とある幻想の夢想天生   作:大嶽丸

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科学サイドから見た霊夢さんが理不尽過ぎる。


駆動鎧

 

 

 白井は初春ときちんと話し合うことにした。場所は御坂と佐天が設けてくれるらしい。

 

 一方、霊夢は世間を騒がせる乱雑開放事件について独自に調べ始める。

 

 大規模な地震を引き起こす程の能力の暴走。白井の推察通り春上が何らかのトリガーになっていたとして、彼女単独によるものとは思えず、更にそれが第三者、それも悪意ある者による介入の結果だとすれば、その裏にはもっと大きな陰謀が渦巻いていると霊夢は考えていた。

 

 加えて、未だに推測の域を出ないとはいえ以前に関連性を疑った過去に木山春生が携わっていたという暴走能力に関する研究も無関係とは言い難く、幻想猛獣に干渉した存在についての情報も得られるかもしれない。

 

 故に、霊夢は動く。第六感がもたらした不確定なその推理は、彼女の中では確信にまで至っていた。

 

 春上の能力についての調査や乱雑解放の原因究明などは初春達がやってくれるだろうと彼女らに任せ、拘置所に居るであろう木山との面会に向かったのだが……。

 

(……どうなってんのよ、一体)

 

 結論から言うと、木山春生は秘密裏に保釈されていた。当初は面会謝絶と受付に言われたが、怪しんだ霊夢が警備員の知り合いに調べてもらったところついこの前保釈されたらしい。

 

 誰が保釈金を支払ったのかは守秘義務として伏せられてしまったが、一万人もの学生を昏睡状態に追いやり、警備員の部隊を壊滅させた犯罪者がたったの数週間で自由の身。十中八九まともな理由ではないだろう。

 

 木山の頭脳や研究成果を欲した者によるものか。それとも彼女に共犯者が居たのか。どちらにせよ、釈放させたからには彼女に何かをやらせようとするはずだ。

 

 であれば、今回の乱雑開放事件も──。

 

 プルルルルッ

 

「ん?」

 

 その時、携帯電話の着信音が鳴り響く。宛先を確認すれば知らない電話番号だった。

 

「……もしもし」

 

『あっ、もしもし。博麗さん?』

 

「……どちら様で?」

 

『私よ私。御坂美琴。佐天さんにあんたの番号教えてもらったのよ』

 

「美琴? 何の用よ?」

 

 聞き覚えのある声だと思ったが、相手は御坂だった。霊夢としては何かと勝負を挑もうとしてくる彼女に自分の電話番号を知られるのはあまりよろしくなく、顔をしかめる。

 

 あまり勝手に人様の電話番号を教えないよう、佐天に釘を刺しておかねば。

 

『聞いたわよ、黒子と初春さんの件。あんたが取り持ってくれたんだっけ? ありがとね。お蔭で仲直りできたみたい』

 

「……別に。ただ一言アドバイスしてやっただけよ」

 

 どうやら無事和解したようだ。元よりきちんと話し合えば解決するはずの話なので当然の帰結である。

 

『それと、話は変わるんだけど……あんたにも知っておいてほしいことがあるの。春上さんのことよ』

 

 すると御坂は切り出す。これこそが本題とばかりに。

 

『彼女の幼い頃からの親友……今は別の施設へ移動して離れ離れになってるらしいんだけど……アルバムで見せてくれた顔がそっくりだったの。あの時、木山の記憶で見た、置き去り(チャイルドエラー)の子達の一人に』

 

「……何ですって?」

 

 思わぬ事実に霊夢は片眉を上げる。それはつまり、不鮮明だった木山春生と乱雑開放事件の繋がりが、確かに存在しているという証明なのだから。

 

 春上の書庫(バンク)に記載されていたという、特定条件下ではレベル以上の結果を出すというのも、その親友が関係しているのだろう。

 

『それと、木山の奴も──』

 

「保釈されてるんでしょう? さっき知ったわ」

 

『……そう。ってことは、やっぱりあんたも何か関係があると思って調べてるみたいね』

 

「ええ。因みに保釈金を払った奴のことは?」

 

『それは分からなかったわ。ハッキングしても、元からデータそのものが削除されてるみたいで復元も出来なかったわ』

 

「ふうん……」

 

 ナチュラルに犯罪行為(ハッキング)をしているのをスルーしつつ、霊夢は思考する。特に怪しいのは木山が保釈されたという事実を隠蔽していた警備員だ。知り合いはその理由は知らないとのことだったが、それこそが上層部、或いはもっと上の権力が絡んでいることの証明に他ならない。

 

 データすら削除する徹底ぶりは守秘義務云々以前の問題であり、まるで身内にも知られたくないように思えた。つまり敵は、警備員全体ではなく、その一部の勢力を掌握下に置いているのだろう。

 

 これならば先日行われた合同会議に出席しておけば良かった。警備員の中で誰が怪しいか目星を付けられたというのに。

 

「……この事は誰かに?」

 

『いいえ。まだ誰にも言ってない。一応テレスティーナさんっていう信頼できる警備員の人には伝えようと思ってるんだけど……』

 

「そりゃ良かったわ。そのテレなんたらとやらに言う前に知らせてくれて」

 

『え?』

 

「この事は、誰にも言わないようにしなさい」

 

『は、はぁ? 何でよ?』

 

 危なかった。よりにもよって警備員に言うかと思うものの、誰しもが霊夢のように察しが良い訳ではない。そもそもハッキング経由で情報を得た御坂は木山の保釈が隠蔽されていることを知らず、そして現段階ではまだ治安維持組織である警備員側が怪しいなどと露程も思っていないのだった。

 

「誰が聞いてるかは分かったもんじゃないでしょ。また木山が黒幕、とかだったら話が早くて助かるんだけど、どうも他に居る気がしてならない」

 

『……その根拠は』

 

「──勘よ」

 

『勘って……あんたね……』

 

「私の勘は当たるの。とにかく犯人が木山であろうがなかろうが、その目的がはっきりするまでは他言無用よ。味方かと思ったら実は敵……ってのは木山の件で懲りたでしょ?」

 

『それは……』

 

 いくら何でも疑い深過ぎるのでは、とは思うものの実際に木山に関しても霊夢は初めから彼女を怪しみ、犯人だと断定し、そしてそれはぐうの音も出ない程に正しかった。

 

 もしかすると彼女は言葉にしていないだけで、また既に正解に近い、或いは到達しているのかもしれない。それならばここは素直に従っておくべきだとも思うが、己のプライドは納得行っておらず、複雑な心境である。

 

(……そもそも、木山が助けようとしている子達は今どこに居る?)

 

 一方、霊夢は顎に手を当てる。ふと思い浮かんだ疑問。意識不明といえど、身寄りの無い置き去りは実験体(モルモット)としてはまだまだ充分に利用価値がある。そんな存在を学園都市のイカれた科学者連中が放っておくはずがない。

 

 木山は教え子達を目覚めさせる為に幻想御手事件を引き起こした。普通ならば目覚めさせるよりもまずは教え子達を安全な場所へと救いだそうとするはずだ。

 

 つまり木山は既に教え子達を掌握し、匿っているということ。そして、それを欲する者が居るのだとしたら──。

 

 かつん。

 

「……あん?」

 

 拘置所からの帰り。何かが壁に跳ね返り、ころころと霊夢の足元まで転がってくる。

 

 何だと霊夢が視線を向けると、同時にそれは()()した。

 

「!」

 

 手榴弾。咄嗟に飛び退いて回避した霊夢は距離を取って着地する。

 

『何っ!? 今の音っ!?』

 

「……どうやら敵襲みたいね」

 

『は? どういうこと──』

 

 向こうで一体何が起きているのかと戸惑う御坂。対する霊夢は顔をしかめ、一体何事かと辺りを見回そうとすれば無数の鉛弾が嵐のように飛び交う。

 

「ちっ……忙しないわね……」

 

 遅れて銃声が鳴り響いた時には既に霊夢の姿は無く、すぐ近くの建物の屋上へと移動していた。

 

 そして、彼女は()()()()を見下ろす。

 

『目標。損傷無し。攻撃を続行せよ』

 

『どうやって避けやがった? 空間移動か?』

 

『言っただろうが。ただの小娘ではないと』

 

 数は20人程度。ゴツゴツとした鋼鉄の装甲……所謂駆動鎧(パワードスーツ)を身に纏っており、全員がフルフェイスで顔を隠している。

 

 武装は各人ごとに微妙に違い、サブマシンガン、アサルトライフル、ガトリング銃、果てにはロケットランチャーと戦争でもしに行くような装備であり、とてもではないが、個人のみを襲う為に差し向けられたとは思えない。

 

『ちょっと!? 博麗さんっ!?』

 

「喧しいわね、生きてるわよ」

 

『あ、良かった……じゃなくて今の音って銃声よねっ!? 何が起こってるのっ!?』

 

「だから敵襲よ敵襲。なんたらスーツとかいうんだっけ? ロボットみたいな見た目をした連中がいきなりぶっ放してきたわ」

 

『えっ!? な、何ですってッ!?』

 

 襲撃を受けている。そんなことをあっけらかんと、冷静にそう説明する霊夢に対し、御坂は驚愕を隠せない。

 

「ま、問題は無いわ。ちょっくら片付けてくるから、その間に木山の所在について調べておいてちょうだい。他に黒幕が居るとしたら、奴が向かうのはそこよ」

 

『は、はぁ? ちょ、待ちなさ──』

 

「んじゃ、よろしく」

 

 そう言って通話を切る。言葉通りに今から調べてくれれば帰る頃には判明しているだろうし、そうでなくともまあどうとでもなるだろう。

 

「さて、と……どこのどいつか知らないけど、白昼堂々派手にやってくれるじゃない」

 

 銃口が一斉に向く。しかし、霊夢は一切臆してない様子で大幣を取り出して長槍くらいのサイズにまで伸ばす。

 

 襲撃される心当たりは多過ぎる。最悪なパターンとして、いよいよをもって学園都市側が博麗霊夢という異分子を排除しに来たのかもしれないが、だとしたら()()()()の戦力ではなく、もっと大勢で来るだろう。

 

 タイミングからして木山の釈放に関係している者の差し金だろうか。彼女の保釈を知り、嗅ぎ回っている己を目障りと判断した……と、いったところかと霊夢は推察する。

 

『──射て』

 

 そう考えている内に、リーダー格と思われる人物が号令し、再び銃撃が開始される。

 

 銃声と共に、迸るマズルフラッシュ。あっという間に蜂の巣にされるであろう弾幕に対し──霊夢は()()()()()、真っ直ぐ突っ込む。

 

『なっ……正気かコイツッ!?』

 

 明らかな自殺行為。しかし、そのまま穴だらけの挽き肉と化すと思われた霊夢は気が付けば全く無傷の状態で眼前にまで迫っていた。

 

「まずは一人」

 

 そして、正面の襲撃者の顔面に膝蹴りをくらわせる。

 

『がッ……!?』

 

 メキィと生身で鋼鉄を攻撃したとは思えない鈍い音と共に駆動鎧はぐにゃりと首を曲げ、追撃とばかりに振り下ろされた大幣により地面に叩き付けられた。

 

 ガシャン、と襲撃者は倒れ、小刻みに痙攣したまま動かなくなる。

 

『──ッ!? ば、馬鹿な……!』

 

 最新鋭の駆動鎧がたったの二撃でダウン。信じられぬ光景に襲撃者達に波紋が広がる。

 

「二人目」

 

『はっ──!?』

 

 くるくると回転させ、その勢いのまま振り上げられた大幣が呆然とする襲撃者の一人の横腹を殴り付けて吹っ飛ばす。

 

『ぐおっ!?』

 

『チィッ──この化け物め、死ね!』

 

「失礼ね、人間よ」

 

 襲撃者が発砲。霊夢はこれを容易く躱し、一瞬にして接近すると掌底を腹部に叩き込む。 

 

「三人目」

 

『ッ──舐めんなッ!』

 

「あん?」

 

 しかし、襲撃者は吹っ飛ぶことも意識を失うこともなく、そのまま腰部分に格納されていた近接ナイフを振り下ろす。

 

 即座に後退してこれを避けた霊夢は意識を刈り取れなかったことに眉をひそめる。よく見れば先程吹っ飛ばした者も意識は保っており、戦線復帰していた。

 

「へぇ……意外と頑丈なのね」

 

 科学の進歩は著しい。一年もすればそれ以前のものはガラクタ同然になるなんてことはザラだ。

 

 以前相手にした似たような類いのものよりもずっと高性能な駆動鎧に霊夢は感心する。

 

『ハッ! どうだ、この兵器は対能力者用の……』

 

「なら──」

 

 もっと威力を籠めるまで。轟!! と再び接近して叩き込んだ掌底は駆動鎧の鋼鉄の装甲をべこりと凹ませ、振り抜くと同時に吹っ飛ばしてもう一人へと叩き付けた。

 

 当然、吹っ飛んだ襲撃者はぴくりとも動かない。

 

「──改めて、二人目」

 

 霊夢の打撃は純粋な筋力によるものではなく、魔力による強化。普段は極限まで手加減しており、本気になれば聖人である神裂にすら大きなダメージを与える程の威力を誇る。

 

 こうして生身の人間に対しては過剰と思える程にまで出力を上げれば、この通り。駆動鎧の装甲による衝撃緩和を無視して意識を刈り取ることなど訳なかった。

 

『お、おいっ!? 大丈夫かっ!?』

 

「ま、死んではないわよ。……多分ね」

 

『ッ、テメェ……!』

 

 倒れた仲間の身を案ずる襲撃者に対し、そう言えば激昂した様子でライフルの銃口を向ける。

 

 その瞬間、霊夢は裾に仕込んだ針を一本投擲した。

 

『なっ!?』

 

 引き金を引くと、ライフルが破裂する。吸い込まれるように銃口へと入り込んだ細い針により、暴発を引き起こしたのだ。

 

 思わぬ事態に襲撃者が怯んだ隙に、霊夢は背後に回り込んで容赦なく延髄へ回し蹴りを繰り出す。

 

『ぐ、は……』

 

「はい、これで三人目」

 

 倒れ伏す駆動鎧を踏みつけ、霊夢は淡々と呟く。

 

『────』

 

 襲撃者達が固まる。何なのだこいつは。事前に聞かされてはいたものの、実際に目の当たりにしてみるとその出鱈目さに戦慄する。

 

 ものの数分で三人も無力化された。その事実に恐怖し、戦意が削がれていく。

 

『ッ……臆するな! 我々の目的はそいつの足止めだ! とにかく時間を稼ぐんだ!』

 

 しかし、リーダー格がそう怒声を上げると、他の襲撃者の面々も己を奮い立たせ、武器を構えてこちらへ攻撃を仕掛けてくる。

 

(……足止め?)

 

 銃撃の雨の中を舞うように避けながら霊夢はその発言に首を捻る。どうやら予想とは違い、己の排除そのものが目的ではないようだ。

 

 しかし、足止めとは一体……。

 

(何を企んでるか知らないけど……ソッコーで終わらせた方が良いみたいね)

 

 そう言うものの科学サイドの人間相手に夢想封印等は使えず、針はともかく御札の方も魔術的なものなので使うことは出来ない。

 

 今更な気もするが、面倒だからと非科学の力をひけらかし、余計に面倒な事態になるなど馬鹿馬鹿しい話だ。

 

 要するに、絶賛縛りプレイ中という訳である。

 

『ちょこまかと……おい! ランチャーを使え! 飽和攻撃で仕留める!』

 

 一方、このままでは弾を無駄に消費するだけだと判断したのかリーダーがそう指示するとロケットランチャーを装備した襲撃者達が照準を霊夢が居る方向へと合わせ、一斉に発射し始める。

 

 銃弾よりも大きく、しかし遥かに遅い弾頭。そもそも兵器に疎く、銃器は辛うじて分かるもののロケットランチャーなど見たこともなかった霊夢は後ろから煙を上げながら飛来してくるロケット弾に首を傾げながらも容易く回避するが──。

 

「なっ──」

 

 自身の背後。着弾した瞬間に爆発したのを見て目を見開く。

 

「ちょっと、……んなもん、街中でぶっ放してんじゃあないわよ」

 

 そう悪態をつく霊夢。襲撃者達は再装填したロケットランチャーを構えることで返答する。

 

 ここは拘置所の近くであるため人気があまり多くないとはいえ、それでも時刻はまだ昼間なのだから人々の往来は普通にある。にも拘わらずそんなのお構い無しとばかりにロケット弾を撃ち込み始めた襲撃者達は、一般人を巻き込むことに対して何ら抵抗が無いということ。

 

 霊夢に当たらなかったロケット弾は周辺の道路や建物を次々と破壊していく。案の定、突然の爆発に通行人達はパニックになっている様子だった。

 

「──やめなさいっての」

 

 このままでは大惨事だ。直ぐ様、霊夢は投擲した針を飛翔するロケット弾に命中させる。

 

 強い衝撃を受け、着弾前に起爆するロケット弾。そんな神業に等しき荒業でどうにか被害を一時的に食い止めたのを確認すると霊夢はロケットランチャーを装備した襲撃者の一人へ接近し、大幣を振り下ろしてその装甲を引き剥がしながら地面へと叩き付ける。

 

 無論、一撃で気絶。そのまま他のロケットランチャーを持つ者へ攻撃しようとする──が、それよりも先に銃撃され、距離を取った。

 

「ッ────」

 

 ロケットランチャーを装備していない者は間髪入れずに銃撃してくる。霊夢は銃弾の雨とロケット弾の両方を対処しなければならないだけでなく、周囲への被害にも気を遣わなければならない。

 

 舌打ちし、上空へと飛翔する。空ならば何もなく、被害を抑えられると考えたからだ。ついでに射程外へと逃れられるのなら良いのだが──。

 

『逃げたぞ! 追えっ!』

 

「……でしょうね」

 

 当然、元より相手が霊夢である事を知って襲撃してきた者達だ。対抗装備は用意しており、背中に装備したジェットパックで飛行し、追ってくる。

 

「けど……これである程度は派手に動けるわね」

 

 この高さならば被害は抑えられる。それでも流れ弾で被害が出る可能性があるのでそれは出来る限り避けたいところだが……。

 

「──とにかく、こっちから攻めるとしましょうか」

 

 敵の殲滅が優先。そう判断した霊夢は追ってくる襲撃者達へと向き直り、最前列の者に向かって踵落としを繰り出す。

 

『ごがっ!?』

 

 そのまま撃墜。流れるように大幣を振るい、後ろに続く二人の装甲を叩き壊していく。

 

 更に全方位へ針を投擲し、それは距離を取っていた襲撃者達の一部の駆動鎧の関節部分へと突き刺さる。

 

『ぐぅ……ッ!?』

 

『く、くそっ! 動けねぇ……!』

 

 刺さった部位の回路がショートし、動きを止める一部の襲撃者。その後にジェットパックにも針を突き刺して破壊し、駆動鎧が機能停止した者達は次々と真っ逆さまに落下していく。

 

 あのような鉄の塊の中に居る人間がこの高さから落ちたら大怪我は免れないが、霊夢は然して気にしていなかった。

 

 簡単に人の命を奪えるのだ、奪われる覚悟も持ち合わせているのが道理だろう。

 

(今ので……十人目くらいかしら? 流石に数が多過ぎるわね。それに()()()()()

 

 既に半数を撃破しながらも霊夢は顔をしかめ、内心悪態をつく。想定ではもっと多く撃破していたつもりだったが、手加減云々以前にアウレオルス戦でのダメージが意外と尾を引いており、コンディションが最悪だった。

 

 そんな状態でこうも無双しているのだから、化け物と呼ばれても仕方あるまい。

 

 プルルルルッ

 

「……ん?」

 

 その時、またしても着信音が鳴り響く。

 

 御坂がかけ直してきたか? と、戦闘中にも拘わらず霊夢は何ら躊躇い無しに携帯を取り出して宛先を確認する。

 

 予想に反して画面に映る名は、佐天涙子。こんな時にと思いながらも霊夢は電話に出る。当然銃撃は続いていたが、携帯片手に余裕で避けていく。

 

「もしもし? 涙子、悪いけど今取り込み中で──」

 

『霊夢さん! 大変なんです! み、御坂さんが木山先生と……!』

 

「……は?」

 

 銃声が鳴り止まない中、応答するなりこちらの言葉を遮って告げられた言葉に、霊夢は耳を疑う。

 

 既に事件は、大詰めを迎えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「ッ……何なのよっ!」

 

 大丈夫なんでしょうね? と、御坂は霊夢の身を案じる感情と通話を切られたことへの腹立たしさから顔をしかめ、乱暴に携帯をしまう。

 

「木山の居場所、ね……実のところもう調べはついてるのよね」

 

 深呼吸し、感情を落ち着かせた彼女が視線を向ける先にあるのは病院。幻想御手事件の際にも足を運んだ、あのカエル顔の医者が経営する病院である。

 

 霊夢に電話を掛ける前から、御坂は既に木山捜索に乗り出しており、ありとあらゆる施設をハッキングしてその所在を掴んでいた。

 

「! あの車は……」

 

 そして、病院の前に停車した派手なスポーツカー。ドアが開いて降りてきたのは。

 

「木山……!」

 

 木山春生。調べた情報通り、理由は不明であるが、彼女はこの病院を往来しているようだ。

 

 何を企んでいるのか。御坂は病院へ入ろうとする木山の後を追い──。

 

「……居るのだろう? 御坂美琴」

 

 しかし、木山は足を止めて彼女の名を呼ぶ。何故か気付かれていたようで御坂はギクッと身体を硬直させる。

 

「久しぶりだな。息災で何よりだ」

 

「……あんたの方こそ」

 

 以前と何ら変わらぬ姿。意識不明の教え子達を助けたいという事情があったとはいえ大事件を引き起こし、死闘を繰り広げた相手に御坂は警戒心を解かない。

 

「ここへ最初に来るのは博麗霊夢の方だと思っていたのだが……まあいい。ついて来たまえ」

 

「え?」

 

「私が何を企んでいるのか、知りたいのだろう? 私としても君を引き込めるのなら、好都合さ」

 

 そう言って病院へと入っていく木山。何やら心の内を見透かされているようで気に食わないと思いながらも御坂はその言葉に従って歩みを進める。

 

 そして、数分程歩き続けて辿り着いたのは薄暗い病室の中、ガラスで仕切られた別室からの光だけが部屋を照らしていた。その奥の別室を覗き込み、御坂は驚いた様子で隣の木山へと尋ねた。

 

「この子達は……」

 

「──私の教え子達だ」

 

 ベッドの上で眠る子供達。御坂が記憶で見た姿と瓜二つで、少しばかり成長していた。

 

 まさかこの病院で匿われていたとは。それはつまり──。

 

「久しぶりだね?」

 

 この病院の院長でもあるカエル顔の医者もまた、木山の協力者ということになる。

 

 彼がこの件に関わった理由は、余りに単純。幻想御手事件の契機となった木原幻生の行った“暴走能力の法則解析用誘爆実験”の被験者すべてを救うこと。

 

 置き去りの子供達の事を聞いた彼は、“医者の本分”として子供たちを救うことを決意し、全員を一つところに集め、病状の詳細を知る木山の保釈金を払いもした。

 

 そして、彼らの口から語られた内容に御坂は目を見開く。

 

「この子達を救う段階に至って問題が発生した。この子たちの意識が覚醒に向かうと、RSPK症候群の同時多発が引き起こされ、地震に極めて似た震動が起きてしまう」

 

「え? それって……」

 

「そうだ。君達が乱雑開放と呼ぶ、あの現象だ」

 

 結論から言うと、今回の乱雑開放事件を引き起こしていたのは木山だった。

 

 そうなると春上が乱雑開放が発生する度に苦しんでいた理由が分からなくなるが、恐らく彼女の親友だったという少女、枝先絆理が鍵を握るのだと思われる。

 

「本来ならそうならないようにする為のプログラムの開発に“ファーストサンプル”という、あの実験の際に作られた“体晶”の原典(オリジナル)が必要だったのだが……その問題は解決した」

 

「え?」

 

「ある人物の協力のお蔭でね。研究は著しく進み、もう何の心配も無くこの子達を目覚めさせることが出来る手段を用立てることに成功した」

 

「それって、つまり……!」

 

「ああ。乱雑開放はもう起きない」

 

 断言する木山。彼女としてはファーストサンプルが手に入らないのであれば、たとえ乱雑開放を引き起こしてでも教え子達を覚醒させるつもりだったが、あの元大学教授は約束通りに協力し、より安全な方法を示してくれた。

 

 一方、御坂も木山が嘘を吐いていない様子なのでとりあえずはその言葉を信用するが……。

 

(あれ……? 木山を保釈したのがリアルゲコ太……じゃなくてっ、この医者で木山は子供達を救おうとしていてその目処が立った……ってことは別に悪者とか居ないハッピーエンドじゃないこれ?)

 

 厳密には実験の首謀者である“木原幻生”が野放しになっているが、彼は今回の事件とは無関係だ。

 

(今回ばかりは博麗さんのアテが外れた……ってことなのかしら?)

 

 すべては杞憂だった。となると、今現在霊夢が襲撃を受けているのはまた別の問題なのだろうか。所々疑問が残るが、とにかく無事に事件が解決しそうであると御坂は一安心する。

 

「残念だけど、そういう訳にはいかないわね?」

 

 突然の闖入者に全員が部屋の入り口へと振り向く。

 

 そこには、リクルートスーツを纏った外国人の女性と、紫色の駆動鎧を着込んだ一団が姿を現していた。

 

「テレスティーナさんっ!?」

 

 先進状況救助隊の隊長にして付属研究所所長。友人の危機を救ってくれた彼女の事を御坂は信頼していたが、その登場には驚きを隠せない。

 

「……誰だ、君達は?」

 

「“先進状況救助隊”隊長、テレスティーナです。申し訳ありませんが、この子達は我々が預からせていただきます」

 

「何?」

 

「心配はいりません。我々“先進状況救助隊”には専門の研究機関が併設されています。子供達は我々の下で覚醒へと導けるでしょう」

 

「一体何の権限があってそんなことを……」

 

「既に統括理事会の許可も得ています。──連れていけ」

 

 テレスティーナの命令と共に、駆動鎧の隊員達がずかずかと入り込み、子供達の居る別室へと迫る。

 

「ッ、やめろ……!」

 

 これに木山は立ち塞がろうとするが、多勢に無勢であっという間に取り押さえられてしまう。

 

「ちょっと待って! その、この子達はもう目覚めさせることが出来るって……」

 

「あら、それは確証があるのかしら?」

 

「そ、それは……」

 

「なら、私達の研究機関の方が安全は保証されているわよ。如何なる理由であれ、木山春生は幻想御手事件主犯……警備員として、信用することは出来ないわ」

 

 尤もな意見だ。それこそ実際にその記憶を垣間見た御坂と違い、テレスティーナ達からしてみれば木山が本当に子供達を救おうとしているのかどうかすら疑わしいのだから。

 

 ──しかし、どうしようもない違和感に襲われる。

 

(……あれ?)

 

 そこで御坂は霊夢の言葉を思い出す。他に黒幕が居るとしたら向かうのはここであると。そして、彼女を襲撃したのはその際のなんたらスーツ、ロボットみたいなという言葉から察するに駆動鎧を装備した連中であろう。

 

 まさか──。確信には至らずとも、御坂はテレスティーナへの不信感を募らせる。

 

「ッ……ふざけるなッ! またお前達は……私の元からこの子達を奪うのかっ!?」

 

「何度も申し上げますが、これは既に決定したことですので、貴女一人が抵抗したところで被験者は全てこちらで保護させていただきます」

 

 木山の言葉を封殺し、テレスティーナは淡々と事を進めていく。

 

 “統括理事会が主導していた実験なんだ。上が動く訳がない。その犬である警備員もまた同様に”

 

 いつかの木山の言葉を思い出す。

 

 彼女をそこまで追い詰めたのは? 

 

 子供達をこんな目に遭わせたのは? 

 

 ──そうだ。この街の組織が信用出来るなど、何故言い切れる。

 

「………………!!」

 

 御坂の動きは早かった。木山や子供達を巻き込まないように、最小限の電圧で駆動鎧を無力化させようと放電する。

 

「──やれ」

 

 だが、致命的な敗因はその行為がとっくにお見通しであったこと。

 

 耳障りな騒音が鳴り響くと、広範囲に放たれた電撃は瞬く間に消滅し、御坂は頭を押さえて蹲る。

 

「ぐぅっ……!?」

 

 キャパシティダウン。それもビッグスパイダーの連中が使っていた物よりもずっと高性能な代物であった。

 

「は! テメェと博麗霊夢の通話はずっと盗聴してたんだよっ! こうなることは予測済みだっつーの! バーカァッ!」

 

 動けず苦しむ御坂を思い切り蹴り飛ばし、テレスティーナは愉悦に顔を歪め、その下劣な本性を露にする。

 

「がっ……お゛え゛っ……ぅ……」

 

 硬いヒールの先が腹部に突き刺さり、御坂は涎を滴しながら悶えて床を転げ回る。

 

 テレスティーナはその姿を嘲笑しながら見下ろし、胸元から取り出したマーブルチョコを数粒口の中に入れて噛み砕く。

 

「ったく……おい、何人やられた?」

 

「六人です。“木原”隊長」

 

「ちっ……腐っても超能力者(レベル5)ってことか……」

 

 一瞬の放電にも拘わらず黒こげになった数人の隊員を見てテレスティーナは舌打ちする。

 

「ッ!? 待て! “木原”だと……!?」

 

 隊員の発したテレスティーナの苗字に木山が反応する。何故ならその名は──。

 

「そ~よぉ? 私の名前は、テレスティーナ=木原=ライフライン。お前の恩師の“木原幻生”の孫娘よ。ぷっ、ぎゃはははははは!」

 

「…………ッ!!」

 

 ゲラゲラと嗤う目の前の女の正体を知り、漸く木山にもすべてが見えた。子供達が、自分の大事な教え子達が、今また“木原”に狙われているのだと。

 

「にしてもここまで面倒な根回しだったぜ。博麗霊夢の奴のお蔭で計画を何段階も前倒しにする羽目になった上に、奴の足止めまでしなくちゃなんねぇんだからな」

 

 愚痴を溢すように、否、実際に愚痴のつもりなのだろう。彼女はそう暴露する。

 

 初めは合同会議への不参加。その次は偽の襲撃予告。そして今回の駆動鎧の襲撃。どれもこれもが乱雑開放事件から博麗霊夢ただ一人を遠ざける為のテレスティーナの策略だった。

 

「木原隊長、収容準備が整いました」

 

「そうか。なら、さっさとつれて行け。あの糞巫女が包囲網を突破する前にずらかるぞ」

 

 そう言い、運ばれていく子供達。その姿を木山も御坂もただ見ていることしか出来ない。

 

「……るな」

 

「あぁ?」

 

「ふざける、な……! 木原ァ……!」

 

 その時だった。木山の瞳が、充血したように赤く染まった。

 

 同時に、彼女を取り押さえていた駆動鎧が宙を舞う。これに負け犬の遠吠えだと思っていたテレスティーナはその笑みを崩し、目を見開く。

 

「なっ……テメェ、何でそれを使えるッ!?」

 

「舐めるなよ、学園都市(おまえたち)と事を構えるのに、何も用意していない訳がないだろう!」

 

 多才能力(マルチスキル)。幻想御手の副作用であり、また最大の研究成果でもある多重能力擬き。

 

 しかし、もはや幻想御手の使用者は存在せず、木山はそれを使えないはずだった。況してや今はキャパシティダウンにより能力は封じられるはずなのに。

 

「チィッ……お前達! 足止めしろ!」

 

 想定外の事態にテレスティーナは腹立たしげにしながらもそう命令し、自分達は子供達を連れて逃亡を図る。

 

「っ、待て……!」

 

 当然木山は追おうとするが、駆動鎧達が立ち塞がる。

 

「邪魔を、するなァ……!」

 

 即座に木山は大能力者クラスの念動力で駆動鎧を押し潰し、はね除けるが、すぐに別の駆動鎧が向かう。

 

 そして、テレスティーナと少数の駆動鎧達は子供達と共に、出口まで続くエレベーターの中へと入っていった。




だいぶ展開前倒し。テレスティーナはわりとオリチャーして頑張ってる。たぶん一度でも霊夢と会ってたら速攻で容疑者扱いされて今話の時点で犯人認定されてた。

木山と木原が似てて入力ミスしやすい。
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