大にからかってやろうと思いつつ、今は報告を聞くべきだと判断し、問いかける。

 

「なんか変な()を聴いたら能力が使えなくなったみたい」

 

『成程……他の被害者たちの証言と一致してますわね。あなたは平気でしたの?』

 

「ええ。耳障りだったけど動けなくなる程ではなかった。予想だと超音波か何かで演算を妨害しているんじゃないかって思うんだけど」

 

『音波で演算を……確かに有り得る話ですの。とりあえず私たちも現場へ向かいますので場所を教えてくれませんか?』

 

「おっけー。後、美緯にも伝えといてくれない? あんたの元カレも居たからって」

 

『分かりましたの。固法先輩の元カレが……はっ!? 元カレぇ!?』

 

「じゃ、よろしく。場所は──」

 

 思わぬ発言に驚愕する白井を気にも留めず、そのまま現場の大まかな住所を伝えると霊夢は通話を切った。

 

「うぅっ……よもや白井さんに……恥ずかしいですわ……」

 

「よく分かんないけど御愁傷様」

 

 見るからにプライドが高そうだし、能力を封じられたとはいえスキルアウトに遅れを取ったのは相当ショックだったのだろう。況してや知人に知られたくないと言うのは当然であった。

 

「ま、次からは気を付けなさいよ。なんか切り裂き魔ってのも彷徨ってるらしいから」

 

 そう言い、霊夢は婚后へ背を向ける。

 

「? あの、何処へ……?」

 

「逃げた馬鹿を探してくる。もう少ししたら黒子が来ると思うからそこで待ってて。金剛寺さん」

 

「え、ちょっと……って婚后ですわ!! 何回間違えるんですの!?」

 

 能力者狩りが多発しているのは第十学区周辺。黒妻が取り纏めていたスキルアウトのグループ……名前は忘れたが、蜘蛛をシンボルとしていた連中が主に活動していたのも第十学区だった。

 

 単なる偶然かもしれないが、そうでないとすれば。黒妻は何かしら知っている可能性があるとし、霊夢はその行方を追う為に飛び立つ。

 

 だが、今はそれよりも──。

 

「なっ、飛んだ……? 能力者だったのでして? あれ、じゃあ何故さっき……」

 

 一方、空飛ぶ霊夢を見て彼女が能力者だと知った婚后は何故あの妙な()が平気だったのかと、白井がやって来るまで頭上に疑問符を浮かべていた。

 

「………………」

 

 それを、何者かが見ていた。

 

 静かに、気配すら感じさせず、しかし確かにその身の内に()()を宿したソレは婚后を無視し、霊夢が飛び立った方角へ目を向け、歩みを進める。

 

 婚后、そして足下に転がっているスキルアウトたちは幸運だった。

 

 ほんの少し、タイミングが合わなければ、彼女たちは物言わぬ亡骸に成り果てていたのかもしれないのだから。

 

「誰よ? あんた」

 

「!!」

 

 そして、婚后から充分に距離が取れた場所にて。その者の背後から霊夢が声をかける。

 

 彼女はとっくに気付いていたのだ。殺気を押し殺しながら、虎視眈々とこちらを狙う刺客の存在に。

 

「………………」

 

「ふうん……見えづらい。幽霊みたいな奴ね」

 

 その姿は、まるでモザイクが掛かっているように酷く不鮮明で、辛うじて人の形をしているのが分かる程度だった。

 

 何かしらの方法で自身の正体が分からないように偽装している。能力によるものか、はたまた霊装か何かか……後者ならばまた魔術師絡みということになるので勘弁してもらいたい。

 

「あんたが切り裂き魔って奴? まさかこんな白昼堂々と襲ってくるなんてね」

 

 上手く隠している殺気。この距離からでも伝わってくる鼻につく血の香り。そして、その手に持つ唯一はっきりと認識できる()()()()……状況証拠としては充分に過ぎる。

 

 霊夢の問いに、その者──切り裂き魔は何も答えず、しかしこちらへ向けた刀の切っ先が、確かな返答だった。

 

「そ。なら、その化けの皮を剥がしてやるわ」

 

 どこからともなく大幣を取り出す。それが開戦の合図となったのか、切り裂き魔は剣先を向けたままゆっくりと引き絞る。

 

「────」

 

 そして、そのまま大地を蹴り、勢いよく一気に突き出した。

 

 弾丸の如きスピードで放たれた刺突。狙い澄まされたそれは霊夢の心の臓を穿たんと迫り──。

 

「………………!」

 

 寸前で踏み付けられたことで受け流され、アスファルトの地面に突き刺さる。切り裂き魔は僅かに瞠目し、己の愛刀を文字通り足蹴にする不届き者を睨んだ。

 

「へぇ……速いわね」

 

「……見事」

 

 同時に衝撃が走り、互いに後退する。

 

 霊夢はどこか感心した様子で、ここで初めて言葉を発した切り裂き魔と視線を交わす。

 

「一応訊くけど、神裂火織って名前に聞き覚えある?」

 

「──無い」

 

「でしょうね」

 

 刀を扱い、尋常ならざる身体能力という共通点。恐らく違うと思いながらも駄目元で尋ねれば律儀にも切り裂き魔はそう答えると共にこちらへ斬り掛かる。

 

 霊夢はこれを受け止めようと大幣を振るい、僅かにそれが触れたと同時に飛び上がり、距離を取った。

 

(ッ──危なっ、そのまま叩っ斬られるとこだった)

 

 そこらの刃物ならいくらぶつかり合おうと傷一つ付かない大幣が、あのままなら容易く切断されていたことを確信する。

 

 加えて、その切れ味もあるが、純粋な膂力は遥かに上。少なくとも神裂と同等であり、彼女よりもその()は研ぎ澄まされていた。

 

(……面倒ね)

 

 接近戦は圧倒的に不利。そう判断した霊夢は早々に遠距離戦法へと切り替え、大幣をしまって針と札を取り出す。

 

 尤も、切り裂き魔の正体が能力者か魔術師か分からない以上、不用意に夢想封印やらをぶっ放すことは出来ないが──。

 

「……互いに、不自由だな」

 

「あん?」

 

 そんな心情を見透かしたように、切り裂き魔は言った。これに霊夢は眉をひそめる。先程まで無言だったくせに、意外にもやたらと喋る。

 

 その声も雑音交じりで不鮮明であるが故に、酷く不愉快であった。

 

「は。じゃあ、大人しくボコられて捕まってよ」

 

 若干の苛立ちを覚えながら霊夢は針を投擲する。切り裂き魔はこれを刀を素早く振るって難なく弾き落とす。

 

 するとすぐに第二陣が放たれた。これも弾き落とそうと刀を構えると──今度は無数の札が切り裂き魔を取り囲んだ。

 

「ちっ──」

 

 捌き切れない。即座にそう判断した切り裂き魔は一部を斬り捨てると迫り来る弾幕の隙間を掻い潜ってこれらを回避する。

 

「──そこ!」

 

 次の瞬間。狙い澄まされた針が一本、切り裂き魔の肩口を貫いた。

 

「ぐっ!?」

 

 激痛に切り裂き魔の動きがほんの僅かであるが、止まる。一瞬にも満たないその隙は霊夢にとって充分過ぎるものであり、即座に背後へ回り込んで針を腕や太股へ向けて投擲していく。

 

 刀一本ではすべて捌くことは出来ない。──が、必中かと思われたそれらの攻撃が届くことはなかった。

 

「……()()()()持ってたのね」

 

 もう片方の手に握られた、脇差のような長さの一振り。それで針は弾き落とされてしまう。

 

 霊夢は心の中で舌打ちする。出来ることならば先程の一撃で終わらせたかった。

 

「……不覚を取ったか」

 

 突き刺さった針を躊躇無く引っこ抜き、投げ捨てた切り裂き魔は霊夢を見据えながら、静かにそう呟く。

 

 そして、今度は刀を二本──即ち、二刀流の構えを取った。

 

「ふん……それが本気って訳?」

 

 霊夢は鼻を鳴らす。その構えを目の当たりにした時から彼女は先程まで抱いていなかった妙な感覚に襲われる。

 

 ──それは確かな()()()だった。

 

「然り」

 

 ゾクリ、と寒気が走った。

 

 自身が気圧された事実に瞠目しながら、霊夢はこの瞬間から膨れ上がった殺意へ対応する為に魔力を練り上げる。

 

 神裂の時とは違う。慢心など捨て去った霊夢は今度こそ出遅れることなく、カードを切った。

 

ー未来永劫斬ー

 

ー夢想封印 瞬ー

 

 無数の斬撃と、極彩色の光弾が入り乱れる。





ヘタレ錬金術師までイージモードかと思ったらなんかみょんな辻斬りが襲来してきて一気に難易度が上がった件

みょんのキルスコアを18人から8人に修正。普通に打ち間違えてた。18人殺しとか冴島の兄貴かな?
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