とある幻想の夢想天生 作:大嶽丸
ビッグスパイダーを叩きのめし、能力者狩り事件が解決した後、黒妻と固法は数年ぶりの再会を果たした。
二人がどういう会話したのかは霊夢は特に聞いていないが、黒妻が逮捕されずに済んだことを見るに、上手く行ったようである。
これにて一件落着。霊夢としても悪い気はしていなかったが、そこでふと気付いた。
風紀委員に加入させられてから、もう二週間が過ぎたということを。
「過ぎ去ってしまえばあっという間……そう思ってたのにねぇ……」
「期限、伸ばされちゃったんですか?」
いつものファミレスにて。テーブルに突っ伏す霊夢に佐天は苦笑いを浮かべる。
漸く解放されるかと思い、浮かれた様子で落書きのような辞表を突き付けに行った霊夢であるが、固法はそれを良しとしなかった。曰く、しばらく無断欠勤していたのだからその分の空白期間は働け、と。
禁書目録に関する件のゴタゴタ。弁明する訳にも行かず、大体五日くらいだっただろうか。どうしようもない程の正論にぐうの音も出なかった霊夢は残念ながら風紀委員としての活動はもうしばらく続けることになった。
「あー、さっさと辞めたい」
「まあまあそう言わずに。残り五日間だけなんですから」
「たった五日、然れど五日よ。面倒臭いったらありゃしない」
「私は嬉しいですよ? 博麗さんとまだ一緒に仕事できますから」
「そりゃどうも」
その隣には初春が居る。今日は二人してパトロール中にサボタージュを決め込んでいた。
「けどやっぱり天職なんじゃないですか? 幻想御手事件も今回の能力者狩りだって実質博麗さんが解決したようなものですし」
「な~にが天職よ。これ以上の面倒事は御免被るわ、私は出来るだけ何もせずに亀みたいに暮らしていきたいの」
「そんなニートみたいなこと言わないでくださいよ」
濃過ぎる、あまりにも濃密な一週間だった。魔術師と戦い、幻想御手事件を解決し、それから禁書目録の解呪、そして今回の能力者狩り……能力者狩りに関しては箸休めなるかと思えば、切り裂き魔とかいう厄介者が別方向からついて来てしまった。
霊夢は呆れる。流石に事件起こり過ぎだろと。加えて、彼女はこれだけではまだ終わらないという予感があり、故に一刻も早く風紀委員からはおさらばしたかった。
「機嫌直してくださいよ博麗さん。ほら、とりあえず甘いものでも食べて癒されましょうよ」
そう言う初春の目の前には巨大な苺パフェが置かれていた。最近発売された期間限定メニューである。
「好きだねぇ、甘いもの」
思わず佐天が呟けば初春は得意気な顔をする。
「私みたいに頭脳労働がメインな人は、糖分を摂取しないと生きていけないんです。白井さんみたいな脳筋さんは話が別でしょうけどね」
「ぷっ 脳筋って、確かにそういうきらいはあるけど……フフッ」
「ですよね! 猪武者っていうか単細胞っていうか、あんなに始末書書かされているのに懲りずによくやるものです。脳筋さんは甘いものじゃなくて……何でしょう? プロテインとか?」
日頃から鬱憤の溜まっているのか初春がそう毒を吐けば、霊夢は噴き出したように笑う。
「……あ」
「なんですか佐天さん? 一口ですか? 仕方ないですねぇ。このパフェの魅力の前では、たとえダイエット中の人であっても手を伸ばしてしまうのですから」
「一口と言わず全部差し上げたら如何ですの?」
「いやいや、それは流石に……ですの?」
さっさと一口だけでも食べれば良いものを、と佐天は呆れ気味に鼻息を漏らす。
ギギギッと、壊れたロボットのように後ろを振り返る初春の視線の先には、しかめっ面を浮かべた白井が立っていた。
「良いご身分ですのね、初春? 仕事をサボってパフェで一服とは、流石、頭脳労働がメインなだけありますわ」
「し、白井さん……」
「私のような脳筋とは立場が違いますものね」
「わぁ〜! ご、ごめんなさいぃ~!」
涙目で頭を抱える初春。対して霊夢は何となく予感してたのか然して驚くこともなく、コーラを一口飲む。
「背後から現れるの好きよね、あなたって」
「……あなたもでしてよ? 博麗霊夢」
「あら、美緯から時間割を聞いてないの? 私はまだ休憩中よ。時間になったらちゃんとパトロールに向かうわ」
「ぐっ……なら、良いんですの」
流石の霊夢も場所を把握されている行き付けの店で堂々とサボるような真似はしない。怪しまれないよう程好く働き、程好く休むつもりだった。
無論、白井もそのことに勘付いてはいるものの現行犯ではなければ意味がないためこうして目を光らせている。
「ところでお二人。盛夏祭ってご存知ですの?」
「聖火祭? 何、オリンピックかなんか?」
「あ、勿論知っていますよ! お嬢様たちがもてなしてくれるお祭りですよね!」
盛夏祭。それは普段は一般には開放されていない常盤台中学学生寮が年に一度、外部に開放される文化祭のようなイベントである。
「はい。実は、それが近々開催されまして」
「へぇ、そうなんですねぇ」
「ま、待って下さい、白井さん。なんでその話を佐天さんと博麗さんだけにするんです?」
話の流れ的に嫌な予感がした初春だが、白井はそんなこと知ったことではない。
「良かったらいらっしゃいません? 招待チケットがあるんですの」
「えっ!? 良いんですかっ!?」
「ふうん……」
二枚のチケットを見せ、そう提案する白井に佐天は驚愕し、霊夢は怪訝な表情を浮かべる。
「どういう風の吹き回し? 涙子はともかく、あなたがそんなものを私にくれるなんて」
「別に。能力者狩りで不覚を取った際に助けてくれたみたいなのでその礼ですの。これで貸し借り無しでしてよ」
「……そ。なら、有り難く受け取るとしましょうか」
能力者狩り……あの“音”で意識を失った白井を安全な場所へ運んだことだろうが、律儀なものだ。彼女としては自分に僅かでも借りがあることが気に食わないだろう。
そう納得し、霊夢はチケットを受け取る。“せーかさい”なるものがよく分からんが、お嬢様がもてなしてくれるのなら結構豪勢な祭りなのだと思われる。
「待ってください! 私にも是非……!」
「残念ながら二枚しか持ってませんの」
「そんなぁっ!?」
「淑女を脳筋呼ばわりした天罰ですの。さ、初春。仕事に戻りますわよ。博麗霊夢も休憩時間が終了したら速やかに働くように」
「あ、待っ……せ、せめて一口……!」
お嬢様というもに憧れを抱く初春は尚も食い下がらんとするが、白井に冷たくそう言われ、そのままずるずると引き摺られながら連行されていく。
口は災いのもと。哀れな花畑少女を見送りながら霊夢と佐天は不用意な発言はなるべく控えようと誓うのであった。
「ああ、可哀想な初春……ひとえに自業自得だけど……」
「……あいつ、ああ言ってたけど最初は飾利と涙子にこのチケットあげるつもりだったんじゃない?」
そう言いながら霊夢は初春が残したパフェを自分の方へと引き寄せる。
そして、そのまま一口。
「あら、美味しい。案外イケるわねこれ」
「おや? パフェ食べるの初めてなんですか?」
「和菓子とか茶に合うものが好きだから。それに甘党ってよりは辛党だし私」
こういうのを自ら進んで食べることはない。昔一度だけセクハラの制裁で青髪ピアスに奢らせて片っ端からメニューを頼んだことがあったが、その時は普通の食事系のメニューを網羅したところで奴の財布が空になり、デザートには手を付けてなかった。
「へー、霊夢さんって激辛好きだったんですね、意外です」
「うん? 激辛?」
「え?」
「ん?」
互いに首を傾げる。勘違いしている者も多いが、辛党とは辛いもの好きのことを指すのではなく、古来より酒好きの人物のことを指す言葉である。
「……ま、良いや。で、このせーかさいってどこでやんの? やっぱり北京かバンクーバー?」
「オリンピックから離れてください。常盤台中学の女子寮ですよ」
「あ、トキワダイなの? 成程ねぇ……」
「? どうかしたんですか?」
「いや、丁度良かったと思ってね。そういや用のある知り合いがそこに通ってるらしいから」
「おお! それなら一緒に行きましょうよ!」
そう言いながらも僅かに顔をしかめ、意味ありげな表情をする霊夢に佐天は不思議に思う。
常盤台の知り合い……一体誰のことかは分からないが、用があると言いつつも会いたくないような、そんな雰囲気がした。
(
一方、霊夢の脳裏に過るのはある少女の姿。性格が悪く、一度能力で洗脳されかけた彼女のことはどちらかと言えば嫌いだった。
出来得ることならば会いたくはなかった。しかし、会わなければならない。
如何に残酷なことであろうと、彼女には、あの恋する少女には知る権利があるのだから。
最愛の人物が、すべてを忘れたことを──。
「美味い!」
そして盛夏祭当日、霊夢は目の前の料理に舌鼓を打ちながら堪能していた。
「流石はお嬢様。良いもん食ってるわねぇ」
ファミレスはおろかそこらの飲食店では到底出ない高級料理店に並ぶような豪華で上品な食材の数々が存分に使われた料理がずらりと並んだ光景は圧巻の一言である。
これがバイキング形式で食べ放題というのだから驚きであった。
「予想はしてましたけど……真っ先に食べ物の方に向かいましたね……」
そんな霊夢の隣で佐天は苦笑いを浮かべる。店内に漂う上流階層が如き雰囲気を無視し、がつがつと料理を貪るその姿は場違いにも程があった。
彼女は別に大食いという訳ではないが、かといって胃が細いという訳でなく、食える時に沢山食っておくという少々貧乏臭い人間だった。
「涙子も食べなさいよ。食べ放題なんだから元を取らないと」
「庶民的なのは評価高いですけどもうちょっと雰囲気を楽しみましょうよ。ほら、メイドさんですよメイドさん」
佐天が視線を向けた先には、メイド服を着用した常盤台の生徒が居る。よく見るコスプレとは違い、本格的なものであった。
「そりゃお嬢様が居るのならメイドも居るもんでしょうよ。ナイフとか投げてこなければ良いのだけど」
「またまたー、そんなアニメみたいな武闘派なメイドが現実に居る訳無いじゃないですか。……えっ、居ないですよね?」
「そうみたいね。私も最近知ったわ、普通のメイドはナイフなんか投げないって。代わりにあの街中でよく見る清掃ロボット? ってのに乗るのよね」
「それも違うような……?」
どうにも価値観や常識が食い違っているようで会話が噛み合わない。片田舎で育ったらしいが、つくづく霊夢の地元が気になる佐天であった。
「うーん……あっ、あれなんかどうです? 白いシスターさんが居ますよ。常盤台って十字教系の学校なんですかね」
「あん?」
白いシスター。佐天の言葉に思い当たる節があった霊夢はまさかと視線を向け、思わず二度見する。
そこには涎を滴らし、目を輝かせながら料理の置かれたショーケースを見つめる銀髪の修道女が居た。
「美味しそうなんだよ……!」
「……何やってんの? インデックス」
「うん? あっ! れいむっ!」
「えっお知り合いなんですか?」
修道女──禁書目録は霊夢の存在に気付くと快活な笑顔を浮かべ、ブンブンと手を振る。
「れいむも来てたんだ! ここは凄いね! 美味しそうな料理がたくさん!」
「あなたも来てるってことは……当麻の奴も?」
「うん! けど、とうまったら私からはぐれて迷子になっちゃったのかも」
「そう……迷子はあなたじゃないのかしら」
まさかの人物の登場に驚く。上条が同行しているということはあの貧乏学生もどうやったかは知らないが、この盛夏祭とやらのチケットを入手していたようだ。
となると、心配である。今の上条は記憶喪失。本人はこんなお嬢様学校とは縁も所縁もないと思っているだろうが、ここには彼の知り合いが結構多い。特に御坂辺りと鉢合わせしてしまえば面倒なことになるのは明白だった。
「あの、霊夢さん。このシスターちゃんは……」
「同級生の所に居候してる子よ。名前は──」
「
「イ、インデックス? 目次……?」
「あー、細かい事は気にしないで。ね?」
「アッハイ」
明らかな偽名を名乗られ佐天は困惑する。何らかの能力名か、もしかすると昨今のキラキラネームで本名なのかもしれない。自分の娘に目次なんて意味の英単語を名付ける親が居るとは思いたくないが。
しかし、はぐらかす霊夢はあまり根掘り葉掘り聞かれたくない様子だったので恐らく自分が安易に関わるべきではない事情があるのだろうと察し、余計な詮索は避けることにした。
「それじゃ、よろしくねインデックスちゃん。私は佐天涙子」
「うん! よろしくなんだよ! るいこ!」
にしても巫女に修道女、加えてメイドたち……一見すると秋葉原かコミックマーケットの会場ような絵面である。
「さっさとあの馬鹿を探してあげたいところだけど……それ、食べたいの?」
「勿論なんだよ!」
「じゃ、食べましょうか。食べ放題だから好きなのを好きなだけ食べちゃいましょう」
「ほんとっ!? 分かったんだよ!!」
こうしてバイキングに銀髪シスターが参戦する。彼女は霊夢らに教えられ、トングを使って皿に料理を大量に盛り付けると満面の笑顔でがっつき始めた。
のだが……。
「えぇ……」
佐天が困惑の声をあげる。目の前には回転寿司かと見間違う程の白い皿の山が築かれていた。
その奥では禁書目録が料理を片っ端から食べ……貪っている。
「美味しい! 美味し過ぎるんだよ……!」
明らかにその体格ではとっくに胃袋どころか腹が丸ごと破裂しているであろう量を余すことなくかき込み、然れどその食欲は留まることを知らず、宛らブラックホールの様。健啖家とかそういうレベルではない牛飲馬食に佐天は軽く引いていた。
「……よく食うのね、あなた」
その横で黙々と料理を食していた霊夢もこの圧巻の光景には驚くしかない。同時に、この暴食っぷりに上条の食糧事情を何となく察し、同情した。今度何か差し入れを持って行こう。
「ま、これで元は取れそうね。良かった良かった」
「いやいや。店の食糧全部食い尽くす勢いなんですけど……ほら、あっちでメイドさんたちが青ざめてますし」
「食い尽くされることを想定していない店側が悪いのよ、うん」
無慈悲な宣告。言葉を失うギャラリーたちを他所に禁書目録はひたすらに暴飲暴食を繰り返す。このままの勢いならバイキングコーナーが空になるのは時間の問題だろう。
その有り様は、あの掴み所のない冥界に住まう亡霊姫を連想させ──。
(……あれ?)
ふとした気付き。そういえば、あの亡霊には従者が居たはずだが……それがどのような人物だったか思い出せなかった。
元より曖昧な記憶。しかし、その人物はこうも印象の無い人物だったのであろうかと、小骨が喉につっかえるような違和感を感じずにはいられない。
はて、これは一体──。
「あ! やっと見つけたぞインデックス!」
そこで思考が途切れる。声に反応して視線を向ければツンツン頭の少年が立っていた。
「あ、とうま!」
「お前なぁ……勝手にいなくなるんじゃねーよ。探し回っただろ?」
「ふんっ、とうまがいつまでも家電のセールに食いついていたのが悪いのかも。れいむが居なきゃ飢え死にしていたんだよ」
「それは悪かったよ……って博麗、さん? 何でここに?」
ぷんすかと怒る禁書目録に呆れつつも謝っていた上条は同じテーブルに霊夢が居ることに気付くと驚きの声をあげる。
「呼び捨てでいいわよ。あんたの方こそ、よくチケットを手に入れられたわね」
「いやぁたまたま、な……悪りぃ。なんかインデックスが迷惑を掛けたみたいで……」
「……別に構わないわよ、そんなの」
少しばかり他人行儀な反応に分かっていながらも霊夢は寂しく思う。
「あの、霊夢さん。もしかしてこの人がインデックスちゃんの……」
「ええ。同居人よ」
「えぇっ!? 男女で同じ屋根の下に……ってそれもう同棲じゃ──」
「……込み入った事情があるのよ、色々と」
禁書目録が居候している同級生が目の前のツンツン頭の少年だということを知り、まさか異性だとは思っていなかった佐天は驚愕する。
余程親しい仲でなければ明らかに非常識であるが、交際関係でないのだとしたら一体如何なる理由があるのだろうか。
「えっと、君は……」
「あっ、初めまして。自分、霊夢さんの友達やってます! 佐天涙子と申します!」
「お、おう、これはご丁寧に。俺は上条当麻。この暴食シスターの保護者をやってて博麗とは……同級生だ、うん」
互いに自己紹介する。一瞬記憶を失う前の知り合いかと思って言い淀んだが、どうやら初対面であるようだと上条は安堵する。
(サテンって……確か、吹寄って奴のメールの履歴に名前が出てたな)
どうも自分はつい先日までアドレス帳にあった吹寄制理なる女学友と“博麗霊夢真人間化計画”というものを画策していたようである。その要が最近できた友人というサテンルイコなる人物であり、十中八九彼女のことだろう。
あの霊夢が友人が一人できたというだけで騒がれ、真人間化計画なんてものが立案される程の問題児であったことに驚いたが、そもそも腋が露出した巫女服を身に纏って街中を徘徊している時点でだいぶ風変わりな人物であることには間違いない。
「……ちょっと当麻」
「ん?」
「ここは知り合いが多いわ。面倒な事になる前にさっさと退散した方が良いわよ」
「えっ!? ま、マジで……!?」
小声での忠告を受け、上条は目に見えて焦り出す。常盤台中学なんてお嬢様の花園に顔見知りが居るなど思いもしなかった。
そして、霊夢の物言いからして自分の記憶喪失に気付いたり、不審に思ったりする程の人物のだろうと察する。
このままではまずい。とりあえず現時点で目を付けた物を手に入れたら直ぐ様帰宅するとしよう。
「分かった。ほら、行くぞインデックス」
「あ、ま、待って欲しいかも! まだ腹八分目なんだよ!」
「その辺でやめとけよ!?」
そう騒ぎながら上条が引きずっていく形で二人は立ち去っていく。ついでに霊夢らも元は充分に取れたので会計を済ませて店を後にする。嵐が過ぎ去ったメイドたちは伝票を見て度肝を抜いていた。
「上条さん……意外と普通な方でしたね。霊夢さんの同級生だって言うからどんな変じ……変わり者かと思いましたよ」
「大して訂正出来てないわよ、それ。というかああ見えて私よりもよっぽど変人よあいつは」
「えぇ~本当ですかぁ~? で、次はどこへ行きます? 私は美術部とか茶道部とか結構気になってるんですけど」
「なら、茶道が良いわね。さっきの店と同じように高級品でしょうし、お嬢様が淹れた茶にも興味が──うん?」
次は何処へ行こうかと談笑しながら廊下を歩いていると、一人の女学生が霊夢の視界に留まる。
「……博麗霊夢様ですね」
「おや、この人も知り合いですか? 霊夢さん」
「いえ……知らないわね。私に何か?」
機械のように無表情でどこか虚ろな瞳をした女学生。少なくとも霊夢の記憶の限りではその顔に覚えは無い。
「女王がお待ちです。どうぞ此方へ」
「……あー、そういうこと」
女王。少なくともこの街でそう呼称されている人物は一人しか思い浮かばず、霊夢は目の前の女学生が何者であるかを理解する。
「涙子。悪いけど少しの間だけ一人で廻ってくれない?」
「え?」
「元々こいつのボスに用があったの。ちゃっちゃと話を済ませてくるからさ」
そう言われ、霊夢の当初の目的を思い出す。普通にバイキングを楽しんでいて忘れていたが、元々常盤台に通う誰かに用事があったのであった。
「はぁ、分かりました……じゃ、御坂さんや白井さんが居ないか探して来るんで終わったらまた連絡してくださいね!」
「ええ。またね」
聞かれたくない内容なのだろうか。そう思いながらも佐天は空気を読んで霊夢と別れて廊下の奥へと進んでいく。
「……さて、行きましょうか」
霊夢がそう言えば、女学生は何も言わずに背を向けて歩き出す。操り人形のようなその姿に呆れながら彼女はそれに追従する。
「驚いたわよぉ、まさか貴方が来るなんて」
そして、辿り着いた先に、彼女は居た。その様子からしてこの寮へ来てから何気無く行っていたアピールは成功していたようだ。
「──それで、私に用があって来たみたいだけれど、何かしら? 博麗さん」
学園都市
彼女は明らかに警戒しつつも笑みを崩さず、蜂蜜色の長い髪を優雅に揺らしながら霊夢を見据える。
これに霊夢は僅かに顔をしかめ、そして彼女にぶん殴られる覚悟を決め、口を開く。
わりと天敵