とある幻想の夢想天生   作:大嶽丸

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さっき間違えて書きかけの状態で投稿しちゃって焦った。


天上の意思

 

 

 高速道路の上では、壮絶な戦闘が繰り広げられていた。

 

 子供達を乗せた超大型トレーラー車を守るように囲んだ大型車両からぞろぞろと現れた30人近くの駆動鎧の部隊。それと対峙するのは上層部の命令に歯向かって駆け付けた一部の警備員達と御坂と風紀委員のメンバー。

 

「おーっほっほっほっ! 他愛無し! この私の敵ではございませんね!」

 

「無駄口叩いてないで手を動かしてくださいまし!」

 

 そして、突風を巻き起こし、駆動鎧を蹴散らしながら高笑いするのは常盤台中学の大能力者、婚后光子。何故彼女がこの場に居るのかと言うと、MARに春上が連れ去られた時、実はその現場にたまたま居合わせており、不審に思った彼女は御坂に連絡すると共に、問い詰めて今回の事件の詳細を知る。

 

 すると婚后は自分も協力すると言い、当初は無関係の者を危険な目に遭わせることを躊躇う御坂だったが、今は猫の手も借りたい状況であるとしてその提案を承諾する。当然白井は猛反対していたが、木山からも説得されて渋々頷いた。

 

 結果としては大正解だった。大能力者の空力使いである婚后の戦闘力は勿論のこと実家が大手の航空会社の彼女は財力に物を言わせてヘリコプターまでも用意してくれ、御坂達はテレスティーナ達に追い付くことに成功する。

 

「撃て撃て! 撃って撃ちまくるじゃんよ!」

 

 警備員を率いる黄泉川が叫ぶ。御坂から話を聞いた彼女は憤慨していた。MARもテレスティーナも以前からきな臭いとは思っていたが、まさかここまで真っ黒だったとは。

 

 対能力者用のショック弾や盾など持ち出せるだけの武装しか持ってきていないが、それでもやるしかあるまい。それに数や装備はMAR側が優っているものの戦況は超能力者に加え、大能力者を二人擁する警備員側が優勢である。

 

 このまま押し切れるかに思われたが──。

 

『ったく──役にも立たねえカス共だなぁ? こんなクソガキ共なんざ、とっとと縛り上げてケージにぶち込むだけなのによお!』

 

 次の瞬間。閃光が迸り、警備員の車両が宙を舞う。

 

「なっ……」

 

 御坂と白井は絶句する。その光景に酷く見覚えがあったからだ。

 

『どうだぁ、超電磁砲(レールガン)? こいつはテメェの能力の完全コピー。中々の威力で、チビっちまったんじゃねえか? ヒャハハハハ!』

 

 トレーラーの鋼鉄の扉を突き破って現れた紫の駆動鎧から響くのは、テレスティーナの声。全員が視線を鋭くする中、彼女は巨大な駆動鎧の上から、その変型して開いた傘の骨のようになった左腕を見せびらかす。

 

 もはや隠す必要などないと言わんばかりに本性を全開にして悦に入るその様子に、曲がりなりにも同僚で面識があった黄泉川らは驚愕するが、構わず言葉を続けた。

 

『にしても、テメェらには感謝しなきゃいけねえよなぁ……お蔭であのクソジジイが残した実験動物共が手に入った。おまけに、あの春上とか言う、私の長年研究してきたテーマにぴったりな能力者まで見つけてくれたんだからよぉ!』

 

「春上さんをどうするつもりなんですか!」

 

 春上の名前が出たことで、車の陰で戦闘を避けていた初春が飛び出す。

 

 これにテレスティーナは嘲笑しつつ、ガラスの容器を取り出して見せる。その中には赤い結晶体のようなものが入っていた。

 

『あのガキの精神感応能力を使って、こいつと共振させるのさ。あのジジイが私から抽出した、最初の暴走能力者の脳内分泌物質、通称“ファーストサンプル”とな』

 

「! それが、“ファーストサンプル”だと!?」

 

 木山が動揺する。子供達を安全に目覚めさせる為に必要だったモノ。どうしても行方が分からなかったが、テレスティーナが持っていたのか。

 

 そして、御坂達も思わぬ事実に驚きを隠せない。“私から抽出した”、という発言はつまり、彼女もまた木原幻生の実験を受けていたということ──。

 

『こいつとあのガキの能力を組み合わせることで、あのガキは私の長年の研究テーマそのものとして生まれ変わる。漸く……漸くだ、私の理論が正しいことが立証されるんだ』

 

「……絶対能力者(レベル6)の作成」

 

『ほお? そこら辺は理解してるみたいだなぁ』

 

 その言葉に全員が息を呑む。絶対能力者。それは学園都市の設立に関わる永遠のテーマ。研究者にとっては、確かに求めるべき先なのかも知れない。

 

 しかし、そうして息を呑んでいた全員が次に信じられない言葉を聞いた。

 

『そう、LEVEL-6! “神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの”! あの春上とか言うガキは、今回の実験であのガキどもの“頭の中の現実(パーソナリティー)”を使って、生まれ変わるのさ! ──まあ、その過程でガキ共が暴走状態のまま覚醒すりゃ、この用済みの街も消し飛ぶがな』

 

 まるで自分の研究を学会に発表するように、愉しそうに語るテレスティーナが最後に呟いたその言葉に、警備員は即座に行動を決定。ありったけの弾丸を巨大駆動鎧へと撃ち込む。

 

 彼らは子供達の身を案じて上の命令を無視した者。これから多くの子供が住む街を消し飛ばすと聞いて、許せる訳が無かった。

 

『バァァアアカ! テメェらゴミ共が、これから栄光を手にする私の邪魔をしようなんて、百万年早えんだよぉ!』

 

 そんな豆鉄砲など効かぬとばかりにテレスティーナは再びコックピットへと入り込み脚部のホイールを走らせ、その巨大なアームで警備員達を薙ぎ払う。

 

「やめなさいっての! あんたの相手は私よ!」

 

 御坂が車の上に磁力で張り付き、電撃の槍を放つ。青白い稲妻は真っ直ぐ巨大駆動鎧へと命中するが──。

 

『んな攻撃が効くかよッ!』

 

 びくともしない巨大駆動鎧。やはりと言うべきか、電気に対して強い素材で作られているようだ。

 

「! なら、レールガンで……!」

 

 直ぐ様コインを取り出すが、そこで気付く。この距離からではテレスティーナへ届く前にコインが融けて無くなってしまうことに。

 

『あはぁ、レールガン! 確かにそいつは馬鹿げた火力だが、射程がたったの50mなのは知ってんだよぉ! そんでもってぇ!』

 

 巨大駆動鎧が左腕を向ける。するとその先端のアームが射出された。

 

「ッ!?」

 

『こいつはなぁ! テメェをぶち殺す為に作ったんだ! 勝てる道理なんて粉微塵もねぇんだよ実験動物ちゃんよ!』

 

 掠りでもすれば肉体をごっそり削り取るクローアーム。どうやらテレスティーナはレールガンの射程外から悠々と攻撃し続けるつもりなようだ。

 

 これに御坂の顔が歪む。現状を打破する方法については思い付いた。要はレールガンの限界射程を伸ばせば良いということ。

 

 けれど、彼女の理性は語る。果たして本当にそれが可能なのだろうか。

 

『ヒャハハハハハハハ! レベル5も所詮は実験動物の中では上等なだけの話! レベル6になれなかった役立たずの玩具に過ぎねぇんだよ!』

 

「ッ──ふざけん、なぁ!」

 

 その迷いは、迫り来るクローアームとテレスティーナのその罵声により消えた。

 

 ゼロ距離で最大火力の電撃を放ち、クローアームを真正面から破壊。破損したアームが空高くを舞っていく。

 

 これにテレスティーナは舌打ちするも、即座にもう片方のクローアームも構える。武装はまだまだ沢山ある。このまま嬲り殺してやると悪辣に嗤う。

 

「──黒子ォ!」

 

 御坂が叫ぶ。すると婚后光子と共にMARの駆動鎧を相手にしていた白井は即座に反応し、振り返る。

 

「あの残骸を私の前まで持って来て!」

 

「! ──仰せのままに!」

 

 一瞬困惑するも御坂の命令だ。従わぬ理由などあるはずもなく、白井は空から落ちるアームの先端まで転移するとそれに触れて御坂の眼前まで転送させる。

 

 何をするつもりなのか、テレスティーナは怪訝な表情を浮かべるもある予測に辿り着き、目を見開く。

 

『テメェ、まさか……!』

 

「こんな奴に良い様にやられてちゃあ……()()()()に一生勝てるかっつうの……!」

 

 脳裏に過るのは二人の姿。片や紅白の巫女、片やツンツン頭の高校生。どちらも心底ムカつく奴で、心底強い。

 

 そんな奴らに勝つ為に、限界を越えないで一体どうしようというのか。

 

「これが、私の──全力だぁぁあああ!!」

 

 閃光が迸り、轟音が鳴り響く。

 

 弾かれるアームの残骸。コインより遥かに巨大でありながらそのスピードは同等かそれ以上であり、余波で何もかもを吹き飛ばしながらそれは巨大駆動鎧へと向かい──。

 

「ちく、しょおうがああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 テレスティーナは見誤っていた。御坂美琴の全力を。過去のデータなど、いくらでも超え得る可能性を秘めているのだということを。

 

 極太の一閃が空間を走り、巨大駆動鎧を容易く消し飛ばして天高くへと伸びて行く。

 

 皆が改めて驚愕する。

 

 あれが、学園都市超能力者第三位。常盤台のエース、最高峰の電撃使い、“超電磁砲(レールガン)”なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「やった……!」

 

 超巨大なレールガンはテレスティーナの乗る巨大駆動鎧を撃破するだけでなく、その勢いのまま付近に居た駆動鎧達も大勢巻き込んで倒した。

 

 白井達の方も見てみれば、あれだけ居た駆動鎧の一団は既に全滅しており、黄泉川達が身柄を拘束していた。

 

 これにて一件落着……とは行かない。早く春上と置き去りの子供達を助けなければ。

 

「──糞が。死ぬかと思ったぞ、クソガキ」

 

「ッ!?」

 

 しかし、突如として甲高い耳障りな音が鳴り響き、御坂は頭を押さえて膝を突く。御坂だけではなく、白井や婚后達も同じような状態に陥る。

 

「ッ、キャパシティ……ダウン……」

 

「念のため持ち込んどいて正解だったな。初めから、こうすれば良かったんだが──」

 

 駆動鎧の残骸の中からテレスティーナが這い出てくる。その顔色は悪く、満身創痍であったが、相も変わらず獰猛で下劣な笑みを浮かべていた。

 

「ッ──まだ生きていたのか……!」

 

 この中で問題無く動ける木山が急いで車から出て念動力で取り押さえようとするが──。

 

「させるかよッ! クソアマ!」

 

 しかし、次の瞬間。翳した木山の右腕が内側から弾け飛ぶ。その一部は機械であり、肉片の他に金属の部品が散らばった。

 

「がああああッ!?」

 

「ジャミングしたんだ。私の予想通りだったな、キャパシティダウンが効かない時点で気付くべきだった……薬味のババアが協力するとも思えねぇし、技術流出か、それともどこぞの誰かが支援したのか? どっちにしろ、これで多重能力擬きは使ねぇだろ」

 

 実のところ一か八かの賭けではあったが、己の推測が的中していたことにテレスティーナは高笑いし、木山を蹴り飛ばす。

 

「かはっ……」

 

「木山先生……!」

 

 駆動鎧の脚力で蹴られた木山はそのまま意識を失う。対してテレスティーナは嘲笑しながらも、随分と苛立っている様子だった。

 

「ここまでやってくれるとは思わなかったよ。実験動物も少しはやるようだ……ヒヒッ、だが、それももう終わりだ」

 

 テレスティーナは変形した左腕の銃口を動けない御坂へと向ける。

 

「何でよ、あんただって犠牲者じゃない……」

 

「あ?」

 

 御坂がそう言いながら、立ち上がった。

 

「ファースト・サンプルを抽出された……ってことはあんたも実験台だったんでしょ? お祖父さんに能力を暴走させられて、なのにっ──」

 

「犠牲なんかじゃねぇよ。権利を得たのさ、私から生まれた、ファースト・サンプルによって……絶対能力者(レベル6)を生み出す権利をなぁ!」

 

 一瞬テレスティーナは顔をしかめるもすぐに元の笑みを浮かべ、宣言する。

 

 完全にそう信じて疑っていないとばかりの反応に説得は無意味なのかと、御坂の顔が歪む。このままでは自分だけでなく白井や初春達も殺されてしまう。どうにか能力を使用しようと必死に抵抗するがそれよりも先にチャージが終わり──。

 

「──ぐあぁっ!?」

 

 その時だった。

 

 ヒュン! と一本の()が飛来し、銃身を貫く。それによって穴が空いたレールガンは破損し、チャージ途中で暴発して弾け飛んだ。

 

 何が起きたのか、テレスティーナは左腕に伝わる高熱に苦痛の表情を浮かべ、そしてある人物の存在に気付いた。

 

「博麗……霊夢……ッ!!」

 

 自分達の真横の位置。山のように積み上げられた駆動鎧の残骸や瓦礫の上から、紅白の巫女は悠然とこちらを見下ろしていた。

 

「チィッ……化け物め……あの包囲網を、もう突破して来やがったのかよ」

 

 石橋を叩いて破壊しかねない程の人員を割いたつもりだったが、それが杞憂どころかまだまだ不足だったという事実にテレスティーナは唖然とする。

 

 よりにもよって戦力の大半を失った、ここに来てのイレギュラーの介入。もはや計画は破綻したに等しく、それはテレスティーナにとって受け入れ難い事実であった。

 

「……ギリギリ間に合った、って認識で良いのかしら?」

 

 あの女が度々電話で名前が出てきたテレ某なのだろう。こちらを見て明らかに動揺する彼女を、霊夢は冷徹な視線で見据える。

 

「ッ、動くんじゃねぇ! 一歩でも動いたらこいつらをぶっ殺すぞ!」

 

 叫ぶテレスティーナ。レールガンは破壊されたが、当然予備があるし、駆動鎧のパワーならば人間一人捻り潰すことなど容易い。

 

 しかし、そんな悪足掻きに対し、霊夢の反応は冷ややかなものだった。

 

「じゃあ、試してみる? あんたが先に殺すか、私が先にあんたを叩きのめすか」

 

「……は?」

 

「私は出来るわよ。あんたが指一本動かすよりも早く、あんたを叩きのめしてやることくらい」

 

 何てことのないかのように言う。一切の揺らぎのない口調で発せられたその言葉は、全くハッタリでもなんでもなく本気で言っているのだと理解させられ、テレスティーナは動揺する。

 

 そして、次の瞬間には霊夢が目の前に立っていた。

 

「ッ!? ──がぁっ!?」

 

 反応した時には既に遅し。抵抗する暇も無くテレスティーナは巨大な力によって叩き伏せられ、そのまま大地とキスする羽目になる。

 

「ほらね? 出来たでしょ」

 

「…………ッ!?」

 

 あまりにも一瞬のことに、テレスティーナはただただ困惑するしかなかったが、自身が地べたに這いつくばり、霊夢に足蹴にされていることを理解するとその顔に怒りを滲ませる。

 

 超スピード? 瞬間移動? 分かりきっていたことではあるが、書庫(バンク)のデータとは違い過ぎた。空中浮遊以外の能力を持っているとしか思えず、一体どれだけ理不尽な存在だというのか。

 

「畜、生が……!」

 

「あら? 他の奴よりも頑丈なのね」

 

 テレスティーナがまだ意識を保っているのを見て霊夢は意外そうに呟く。

 

 彼女の纏う駆動鎧はけばけばしい紫色の見た目だけでなく、性能も段違いなようだ。かといってどうなるという訳でもないが、また妙な行動に出られても困るので霊夢は今度こそ意識を刈り取らんと更なる一撃を見舞おうと大幣を振り上げる。

 

(糞、糞、糞糞糞糞糞糞ォ!! どうする、どうする、一体どうすりゃいいっ!? この私がこんなところで終わるってのかっ!? ちげぇだろ! 見返してやるんだ! あのクソジジイを! 私の存在価値を否定した何もかもを……!!)

 

 そのとてもつない執念が、或いは腐っても科学の申し子たる“木原”が故か。

 

 僅かの刹那の中でテレスティーナは脳味噌をフル回転させ、打開策を導かんと高速で思考する──。

 

 パリィン! と、何かが砕ける音が響く。

 

「!?」

 

 舞い散る赤い破片。頭部を狙ったはずの大幣はテレスティーナががばりと起き上がったがために大きく外れ、彼女が翳した腕へと当たり、在らぬ方向へと捻じ曲げる。

 

 その手に握られていたのは、赤い結晶体。先程御坂達へ見せたファースト・サンプルだった。

 

 あろうことか、テレスティーナは計画の要であるはずのそれを霊夢に破壊させた。そんな意味不明な行為に一同が驚愕する中、霊夢は首を傾げながらも再び攻撃しようとし──。

 

「? ──ッ!?」

 

 ピタッと、霊夢の動きが停止する。

 

 砕かれたファースト・サンプルは破片となり、そこからどんどん細かくなって塵と化す。それは空気中を漂い、迂闊なことに霊夢はこれを()()()()()()()()()

 

「な……」

 

「──ギ、ギャハハハハハハ!! ざまぁみやがれ! プランBって奴だ!」

 

 直ぐ様異変は起こり、霊夢は顔を歪めて膝をつく。その様子を見て複雑骨折した腕の痛みなど忘れてテレスティーナは歓喜の表情を浮かべる。

 

 最後の最後に行った悪足掻きが実を結んだ。既にどう転ぼうが、計画は破綻してしまっているが、それでも何もかもを台無しにしてくれた憎き存在に、一矢報いることが出来たのだ。

 

「ファースト・サンプルを直接投与したんだ! 運が良けりゃ絶対能力者になれるかもしねぇが、どっちにしろ負担によってテメェの肉体は崩壊する!」

 

「ぐっ……ファースト……?」

 

 それはテレスティーナが万が一自身の計画が破綻した時の為に用意したサブプラン。別の能力者にファースト・サンプルを使用し、その能力を暴走させる。予定では自身の計画を邪魔する御坂美琴……そして博麗霊夢に投与するつもりであり、予定通り決行した。

 

 学園都市の裏で蔓延る“体晶”のオリジナルであるそれを高位の能力者に、それも超能力者クラスに使えば、ほんの一瞬でも絶対能力者に至る可能性がある。かつて樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)には絶望的な答えを出されたその理論を彼女は躊躇い無く実行に移す。

 

 失敗しても構わない。上述したようにこれは計画を破綻させた存在への憂さ晴らしなのだから──。

 

「このままでもくたばるだろうが、もう許さねェ……死にやがれ想定外(イレギュラー)!」

 

 そう叫んでテレスティーナは肩部の収納スペースから取り出したのは大型の散弾銃(ショットガン)。一発で人体をズタズタの蜂の巣にするそれの銃口を霊夢へと向け、微塵の躊躇も無く引き金を引く。

 

「博麗さん……!!」

 

 御坂が止めようとするが、キャパシティダウンの影響はまだ続いているし、たとえそれが無かったとしてもこのタイミングでは間に合わない。

 

 そして、乾いた銃声が響く。その次の光景を予測してしまい、思わず御坂達は目を伏せる──。

 

「──は?」

 

 しかし、銃声の次に聴こえたのは弾丸が肉を抉る音でも、人が倒れる音でもなくテレスティーナのその間抜けな声。

 

 恐る恐る目を開けてみれば、霊夢は健在のままそこに立っていた。

 

「何が……今のは……すり抜け……?」

 

 茫然とするテレスティーナ。確かに当たったはずだ、避ける素振りどころか霊夢は動きもしなかった。

 

 にも拘わらず彼女は全くの無傷で、着弾したのは後ろの壁。理解不能な、有り得ない光景を前に、テレスティーナは動揺を隠せない。

 

(どういうことだ? これではまるで()()()()()()()()()()()……そんな馬鹿な話が──!?)

 

 すると突然テレスティーナの顔が固まる。

 

「ま、まさか……テメェの無重制御(グラビティルーラー)は、空中浮遊ってのは、重力操作ってのは……そういうことなのかッ!?」

 

 聡明であるが故に、テレスティーナは戸惑いながらも即座にある結論に辿り着き、しかしそれは科学者にとっては、あまりにも信じ難いものだった。

 

 だが、もしもそうであるとすれば、説明が付く。付いてしまうのだ。

 

「──()()()()感覚ね」

 

 一方、霊夢は立っていた。今しがたまでしていた歪んだ顔ではなく、涼しげな表情を浮かべ、コキコキと気だるげに首を回す。

 

「なっ……!? 暴走してねぇのか……!?」

 

 またしても驚愕させられる。強制的に何倍も出力を引き上げられた“未知の領域”に脳や身体が耐えられるはずがなく、暴走しない訳がない。

 

 しかし、実際はどうだ。霊夢は最初こそ苦しんだように見えたが、今は暴走した様子も無く、出力が大幅に上がった能力を平然と()()()()()()()()()

 

 単純な話として、彼女にとって今の状態は“未知の領域”ではなく、既に到達している“既知の領域”であり、ある意味()()()状態なのだが、そんなことを知る由もないテレスティーナは訳が分からず、混乱し、そして理解する。

 

「さて、と……よくもやってくれたわね? ま、多少は感謝するわ。お蔭でまた()()()()()

 

 ──この少女に常識は通用しないのだと。

 

「ヒ、ヒヒッ……けひひっ」

 

 笑う。ただ笑う。笑うしかなかった。

 

 霊夢が歩みを進め、先程のように大幣を振り上げ、テレスティーナへと迫る。

 

(ああ。糞が。もう終わりかよ。けどまあ……最後の最後で面白れェモンが見れた)

 

 そこに恐怖はなく、狂喜に満ちている。絶対能力者の作成には失敗したが、より恐ろしい事実を知れた。()()()()は成せるだろうと彼女は喜びに打ち震える。

 

(ヒャハッ、ヒャハハハハハハ! ざまぁみろクソジジイ! テメェの計画は必ず破綻する!  私のように全部台無しにされるんだ! この女がこの街に、この世界に存在する限り絶対になァ!)

 

 それは確信だった。

 

 博麗霊夢という存在が自分の予想する通りなのであれば、木原幻生の掌に収まるような存在であるはずがない。必ずやあの老骨は身を滅ぼす結果になる。

 

 “神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの”。

 

 木原幻生はそれを絶対能力者であると提唱し、多くの科学者もそう思っている。統括理事長のアレイスターが何を考えるのかなど知りもしないが、それでもその過程に絶対能力に近い何かがあるのだろう。

 

 けれど、テレスティーナは思うのだ。

 

 ああ、これだ、これが、これこそが、正しく“天上”の──。

 

 ゴッという頭部の衝撃と共に意識が暗転する寸前。テレスティーナが見たのは、無慈悲で妖しく、そして美しい二色蝶の姿だった。




???「常識に囚われてはいけないのですね!」
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