とある幻想の夢想天生   作:大嶽丸

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蜘蛛

 

 

 ──幻想的な光景だった。

 

 迸る極彩色の輝き。無数の色とりどりの光弾が縦横無尽に、しかし確かな規則性を以て飛び交い、空間を染め上げて夢幻の世界を作り上げる。

 

 驚愕した、絶句した、感動すら覚えた。

 

 あれだけ脅威的であった虚数学区の化け物が、あっという間に跡形も無く消え去り、ただただ光のみが視界を埋め尽くす。

 

 強者だとは思っていた。あの気に入らないツンツン頭の少年のように、特異な存在だとも理解していた。

 

 けれど、見せ付けられたその力は、今まで見たどの超常よりも超常的で、現実からかけ離れていて、自身の常識やこれまでの何もかもを覆してしまう。

 

 原理は何なのか、どれだけの威力でどういう作用があるのか、いつもなら抱くはずのそんな疑問など頭の片隅にも無くすっ飛ばして、ただ釘付けになり、圧倒される。

 

 目を逸らすことなど出来やしなかった。あの輝きを、ひらりひらりと空を舞うあの横顔を。

 

 このような感情は知らず、しかし気付くのは早かった。

 

 どうしようもなく、美しかったのだ。

 

「──様。ー姉様。──お姉様ってば!」

 

「へ?」

 

 次の瞬間。現実から引き戻される。

 

「どうしたんですの? 先程からボーッとして」

 

「あ、いやっ、何でもないわよっ ちょっと考え事してだけっ」

 

「? そうですか……」

 

 場所は風紀委員第117支部。気が付けば、訝しげにこちらの顔を覗き込んでいた後輩に慌てて彼女──御坂美琴はそう誤魔化して頭を掻く。

 

(あーもう、あの日からずっとこうだわ……)

 

 時折思い出しては先程のように物思いに耽る。それくらいには、あの鮮烈な光景は御坂の脳裏に焼き付いてしまっていた。

 

 ──博麗霊夢。木山春生、及び幻想猛獣(AIMバースト)との戦いにおいて、圧倒的な力を見せ付けた少女。

 

 あの時、御坂はその力の片鱗を目撃した。

 

(やっぱり多重能力者(デュアルスキル)……なのかしら? あんな能力、見たことないけど)

 

 夢想封印……と、本人は言っていたか。原理不明な未知のエネルギー弾……高電流かつ10億ボルトの電撃を受けても表面を焦がす程度だった幻想猛獣の肉体を容易く消し飛ばしたことから一発一発が相当な出力のはずであり、それを無数に展開するその規模は明らかに超能力者(レベル5)級。

 

 おまけにそれらを放っている時の霊夢は瞬間移動しているかのように見えた。あの時の御坂はお姫様抱っこされていたので、はっきりとは分からなかったが。

 

 だとすれば出鱈目にも程がある。空を飛ぶ、電撃を避けるなど力の一端ですら無かったのだと思い知らされた。

 

(もしかして超能力じゃなくてもっと別の……いやそんなまさか。でも、わざわざ口止めさせるってことはやましい理由……とは限らないけどそれなりに訳アリってことだし、もしかすると本当に──)

 

「まだ考え事してますの? お姉様」

 

 超能力以外のナニカ。彼女の常識からすれば考えられないことであるが、有り得ないことが有り得るのがこの学園都市。

 

 ならば否定し切れるはずもなく、そういう可能性も視野に入れて推察し、再び思考の海へと入っていく彼女に白井が再び呼び掛ける。

 

「あっごめん……」

 

「はぁ……それで、話は聞いてましたの?」

 

「も、勿論よ! 能力者狩りの話でしょ? 婚后さんまで襲われるなんて、許せないわ」

 

 スキルアウトによる能力者狩り。そんな事件が横行していると聞いて、御坂は憤慨する。

 

 大の男が大勢で女の子一人を囲むなど最低極まりない行為だ。おまけに自分の学友にまで手を出されたとなれば当然の反応だろう。

 

「ほんとにムカつく。折角、佐天さんが退院したってのに……」

 

 御坂の隣に座っていた佐天も頷く。先日、退院した彼女は御坂と共に支部へお邪魔し、今回の事件について話を聞いていた。

 

 因みに今この部屋には御坂、白井、初春、佐天の四人が居た。

 

「なんか大変なことになっているみたいですねぇ……殺人事件も起きてるみたいですし、怖くてもう夜道は歩けませんよ」

 

 能力者狩りに加え、俗に“切り裂き魔”と呼ばれる連続無差別殺人事件。幻想御手事件が収束したばかりだというのに、物騒な世の中になったものだ。

 

「あ、そういえばその婚后さん? って人を助けたのは霊夢さんなんですよね? 今何してるんです?」

 

 ふとこの場に居ない霊夢の所在を佐天が尋ねると白井は露骨に顔をしかめる。

 

「……あの方なら、別室で固法先輩と話しています」

 

「話? 何の?」

 

「それは、その……」

 

「?」

 

 確かにいつも支部に居る固法の姿もまだ見ていないので疑問に思っていたが、わざわざ別室で霊夢と何を話しているのだろうか。

 

 しかし、白井は言葉を濁すばかり。隣でPCを弄っていた初春も苦笑いを浮かべていた。その反応に御坂たちが首を傾げていると隣の部屋から大きな物音が聴こえてくる。

 

「ひゃっ!? な、何……?」

 

 驚く一同。しばらくすると扉が開き、固法と霊夢の二人が無言で部屋から出てきた。

 

「………………」

 

「………………」

 

 僅かに右頬を赤く腫らした霊夢とその姿を冷たい視線で見据える固法。何が起きたのか御坂たちはあっ……と察して一気に気まずい空気になる。

 

「……さっきのを避けなかったことは、誉めてあげるわ博麗さん」

 

「そ……あんたも腕を上げたわね」

 

「あら嫌味? 結構思いっきりぶん殴ったんだけど」

 

(パーじゃなくてグーでっ!?)

 

 てっきり平手打ちかと思えば、しっかり拳で殴られたようだ。その割にはダメージが多少頬が腫れた程度と小さいが、霊夢は常人から逸脱しているため考えても仕方あるまい。

 

 会話の流れからして霊夢は固法の攻撃を避けられたにも拘わらず敢えて受け入れたようだが、一体何があったのだろうか。

 

「あ、あの……」

 

「──あ、ごめんね皆。とりあえず揉め事は解決したから」

 

 恐る恐る佐天が声を掛ければ、先程までの絶対零度の視線はどこへやら。固法はあっけらかんとそう言う。

 

「さ、さいですか……えっと、一体何が?」

 

 意を決して問う。勇気があるというか、怖いもの知らずというのか、少なくともそのような質問など出来やしなかった他三人は心の中で素直に佐天を称賛する。

 

 対する固法は特に気にする訳でもなく、事の経緯を話し始める。霊夢は僅かに視線を逸らし、ばつが悪そうにしていた。

 

「そうね、簡単に説明すると、博麗さんが死んだと思っていた私の……その、以前交際していた人が生きてたことを黙ってたのよ」

 

「へ、へぇ……そうだったんですか。交際していた人が生きて……えぇっ!? こ、こここココ交際ィ!?」

 

「も、元カレってコト!?」

 

「あははは……私も最初聞いた時はそんな反応でした」

 

「……私もですの」

 

 衝撃を受ける御坂と佐天。生死云々以前に固法に交際相手が居たという事実に彼女らは仰天していた。

 

「あの方曰く、能力者狩りに襲撃を受けた婚后光子を助けていた男性が先輩の元恋人だそうで……まさか死んだことになっていたのは予想外でしたの」

 

 補足するように説明し、白井は額に手をやりながらも納得する。霊夢に言われた通りに報告した際に固法がかつて見たことがない程に動揺していた理由が漸く分かった。

 

 死んだと思っていた恋人が生きていると雑に告げられて取り乱さない方がおかしい。

 

「な、何で霊夢さんはそんな大事なことを黙ってたんですか!?」

 

「そうよ! 一体どんな事情が……」

 

「──あれば、良かったんだけどね」

 

「え?」

 

「………………」

 

 皆が霊夢に注目する。相変わらず無言で、しかしそっぽを向いて頬を掻くその姿はあまりにもあからさまだった。

 

 まさか、いや流石に──。

 

「……れてたのよ」

 

「へ?」

 

「言い忘れたのよ、単純に」

 

 ──絶句。

 

 全員がマジかこいつという視線を向ける。如何なる事情があるのかと思えば、まさかの言い忘れ。しかもその元恋人の生存を知った経緯からして固法に問い詰められるまで普通に忘却していたということになる。

 

 何というか、色々と最低である。

 

「霊夢さん、普通に最低過ぎますよ、それ」

 

 そして佐天。思ったことをはっきりと言う。

 

「うっ……悪かったと思ってるわよ。でもしょうがないじゃん。あの頃の私ってほら、切れたナイフみたいだったから美緯ともあんまし関わり無かったんだもん」

 

「何ですか切れたナイフって。少なくとも真っ先に固法先輩に報告すべきですよね……」

 

「今も充分に切れたナイフでは? というか切れ過ぎてもはやバスタードソードですの。でなきゃ風紀委員をクビになりませんし普通」

 

 少なくとも白井と初春の記憶では霊夢が尖っていなかった頃なんて全く無いし、何なら現在進行形で鋭利なままである。

 

 しかし、言い訳をしながらも素直に謝る辺り本当に申し訳無く思っており、反省しているようだ。

 

「にしても、よく許しましたね先輩。私なら後十発ずつは右ストレートとミドルキックをこの阿呆にお見舞いするところですが……」

 

 辛辣な物言いをする白井。死んだと思われた恋人……それを親愛なる御坂美琴に置き換えて霊夢に「あ、ごめん。言い忘れてたわ笑」と告げられた際のことを妄想してみて想像以上に腹が立ったからだ。

 

 尚、御坂は変な妄想をされたことを直感したのか寒気が走る。

 

「まあ……話を聞いたら命の恩人でもあるみたいで……怒るに怒れなくなっちゃったのよ」

 

「え?」

 

「あの人……黒妻先輩は他のスキルアウトからリンチを受けて殺されたって聞いていたんだけど、実は博麗さんがそれを助けたらしいの」

 

 これまた衝撃的な事実。道理で固法が知らなかった恋人の生存を霊夢が知っていた訳だ。

 

 しかし、それよりも白井には見過ごせぬ事実があった。

 

「ま、待ってください。“他の”ということはまさか先輩の恋人はスキルアウトだったのですかっ!?」

 

「ええ。そうよ」

 

 何度目の衝撃か。あの真面目を絵に描いたような風紀委員の代表、固法美偉がスキルアウトと関わりを持っていたとは思いもしなかった。

 

「私も昔は自分の能力に限界を感じて伸び悩んだ時があってね。それで気晴らししていた時に出会ったのが、先輩だった」

 

「先輩にも、そんな時期が……」

 

「あれ? でもその頃はまだ風紀委員じゃなかったんですよね? 博麗さんとは同期だと聞いていたのでてっきりそれからの付き合いだと……」

 

「ええ。当時から博麗さんは有名人だったし、顔合わせすることは多かったわ。先輩がリーダーをやってたグループは特に悪い事なんてやってなかったから喧嘩になることはなかったし、むしろ一緒になって他のスキルアウトたちを止めてたくらい。だから風紀委員で同じ部署になった時は驚いたわよ」

 

「へぇ……そうなんですね」

 

「……そんな前から切れたナイフでしたのね」

 

 鬼巫女の伝説は随分と古くからあるようだ。霊夢と固法の意外な繋がりと長い付き合いに二人は驚く。

 

「ま、気のいい奴らではあったわね」

 

 霊夢も当時を思い返す。彼女にとって塵芥に等しいスキルアウトたちの中でも黒妻綿流という男は印象に残っている方だった。

 

 一二を争う喧嘩の強さもそうだが、単純にあの男はスキルアウトのくせに人が好く、駒場と違って陰険でもなかったので馬が合うことは多かったと思う。

 

 それでも所詮はスキルアウト。ついこの間まで記憶から消えていたし、久々に再会しても大して感慨深いとも思わない。

 

「……さて、昔話はこのくらいにして捜査の方に戻りましょうか」

 

「はい。ネットの情報から、能力者狩りと思われるスキルアウトのグループを特定しました。被害や目撃例から見ても信憑性は高いです」

 

 すると初春が言う。昨日霊夢がパトロール兼情報収集しても目ぼしい情報は得られなかったが、流石はネット社会。ひとえに初春がハッカーとして優秀なのもあるが、そういった情報はすぐに集まるようだ。

 

 そして、その犯行グループというのは霊夢の予想が正しければ恐らく──。

 

「第十学区、ストレンジの一角を根城とする“ビッグスパイダー”というグループです」

 

「──え?」

 

 もたらされた情報に目を見開く固法。何せ、ビッグスパイダーという名の集団はかつて黒妻綿流が結成し、リーダーをやっていたグループなのだから。

 

「……やっぱり、ね」

 

 一方、霊夢は何となくそんな予感はしていた。とっくの昔に壊滅したと思っていたが、リーダー無き後も存続していたらしい。

 

 となれば黒妻があの場に居合わせた理由も察するというものだ。久々に娑婆に舞い戻ったかと思えば、変わり果てたかつて自分が取り仕切っていたグループを前にして、彼は何を思ったか──。

 

 何であれ、霊夢のやることは決まっている。

 

「じゃ、殴り込みと行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 第十学区。

 

 学園都市の中で一番治安が悪い学区とされ、配送業者がわざわざこの学区を迂回して目的地に向かうという逸話すらある。

 

 墓地、少年院、実験動物の処分場、また土地の価格が安いため広大な土地を必要とする研究施設や原子力関連の施設などが多数存在し、特に“ストレンジ”と呼ばれる場所はスキルアウトたちの溜まり場になっており、謂わばスラムのような無法地帯と化していた。

 

 そんな場所に“ビッグスパイダー”の根城があるというのは、実に自然なことであり、当初から予想はされていた。

 

 しかし、正確な位置までは分からず、手当たり次第に探すには広大過ぎるためこれを特定してみせた初春は大手柄と言えよう。

 

「ふうん……ここに、ねぇ」

 

 そこへ赴いた霊夢はその以前と何ら変わらぬ荒れた風景に懐古……することは特に無く、陰鬱とした空気感に辟易しながら先へ進んでいく。

 

 後ろには、御坂と白井も居る。

 

「何で制服なの? あんた」

 

「変装よ、変装。ビビられて逃げられたら元も子も無いでしょ」

 

「……だからって何で常盤台なのよ」

 

「私の高校はレベル0ばっかりだし。今の私たちは葱をしょった鴨なんだから」

 

 御坂が眉をひそめる。現在、霊夢は彼女から借りた常盤台中学の制服の予備を着込んでいた。

 

 理由としては変装と相手の油断を誘うため。いつもの巫女装束ならば警戒されるのは当然として、万が一にも備えて自身の制服ではなく、高位の能力者が在籍することで有名な常盤台中学の制服を着用することにした。

 

「成程……私たちをメンバーに選んだのもそれが理由ですか。体のいい釣り餌であると」

 

「そういうこと。あなたたちは何を言おうとついて来そうだったから丁度良かったわ」

 

 あまり気分の良い話ではないが、理には適っている。納得が行くかはともかく。

 

(……制服、似合ってますの)

 

 所謂コスプレ。見事に着こなしているその姿を白井はまじまじと見る。後頭部の大きな赤いリボンは外していない辺り余程お気に入りなのだろう。

 

(あの方が常盤台でしたらきっと……いや、何をやっているんですの私は。変な妄想はやめましょう)

 

 ぶんぶんと首を横に振る白井。そんな挙動不審な態度に霊夢と御坂は首を傾げるも、そうこうしている内に目的地に到着する。

 

「ここね。──ご機嫌よう」

 

 封鎖されたフェンスを前に霊夢は一瞬だけ足を止め、そして蹴り破った。

 

「あ? 何だ、テメェら……」

 

「ジャッジメントですの……ってね」

 

「私の真似をしないでくださいまし!」

 

 以下省略。突然のカチコミに驚くスキルアウトたちだったが、その中でリーダー格らしきいかついリーゼントの男がこちらを出迎える。

 

 こいつも何か見覚えあるなと思いつつ霊夢は能力者狩りを止めるように警告するも交渉は決裂。そのまま実力行使に出ようとしたところで──。

 

「うっ!?」

 

「ぐっ……!?」

 

「あん?」

 

 するとどこからともなく“あの音”が響き渡り、御坂と白井が苦しみ出したかと思うと、ばたりと倒れる。

 

「ハッ、能力がなきゃ、テメェらもただのガキだな……って何でテメェには効いてねぇ!?」

 

 平然と立っている霊夢を前に、騒然とするスキルアウトたち。

 

 一方、霊夢はそんな彼らを気にも留めず、倒れた二人の様子を伺う。白井の方は既に意識が無く、御坂の方も何とか耐えているがそれで限界な様子であった。

 

 AIMジャマーなど比ではない。想定よりも強い効力に何故スキルアウト風情がこんな代物を所有しているのかと疑問に思う。

 

「チィッ……! こいつが効かねぇってことは大した能力者じゃねぇんだろ! 痛め付けてやれ!」

 

 動揺しながらもリーゼントの男はそう命令すると集団の内三人のスキルアウトが向かっていき──そして蹴散らされた。

 

「……は?」

 

 一瞬にして意識を刈り取られ、地に伏せる仲間たちを見てリーゼントの男は唖然とする。

 

「……ああ、思い出した。あんた、黒妻の舎弟だった奴でしょ、蛙谷とかそんな感じの名前の」

 

「!?」

 

 突然そう言われ、ぴたりと硬直するリーゼントの男。そこで気付いた、目の前の少女が何者かであると。

 

「お、おおおおおおお鬼巫女……ッ!?」

 

「ええ。久しぶり。ま、安心なさい、あんたの相手は別に居るから」

 

「は? な、何を──」

 

 その時だった。

 

 何者かがこの場へと足を踏み入れる。

 

「よーう、久しぶりだなぁ。蛇谷」

 

「なっ、黒妻、さん……!?」

 

 革ジャンを羽織り、片手にムサシノ牛乳を持っているその姿は、かつての頃と何も変わりはしない。

 

 ドッと冷や汗を掻きながら侵入者の男に蛇谷と呼ばれたリーゼントの男は自身が今の今まで騙り続けていた名を口にする。

 

「……来たわね、ケジメは任せるわ」

 

「おう。さんきゅーな、嬢ちゃん。……ところで何で常盤台の格好してるんだ?」

 

「囮捜査」

 

「なーる。じゃ、ちょいと行ってくるわ」

 

 自分が元居た組織の後始末に来た黒妻に霊夢はあっさりと譲る。幕を下ろすべきなのはやはり彼だろう。

 

「な、何で、ここに……!」

 

「なぁに、俺が抜けた後もしつこく組が続いてるって聞いてな。しかも、随分と狡い事してるもんだから、ちょっとお仕置きにな」

 

 その言葉に、蛇谷は顔を歪める。自分たちのやっていることを黒妻が許すはずがないと理解していたが故に。

 

「ち、畜生がぁ! もう今の俺たちはテメェの居た頃とは違う! 殺っちまえ野郎共ォ!」

 

 直後、周りから武器を持った男たちがゾロゾロと姿を表す。廃材や鉄パイプなんてものもあれば、ナイフや銃を持っているような奴らもいた。

 

「──さて、やるか」

 

 すると黒妻は革ジャンを脱ぎ捨てて一気に突撃した。まずは一番近くの奴、そいつの顔面に容赦無く飛び蹴りを放つと、手放した武器をキャッチし、遠くにいる奴の顔面に投げ付ける。

 

 着地と共に別の奴からの攻撃を避けると、襟を掴みながら腰に膝蹴りを放り、崩れた隙を突いて強引に襟を引っ張り回して近くの奴に叩き付けた。その後、別の奴からの攻撃を拳でガードすると、ボディにアッパーを叩き込み、一撃で沈めつつ次の獲物に向かう。

 

「ば、バケモンだ……」

 

「スゲェ……!」

 

 思わず、挑む前の連中が声を漏らす。その機敏な動きは御坂も目を見張る。

 

 対して霊夢は当たり前だと言わんばかりにその光景を眺めつつ御坂と白井を安全な場所へと移動させ、それから辺りを見回して何かを見つけた。

 

「……これね」

 

 そこにあったのは巨大なスピーカーのような装置。あの“音”の正体であるのは明白であり、霊夢がそのコードを容赦無く引っこ抜けば音は止まる。

 

 装置を破壊しないのはサンプルを回収して初春に解析してもらうためだ。

 

「ッ…………」

 

「大丈夫? 生きてる?」

 

「え、ええ……何とか……ほんと、何であれが平気なのよあんた」

 

「さあ?」

 

 超能力者である自分ですら立っていられず、能力の制御が利かなくなるような攻撃。それを聞いて平然としている霊夢が御坂には理解し難かった。

 

「そ、それよりもアイツら……! この御坂美琴様を虚仮にして……!」

 

「自分で様とか言っちゃう? 後、それならもうとっくに片付いたみたいよ」

 

「えっ?」

 

 視線を向ければ既にスキルアウトの一団は全員地を這っており、最後に黒妻が蛇谷を殴り飛ばしたところだった。

 

「は、はやっ!? あの数をあっという間に……」

 

 これで無能力者。霊夢のように馬鹿げてはいないが、その腕っ節の強さに御坂は驚きを隠せない。

 

 そして、先程の話から彼が固法美緯の元恋人である黒妻という男なのだろう。

 

「うぅ……」

 

「あ、黒子! 起きたのね!」

 

「ッ……お姉様……一体何が……?」

 

「大丈夫。もう終わったから」

 

「?」

 

 すると白井が意識を取り戻す。辺りを見回せばそこは死屍累々とも言える光景で何が何やら状況が把握出来なかったが、御坂の言葉から能力狩りは全滅したのだと察する。

 

「ふぅ……さて、と。こいつらはこれで終わりだし、まぁもう良いわな」

 

「ん? 何が?」

 

「出頭するよ。これは、謂わばスキルアウト同士の抗争だ。それなら俺もお縄についた方が良いだろ」

 

 そう言って黒妻は両手を合わせて霊夢に差し出す。何ともまあ潔いが、彼としては元よりそのつもりだったのだろう。

 

「ケジメならもう付けたんじゃない? ……ま、いいや。とりあえず連れて行くわ。美緯もそこに居るし」

 

「え? 何で美緯が……って、そういや風紀委員に入ったんだってなあいつも。そうか……元気でやってるか」

 

「ええ。あの頃よりも生き生きしてるんじゃないかしら」

 

「あー……なら、今更俺が会うのもな」

 

「何でそこでヘタレんの。会いたがってんだから、さっさと行くわよ」

 

「ん……だな、分かったよ」

 

 形ばかりに黒妻へ手錠を掛ける。無論、本気で逮捕するつもりなどはない。彼の今後に関しては固法と存分に話し合ってもらうとしよう。

 

 能力者狩り事件、これにて解決。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 ──見つけた。

 

 噂の能力者狩りを斬り捨てようと赴いてみれば、つい昨日仕損じた少女の姿が。今回はあの巫女装束は身に纏っていないが、あの顔は間違いない。

 

「……斬る」

 

 刀を構え、白髪の少女──辻斬りは現場へ向かおうと歩みを進め──。

 

「オイオイ。こいつが噂の切り裂き魔かぁ? どう見てもコスプレしたクソガキじゃねぇか」

 

「!」

 

「とりま……潰れて死ね」

 

 次の瞬間、辻斬りが居た場所が爆ぜる。

 

「………………!」

 

 難なく回避した辻斬りが辺りを見回せば、下手人はすぐに見つかった。

 

「へぇ……避けたか。ま、そのくらいはやってもらわねぇと困る」

 

「……何奴」

 

「よう殺人鬼。テメェを始末しに来た、観念しな」

 

 そこにいたのは、ホスト風の遊び慣れているような格好をした、茶髪の少年だった。

 

 一見すると何の変哲も無い格好だが、明らかに異様な部分が一つ。少年の背中から生える、普通の人間には絶対に存在しないソレに、辻斬りは片眉を上げる。

 

 それは天使のような、三対の“白い翼”だった。

 

「……妖怪の方でしょうか?」

 

「あぁ? ハッ、メルヘンだの天使だの言われたことはあるが、妖怪ってのはテメェが初めてだ」

 

 少年が笑う。嘲笑だった。

 

「テメェはやり過ぎたんだ。スキルアウトやそこらのゴミ共だけならともかく、暗部(こっち)の人間にまで手を出した……お蔭でこうして俺に抹殺命令が下った。“上”は随分とお怒りのようだが、一体どんだけ殺したんだ? イカれ野郎」

 

「……左様で」

 

 どうでも良さそうに聞き流しながら辻斬りは刀を抜く。要するに目の前の少年は敵であり、少なくともあの脆弱な有象無象共よりは強そうであるということだ。

 

 分かりやすい。こうして実力者と対決することになるとは……やはり斬っていれば、道は開ける。

 

「チッ……余程愉快な死体になりてぇとみえる」

 

 その余裕の態度が気に食わなかったのか殺気の増幅と共に、白い翼が更に肥大化する。

 

 対峙する辻斬りは全く臆すること無く、むしろ僅かに笑みを浮かべ、刀の切っ先を向けた。

 

 ──そして、二人は衝突する。




因みにリボンが無かったらみょんは霊夢って気付きませんでした。
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