とある幻想の夢想天生 作:大嶽丸
だから書くの難しかった……。
何か忘れている気がする。
そう思い、帰路に就いていた宇佐見菫子は何とはなしに引き返し、その辺を彷徨いていた。
(うーん……そもそも何で私はこんな所に居たんだろ?)
今日一日の記憶の大半がごっそり消えている。そんな事実に違和感を覚えるのは当然であり、一体何が起きたのかと彼女は考えていた。
「……あれ?」
そうして頭を唸らせながら足を運んだのは近くの公園。そこで見たのは遊具のブランコに座る大の男二人……その内一人は赤髪に神父服という端から見ればシュールで不審者にしか見えない光景だった。
普通ならば近付こうとせず、そそくさと見ないフリをして立ち去るべきだが、もう一人の毬栗のような特徴的なツンツンヘアーの方は、宇佐見は見覚えがあった。
「上条さんじゃないですかぁ。何してるんです?」
「え?」
自称世界一不幸だという男子高校生。かつて、ある事件で知り合ったところを宇佐見が目を付け、半ば無理矢理“秘封倶楽部”に加入させた人物だ。
こんなところで何をしているのか。隣の赤髪神父が知り合いだとすると、またしてもトラブルに巻き込まれているのかもしれない。
「何してるんです?」
「えっと、君は……?」
「はぁ? 惚けようとしたって無駄ですよ」
話し掛ければまるで初対面のような反応。まさか自分と関わりたくなくて他人のフリをしようとしているのかと宇佐見は顔をしかめる。
「何だね。知り合いかい?」
「あ、ああ……多分」
そう言いながら上条が額に手をやる。すると次の瞬間、目を見開いて立ち上がった。
「!? 宇佐見……!」
「うわっ、吃驚した。何ですか急に」
「……お前も忘れているのか? 姫神のことは?」
「はい? 姫神って……確かうちの高校にそんな名前の生徒が居たような気がするけど……」
いきなり大声で名前を呼ばれたかと思えばそんなことを尋ねてくる上条に宇佐見は何が何やらと首を傾げる。
「そうか……ちょっとジッとしといてくれ」
「へ?」
すると上条は宇佐見の方へと手を伸ばす。
「え、ちょ、やっ……上条さんったらそんな大胆な……」
ひゃー、と何をしようとしているか分からない宇佐見はよく分からない勘違いをしながら恥ずかしがる。
しかし、ポンッと頭を触れられた瞬間、全身に電流が走った。
「あー!」
端的に言えば、思い出したのだ。三沢塾での一件を。
「あんの緑髪野郎! してやられたわ!」
「やっぱりお前もアウレオルスに記憶を消されてたのか……」
呼び起こされる完全敗北の記憶。自らが何も出来ずに無力化されたという事実に宇佐見はメラメラと怒りの炎を燃やす。
お前も、ということは上条もやられたということなのだろう。てっきり彼の幻想殺しはそういう精神系の能力は無条件で打ち消すものかと思っていたが、何事も例外はあるようである。
「どうした? 何か思い出したのかい?」
「ああ。とりあえず目を瞑って舌を出してくれ」
「? ああ。分かった」
恐らく同じ被害者だと思われる赤髪神父に上条がそう言うと、彼は疑問に思いながらも素直に従ってべーと舌を出した。なかなかに間抜けな絵面である。
はて、普通に頭に触れれば良いのでは? と宇佐見が首を捻ると同時に上条は勢いよく赤髪神父の顎にアッパーカットを叩き込んだ。
「よくも殺そうとしてくれたな!」
「いきなり暴力ッ!?」
「がはっ……!? ──ああ、そういうことか」
宙を舞い、仰向けに倒れた赤髪神父は突然の行動に怒りを覚え、しかしすぐに納得したかと思えば、ばつが悪そうな顔をする。
どうやらあまり仲はよろしくないようだ。
「あらら……上条さん、この御仁は?」
「えっと、そいつは……その……」
「そう言う君は何者だい? 見たところこの街の学生のようだが……」
「あ、これは失礼。私は宇佐見菫子。霧ヶ丘女学院一年、泣く子も黙る本物の超能力者にして秘封倶楽部会長よ」
「……ヒフウクラブ?」
聞き慣れぬ単語に眉をひそめる赤髪神父。しかし、宇佐見はお構い無しに会話を続ける。
「さ、こっちが名乗ったんだからオタクも名乗りなさないな。口振りからして外部の人間みたいだけど?」
「……ふん。ステイル=マグヌスだ。一応それの仲間だと思ってくれて構わない」
赤髪神父改めステイルは少し考えた後、名前くらいは構わないだろうと上条へどう見ても仲間へ向けるものではない睨むような視線を向けつつ、自己紹介する。
「おい上条当麻。こいつはどう見ても部外者にしか見えないが……」
「いや、実は……」
すると上条とステイルが宇佐見に聴こえぬよう小声で何やらコソコソと話し始める。そんな姿を不審に思いながらも宇佐見は顎に手を当てた。
(まだ三沢塾には“もう一人の私”が残っているはず……やられてないんなら、チャンスは充分にある)
この宇佐見菫子、やられっぱなしで終わる訳にはいかない。必ずやあの緑髪の男に仕返ししてくれようと策を巡らせる。
──その時だった。
管楽器のような音色が聴こえてきたかと思えば、三沢塾の上空に暗雲が立ち込める。
「うん?」
「な、何だ……?」
「あれは……まさか……」
何事かと思っていると、ステイルは心当たりがあるのか驚きの表情を浮かべる。
「グレゴリオの聖歌隊……ローマ正教の連中も漸く重い腰を上げた訳か」
話に聞くローマ正教の最終兵器。3333人にも及ぶ修道士達をヴァチカンという世界最高の霊地に建てられた聖堂に集め、
「グレゴリ……って何だ?」
「要するに、このビルごと吹き飛ばそうとしているんだよ、連中は」
「は? ふ、ふざけんな! だって中には博麗や姫神、他の生徒達だってまだ居るんだぞ……!?」
「ちょっ、ちょちょっ、そりゃまずいですって! というか何、レイムっちも来てんの!?」
ステイルの説明に慌てふためく上条と宇佐見。しかし、既に手遅れであり、天上より何千何百にも束ねられた赤き火花が融合した強大な紅蓮の神槍が振り落ちる。
3333人による聖呪爆撃。それは三沢塾に直撃すると瞬く間に砕き、高層ビルがあっという間に倒壊していく。
「なっ……!?」
──しかし、次の瞬間。
崩れ落ちようとしていた三沢塾は急にぴたりと停止したかと思うと、まるで時間が巻き戻っていくように徐々に元通りになっていった。
その異様な光景を目の当たりにして、一同は言葉を失い、戦慄する。
「馬鹿な、
漸く、彼らは敵の力を知った。
「──あん?」
一方、アウレオルスと激戦を繰り広げていた霊夢は持ち前の直感で巨大な魔力のうねりが発生し、天から何かが降り注ごうとしていることに気付く。
そして、次の瞬間には轟音が鳴り響き、建物がグラグラと揺れる。
「ッ──!?」
霊夢は咄嗟に周囲へ御札を張り巡らせ、巨大な結界をこの部屋一帯に展開する。このビル全域を防ぐにはあまりにも時間が足りなかった。
対するアウレオルスは一瞬顔をしかめるも、何ということはないかのように落ち着き払っていた。
「──元に戻れ──」
ただ、そう呟く。たったその一言で崩落していた建物は瞬く間に巻き戻り、万物を破壊し尽くす聖呪爆撃も無効化されるだけでなく術者へと跳ね返す。ヴァチカンは今頃大惨事だろう。
「! ちっ……一体どこの馬鹿よ」
何事も無かったことに安堵しながらも霊夢は苛立った様子で吐き捨てる。もしもアウレオルスが元に戻さなければ霊夢は無事だったが、他の生徒達は巻き込まれて犠牲になっていた。
この時ばかりは敵であるアウレオルスに感謝する。
「……油然。解せぬな」
一方、アウレオルスは理解し難い様子といった視線を霊夢へと向けた。
「貴様、何故わざわざ防ごうとした?」
「……はぁ?」
突然の問い掛けの意味が分からず、霊夢は顔をしかめる。これにアウレオルスはしばらく黙り、そして得心が行った様子で再び口を開く。
「──成程。幻想を生きる巫女は、未だに“天生”に至らず……という訳か」
「────」
その言葉に、霊夢の思考が停止する。
「──感電せよ」
すると次の瞬間。霊夢の身体にビリッと電流が走ったかと思えば、青白い放電が彼女を包み込んだ。
「がっ……!?」
身に纏った魔力防御を貫通した全身を駆け巡る高圧電流に霊夢は呻き声をあげ、倒れ伏す。
「ッ……なん、で……」
「当然。理解したからだ。如何に貴様であろうと、途上で不完全な存在であるのならば、我が黄金錬成が通用せぬ道理は無し」
即死せず、意識を保つ霊夢に流石の頑丈さであると感心しながらもアウレオルスはつまらなそうに言い放つ。
対する霊夢はかなりのダメージを受けており、まともに喋ることすら儘ならなかった。
「──銃をこの手に。材質は
手に現れた片手銃が霊夢へと向けられる。
「厳然。禁書目録の恩人である貴様は、出来ることならば殺したくはなかった。しかし、生かしておけば何をするか分かったものではない。……残念だ。幻想を生きる巫女よ」
惜しむようにそう言い、アウレオルスは確実に殺す為に頭部へと狙いを定め──。
「──待って」
しかし、それを阻む者が居た。部屋を立ち去ったはずの姫神秋沙が戻ってきたのである。
引き金を引こうとしたアウレオルスも、最後まで抵抗せんと体の底から魔力を練り上げようとしていた霊夢も、彼女の突然の登場に硬直した。
「!」
「……どういうつもりだ」
駆け付けるなり両手を広げて庇うように霊夢を背にこちらと対峙する姫神に、アウレオルスは困惑した様子だった。
「彼女はもう戦えない。なら殺す必要は無いはず」
「……厳然。以前にも言っただろう、我らが大願を成すには犠牲は必要だと。たとえ如何に綺麗事を並べようとそうでなければ何も成せん」
「でも犠牲は少ない方が良い。あなたも言っていた。より大勢の人を助けたいって」
「………………」
「お願い。これ以上……罪を重ねないで」
アウレオルスは何も言えなかった。普段の、或いは以前までの彼ならばそんな言葉に耳を貸さず、容赦なく姫神をはね除けるか彼女諸共殺していただろう。
しかし、今のアウレオルスにはそれは出来ない。彼はそこらの悪党共と同じように堕ちるところまで堕ちた訳でも、救おうとしていた人物が既に救われてしまっていたことに自暴自棄になった訳でも無いのだから。
彼には確かな大義があった。
だからこそ、アウレオルスは姫神に手を出せない。彼女のような憐れで悲劇に満ちた存在こそ、かつて彼が愛にも妄執にも取り憑かれていなかった頃に純粋な理念の下、救いたかった、救うべきだと思った、無辜の民なのだ。
その躊躇が、運命の分かれ目だった。
「………………!」
床が揺れる。何事かと瞠目すると周囲に無数の光弾が浮かび上がっていた。
「ざけんじゃ、ないわよ……!」
霊夢が獰猛な笑みを浮かべる。地べたに這いつくばりながらも彼女の戦意は全く喪失していなかった。
御札で姫神を縛ると彼女を安全な場所まで移動させ、光弾を一斉に向かわせる。
「無駄だ──消えろ! 一つ残らず!」
しかし、光弾は霧散するように跡形も無く消失する。跳ね返しても戻ってくるのであれば、元より消し去るまでだ。
霊夢は攻撃の手を止めない。今度は頭上に天井を突き破る程の巨大な球体を出現させる。
「ッ……無駄なことを……」
「……あんたの術式の絡繰が分かったわ」
「──何?」
「さっきまで効いてなかった私に突然効くようになって確信した。言葉のままに世界を歪める? 詭弁も良いところね」
その言葉に、アウレオルスは意表を突かれる。
「考えたことを現実にする。それはつまり、あんたが心の底から信じていない事は実現出来ないんでしょう?」
「悄然。だから何だと言う! 貴様には何も出来まい!」
砕けろ、という言葉と共に巨大な球体は木っ端微塵になった。霊夢のあらゆる攻撃はただの言葉一つで悉く無効化されてしまう。
しかし、霊夢は焦らない。
「──そうね。
次の瞬間、アウレオルスの動きが硬直する。
「何……!?」
「
突然の事態に驚愕に顔を染めるアウレオルス。それからすぐにどこからともなく詠唱が響く。
「――
刹那。目も眩むような輝きと共に、アウレオルスの真後ろから爆炎が顕現した。
「ぐぅ……!?」
無防備に紅蓮の炎に包まれるアウレオルス。しかし、即座に彼は無傷で脱け出してくる。
「今のルーンの術式はまさか……!」
「そう。
現れたのはステイル=マグヌス。どうやって記憶を取り戻したのかと思考を巡らせ、考え得る一つの結論へ至ったアウレオルスは慌てて周囲を確認するも、遅かった。
「オラァ!」
拳が、ごりっと顔にめり込む。
「ぐぅッ……!?」
真横からの右ストレートで殴り飛ばされ、炎で熱せられた高温の床と勢いよくキスをさせられるアウレオルス。苦痛に顔を歪めながら視線を向けた先には、やはりと言うべきか、幻想殺し──上条当麻が立っていた。
「大丈夫か博麗っ!?」
「ええ。何とかね……」
「良かった、間に合ったんだな!」
「……本当。ナイスタイミングよ」
心配する上条を他所に、漸く動けるようになった霊夢はコキコキと首を回しながら立ち上がる。
「さて、と……何であんたが居るのよ、菫子」
「フッフッフ! オカルトある所に宇佐見菫子ありなのよ、レイムっち!」
「……あ、そう」
何故か居て決め顔を作る超能力少女へ訝しげな視線を向けるも、戦力としては申し分無いので一先ず看過しておくことにした。
「感謝してよね? そこの神父さんを
「さっきから視てたのは、あんただったのね」
「ありゃ? バレちゃってたか」
そう言うと菫子の隣に空間から滲み出るかのように彼女と瓜二つの姿の少女が現れる。
「宇佐見が二人……!?」
上条は唖然とする。先程の空間移動や念動力といい、一体幾つの能力を持っているのだろうか。
「
「因みに本物は私よ」
「いやいや、私が本物よ、もう一人の私」
「ま、どっちとも
「ややこしいからどっちか黙っててくれる?」
面倒臭そうに霊夢がそう告げると二人の宇佐見は肩を竦め、片方は彼女と同化するように消えた。
「き、貴様らぁ……!!」
よろよろと立ち上がったアウレオルスの苛立ちを多分に含んだ双眸がこちらを捉える。
あのパンチ一発でかなりのダメージを負っているようだ。聖人クラスまで肉体強化していたはずだが、上条に殴られた瞬間、幻想殺しが作用して無効化されたのだろう。
「行くわよ当麻。あいつのアルス=マグナとやらはあんたには
「! ……ああ、分かった!」
「憤然。貴様達風情がいくら集まろうと……!?」
すると針を突き刺し、詠唱しようとしていたアウレオルスが突然口を閉じる。否、閉ざされたのだ。
「もうさっきみたいな失敗はしないわ。喋らせずに窒息でダウンさせてあげる」
宇佐見が手を翳す。それだけでアウレオルスは呼吸を止められ、首を押さえて苦しみのたうち回る。
「ッッ…………舐め、る……なァ!!」
「嘘っ!?」
しかし、アウレオルスはゆっくりと口を開けた。どうやら幻想殺しで無効化したのは一時的なものに過ぎなかったらしく、聖人の超人的な筋力で無理矢理抉じ開けたようである。
信じられない光景に驚愕しながら慌てて念力の力を強める宇佐見。その間に霊夢とステイルは即座に動き、喋られる前にアウレオルスを仕留めんと向かっていく。
「倒れ伏せ! 侵入者共!」
しかし、即座に全員が取り押さえられた銀行強盗のように前のめりに倒れ込んだ。
「ッまだだ……!」
即座に能力を解除して上条が駆ける。
彼はアウレオルスが何を企んでいるかは知らない。姫神の言う通りもしかすると善行をしようとしているのかもしれない。
けれど、彼は霊夢を殺そうとした。このビルの生徒を単なる防衛機構としか見ておらず、負担も関係無く魔術を使わせていた。
如何に崇高な目的であろうと、誰かを犠牲にするのは許せないという、至極真っ当な理由の下、上条はアウレオルスを止めることを決めた。
「テメェがなんでも思い通りにできるってなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!」
「ほざけ。所詮、貴様が無効化出来る範囲は右手のみ。触れられぬ攻撃は防げぬだろう」
距離を詰められ、突き出された拳をアウレオルスは難なく躱す。先程の一撃は不意打ちであったが、正面からならば聖人の動体視力を有する今の彼に避けられぬ道理は無い。
そのまま凄まじい膂力で上条の頭を掴むと無造作に投げ捨てた。
「がぁっ……!?」
壁に叩き付けられ、呻き声をあげる上条。飛びそうになる意識を気合いで保ち、立ち上がるも、アウレオルスは既に次の行動に出ていた。
「銃をこの手に。弾丸は魔弾。用途は射出。数は一つで十二分。──人間の動体視力を超える速度にて、射出を開始せよ」
火薬の破裂する音が響き、一瞬遅れて上条の頰を浅く切った何かが背後の壁にぶち当たる。
右手を構えて凍りつくことしかできなかった上条を満足そうに見やったアウレオルスは、またしても首に突き立てていた針を投げ捨ててこう言った。
「先の手順を量産せよ。“百”の暗器銃にて連続射出の用意」
唇に言葉を乗せた瞬間、アウレオルスの両手に現れる無数の銃口。上条の背筋が凍りつく。アレが射出されたら最後、絶対に避ける事も防ぐ事もできない。
(逃、げ……ッ!)
故に、上条は射出される前に回避しようとした。無駄な足掻きと認識しながらも、とっさに横合いに転がろうとして、背後には身動きの取れない霊夢達が居ることを思い出す。
無意識に動きを止める。彼らを一切を無視して現状、唯一目の前の錬金術師を倒し得ると思われる自分の身を優先させることは、出来なかった。
「射出を開──ッ!?」
しかし、銃口が火を噴くことはなく、いつの間にかそこら中に張り巡らされた御札がアウレオルスの身体に巻き付く。
「ぬぅ……!?」
「動けなくても、あんたを妨害する手段なんていくらでもあんのよ……!」
「おのれ。小癪な……!」
直ぐ様アウレオルスは御札を引き剥がそうと口を開き──。
「──
ゴオォオ!! と、ステイルの叫び声が響くと同時にルーン文字が刻まれたカードが大量にバラ撒かれ、爆炎が巻き起こる。
「「……ッッ!?」」
上条とアウレオルスの両名が驚愕する。重油のようなドロドロした身体を芯に、猛烈な爆炎を纏うその人型が表す意味は”必ず殺す”……全てを焼き尽くす摂氏三千度の炎の巨人が顕現したのだから。
「砕けよッ!」
黄金錬成が炸裂し、言葉通りに炎の巨人が砕けて消えるも即座に復活する。
「ぐっ……!?」
「エスパー舐めんな! チート野郎!」
瓦礫を操るのは宇佐見。高速で渦巻く瓦礫や破片は人体程度ならば触れた途端にズタズタにするが、聖人の肉体を有するアウレオルスに効果は薄い。
そう見るやどこからか転送してきた巨大な“鉄塔”をそのまま投げ槍のように射出する。
「拳を不壊に、膂力を100倍に!」
そんな豪快な攻撃を鬱陶しげにアウレオルスは拳で殴り付けて受け止めた。しかし、その隙に魔女狩りの王が突撃してくる。
「ぐ、ぐおおおおお!? 消え去れ! 跡形も無く!」
炎に包まれながらもアウレオルスは叫ぶ。これにより魔女狩りの王はルーンのカードごと、瓦礫や鉄塔も綺麗さっぱり消失した。
(──やっぱり、追い詰められて判断力が鈍ってるみたいね)
霊夢はほくそ笑む。明らかにアウレオルスに余裕は無く、焦っていた。それ故に、黄金錬成の詠唱もその場凌ぎのものとなっており、だんだん粗が見えてくる。
本来ならばこの場で上条以外の人物に死ねと命じれば、少なくとも一人か二人かは仕留めることが可能だというのに。
「ゼェ……ゼェ……治、れ……」
息を切らす。身体の半分に大火傷を負ったアウレオルスは苦痛に顔を歪め、これを治療する。
しかし、その命惜しさの判断が致命的な隙を晒した。
「行け! 上条当麻!」
「なっ!?」
上条に距離を詰められる。反撃しようとするアウレオルスだが、それよりも早く腕に軽く触れられてしまう。
突然の脱力感。聖人の肉体が解除され、元に戻った反動で一気に動きが鈍る。
「しまっ──」
拳が下顎を屠った。脳を思い切り揺さぶられ、アウレオルスは白目を剥きかける。
(負ける……? 私が……?)
過る敗北。抵抗しようにも錬金術師である己に戦闘適性は無く、それを補う身体強化も霊装も幻想殺しに触れられた時点で無意味な代物と化している。
反撃しようと言葉を発しようにも今にも闇の彼方へ飛びそうなこの意識では、まともな思考すらも儘ならない。
故に、敗北は必至に思えた。
(──否)
脳裏に過ったのは、笑う少女の姿。その次に彼女が自分の手を握りながら涙を流す姿。
(否、否、否否否否……!)
それから次々と思い出していく。己が手を汚した数。目的の為に犠牲にした命の数。
(ならぬ! 絶対にならぬ! ここで終わっては……終わってしまったら……私が殺してきた者共はどうなるっ!? 私が使い捨ててしまった、奪ってしまった者達はただの無駄死にではないかっ!?)
報いなければならない。成さなければならない。
残された唯一の償い……それは単なるエゴなのかもしれない、本当は首を括って大人しく死ぬべきなのかもしれないが、それこそただ自分が無為に命を奪っただけだと証明するようで、こうでもしなければ頭がおかしくなってしまう。
後悔に塗れた人生だった。世界の為に働くと誓い、たった一人の少女に尽くし、しかし何もかもが水泡に消え、見返せば血に濡れた道。どうしようもなく、間違ってしまっていた、度し難い
彼はもう、気付いた時には引き返せないところまで来ていたのだ。
故に、妄執に取り憑かれた錬金術師は、在るかも分からぬ“幻想”に希望を見出だす。
「──せつ、だぁ、ん……せ、よ……!」
最後の力を振り絞った、魂の叫び。それは確かに届き、世界は歪められた。
ザシュ!! と鮮血が飛び散る。
「がぁッ……ッ!?」
上条の右肘から先が、無くなっていた。
目を見開き、一同が絶望の表情に染まる。当然だ、唯一の打開策が破られてしまったのだから。
「──あっ」
しかし、霊夢だけが別の理由で焦る。
右手が切断された、その次に起こる事象を彼女は知っているが故に。
「ク、ククク……」
不気味な笑い声が、響いた。
本作のアウレオルス=イザード
狂気と妄執に取り憑かれてた人間がNTRで脳破壊されたけど何とか正気に戻ったら今度はこれまでやってきた自分の悪行に発狂しちゃった。
感想で言われてたけど精神面がパワーアップ……というよりも霊夢や上条のことを事前にある程度知ってたから戦えてた感じ。根本が善人寄りになっちゃったから姫神とか殺せない甘さが出てしまっている。