とある幻想の夢想天生   作:大嶽丸

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マネーカード

 

 

「ひょひょひょ……超能力者(レベル5)の能力は、いつ見ても心躍るものがあるがね」

 

 他に人の気配の無い部屋で、モニターの画面とにらめっこをしている白衣の老人男性が一人。彼の頭の生え際は半分以上後退しており、前頭部の左側には特徴的なシミがあり、そしてその瞳には狂気を孕んでいた。

 

「だが、これでは絶対能力者(レベル6)には届かん」

 

 失望……というよりかは、とうの昔に諦めていて、今更失望するまでも無いと言った風に溜息混じりに吐き捨てる。

 

「だけど“博麗霊夢”君か。以前から気になっていたが、やはり面白い存在だね」

 

 切り替わった映像に映るのは、最新鋭の駆動鎧の軍勢を一方的に蹂躙する紅白の巫女。枠外の原石にして最大のイレギュラー。

 

 出来得ることならばテレスティーナを打倒する場面も観たかったが、残念ながら映像には残っていなかった。まるで妨害されているように、博麗霊夢の映像記録はその暴れっぷりとは裏腹にあまりにも少なかった。

 

 何故かは大体予想が付く。恐らく彼女の能力開発担当が関わっているのだろう。博麗霊夢に干渉しようものなら、研究機関ごと叩き潰す異端の科学者……その思考回路は科学の申し子たる“木原”の一人である男にも理解が及ばなかった。

 

「現状最も可能性があるのは一方通行(アクセラレーター)君の他には彼女くらいだね。ただまあ……あまりにも不確定要素が過ぎるが。アレもどうせなら僕のお下がりの置き去り(チャイルドエラー)なんて使わずに博麗君を使えば良かったというのに……まあ、アレにそんな度胸は無かったという訳か」

 

 実の孫娘をアレ呼ばわりしながら男、“木原幻生”は笑う。愉しそうに、老人とは思えぬ、子供のような笑顔で。

 

 そして、いつの間にかモニターの画面はまた切り替わっていた。

 

 ──“絶対能力(レベル6)進化(シフト)計画”──。

 

 でかでかと映し出されている、自身がかつて書き上げた論文のタイトル。これこそが幻生が掲げる研究であった。

 

「科学の発展は犠牲無くしては有り得ん。よって、あの惨めな出来損ないは落第だ。アレはもはや“木原”の名を冠するに値しない」

 

 それから程なくして、全ての電子記録や警備員の捜査記録から、テレスティーナのミドルネームの“木原”の二文字は省略あるいは抹消され、テレスティーナ=ライフラインの表記に統一されるのだった。

 

「ふうん……何も知らないみたいね」

 

 そして、木原幻生は気付いていない。己の命運が既に握られている状況だということを。

 

 暗闇の中、誰も居ないはずの部屋ではしゃぐ老人を端末の画面越しから赤髪の女──“教授”は頬杖を突き、つまらなさそうに見下ろす。

 

「残念ね。こんな素敵な光景が観れないなんて」

 

 興味を失ったとばかりに教授は端末の電源を切り、遊び終えた玩具のようにその辺に放り捨てると手をスライドさせるように自分の前に翳す。

 

 すると空間から滲み出るようにホログラムの画面が出現し、そこには博麗霊夢の姿が映し出されている。

 

 いつもと変わらぬ、しかし決定的に何かが違う。既に教授はこの映像を何度も何度も食い入るように観ていた。

 

「テレスティーナ……だったかしら。元モルモットの木原になんて全く期待していなかったのだけれど、これはこれは……思わぬ成果だわ。ふふ、戸惑いこそが人生。いつでも()()()というのは思いもよらぬ所から来るものなのね」

 

 徹底的に扱き下ろした幻生と違い、教授の方はテレスティーナを称賛する。

 

 当て馬にすらならない、木山春生に恩を売る過程で軽く処理されて終わるだけの有象無象の塵芥のはずだったが、意外にも超能力者(レベル5)や聖人、錬金術師を差し置いてこれまでの誰よりも“彼女”の力を引き出した。

 

 それも魔術の側面ではなく、科学の側面を。尤も、どちらともそこに属するかと言えば、些か疑問ではあるが、教授には関係の無い話だ。

 

 体晶による能力の暴走など一時的なものに過ぎないかもしれないが、それでも“無重制御(グラビティルーラー)”の真髄、その片鱗を露にさせたことは偉業に等しい。

 

「ウフフ素敵。とっても、とてもとても素敵。やっぱり知るのと見るのとでは違うわね……“アレイスター”の方はこれを知っているのかしら? 滞空回線(アンダーライン)頼りなら無理でしょうけど」

 

 彼女は非常に機嫌が良かった。あの片田舎の集落で博麗霊夢を見つけ、この街に引き込んでから早数年。とある少年ただ一人の為だけに存在するこの(テレマ)の環境ならば順当に成長していくかと思えば、待っていたのは停滞だった。

 

 あまりにも役不足。霊夢に落ち度があるとすれば、ひとえに強過ぎたことだろう。

 

 だからこそ、今回の進展は教授にとって実に喜ばしいことなのだ。そこらの魔術師をけしかけるだけではこうはならなかった。

 

「さて、これなら多少早めても問題無いわね。“菫子ちゃん”の方も色々と動いているみたいだし……いずれこの街を更なる混沌が襲う。それまでに霊夢には頑張ってもらわないと」

 

 とても、とてもとても愉しそうに、待ち遠しそうに教授は笑みを浮かべ、くるくると椅子を回す。

 

「科学の発展は犠牲無くては有り得ない……そうね、何事にも犠牲は付き物。けれど、何もかもを世界すらも犠牲にしたところで発展するとも限らず、そして発展した先に何かあるかと言えば、()()()()。ただ腐り落ちていくだけよ」

 

 絶対能力者、天上の意思、神浄──この学園都市が、あの“人間”が成そうとしている事象に興味が無いと言えば嘘になるが、所詮は些末事に過ぎなかった。

 

 彼女が求めるのは別のモノ。

 

「──◼️◼️◼️」

 

 ぼそりと囁かれたその言葉は、雑音混じりでまともに聞き取れるようなものではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 テレスティーナ=木原=ライフラインは逮捕され、世間を騒がせた乱雑開放(ポルターガイスト)事件については解決した。

 

 置き去りの子供達も無事に救出され、一番の問題であった昏睡状態からの覚醒も既に木山は安全に覚醒させる方法を用意していたようで問題無く目覚めることが出来た。

 

 春上は漸く親友と再会し、木山も悲願を達成し、久々に教え子達の声を聞いて涙を流していた。彼らは再び学園都市の闇に巻き込まれぬよう黄泉川ら警備員が責任を持って保護し、今は経過観察のためしばらく入院するも、退院した後は普通に学校に通えるという。

 

 まだ問題は幾つか残っているものの、こうして事件自体は大団円で終わった。

 

 それから数日後。霊夢はと言うと……。

 

「祝! 任期満了! 風紀委員退職!」

 

「いえーい」

 

 いつものファミレス。昼下がりにこうして佐天と駄弁るのも日課になりつつあった。

 

 今朝、漸く期限が過ぎて霊夢は風紀委員という職から解放された。固法や初春からは名残惜しそうにされるも、やはり労働は糞なので躊躇無く辞表を渡した。

 

 因みに白井は終始不機嫌そうにこちらを睨んでいた。別れの挨拶をすればプイッとそっぽを向かれた。まるで子供のような反応に困惑したが、どうせまた会った時は鬱陶しく説教してくることだろう。

 

「うーん……でも何だか勿体無いですねぇ」

 

「え? 何がよ?」

 

「だって絶対天職じゃないですか? 幻想御手事件に能力者狩り事件、そしてこの前の乱雑開放事件……あんな短い期間にこんなにも大事件を解決するだなんて」

 

「あー? あなたまでそんなこと……第一そんな“短い期間”にこうも事件が起きてんのよ? ずっとやってたら過労死するでしょうが」

 

 何度も言うが、労働は糞である。ほぼボランティアとなれば尚更と言えよう。タダ働きなど真っ平御免だった。

 

「それにポルターガイストとやらは殆ど蚊帳の外だったわよ。ただあの変なメカメカ軍団をボコってたら勝手に解決してたわ」

 

「霊夢さんが駆け付けなきゃ危なかったって聞きましたよ? 私もキャパシティダウンを破壊しようと動いてましたけど間に合うか分かりませんでしたし……」

 

「ああ、あの時見ないなと思ってたらそんなことしてたの。あなた」

 

 どうやら佐天も現場に居たらしい。御坂達とは別行動していたのだろうか。

 

 風紀委員である初春はともかく、戦闘力皆無であろう彼女があのような危険な現場に赴くのは流石に無謀ではと霊夢は注意する。

 

「あははは……確かに思い返してみると一歩間違えれば足手纏いでしたね。結局何も出来ませんでしたし。でもボディーガードとして居候……じゃなくてっ、ルームシェアしてる子がついて来てくれて襲ってくる駆動鎧をバッタバッタと斬り倒してたんで全然大丈夫でしたよ!」

 

 白井と初春にもこっぴどく叱られたと後頭部を掻く佐天。一方で霊夢は彼女にルームシェアする同居人が居るという話は初耳だったため意外そうにする。

 

 それに駆動鎧を倒せるということは高位の能力者の可能性が高い。となると、同級生という訳ではないようだが……。

 

「それにしても──」

 

「うん?」

 

「木山先生……どこに行っちゃったんですかね」

 

 ふと、佐天が呟く。子供達が目覚めた二日後。テレスティーナに吹っ飛ばされた腕の治療のため入院していた木山春生は()()()()

 

 しかし、何者かに拉致されたという訳ではなく、本人の意思によるもの。事前にカエル顔の医者に子供達を頼むという旨の話をし、彼の口座に子供一人一人が成人後も問題無く暮らせるくらいの多額の金が振り込まれたらしい。

 

 突然の失踪に御坂らは困惑。霊夢としてもここにきての重大な手掛かりの喪失はアウレオルス=イザードの一件を思い起こさせ、あまり気分は良くなかった。

 

 これで振り出しに戻る……と、言いたいところだが、幸いにも木山には彼女の教え子達という繋がりが残っており、その居場所についても見当はつく。

 

(“岡崎教授”、ね……何を企んでいるのか知らないけど、今後は目を光らせておかないとね)

 

 脳裏に過るのは、日本人とは思えぬ、しかし染めたにしては色鮮やかな深紅の髪にこれまた真っ赤な衣装を纏った、宗教被れの科学者。霊夢の能力開発担当であり、彼女をこの科学の街へと引き込んだ人物……木山は彼女の下に居るのだろうと霊夢の化け物染みた第六感は告げていた。彼女ならば多才能力を再現することも容易いだろう。

 

 以前から“教授”が何らかの企てをしており、その計画(プラン)に己を組み込んでいることに霊夢は気付いていたが、あまりにもどうでも良く、看過していた。

 

 あの日、学園都市という博麗霊夢にとって苦痛でしかない場所へわざわざ足を運ぼうと思ったのは、あの胡散臭く、気が触れているとしか思えない彼女に“何か”を感じたからだ。それは期待外れな結果だったと悲観していたが、今こうして“手掛かり”が舞い込んでくる状況を見るに、やはり正解なのかもしれない。

 

 どうであれ、時間はまだある。教授の企みについては何となく()()()()()()()()()()()()ような気がしているので再び尻尾を出すまでは直接問い質したりといった真似はまだしないつもりだった。

 

 情報は得たのだ。焦ったところで糠喜びで終わってしまっては骨折り損。そうならぬよう過度に期待せず、のんびり気儘に探そうと霊夢は考える。

 

 けれど、出来得ることなら、()()()()()()とは思うが──。

 

「ま、そのうち見付かるでしょ。黄泉川先生も辻斬り逮捕のついでに捜索するって言ってたし」

 

「そうですかねぇ……ん? 辻斬りって何です?」

 

「ん? あー、切り裂き魔のことよ」

 

 霊夢がその口にすると、佐天が僅かに瞠目する。

 

「あ、ああ……切り裂き魔のことですか。まだ捕まってないんですねー。最近めっきり音沙汰ないのでもう学園都市から逃げたとか高位の能力者に返り討ちに遭ったとか色々と噂されてますけど……」

 

 思えば、未だに野放しな切り裂き魔。てっきりすぐにまた闇討ちしてくるかと霊夢は思っていたが、その気配は無く、新たな被害すら出ていない。

 

 ただ、奴はまだこの街に居る。それだけは確信を持って言える。

 

「へぇ……そういえば霊夢さんは戦ったんでしたよね? 切り裂き魔と」

 

「ええ。まんまと逃げられたけど」

 

「……さっき辻斬り、って呼んでましたけど何か理由があるんですか?」

 

「え?」

 

「あ、いえっ、ちょっと気になって」

 

「別に大した理由なんてないわよ。刀をブンブン振り回して襲ってくるんだから切り裂き魔というよりも辻斬りでしょ」

 

「! 刀……ですか」

 

「?」

 

 切り裂き魔についてやたらと尋ねてきたかと思えば不審な態度を見せる佐天に、霊夢は眉をひそめる。

 

「涙子……あなた……」

 

「え? な、何です?」

 

 ジッと見つめてくる霊夢に露骨に動揺してそわそわし始める佐天。明らかに怪しいが……。

 

「……また首を突っ込もうってんじゃないでしょうね? やめなさいよ。あいつ、見境無しって訳じゃあないみたいだけれど、下手すりゃ怪我じゃ済まないわよ」

 

「わ、分かってますって。流石に私もそんな自殺行為みたいなことしませんよ」

 

「どうだか……ま、夜は出歩かないってのは当たり前として、危ない目に遭いそうになったらすぐに連絡してちょうだい。駆け付けるから」

 

 佐天の並々ならぬ好奇心の強さはこれまでの関わりでよく分かっている。加えて、無能力者(レベル0)であることへのコンプレックスや自分も役に立ちたいという意識も強い。これに更に元々の行動力の高さが相まってトラブルメーカーの誕生である。

 

 宇佐見菫子も似たようなタイプであるが、曲がりなりにも高い実力を兼ね備える彼女と違い、本当に力の無い一般人なので霊夢は危なっかしくて目が離せない。

 

(ハァ……私の周りにはどうしてこう、面倒事を呼び込む奴ばっか集まるのかしら)

 

 漏れる溜め息。しかし、そういう意味では風紀委員を辞められたのは僥倖だった。

 

 佐天経由で関わる可能性はあるものの仕事ではないのだから自ら進んで捜査するようなことは無くなる。尤も、上条当麻という特大の疫病神が居るため多少楽できるくらいだろうが……。

 

「りょ、了解です。くれぐれも気を付けます。あ、そういえば霊夢さん! こんな話知ってます?」

 

 すると佐天が話題を変える。これまた露骨ではあったが、霊夢としてもそこまで口煩く言うつもりはないので追及はしない。

 

「何? また変な都市伝説でも拾ってきた?」

 

「お、ご名答! 流石ですね!」

 

 都市伝説。これも何となく宇佐見菫子を連想させた。実のところ彼女は超が付く程のオカルト趣味ではあるが、都市伝説について言及したことは記憶にある限り一度も無い。にも拘わらず霊夢は都市伝説を聞くと真っ先に思い浮かぶのが宇佐見であった。

 

「じゃーん! 見てくださいこれ!」

 

「……何それ?」

 

 すると佐天が自慢気に見せてきたのは数枚のカード。見覚えのないそれに霊夢は首を傾げる。

 

「マネーカードですよ、マネーカード」

 

「マネー? お金なのそれ?」

 

「その通りです!」

 

 学園都市内で流通している電子貨幣制度の一つ。一般的な電子マネーと同様、金額を予めチャージしておき、会計の際に提示して利用するものだ。

 

 どうやらここ数日、第七学区のあちこちでこのマネーカードが封筒に入った状態でばら撒かれている事案が発生しているらしい。主に人通りが少ない路地にて発見され、金額は千円くらいから多いものでは五万円を超えるという。

 

「ふうん……わざとお金を捨てるだなんて、罰当たりな奴が居たものねぇ」

 

「ですよね! きっと金持ちの道楽ですよ! 私達が犬のように探し回って拾ってるのを見て嘲笑ってるんです! いやーほんとありがとうございます! ブルジョア万歳!」

 

「プライド無いわね」

 

 天を仰いで感謝する佐天に霊夢は呆れつつもそのテンションの高さに納得する。

 

 一般的な低位の能力者にとって金銭面は死活問題なのは上条を筆頭とした貧乏学生を見ていれば分かることであり、特に頻繁に洋服などを買う佐天は日頃からかなり金欠なのは容易に想像が付く。

 

 そんな彼女らにとっては今回のマネーカード騒動は一大イベントなのだろう。

 

「霊夢さんも一緒に集めましょうよ。小遣いはいくらあっても困りませんよ?」

 

「……確かに金はあるに越したことはないけどねぇ」

 

 佐天の誘いに霊夢は難色を示す。そもそも特段彼女は金銭に執着しておらず、ちまちま拾い集めるという作業への面倒臭さが勝っていた。

 

 無論、この現代社会の中で生きてゆくには何よりも金が必要不可欠であるということを、裕福ではない養父に育てられた霊夢は嫌というほど理解しているが、時は金なりという言葉があるように、わざわざ時間という人間にとっては有限かつ貴重な代物を割いてまでマネーカード拾いに興じる必要性は感じられなかった。

 

「えー、霊夢さんはお金に困ってないんですか?」

 

「そうね。流石に食ってく分には問題無いわ。たまに酒──こほん、食事したりとか本買ったりとか色々なことに散財して無くなることはあるけど」

 

 異能力者(レベル2)として登録されている霊夢の学園都市からの支援金は決して多くはない。持ち前の貧乏性と養父との生活で覚えた節制により何とか遣り繰り出来ているものの基本的には自堕落に好きなように生きているので定期的に金欠に陥る。

 

 要するに、上条や佐天ほどではないが、霊夢も金を持っていなかった。

 

「……本? 霊夢さん、本を読むんですか?」

 

「ええ。結構読むわよ」

 

「へぇ、意外ですねなんか」

 

「どういう意味よ」

 

 言いかけた女子高生が決して飲まぬような代物とおぼしき発言を聞き流しつつ、イメージとはかけ離れた趣味が判明して驚く佐天。そんな反応に霊夢は失礼ねと顔をしかめる。

 

 そう、こう見えて霊夢は読書家なのだ。

 

「どんなの読むんですか?」

 

「そうね……基本的に小説、特に探偵とかが活躍する推理物が好きね」

 

「はぇー、これまた意外です」

 

 しかし、恋愛小説等よりはずっとイメージは湧く。見た目だけなら剣と魔法のファンタジー物とかを読みそうではあるが。

 

 推理小説。日本だと江戸川乱歩や横溝正史。海外だとコナン=ドイルやレイモンド=チャンドラー、アガサ=クリスティ等々。有名どころしか知らない佐天が思い浮かぶのはこれくらいであり、またあまり読んだことはない。彼女が読むのは主に漫画やゴシップであるし、最近は電子書籍もあるため紙の本自体を手に取る機会が少なくなりつつあった。

 

「ハマっちゃうとずっと読んでしまうのよね。気付いたら三日三晩読み明かして危うく飢え死にするところだった事もあったわ」

 

「え……」

 

「んで、そっからずっと寝てたら不登校扱いになって先生とかが騒ぎ出して本当にだるかった。思えば、あれが風紀委員にぶち込まれる切っ掛けだったかしら」

 

「の、のめり込むタイプなんですね……」

 

 あっけらかんと言う霊夢。その予想を遥かに上回る読書好きっぷりに佐天は若干ドン引きしてしまう。

 

「犯人を予想するのが楽しいのよね。意外な展開だったりするし、的中することもあれば外れることもある。そういうのは面白くて、なかなか()()()()()になるわ」

 

 流石の霊夢も実際に会うことも出来ない文字や数枚の挿絵の中にのみしか存在しない推理小説の内容に関しては持ち前の勘が上手く働かず、かといっていつものように片っ端から怪しい奴を潰していくような行為も出来ない。

 

 故に、提示された断片的な手掛かりや台詞、登場人物達の人間関係から動機や犯行の方法を推理・考察し、その読みが当たっているかどうかと読み進めていく感覚はとても新鮮で楽しめた。

 

「へぇー、私も読んでみようかな、小説」

 

「あらそう? じゃあ今度オススメの奴を何冊か見繕ってくるわよ」

 

「本当ですか! ありがとうございます!」

 

 そんな話をしているとまた読みたくなった。ここ最近は色々と忙しくてゆっくりと読める機会は少なかったが、もうしばらくは読書出来るくらいの時間は取れるだろう。

 

 この街には貸本屋が無く、書店で購入しないとならないため古本でも物によればそれなりに値が張るのが難点である。

 

(それに馬鹿みたいに連戦させられたお蔭で装備をかなり消費した。近々補充しないと……かなり痛い出費だわ)

 

 一番の問題を思い出す。神裂火織、木山春生、自動書記、アウレオルス=イザード、テレスティーナの部下達……特にアウレオルス戦で霊夢の()()()()である封魔針や御札といった武器をかなり消費してしまい、ある程度補充する必要があった。

 

 しかも聖人にすら傷を負わせるその威力から分かるように特注で魔術師の目から見てもかなり上等な物であり、当然相応に高額なのである。

 

 別に支払えないことはないが、懐はだいぶ寒くなってしまう。少なくとも今のようにファミレス通いは難しくなるだろう。

 

「……因みに涙子。そのマネーカードってのはどのくらいの頻度で拾えるものなの?」

 

 故に、少しだけ興味を抱く。あるかも分からぬマネーカードを拾い集めるなど、額はたかが知れているとは思うが……。

 

「はい? えっと、結構見つかりますよ。私なんか昨日小一時間探し回っただけで七枚も拾いましたし」

 

「ふうん……それっていくら?」

 

「大体10万円くらいですかね」

 

「じゅっ……本当に?」

 

 驚きの金額に霊夢は目を見開く。そんなに拾えるものなのか。

 

「……少し舐めていたわね」

 

「おお? やる気になっちゃいました? 流石の霊夢さんも日本銀行券の魅力には敵いませんか」

 

「じゃあ、一緒に探して二人で山分けって話でどう?」

 

 顎に手を当て、一考したかと思うと霊夢がそう提案する。それはつまり万が一少ししか見つからなくても現時点で佐天が拾っている十万の半分である五万は最低保証されるということ。

 

 なかなかに狡い奴である。

 

「勿論です! 一緒に成金の仲間入りを果たしましょう!」

 

 そして、そんな霊夢の策略になど気付かず、二人で一緒に探すという部分への嬉しさから佐天は快諾する。

 

(……にしても)

 

 何故マネーカードをばら撒いているのか。単なる善意や物好きの犯行なら良いが、場所が路地裏なのもあって何らかの思惑が絡んでいるののかもしれない。

 

 例えばそう、マネーカードを拾わせることで人の通らない場所を探っているだとか、逆に人が居ない場所を潰しているのだとか──。

 

(ま、どうでもいいか)

 

 だとしたら何になるのかと言えば、何にもならない。もはや風紀委員ではない霊夢には微塵も関係無い話だった。

 

「あ、それと霊夢さん。もう一つ変な噂が流れてるんですよ」

 

 すると佐天が思い出したように口にする。

 

「──この学園都市に自分そっくりな人間……“ドッペルゲンガー”が現れるみたいなんです」

 

 霊夢の知らぬうちに、新たな物語が幕を開けようとしていた──。




もしも常に金欠だった場合、茨霊夢化して色んな商売や事業に手を出して騒ぎを起こす。あと本編よりも多少明るい性格になる。黒子はぶちキレるし☆は胃を痛める。
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