とある幻想の夢想天生   作:大嶽丸

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不和

 

 

 とある研究施設。

 

 学園都市においても最先端の科学設備に囲まれたこの一室に、現在拘置所に収容されているはずの幻想御手事件の主犯、木山春生は居た。

 

「……私を呼びつけて、一体何をするつもりだ?」

 

 以前にも増してやさぐれた面持ちで死んだ魚のような眼を向けた先には、白衣を着込んだ赤い髪の女性がデスクチェアに座っている。

 

 霊夢が“教授”と呼んでいる人物だ。

 

「──岡崎夢美」

 

「そう警戒することはないわ。ちょっと協力してもらいたいだけよ、木山先生」

 

 そう言い、教授は優雅にティーカップに注がれた紅茶を啜る。

 

「協力、だと? 冗談はよせ、私風情が君に協力出来ることなど精々雑用くらいだ。そんなことの為にわざわざ釈放してくれたというのか?」

 

 不審な眼差し。木山からしてみれば当然の反応だと言えよう。何せ目の前のこの女は、木山が専門とする大脳生理学という分野においても遥か先を行く超天才なのだから。

 

 否、そんな言葉すら烏滸がましいとさえ思える程に、岡崎夢美という科学者は理外の存在だった。

 

「あら、私はそれなりにあなたのこと評価してるわよ? 幻想御手に多才能力、なかなか良い発想だと思うわ」

 

「“第八位”……正真正銘本物の多重能力(デュアルスキル)や世界最大の原石、それから博麗霊夢のような“イレギュラー”を飼っている君が言うと、嫌味にしか聞こえないよ」

 

「まあ。飼っているなんて人聞きが悪い。特に最後のなんて飼い慣らせるのはよっぽどの化け物よ」

 

 心外とばかりに教授は肩を竦める。その言葉に以前戦った霊夢の姿を思い起こし、内心木山は同意した。

 

 しかし、学園都市の頂点たる超能力者(レベル5)。教授が担当し、手中に収めるのは末席の二人であるが、彼らは未知数な“原石”であるが故に、解析不能とされ、順位が下げられているに過ぎない。

 

 ──だからこそ、そんな怪物二人を差し置いて教授が手を焼いているという博麗霊夢は異常な存在であった。

 

「それと、あなたを釈放させたのは私じゃないわ」

 

「……何だって?」

 

 木山は眉をひそめる。突然の釈放。それからすぐに連絡が来たことから、てっきり彼女は教授が自分を釈放させたのだと思い込んでいた。

 

「では、誰が?」

 

「さて、誰でしょう? ま、そのうち向こうから接触してくるんじゃないかしら? それよりも……私はあなたの力を必要としているの。協力してくれると言うのなら、報酬は弾むわよ」

 

「ふん……金なら別に……」

 

「ノンノン。私()あなたへ協力してあげるわよ。例えばそう……あなたの教え子である置き去り(チャイルドエラー)の子達を目覚めさせる、とかね?」

 

「………………!」

 

 木山が瞠目する。教授はその心情を見透かしているかのように微笑んだ。

 

「……あの子達の事を、どこで知った?」

 

「単なる成り行きよ。あの事件で興味深い存在が現れたから改めてあなたについて調べた過程でね……知ろうと思えば、いつでも知り得たわ」

 

「君が興味を引くような対象……そうか。幻想猛獣のことだな」

 

「ご名答。正確には、それに干渉した存在だけれど」

 

 霊夢を()()するついでにその光景を観賞していた教授にとってその出現は予期せぬことだった。具体的には虚数学区・五行機関の不完全体──幻想猛獣が発生すること自体は想定内ではあったのだが、謎の第三者の介入によりあのような形に変質するとは思わなかった。

 

 早い内にアンインストールプログラムにより幻想御手のネットワークから切り離され、霊夢に撃破されたから良かったもののあのまま放置していれば恐らく“ヒューズ=カザキリ”を上回る怪物と化していただろう。

 

「ふむ……私はてっきり、あれは君の差し金だと思っていたのだがな」

 

 一方、木山は意外そうに呟く。

 

「あら、それは何故?」

 

「……大した理由はない。あれに干渉してきた存在は、完全に私の理外の存在だった。そんな馬鹿げた存在は君くらいしか候補が無かっただけさ」

 

「誉められているのか貶されているのか知らないけれど、あなたの私に対するそれは過大評価よ」

 

 きょとんとする教授。自覚がないのかと呆れつつ木山が説明すると、クスクスと笑い出す。

 

「私も、あなたも、それ以外も、所詮は只人。世界は広く、我々が知りもしない脅威と驚異に満ち溢れている。今回はそれが片鱗を見せたに過ぎない……私もあなたも、まだまだ井の中の蛙大海を知らずってことなの」

 

「……それは、知りたくもない事実だな」

 

「あら、研究者らしくない」

 

 愉しげに、まるで希望に満ちているかのようにそう話す教授とは対照的に木山は渋い顔をする。自分と彼女とではそれこそ見ている世界があまりにも違い過ぎた。

 

 加えて、今の木山は一介の研究者以前に一人の教師。彼女にとって最も優先すべきは研究や知識ではなく、愛する教え子達であった。

 

「話を戻しましょう。どう? 勿論、前払いとして先にあなたの目的に協力してあげるわ」

 

 その言葉に木山の瞳が揺らぐ。あまりにも魅力的な提案だ。彼女の頭脳と研究成果があればもはや樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)など必要無いだろう。子供達を目覚めさせることなど児戯に等しいのかもしれない。

 

 しかし、目の前に居るのはあの“木原”の者達に並び立つとされる個人であり、ある意味では彼らよりも悪名高く、尚且つ異端扱いされる危険人物である。

 

「……何をすればいい?」

 

「ウフフ、素敵。契約成立ね」

 

 故に、それが悪魔の誘いであることは理解しながらも、木山はとうの昔に悪魔に魂を売る覚悟は出来ていた。

 

「じゃあ早速だけど説明を──」

 

「──教授」

 

 嬉しそうに教授が言葉を続けようとしたその時、自動ドアが開き、誰かが入ってくる。

 

「どうかした? 今取り込み中なんだけど」

 

「例の件について報告しようかと思いまして。アウレオルス=イザードは未だに消息不明。機器を使用しても、少なくともこの街には彼の生体反応は見つかりませんでした。死亡したか、連れ去られたと考えるのが妥当かと」

 

 入ってきたのはセーラー服の上に白衣を着た金髪の少女。助手と思われる彼女の発言に教授は神妙な面持ちでと顎に手を当てる。

 

「そう……それは残念。黄金錬成(アルス=マグナ)のデータはもう少し回収しておきたかったのに、霊夢も下手を打ったわね」

 

「アウレオルス……? 誰のことだ」

 

 聞き覚えのない名前、そして博麗霊夢の名前も出てきて気になった木山が問う。

 

「古い友人よ。別に気にしなくていい。今回とは全く関係のない話だから」

 

 しかし、教授はそう言って話を切り上げる。余計な詮索はするなと、暗に言われているような気がした。

 

「じゃあ、ちゆり。調査はもう切り上げてくれて構わないわ。元の仕事に戻ってちょうだい」

 

「了解しました。それでは」

 

 助手が退室する。それを見送ると教授は再び木山へと視線を向けた。

 

「さて、と……タイミング悪く横槍が入っちゃったけど、改めて話の続きをしましょうか」

 

「……ああ」

 

 険しい顔をしつつも、木山は耳を傾ける。その内容が何であれ、彼女は応じるだろう。

 

 たとえこの街の全てを敵に回してでも救うと。そう誓ったのだ、その為ならばたとえ何であろうと利用するし、逆に利用されたって構わない。

 

「ふふふ。あなたにも教えてあげるわ。私が描く、より良い、素敵な未来への道筋を──」

 

 ──そう嘯く教授の姿は、まるで夢見る少女のようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 霊夢は苛ついていた。

 

 例の襲撃予告された学校の警備は異常無く終了した。そう、つまりはガセネタ、悪戯の類い。襲撃なんて一向に起きることなく、ただただ無駄な時間を浪費しただけで終わったのだ。

 

「あー、だるい。ふざけんじゃないわよ」

 

「ひっ、す、すみません……」

 

 一日中警備させられた挙げ句、徒労に終わってしまったという事実に今にもぶちキレそうな霊夢に怯えた様子で眼鏡を掛けた警備員……鉄装綴理が平謝りする。

 

「まあまあ。何も起きなくて良かったじゃんよ」

 

 その隣で黄泉川が苦笑いを浮かべつつ、宥める。これに霊夢は鼻を鳴らし、手に持つグラスを口へと近付けて中の液体を飲み干す。

 

 現在、彼女らが居るのはとある居酒屋のテーブル席。例の警備終了後、苛立つ霊夢を見かねた黄泉川に誘われ、たまたま同じ区域を担当していた鉄装も交えた三人で打ち上げをしていた。

 

「良かないわよ。ただでさえ私の予定を潰されて腹が立ってるってのに……怒りをぶつける相手が居ないのが一番もどかしいわ」

 

「そりゃそうだが……」

 

「大体信憑性のある情報じゃなかったの? 天下のアンチスキル様が踊らされて、情けない話じゃないの」

 

「はは……そのはずだったじゃん……」

 

 霊夢の指摘に一瞬顔をしかめる黄泉川。それは警備員を馬鹿にされたことへの不快感ではなく、彼女と同じく警備員……その上層部への不信感だった。

 

 少し前に部下に調べさせたが、襲撃予告の出所は不明。確かに筋のある情報だと聞いていたのに、結果はこの有り様。果たしてこれは偶然かそれとも……。

 

「ちょ、ちょっと先輩」

 

「ん?」

 

「あの子、普通に日本酒飲んでますけど学生ですよね? 未成年ですよね?」

 

「ああ、この事は秘密じゃん」

 

「ひ、秘密って……ヤバイですよ流石にっ!?」

 

「大丈夫、大丈夫。あ、でも小萌には言うなよ。殺されかねないじゃんよ」

 

 おろおろとする鉄装にそう言って黄泉川はグラスに並々と注がれた日本酒をなかなか良い飲みっぷりで嗜んでいる霊夢を前に笑う。

 

 教員で警備員という立場にも拘わらず黄泉川は()()()()から霊夢の飲酒については肯定こそはしないが、ある程度は見逃しており、特にこういう宴会の席の時などは許可していた。そんな彼女を見て鉄装はやはり破天荒な人だと思うと共にバレたら普通に処分もののためどうかバレないでくれと周囲を警戒し始める。挙動不審で逆に怪しいが。

 

「ところで博麗……お前、ここ最近随分と暴れてるらしいじゃん?」

 

「……あん?」

 

 突然そう言われ、霊夢はグラスを口元へと運ぶ手を止める。

 

「この前の三沢塾のテロ騒ぎ……実際のところどうなんだ?」

 

「……別に」

 

 成程。飲みに誘った本当の目的はそれか。黄泉川はちゃらんぽらんに見えて意外と切れ者だ。あの隠蔽し尽くされた事件に対して違和感を抱き、疑問に思っても不思議ではない。

 

 面倒であると、霊夢は内心毒づく。

 

「そうはぐらかすってことは、やっぱり何かあるじゃん?」

 

「……だったら?」

 

 これに対し、霊夢は表情一つ変えず平然と言い放つ。元より腹芸は苦手なのだ。その場凌ぎにすらならない嘘を吐くのは時間の無駄であり、黄泉川もそれを理解していた。

 

 しかし、上層部が隠蔽している以上、当事者である彼女から聞き出すしか方法はなかった。

 

「教えてくれ。あれが単なるテロなんかじゃあないことは分かってるじゃん。うちの所の特殊部隊が出たって記録も、まるで後から付け足されたようだったじゃんよ」

 

 死傷者多数、抉られ、大穴が空いたビル、事件についての記憶が無いと証言する犯人グループ、取って付けたようなカバーストーリー……あまりにも不可解な点が多過ぎて、黄泉川以外の警備員のメンバーも皆あの事件に対して疑問を持っている。

 

「……知ったとして、黄泉川先生に何が出来るのよ?」

 

 にも拘わらず彼らの多くが声をあげないのは警察組織といっても所詮は学園都市上層部の犬であり、その命令には逆らえないから。

 

 故に、事件の詳細を黄泉川に教えたところで彼女に出来ることなど存在せず、血迷って世間に公表してしまえば首を切られることは明白だ。

 

 霊夢からすれば教えてやるメリットが無く、そもそも今回の事件は魔術師絡みなので話せるはずもなかった。

 

「ッ…………」

 

 簡潔明瞭で、鋭く容赦の無い一言を投げ掛けられ、黄泉川は押し黙る。確かに彼女が事件について知りたいのは、上層部の陰謀を暴いてやるという気概よりも、単なる自己満足に近かった。

 

「ま、どんな風に勘繰っているのか知らないけど一つ言えるのは、あの事件自体は解決している。これだけは確かだから安心しなさい」

 

「……ああ、そうかい」

 

 その言葉に嘘はないということを理解した黄泉川は一先ずそれで納得する。納得するしかあるまい。

 

「なら、仕方ないじゃん。折角の酒の席を辛気臭い雰囲気にしちまって悪いじゃん」

 

 まるで先程までのやり取りなど無かったかのように気分を切り替えて黄泉川はそう言うと日本酒の瓶を手に取って霊夢のグラスへと注ぐ。

 

 一方、隣で会話を聞いていた鉄装は未だに困惑している。

 

「ええ。私にとっては久々の酒なんだから。今日は日を跨ぐまで飲み明かしましょう」

 

「おっと、深夜徘徊は許さないじゃん」

 

「何で飲酒はOKでそれは駄目なのよ」

 

「というか風紀委員の方は大丈夫じゃん? 誘った私が言うのもなんだが、あんまり帰りが遅いと叱られるじゃんよ?」

 

「平気よ。美緯には仕事が終わったらそのまま帰っていいって言われてるし、黒子も飾利も非番で花火大会に行ってるだろうから」

 

 流石にこの時間帯では花火も打ち終わって帰宅している頃合いか。彼女らもまさか警備員と飲み会をしているなどとは、夢にも思っていないだろう。

 

「花火大会? そういや今夜そんなのあったじゃん」

 

「ええ。本当は私も一緒に行く予定だったんだけど……」

 

「今回の仕事を押し付けられた、って訳か。そりゃ災難だったじゃんよ」

 

「あー、思い出すだけで腹が立つわ」

 

 挙げ句、無駄足だったのだ。憤慨しながら霊夢は乱暴にグラスの酒をまた飲み干す。もしも襲撃予告をした張本人が目の前に現れたとしたら、ノータイムで再起不能にするに違いないであろうくらいには殺気立っている。

 

(しかし……今は酔いが回ってるのもあるだろうが、荒々しさは昔と全然変わってないじゃんよ……また問題を起こさなきゃ良いんだが……)

 

 臨時的にとはいえ風紀委員に復職したと聞き、少しは角が取れたのかと思ったが、やはり根本は変わってはいないなと黄泉川は判断する。

 

 酒が入ると人は素が出やすいというが、霊夢は特に酔った際に感情的になる。この百面相のように喜怒哀楽がころころと変わるその姿こそが、彼女の本来の姿なのだろう。

 

 そして、基本的に感情を優先する。それでいて合理的に物事を判断し、無駄を嫌い、常に最適解を好む。一見すると矛盾しているように思えるが、その実これらは両立可能で、だからこそ、その絶対的な()()()は暴走してしまう。

 

 一番の問題はそこに規則や法律を度外視していること。善悪と賢愚の基準を己の中でのみ設けている彼女はその気になればルールなど平気で破るし、暴力や犯罪が最適解だと理解すれば、躊躇わずにこれを実行する。その結果がかつて風紀委員をクビになった原因である無能力者狩りに対する過剰なまでの暴行であった。

 

 やはり危うい存在だと、黄泉川は依然として霊夢を警戒し、その動向を注視していた。三沢塾の事件が必要以上に気になった要因でもある。

 

「──そういえば」

 

 ふと、霊夢がある場所へと視線を送る。

 

「あなた、誰なの?」

 

 そして、おもむろにその先に居る鉄装を指差し、そう尋ねた。あまりにも唐突な発言に、二人はぽかんとする。

 

「……えっ!? 今更っ!?」

 

 一足先に再起動した鉄装が目を剥いて叫ぶ。

 

「何だ、まだ自己紹介してなかったじゃん?」

 

「い、いえっ、現場で会った時に皆で自己紹介したはずですけど……」

 

「そうなの? 普通に聞いてなかったわ」

 

「酷いっ!?」

 

 実は名前を全く把握されていなかったことにショックを受ける鉄装。この巫女は先程からずっとこの眼鏡は誰なんだろうなーなどと内心思いながら飲んでいたというのか。

 

「こいつは鉄装綴理。私の後輩じゃん。ほら、自己紹介しろって」

 

「え? あっ、はい、えっと……黄泉川先輩と同じ部署の……」

 

「そんなことよりも」

 

「そんなことッ!?」

 

「あー? 何よ、酒が足りないんじゃないの? ほら、飲め飲め」

 

「あ、いやっ私はあんまり……」

 

「ああっ!? 私の酒が飲めないってのっ!?」

 

「ヒィッ!? せ、先輩この子おっさんみたいな絡み方してきます~!」

 

「あっはっはっはっ! 結構酔ってるじゃん博麗!」

 

 威圧しながら一升瓶を突き出してくる霊夢に涙目で悲鳴をあげる鉄装。そんな光景を見ながら黄泉川は大笑いする。

 

 三人の飲み会は、深夜零時過ぎまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

(……あれ? 私なんかやらかした?)

 

 翌朝、特に二日酔いもなく意気揚々と支部へと赴いた霊夢は重苦しい空気に襲われる。

 

 出迎えたのは、腕を組み、あからさまに不機嫌な様子でソファーに座っているツインテール。固法と初春は外回りに出ているのか居ない。

 

 遅刻はしていないはずだ。まさか昨晩飲み会に行っていたのがバレた? どうであれ、面倒事の気配を感じ取った霊夢は恐る恐るドアを閉めて退散しようと──。

 

「……博麗霊夢」

 

 したところで、白井がこちらを見て名を呼ぶ。

 

「……何?」

 

「少々相談したいことがありますのですが、よろしいでしょうか?」

 

 相談。どうやら己が原因で不機嫌になっていた訳ではなかったようである。

 

 内心ホッとするが、あの白井が自分に相談とは珍しいこともあるものだなと思う。

 

「……別に構わないけど」

 

 それはそれで面倒臭そうな内容である可能性があるが、下手に断って余計に怒らせるよりはマシだろうと霊夢は頷く。

 

「ありがとうございますの。……実は先程、初春と少し揉めてしまいまして」

 

「……飾利とあなたが?」

 

 そして、向かいのソファーに座って対面した霊夢に、白井はぽつりぽつりと静かに語り始める。

 

 事の始まりは昨晩の花火大会の最中に起きた原因不明の地震……乱雑解放(ポルターガイスト)。どうやら佐天の都市伝説と名前だけは合致していて少し驚く。

 

 それに関して件の転校生、春上衿衣が何かのトリガーになっている可能性があると白井は予想した。というのも乱雑解放が発生した時、春上が近くにいた事に加え、その予兆であるかのように様子が可笑しくなったのだという。前回の合同会議にて乱雑解放は何者かが引き起こしているのを聞いていた彼女は春上の書庫(バンク)を調べ、彼女の能力である精神感応(テレパス)が特定条件下では本来の強度を超える数値の能力を発揮すると記されていた点から、白井は春上に疑いの目を向けた。

 

 しかし、それを聞いた初春は「春上を疑っているのか」と反発して喧嘩になり、今に至るらしい。

 

「ふうん……」

 

「それで……今回の件について、あなたはどのような見解ですの?」

 

 白井が尋ねる。何やら霊夢の顔色を伺っているようだったが、当然霊夢は気付かない。

 

「見解、といってもねぇ……確かにその説明通りなら春上って子を疑うのは妥当なんじゃないかしら」

 

「! や、やはりそう思いますの」

 

「ええ。疑わしきは罰する。故意にしろそうでないにせよ、関わっている可能性が捨てきれないのなら、調べるのが普通でしょ」

 

「おっしゃる通りですの! なのに、あの花飾りは公私混同してがなり立てて……!」

 

 するとどうだろうか。霊夢がその姿勢を肯定すると、白井は顔を明るくさせ、初春への怒りを不平不満を口にする。

 

「まあ、友達が疑われる、ってのは良い気分はしないでしょうけれど……だからこそ、きちんと調べてその疑いを晴らしてやるってのが筋だと──」

 

「そうですの! あなたならそうおっしゃってくださると思っていました! 友達であれば目を逸らすよりも、疑いを晴らす事に尽力するのは当然でしょう!」

 

「え、ええ……」

 

 食い気味にそう言われ、霊夢は何故こうもテンションが高いのかと戸惑う。

 

 白井としては普段のように面倒臭がることもなく相談に乗ってくれただけでもプラス評価なのに、彼女なら自分と同じ姿勢のはず……と密かに期待し、実際その通り100点満点の回答が返ってきたのだ。喧嘩した後、己の一体どこが何が悪いというのかと鬱憤を溜め込んでいたところに、常日頃から複雑な感情を抱いている霊夢が肯定してくれたのだから喜ばずにはいられなかった。

 

「……で、あなたはそれを飾利に言ったの?」

 

「──えっ?」

 

「だから、その友達であればなんたらかんたら~ってヤツ」

 

 ああ見えて意外と頑固なのだろうか。しかし、だとしても初春は真っ当な道理を説明して認められないような人間ではないと思っていた霊夢は気になって問う。

 

 これに白井はハッとしたかと思えば、途端にばつが悪そうな顔をする。

 

「……いえ。言ってません」

 

「ふうん……そりゃ言わなきゃ分からないわよね普通は。思慮が浅いって言ったらそれまでだけど、私やあなたのようにそう簡単に割り切れるような人間ばかりじゃないのだし」

 

「ぐっ……ですが……」

 

「ま、どっちが悪いにせよ、このまま喧嘩したままってのは嫌なんでしょ? なら、一度互いに頭を冷やして話し合ってみることね」

 

 ぐうの音も出ない。霊夢の言っていることは至極真っ当で合理的。反論する余地など無かった。

 

 しかし、あろうことか霊夢に諭されたという事実が受け入れられず、わなわなと震える。好きや嫌いが行ったり来たりする、難しい年頃なのだ。

 

「にしても、ポルターガイストねぇ……」

 

 一方、やはりと言うべきか白井の心境など気付くはずもなく、霊夢の興味は二人の喧嘩の原因となった事件へと移る。

 

 まさかあの合同会議で地震について話し合っていたとは。吸血殺し事件のせいですっかり失念していて、今更ながら詳細を聞いた。

 

 内容自体は大方予想していた通りで、やはり能力者の暴走によるもの……それが白井の疑惑通りに春上が原因だったとして、彼女が単独で行っているとは考えづらい。

 

 木山春生の件もある。色々ときな臭い事件だと、霊夢の直感は訴えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「ちっ……感付かれるのも、時間の問題か」

 

 一方その頃。支部から離れた別の場所で一人の女が不機嫌そうに顔を歪め、霊夢と白井の会話を盗聴していた。

 

 滞空回線のシステムを応用した盗聴機。特殊な材質により電撃使いにも感知されない優れ物である。

 

 これまでの会話も、風紀委員の動向も、全て筒抜けだった。

 

「やはり最大の障害はこいつ……博麗霊夢か。どういう訳か奴には“キャパシティダウン”も効かねぇみたいだし」

 

 “第三位”の介入までは問題無かった。彼女にはキャパシティダウンが通用するし、対抗兵器も用意してあるからどうとでもなる。

 

 しかし、あの怪物……博麗霊夢は違う。解析不能、桁違いの戦闘力を有するアレは女の計画の何もかもを滅茶苦茶にしかねない危険因子だった。

 

 所詮は異能力者だと侮りはしない。そうやって完膚なきにまで叩き潰された連中を何度も見てきたが故に。

 

「まあいい……既に手は打ってある。わざわざ相手をしてやる必要なんてねぇだろ」

 

 次の瞬間、女──テレスティーナ=()()=ライフラインは凶悪な笑みを浮かべる。

 

 そして、彼女によりある指令が下された。





尚、初春が居る時に霊夢と話していた場合、基本的に黒子を全肯定するから余計に拗れた模様。黒子は内心ウッキウッキ
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