とある幻想の夢想天生   作:大嶽丸

41 / 77
絶対能力

 

 

 テレスティーナの離脱後、木山は立ち塞がる駆動鎧を多才能力を駆使して撃滅し続け、病室は戦場と化していた。

 

「ハァ……ハァ……逃がすものか……!」

 

 息を切らしながら最後の駆動鎧を吹っ飛ばし、木山はテレスティーナを追おうとする。たとえ自動車を使われていたとしても、まだ距離はそこまで離れていない。空間移動(テレポート)を使えば、追い付くことは容易いだろう。

 

「ごはっ……!?」

 

 しかし、能力を使用しようとした途端、溢れるように吐き出された鮮血。喀血と肺の苦しみから木山は前のめりに倒れ込んでしまう。

 

「大丈夫かい? その能力、どうやらかなりの負担があるみたいだね?」

 

 どうにか巻き込まれずに済んだカエル顔の医者が駆け寄る。充血していた眼は元に戻っていたが、代わりにまるで三日三晩飲まず食わずだったかのように痩せこけた顔立ちになっていた。

 

「けれど、君は幻想御手はもう使ってないはずだよ?」

 

「……ああ、厳密に言えば、これは多才能力(マルチスキル)ではない。自身の人体配線を改造し、他者の能力の噴出点へとする技術に幻想御手のシステムを組み込んだゲテモノ科学……前者はオリジナルではなく、“恋査”という物を参考にしているらしいが、詳しいことは知らない」

 

「! つまり君は……」

 

()()ほどは人間ではなくなっている。尤も、その程度ではこの通り長く持たないみたいだが」

 

 そう言って木山はシャツの襟を引っ張り、胸元を見せる。そこからは肉肌ではなく、硬い金属のプレートが覗いていた。

 

「……それで良いんだね? 君は?」

 

「ああ。お蔭様で、もう表立って服を脱ぐことは出来ないが……これ程の力を得た代償としては些細なものだと言えよう」

 

 実質的なサイボーグ化。そこに何の躊躇も無い。それどころか子供達を救うことに繋がるのならば人体のすべてを機械や得体の知れぬパーツに置き換えたって木山は良かった。この程度の改造で済まされているのはあくまで自衛目的であるのと、これの施術をした“教授”の()()によるものだった。

 

 対するカエル顔の医者は深刻な表情を浮かべる。精密検査など無くとも彼は一目見て木山に施されたそれの、あまりの歪さを理解したが故に。

 

 恐らく一般的な人間としての生活はもう、期待出来ないのだろう。

 

「どういう、ことよ」

 

 すると横から声がする。視線を向ければ、御坂が腹を押さえ、壁に半身を預けながらも立っていた。

 

 木山が暴れた影響でキャパシティダウンも壊れ、動けるようになったようだ。

 

「無事だったか、良かった」

 

「ええ。何とか、ね……それよりもさっきの話、本当なの?」

 

「ああ。本当だとも」

 

 キャパシティダウンをくらい、テレスティーナに痛め付けられて動けない中、木山が多才能力を使用して駆動鎧の一団を殲滅していたのは見えていた。

 

 てっきりまた幻想御手を利用したのかと思ったが、今の木山の身体の状態を聞いて驚愕すると共に、子供達を救う為ならば自らを改造することも辞さないその覚悟に戦慄した。

 

「君が気を病むことでは無いよ。これは私自身が望んだこと……こうまでしたというのに、あの子達をみすみす奪われる羽目になってしまったがね」

 

 木山の顔が歪む。己の不甲斐無さが招いてしまった結果だと、彼女は後悔にさいなまれる。

 

「っ、何言ってんの! まだ諦めるには早いでしょ! 皆でテレスティーナ……あいつから子供達を助けるわよ!」

 

 そう励ます御坂。霊夢や白井、他の風紀委員達にも声をかけ、全員で救出に向かえばまだ間に合うはずだと。

 

「……分かった。しかし、一刻を争う事態だ。奴は計画を前倒しにすると言っていた。その計画とやらが私の想像するものだとすれば、あの子達だけではなく、もっと大勢が危険な目に遭う」

 

「! その計画って? あいつは子供達を使って一体何を企んでいるの?」

 

 御坂は尋ねる。テレスティーナが乱雑開放事件を捜査していたのは、木山の教え子達を確保する為なのは理解出来たが、そうまでして意識不明の置き去り達を手に入れようとした理由が分からない。

 

 単なる実験動物目的にしては、あまりにもリスクが高いように思えた。

 

「……奴が本当にあの“木原幻生”の孫だとすれば、恐らく祖父の研究を引き継いでいるのだろう」

 

「…………! あの実験を主導してたマッドサイエンティスト……」

 

 邪悪な笑みを浮かべる老人の姿が脳裏に過る。あの狂った男が、あれだけのことをしておきながら未だに野放しにされているという事実は御坂としては許せない話だった。

 

「かつて失敗した“能力体結晶”の完成……能力を強制的に暴走させることで新たな段階(ステップ)へと進める……成程。乱雑開放、それに精神感応(テレパス)を用いれば、確かに理論上は可能なのかもしれんな」

 

 聡明な木山は速やかに計画の全容を暴く。一方、御坂は理解出来ずに首を傾げる。

 

「──神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの」

 

「え?」

 

「暴走能力による“絶対能力者(レベル6)”への到達……それこそが、テレスティーナ=木原=ライフラインの目的だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 時は少し遡り、風紀委員支部にて。

 

「……本当にすみません。白井さん」

 

 頭を下げ、初春は自身の思慮の浅さを心底恥じた。先程面と向かって話し合い、白井が春上のことをただ頭ごなしに疑っていた訳ではないことを知り、己が如何に未熟であるかを再認識させられたのだ。

 

 まだまだ目の前の同期には敵わない。同い年なのに、何故こうも違うのだろうかと、その顔に悔しさを滲ませる。

 

「もう終わった話ですの。私も言葉足らずでしたの……初めから説明していれば、そもそもこのようないざこざが起きるはずもなかったのですから」

 

 対する白井はそう言いつつ、今回の件について己の中で戒める。霊夢の助言通りきちんと話し合えば、問題は呆気無く解決した。

 

 それがまるでまだ彼女には到底敵わぬのだと言われているようで、そしてきっとその通りなのだろう。

 

(……自分の愚かさに呆れますの。もう()()なんて捨てたつもりだというのに、気が付けば背中を追ってしまっている)

 

 深い溜め息を溢す。博麗霊夢を超えようとしている時点で、未だに彼女に憧れているのを認めているようなものである。

 

 結局のところ己はあの頃と何も変わっていないのではなかろうか。

 

「まあでも仲直りしてくれて本当に良かったです。二人とも変に頑固なところがありましたからねぇ」

 

 一方、二人の対話の仲を取り持っていた佐天はうんうんと腕を組んで頷く。

 

 互いに意地を張っているのは明らかだったので霊夢の弁の結果、白井の方が歩み寄る姿勢を見せてくれたのは幸いだった。

 

「じゃあ、心機一転して、皆で春上さんの疑いを晴らしましょうよ!」

 

「お姉様もそうですが、あなた方は一般人なのですが……」

 

「まあまあ。そんな固いこと言わずに」

 

 調査を再開。やはり春上の能力が何かのきっかけに触れて乱雑解放を引き起こしている、と見て間違いは無さそうであるが、彼女自身が自覚して起こしている訳ではない以上、彼女を探っても何も出ないだろう。

 

 解明すべきは、何が引き金となっているか。

 

「黒子! 居るっ!?」

 

 その時だった。電子ロックが解除され、御坂が唐突に乗り込んできた。その隣には、木山が彼女の肩を借りて立っていた。

 

「お、お姉様ッ!? それに……木山春生までっ!?」

 

「どういう状況です!?」

 

「ご、ごめん……! 説明するからちょっと待って……!」

 

 つい数時間前まで一緒に居た友人が鬼気迫る表情で思わぬ人物と共に現れたことに困惑する一同。それに対して御坂は急いで来たため息を切らしており、呼吸を整えようと胸に手を当てて落ち着かせる。

 

 とりあえず二人はソファーに座らされ、コーヒーとお茶が差し出された。

 

「実は……」

 

 そして、御坂は病院で起きた一件について語る。

 

「そんな……あのテレスティーナさんが……」

 

「まさか、警備員の部署の一つがそのようなことを……」

 

 俄には信じ難い話に驚きを隠せない。木山が幻想御手事件を引き起こした本当の動機についてはこっそりと白井は聞かされていたが、テレスティーナがそのおぞましい非人道的な実験を主導していた人物の孫娘で、しかもその研究を引き継いで置き去りの子供達を拉致し、実験を続けようとしているとは。

 

 この街の闇は深い。分かっていたことではあったが、何と酷い話なのだろうか。

 

「とにかく、春上衿衣……だったか。彼女も狙われている。速やかに保護してほしい」

 

「わ、分かりましたの!」

 

 木山の言葉に従い、白井は春上へと連絡する。また初春も直ぐ様PCを開いてテレスティーナと子供達の所在を特定せんとしていた。

 

「あ、そうだっ、霊夢さんにも連絡を……!」

 

 よく分からないが、かなり大変な事態になっているということは理解した佐天は自分に出来ることを考え、この場に居ない霊夢にこの事を伝えようと電話を掛ける。

 

「! 忘れてた!! 博麗さん襲撃受けているんだったわ!」

 

「えっ?」

 

「何?」

 

「どういうことですの?」

 

 しまったと手を叩き、思い出したように発言する御坂に、視線が集まる。

 

「木山先生の所へ行く途中で電話してて、その最中に襲われたみたいなの。恐らく相手は駆動鎧……テレスティーナの仲間よ」

 

「……成程。あの木原の女め、彼女を脅威とみて真っ先に潰そうとした訳か」

 

 妥当な策だ。幻想御手事件においては木山は己が失敗した時に備えて霊夢に子供達の事を知らせる為に敢えて気取らせたが、そうでなければ同じように隠蔽か足止めに徹底するだろう。

 

「そ、それで、どうなったんですか?」

 

「途中で切れちゃったから分からない。大丈夫だとは思うけど……」

 

 あの霊夢のことだから遅れを取るようなことはないと思いたいが、相手は武装した警備員の部隊で駆動鎧を装備している。

 

 一抹の不安が生じるのも無理はない。

 

「……あ! 繋がった! 霊夢さん! 大変なんです! み、御坂さんが木山先生と……!」

 

 と思っていれば霊夢はすぐに着信に応じ、佐天は慌てながらも状況を説明しようとする。

 

 一先ず無事であることに安堵しつつ、御坂は白井へと視線を向けた。

 

「黒子。春上さんは?」

 

「いえ。それが音信不通でして……」

 

 一向に電話に出ない春上。嫌な予感がする。

 

「! 皆さん、これを見てください!」

 

 すると初春が目の前のディスプレイ画面を指差す。そこには、春上が駆動鎧を装備した男達に連行され、車で移送される姿が映っていた。

 

 そして、車には“MAR”と記されている。

 

「これはっ……!?」

 

「春上さんが体調不良で入院した病院近辺の監視カメラの映像です。時刻は三十分前のものですがこれは……」

 

「くっ……遅かったか……!」

 

 既に根回しされていた。三十分前だというのなら今頃研究機関に運び込まれているだろう。何もかもが後手に回ってしまっている現状に御坂達は歯噛みする。

 

 もはや一刻の猶予も無い。こうなってしまっては打開策は一つ、テレスティーナが何らかの実験を起こす前に彼女の居場所を突き止め、そこへ直接攻め込んで子供達を助けるしかない。

 

 それはあまりにも、危険な行為であるのは明白だった。

 

「……上等よ。やってやるわ」

 

 そして、御坂は立ち上がる。

 

 ここまで虚仮にされた挙げ句、大切な友人が危険な目に遭っているのだ。

 

 堪忍袋の緒が限界に達した彼女のその言葉に首を横に振る者は、誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「──そういうこと」

 

 一方その頃。電話越しから御坂達の会話の内容を聞いた霊夢はここで“足止め”の意味と、己がまんまと策に嵌まり、敵の目的が達成されんとしていることを理解する。

 

 してやられた。しかし、このタイミングで気付けたのは幸いだった。

 

「なら、遊んでいる暇は無いわね」

 

 空気を蹴り上げ、一気に推進する。まだ襲撃者は半数以上残っているが、相手にするだけ時間の無駄だ。

 

『! 止まれ!』

 

『逃がすものか……!』

 

 その行く手を襲撃者達が阻まんとする。

 

「邪魔よ──」

 

 ガシャン! と、すれ違い様に霊夢はこれを瞬く間にスクラップにし、無理矢理突破していく。

 

(…………? 数が増えている?)

 

 しかし、その先でまたしても立ち塞がる駆動鎧に眉をひそめる。

 

 そもそもかなりの速度で飛行しているため追い付けるはずがなく、そこで霊夢は己が向かう先から襲撃者達がやって来ていることに気付く。

 

『やった! 増援だ!』

 

『ってことは計画も大詰めってことか。後少しで隊長がやってくれる……!』

 

 増援。それもかなりの数。その事実に飛び交う鉛弾を避けながら霊夢は舌打ちする。

 

「そこの君! 止まりなさい!」

 

「……あん?」

 

 拡声器を使った声。下を見てみれば警備員の部隊がこちらへ対能力者用の武器を向けていた。

 

 そう、この駆動鎧達はMAR所属。通報を受けて駆け付けた警備員の目に映るのは別部署とはいえ同じ組織に属する部隊が一人の能力者と交戦している光景。霊夢の方が凶悪な犯罪者で襲撃者達はこれを鎮圧しようとしているのだと誤解してしまっても不思議ではない。

 

 間が悪いことにロケットランチャーといった明らかに過剰な武装をしていた者は、既に霊夢が全滅させてしまっている。これすらも敵の思惑なのだろうか。

 

「ああもう……面倒極まりない……!」

 

 悪態をつき、霊夢は更に速度を上げる。次々と導入されていく駆動鎧を即座に撃滅しながら突き進む。

 

 どうにか間に合えば良いのだが──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 テレスティーナは焦っていた。

 

 博麗霊夢さえ足止めすれば、後は問題無いと思っていた。しかし、蓋を開けてみると木山春生が多才能力を保持したままというあまりにも想定外な事態が起こっているではないか。

 

 お陰で多くの人員が潰された。計画の完遂の為にも、貴重な戦力は無駄に出来ないというのに。

 

実験動物(モルモット)風情に肩入れしちまうお花畑ゴミ女が……ヒヒッ、だが、もうすぐだ。もうすぐで証明できる。私の研究が、私の存在が正しいってことをよなぁ……!」

 

 こんなチャンスはもう二度と無いと、思わずにはいられない。

 

 暴走能力の法則解析用誘爆実験の被験者である置き去り達の確保に加え、春上衿衣という特殊な精神感応能力の持ち主の発見……どれもこれもがテレスティーナにとっては天の導きとしか言い様が無い程の幸運であった。

 

 だからこそ、今更引き下がる道理などある訳がない。たとえ破滅しようとも、この実験だけは完遂してみせる。

 

「隊長! 追手が来ました!」

 

「ちぃ……もうかよ」

 

 顔をしかめるテレスティーナ。現在、彼女らは高速道路を超大型トレーラー車で移動していたが、相手側も馬鹿ではなく、居場所を突き止められてしまったようだ。

 

「んで、どこのどいつだ?」

 

「第三位と木山春生の他5名。うち二人は常盤台の制服を着用していることを確認しました。加えて、警備員の車両が数台こちらへ向かっています」

 

「ほお……流石に糞巫女は居ねぇが、結構な団体様じゃねぇか。なら、しっかりと歓迎してやらねぇとなぁ」

 

 警備員には統括理事会から圧力が掛けられているはずだが、どうやら情報を掴んだ一部の馬鹿は我慢ならないらしく、御坂達に協力している。

 

 尤も、そんな連中の武装などたかが知れる。第三位や他の高位の能力者に対してもこちらにはキャパシティダウンがある他、切り札を用意していた。

 

 多才能力を有した木山春生も単独ならば、脅威とは言えない。

 

「命令はただ一つ。全力で潰せ。私も出る、不確定要素は残らず潰しておかないとな」

 

 獰猛な笑みを浮かべながらそう言って部下達を向かわせ、テレスティーナも正面にある紫色に塗装された巨大な人型のコックピットに乗り込んだ。

 

 特製の駆動鎧。対超電磁砲(レールガン)を想定し、テレスティーナが“木原”としての頭脳と技術を全て注ぎ込んだ彼女の()()()()()()

 

『さあ! 最終決戦と行こうぜぇ! ヒャハハハハハハハ!』

 

 そして、起動した先端科学(ゲテモノ)の結晶が、鋼鉄の扉を突き破って外へ出る。

 

 彼女は信じて疑わない。

 

 絶対能力者(レベル6)の誕生をさせ、“天上の意思”に辿り着くのは己であると──。




意外と続いたなぁ、乱雑開放編
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。